タイトル:週刊記者と宿泊旅行5マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/19 06:46

●オープニング本文


さぁ、今回も楽しく皆で騒ごうよ!

楽しく楽しくがモットーの旅行!

まぁ、勿論ちょっと能力者の皆には頑張ってもらわないといけないんだけどねー!

※※※

「ねぇ、マリちゃん‥‥これは何かな‥‥? おっそろしい数の旅館とかホテルガイドがあんたの部屋から出てきたんだけど」

チホが青筋を浮かべながら土浦 真里(gz0004)へと言葉を投げかける。

現在クイーンズは忙しさ真っ只中。そんな中で旅行に行こうとするマリを快く思うはずがない。

「実はねー、今回は此処に行ってこようかなーと思うんだー。何か小さな旅館なんだけ夏祭があるんだってー。何か楽しそうじゃない?」

「‥‥マリちゃん? 人の話は聞いてる?」

「うん、聞いてる聞いてる。だからチホたちはお盆に長期休暇をあげて、その間の仕事はマリちゃんがしようと思ってるんだけど、このマリちゃんに何か文句でも?」

「‥‥アリマセン、ってどうせまたなんかオプションがいるんでしょ‥‥」

「そう! 何か虎っぽいキメラが現れて住人を苦しめてるみたいー。そのせいで祭開催も中止になるかもしれないみたいー、だから旅館タダで泊まるっていうのを条件に能力者連れてくるよー! という流れに持っていったけど!」

マリの言葉を聞いて「そのうちあんたは詐欺師になれそうね」とチホは言葉を返した。

「えー? ちゃんと能力者のみんな一緒に行くんだから詐欺じゃないよー」

浴衣もっていかなくちゃねー♪ マリは言葉を付け足しながら旅行の準備をはじめたのだった。

●参加者一覧

小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
レア・デュラン(ga6212
12歳・♀・SN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
レイン・シュトラウド(ga9279
15歳・♂・SN
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
芝樋ノ爪 水夏(gb2060
21歳・♀・HD
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

―― 恒例! 真里との旅行 ――

 今日はクイーンズ記者・土浦 真里(gz0004)の企画した旅行の出発日。一体何処から情報を仕入れてくるのか、いまだに謎だけれどマリはキメラ退治と引き換えに今回は小さな旅館へと宿泊する約束を取り付けていた。
「人の弱みに付け込むというのは正直感心しないけど、キメラで困っている人が居るのは確かなんだし、マリさんがする事という事で諦めるわ」
 小鳥遊神楽(ga3319)は苦笑しながら呟く。マリと付き合いの長い彼女は既にマリに何を言っても無駄である――という事を学習しているのか、マリの行動を責めるような言動はしなかった。
「『得に成りうるキメラの情報に対する嗅覚』はUPCを凌駕している気がしますよ‥‥というか何か『記者』以上の情報網を持っているとしか思えませんよ」
 苦笑しながらマリを見て呟くのは、マリと結婚して1年になる玖堂 鷹秀(ga5346)だった。結婚して1年という時間が経過したけれど、マリはいまだに落ち着く気配は感じられず、旦那である玖堂は胃の痛みと日々戦っている――と玖堂とマリを知っている者は語る。
(結婚して1年経ちますが、未だに底が知れませんね、ウチの奥さんは)
 小さなため息と苦笑を漏らしながら玖堂は心の中で呟く。
「こ、こんにちは‥‥今回は宜しくお願いします」
 レア・デュラン(ga6212)はきょろきょろと周りを見渡し、目的の人物が居なかった事を知ると少しだけ寂しげにため息を吐く――けれど直ぐに持って来たバスケットを持ち上げてマリや他の能力者達に話しかけた。
「こ、今回はお祭りに行かれるという事で少し少なめですが‥‥お昼食べないと頑張れませんから!」
「わ、嬉しいな♪ レアちーの持ってくる料理っていつも美味しいんだよね♪ キメラ退治した後にでも食べようよ♪」
 マリがレアに言葉を返した時、恐らく此処にいる能力者全員が思った事だろう。
(あんたは毎回面倒ごとを持ってくるだけで戦わないじゃないか)
 ――と。
 だけど口に出す能力者はいない。彼女を知る能力者ならばその言葉を口にしたらマリがどんな行動に出るか目に見えるからだ。
(きっと、じゃあ私も戦う! とか言って余計面倒ごとに首を突っ込むんだわ‥‥)
 頭の中で容易に想像できるその場面に小鳥遊は大きなため息を吐いた。
「こんにちは、今回は宜しくお願いしますね」
 レイン・シュトラウド(ga9279)は能力者達に軽く頭を下げ、挨拶をしながら「旅行なんて本当に久しぶりです」と言葉を付け足した。
 今回、レインが旅行に参加したのは勿論マリ達との旅行を純粋に楽しむ事も目的だったが、彼女との旅行の参考にする為、さりげなく情報収集する事も考えていた。
「おっす真里りん、お久し‥‥ぶりだよね?」
 紅月・焔(gb1386)が軽く手を挙げながらマリへと挨拶をする。
「やだー、誰、何か怪しいがすっちょがいるー」
 マリが紅月をからかうように言葉を返すと「がすっちょって、既に俺のこと知ってるよね? よね!? だからがすっちょなんだよね!?」と何やら少々テンパっているらしい。
「マリさん、お久しぶりです。ダメですよ、焔さんをからかっちゃ」
 芝樋ノ爪 水夏(gb2060)が笑いながら話に入ると「だって、何かからかいたい気分だったんだもん」とマリが言葉を返す。
「焔さんもそんなに慌てなくてもマリさんが会った事のある人を忘れるはずないじゃないですか」
 芝樋ノ爪が紅月に言葉を投げかけると「こういう和やかな雰囲気は慣れなくてね‥‥」と紅月は言葉を返す。
 だが、まだ祭も始まっていなければ目的地にも到着していない。むしろ本部を出てもいないのだから和やかな雰囲気が来ている筈がない、というのはこの際置いておこう。
「こんにちは、今日は夫婦で参加させてもらうよ」
 にっこりと和やかに話しかけてくるのはヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)だった。彼の隣にはヴァレスの奥さんでもある流叶・デュノフガリオ(gb6275)が軽く頭を下げて挨拶をしてきた。
「夫婦とな! マリちゃんと鷹秀も夫婦よ! 結婚して1年だけどまだラブラブなんだから!」
「いやいや、此方の方がラブラブですよ。ねぇ? 流叶」
 マリのさりげない言葉にヴァレスも自分達のラブラブっぷりを見せ付ける。
「まぁ‥‥うん」
 照れているのか流叶は少し顔を赤くしながら首を縦に振る。
「‥‥気のせいかしらね、何か凄く暑い気がするんだけど」
 小鳥遊の言葉に「は、はい‥‥少しだけ居心地が悪いような、気がします」とレアも言葉を返したのだった。
「と、とにかく先ずは旅行を楽しむ為にもキメラ退治ですよね。人数が揃っているので大丈夫だとは思いますが油断はせずに行きましょう」
 玖堂が呟き、能力者達は高速艇に乗り込んでキメラが徘徊する町へと出発していったのだった。


―― 祭の為に、住人の為に、キメラを退治しよう ――

 今回の旅行地&任務地、それは少し古めかしい雰囲気の小さな町だった。高速艇を降りた後、荷物を置く為に宿泊予定の旅館へ向かう途中で祭が開催予定の神社を通ったが、予想以上に小さな神社だった。
「屋台の準備とかはしてあるんですね」
 クレープ、りんご飴、チョコバナナ、とうもろこしなど様々な食べ物の屋台、そしてスーパーボール掬いなど色々な屋台が準備はしてあったけれど、肝心の人間は居ない。
「人がいないのも当然かもしれないわ、キメラがうろついているわけだし逆にキメラがいるにも関わらず無茶な事するのは1人で十分よ」
 小鳥遊の言葉に「1人? 誰だろう」とマリが言葉を返す。
「誰って真里り「何か言った? がすっちょ」イイエ、何も言っていません」
 紅月がからかい混じりの口調でマリに言葉を投げかけたのだが、ギロリとキメラよりも恐ろしい視線で睨まれてしまい思わず黙り込んでしまう。
(‥‥とりあえず、自分が無茶しているという事は自覚があるんですね」)
 芝樋ノ爪は紅月とマリのやり取りを見て心の中で呟いていた。
「あ、此処が今回泊まる旅館かな?」
 ヴァレスが地図と旅館とを見比べながら呟く。
「へぇ、小さいけど結構雰囲気の良い旅館じゃないか」
 流叶は旅館を見上げながら呟き「‥‥キメラ退治した後、楽しみだな」と小さな声で呟いた。本当に小さな声だったので流叶の声は誰の耳にも届くことはなかったのだけれど。
「いらっしゃいませ――あら、もしかしてキメラ退治に来てくれた能力者の皆さんかしら?」
 旅館の中から女将が出てきて丁寧に頭を下げて問いかけてくる。
「は、はい‥‥皆でキメラを倒しに来ました」
 レアが言葉を返すと「まぁ、ありがとう。キメラを退治した後はうちでゆっくりとしていってくださいね」と女将はにっこりと笑顔で答えた。
「あ、お荷物を預かりましょうか?」
 女将の言葉に「お願いします」とヴァレスが言葉を返し、能力者達とマリは荷物を預け、町の中を徘徊するキメラを退治するべく行動を開始したのだった。
 能力者達はキメラを捜索すべく、2つの班に分かれて行動する作戦を考えていた。
 A班・レイン、玖堂、ヴァレス、流叶の4人。
 B班・芝樋ノ爪、小鳥遊、紅月、レアの4人。
 お互いの班で何か不審なものを発見したり、キメラと遭遇した場合はトランシーバーで連絡を取り合う事にして、能力者達は班での行動を開始した。

※A班※
「‥‥っていうか、マリさんは旅館で待っていても良かったんじゃ‥‥」
 レインが小さな声で呟くと「馬鹿者!」とべちんとマリはレインのおでこを叩きながら言葉を返した。
「この旅行の企画者はマリちゃん! マリちゃんは記者! 記者は記事の為に命をかけるの! こんな事も判らないのかね、レイン君」
 ふん、と鼻息荒く口調も変えてマリが力説すると「本当は旅館で待っていてくれた方が此方としても仕事しやすいし、安心なんですけどね」と玖堂がポツリと言葉を漏らす――が「何か言った!? 妻を理解するのが夫の役目だよっ!」とべしっと玖堂の頭を叩きながら言葉を返す。
「‥‥結婚して1年って言ってましたけど、ああいうのが1年も続いているんですか?」
 やや引きつった笑顔でヴァレスがレインへと言葉を投げかけると「え、えぇ‥‥恐らく」とレインも苦笑しながら言葉を返す。
「とにかくキメラを探しましょう、B班は向こう側を探してますから、私たちは此方側を探しましょう」
 玖堂が呟くと「そういえば、何処にキメラをおびき出す‥‥?」と流叶が呟く。被害を最小限に抑えることも今回の任務内容に入っている。被害が大きすぎると祭開催は中止になる事も考えられるからだ。
「地図を見る限り、此処はそれなりに広そう‥‥です」
 流叶は地図を見ながら玖堂、そしてヴァレスとレインに言葉を投げかける。
「あぁ、確かに此処なら広いから戦闘はしやすいですね」
 玖堂が地図を見ながら呟く。流叶の提案した場所は現在空き地になっており、周りには民家も少なく、被害も最小限に抑えることが出来るであろう場所だった。
「それじゃ、B班に連絡しておきますね」
 ヴァレスがトランシーバーを使用し、B班へと連絡を入れる。そして誘導地点を連絡するついでに捜索状況を聞いてみるのだが、まだキメラらしき生物は発見できていないという返事が帰って来たのだった。
「とりあえず、捜索を続けましょう。暗くなればボク達が不利になりますから」
 レインが呟き、A班はキメラ捜索を続行したのだった。

※B班※
「キメラを発見した際の合流地点は――‥‥此処ね、周りには民家も少ないし、戦闘がしやすいと言ったらしやすいけど‥‥問題は離れた所で発見した場合かしら」
 小鳥遊がA班からの連絡を聞いた後で呟く。
「‥‥悪いな、速攻で終わらせてもらう」
 紅月が真面目に呟くが「焔さん、まだキメラは見つかっていません」と芝樋ノ爪からの冷静なツッコミが入る。
「‥‥お腹が空きました‥‥は、早くキメラ退治を終わらせちゃいましょう」
 レアはお腹を押さえながら呟く。まだ到着時間が早かったため、レアの持って来たバスケットは旅館へと置いてきた。キメラ退治を終わらせてから昼食にしよう――という事だったのだが、既に捜索を開始してから1時間、時間はちょうど昼過ぎ。少々小腹が空いてくる頃でもある。
「そうですね、確かにちょっとお腹も空きました――‥‥焔さんは大丈夫ですか?」
「‥‥悪いな、速攻で終わらせてもらう」
「焔さんって本気になると、台詞のバリエーションが少ないんですか? っていうか、それしかさっきから言ってませんよね」
 紅月の言葉に芝樋ノ爪がツッコミを入れる。確かに本気になった紅月は台詞のバリエーションがないようで、同じことしか言っていない。
「あ、あの‥‥ちょっと待ってください」
 レアが小さく呟き「あ、あそこの公園にいるのって‥‥キメラでしょうか」と少し離れた公園を指差しながら自信なさげに呟いた。他の能力者達も視線を公園の方へと移すと、資料にある通りの虎のような外見を持つ生物がうろうろとしている姿が視界に入ってきた。
「どう見ても、キメラのようね‥‥この町に動物園はないし、もしあったとしてもこのタイミングで脱走騒ぎなんかないでしょうし」
 小鳥遊の言葉に「そ、そうですよね。キメラですよね」とレアが少し慌てた口調で言葉を返す。
「此方B班です、キメラを発見しました。これより合流地点まで誘導を開始しますので、移動をお願いします」
 芝樋ノ爪がA班へと連絡を行い、それぞれ武器を構えてキメラを空き地へと誘導する為に行動を開始し始めたのだった。


―― 戦闘開始・楽しい旅行にする為に ――

 合流地点である空き地にB班がキメラを誘導してやってきた時、既にA班は空き地に到着して、それぞれすぐに戦闘が行えるようにと準備を整えていた。
 B班は多少誘導に苦労したのか、小さな傷を負っているのがわかる。
「それでは、早めに倒させていただきましょうか」
 玖堂は呟くとスキルを使用して、キメラの防御力を低下させ、レインと小鳥遊がスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「悪いが、時間をかけるつもりはない」
 ヴァレスは射撃が終わった後、炎剣・ゼフォンを両手に構え、キメラの正面から攻撃を仕掛ける。大きく振りかぶり、キメラはヴァレスの攻撃をさらりと避ける――のだが、それはヴァレスの予想内の行動だった。
「流叶、行ったよ」
 ヴァレスは短く呟き、キメラの背後から流叶が乙女桜と機械刀・凄皇をキメラへと向けて振り下ろす。ヴァレスの行動は流叶の攻撃を成功させる為の囮のようなもので、実際にキメラはヴァレスの攻撃に気を取られて流叶の攻撃に対してほとんど無防備に近い状態で攻撃を受けていた。
「‥‥悪いな、速攻で終わらせてもらう」
 紅月は低く呟きながらエナジーガンで攻撃を仕掛ける。
「楽しいお祭りの為に、早く倒されてください」
 紅月の攻撃の後に芝樋ノ爪が機械剣αを構えてキメラへと攻撃を仕掛けた。だが、芝樋ノ爪の攻撃は掠る程度しかダメージを与えられず、逆にキメラから反撃を食らいかけたのだが‥‥紅月のエナジーガンでの攻撃によって僅かに攻撃の軌道がそらされ、芝樋ノ爪は大怪我をする事はなかった。
「す、少し離れてください」
 レアの言葉が響き、キメラに近い位置にいた能力者達はそれぞれキメラから離れる。能力者達が離れると同時にレアはアサルトライフルでキメラを狙い撃ち、射撃が止むとヴァレスと流叶、そして芝樋ノ爪が再びキメラへと攻撃を仕掛ける。
「荒ぶる力‥‥受けてみる、か?」
 ふ、と不敵に笑みながら流叶が呟き、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
「町の人達が折角楽しみにしている祭を滅茶苦茶にするわけにもいかないわね‥‥という事で早く倒されてくれないかしら」
 小鳥遊は呟き、小銃S−01の照準をキメラへと合わせて発砲する。
「マリさん、もう少し下がっててください」
 玖堂はマリを下がらせながらスキルを使用し、能力者達の武器を強化する。既にキメラは能力者達の攻撃を受け、立っているのもやっとの状態だ。
「撃ちます」
 レアは少し離れた場所から狙いを定め、キメラの足を狙い撃ち、キメラは叫びながら地面へと転がる。
「悪いけど、さよならだよ」
 ヴァレスは小さく呟き、攻撃を繰り出し、キメラへとトドメを刺したのだった。


―― 楽しい旅行の始まり ――

 能力者達はキメラ退治を終えた後、住人達に報告を行い、通信で本部の方にも連絡を入れる。
「ありがとうございます。おかげで安心して祭をする事が出来ます」
 旅館に到着して、女将にキメラを退治した事を告げると、嬉しそうに言葉を返してきた。
「恐らく、もう準備に取り掛かってると思いますし、夕方までゆっくりされてから祭を楽しんではいかがですか?」
 女将の言葉に能力者達はまずレアの持って来たお昼ご飯を食べ、夕方までゆっくりする事にした。

 そして夕方――‥‥。
「マリさん、お祭に行きましょうよ」
 小鳥遊がマリと玖堂の部屋に入り話しかけると「うん、鷹秀と三人で行こう♪」とマリは言葉を返してきた。
 小鳥遊も玖堂も、そしてマリも持参してきた浴衣へと着替えてからんと下駄の音を響かせながら祭の会場である神社へと向かっていった。
「それより、マリさん、また無茶な事をしてくれたわね――まぁ、折角のお祭だし勝手な約束をしてあたし達を振り回した事は多めに見るわ」
 正直、これっきりにして欲しいけどね――と小鳥遊は言葉を付け足しながらジロリとマリを見る――が、当の本人は「きゃー、わた飴わた飴! 鷹秀! 綿飴買って」と小鳥遊の言葉はまるで耳に入っていない。
「‥‥すみません、後から私の方でよく言い聞かせておきますから‥‥」
 玖堂が申し訳なさそうに小鳥遊に向けて言葉を返すと「‥‥胃の方は大丈夫?」と本気で小鳥遊は心配したのだった。
「まぁ、いいわ。あたしは別行動を取るから夫婦水入らずでゆっくりお祭を楽しんで」
「え? でも‥‥」
 玖堂が小鳥遊を呼び止めようとすると「普段、玖堂さんも忙しいでしょうし、マリさんはマリさんであんな感じだからゆっくり2人で過ごす時間もないんじゃない? 今日くらいはゆっくり楽しんでちょうだい」と小鳥遊が言葉を返す。
「ありがとうございます」
 玖堂は頭を下げて「鷹秀ー! 早く早く!」と急かすマリの方へと駆け出していったのだった。
「さて、あたしも何か買って食べようかしら‥‥折角だから旅館に帰ってから食べる分も買っちゃおうかしら‥‥」
 小さく呟き、小鳥遊は屋台を見始めたのだった。

「わぁ〜‥‥凄い。まるで映画の中のような世界ですね!」
 レアは映画の中でしか見たことのないような雰囲気に目を輝かせながら屋台をきょろきょろと見渡していた。
「お嬢ちゃん、わた飴はいかが? 甘くて美味しいよ」
 わた飴売りの中年女性に声をかけられ、レアは近くによって「わぁ」と再び目を輝かせながらわた飴を見た。
「これが‥‥わた飴‥‥そしてこっちがりんご飴‥‥あっちにはお芋のスティック‥‥」
「あはは、お嬢ちゃん全部食べるつもりかい? まぁでも滅多にないお祭なんだから今日くらいは贅沢して色々買っても罰は当たらないだろうさ」
 中年女性は豪快に笑うと「一個持ってお行きよ、祭を楽しむんだよ」とレアにわた飴を1つ渡してきた。
「あ、ありがとうございます‥‥」
 レアはお礼を言った後にぱくりと1口わた飴を食べる。すると口の中に甘い味が広がって少しだけ幸せな気持ちになる事が出来た。
「あ、あれは射的‥‥?」
 レアは射的を見つけ、わた飴を食べながら近寄ると「いらっしゃい、あそこの棚の景品を打ち落とせればもれなくプレゼントだよ!」と中年の男性がレアに射的の説明をしてきた。
「へっ? という事はあのクマさんを落としたら貰えるんですか?」
「勿論。ただアレは一番難しい景品だからなぁ‥‥もうちょっと簡単なのを狙った方がいいんじゃないか?」
 中年男性がレアに言葉を投げかけるが、レアの耳には届いていない。
「風向きは‥‥銃身が曲がってる‥‥修正が‥‥で‥‥」
 クマのぬいぐるみを取る為にぶつぶつとレアは呟き「一回します」と代金を払って玩具の銃を構える。そして先ほどまでの表情とは打って変わって鋭い視線でクマのぬいぐるみを狙い――見事打ち落としてクマのぬいぐるみをゲットしたのだった。
「ふふ、凄く嬉しいです」
 もふっとクマのぬいぐるみを大事そうに抱えてレアが呟き、視線を移すと、そこには紅月と芝樋ノ爪が一緒に祭を見て歩いている姿が視界に入ってきた。
「あの‥‥ガスマスクは‥‥えっと‥‥恋人同士です? ‥‥恋人かぁ‥‥」
 その時、レアの頭には1人の男性が浮かび、少しだけ寂しそうな表情をするとチョコバナナを売っている屋台へとふらふらと歩いていったのだった。

「こういう和やかな雰囲気は慣れなくてね‥‥頼りにしてますぜ‥‥芝ひー」
 浴衣姿にガスマスクという異様な格好の紅月が芝樋ノ爪に向けて言葉を投げかける。
「そんな身構えるものじゃないですよ? もっとリラックスして楽しみましょう」
 芝樋ノ爪が苦笑しながら紅月に言葉を投げかけ「あ、りんご飴がありますね」と芝樋ノ爪はりんご飴を売っている屋台の前で立ち止まる。
「美味しそう、焔さん、一緒に食べましょうよ」
 芝樋ノ爪がりんご飴を買おうとした時、紅月が「りんご飴2つ」と言って1つを芝樋ノ爪に渡す。
「ありがとうございます」
 芝樋ノ爪は嬉しそうにりんご飴を受け取り「焔さん、あっちも楽しそうですよ、行って見ましょう」と半ば勢いで紅月の腕を組み、人が集まっている店へと向かい始めた。
「スーパーボール掬い? 面白そうですね‥‥でも難しそうです」
 芝樋ノ爪が呟くと「俺がやる。現役時代、これは得意中の得意でボールハンターマスクと呼ばれていたんだ」と自慢なのかそうでないのかいまいちわからない言葉を芝樋ノ爪へと返した。
「そ、そうなんですか? (ボールハンターマスク? いまいち意味がわかりません) でも得意ならしてみてください」
 紅月は腕まくりをして「フオオオオ‥‥」と妙な掛け声と共にスーパーボールを恐ろしい速さで掬っていく。
(でも、焔さん‥‥何で元警官なのにスーパーボール‥‥?)
 いまいち警官とスーパーボールが繋がらない芝樋ノ爪は心の中で呟くが、疑問はそのまま心の中だけに収めておくことにしたのだった。
 その後、射的にも行き、さすがは元警官とでも言うべきなのだろうか。芝樋ノ爪の欲しい景品を次々に打ち落としていき、店屋の中年男性は渋い顔をしたのだとか‥‥。

「うーん、ここは定番で温泉まんじゅうが良いのか、それともあえて違ったものの方がいいのかな‥‥?」
 レインはまだ祭のほうにはいかず、旅館で彼女へのお土産を選んでいた。定番として置かれている温泉まんじゅう、そして同じく定番ともいえるペナント。しかし明らかにペナントは売れていないのか山積み状態になっているのが目に見えてわかった。
「さすがにペナントはいらないでしょうし、温泉まんじゅうと‥‥こっちの小物を幾つかお土産として買っていくことにしましょう」
 レインはお土産を買い終わった後、旅館の浴衣へと着替えて祭へと繰り出した。
「もう! 今年の客は何でこんなに良い景品ばかり取っていくんだ!」
 レインは最初に射的に赴き、女の子が好みそうなぬいぐるみを数点ゲットしたのだが、何故射的屋の男性が嘆いているのかがレインには理解することが出来なかった。
 まさか自分以外の能力者達も良い景品をゲットしまくっているなど、彼は夢にも思わなかったのだから。
「金魚すくい‥‥祭の定番らしいですけど」
 親子連れで金魚すくいをしているのが視界に入り、父親の方が簡単に金魚をすくっているのを見て「簡単なのかな?」とレインは小さく呟き、自分もしてみることにした。
 だが――‥‥4、5回しても一匹もすくう事が出来ず、結局お情けでもらった一匹の金魚しかレインの手元に来ることはなかった。
「単純そうに見えて、結構奥が深いんですね‥‥」
 少しだけ悔しそうに呟き「でも、楽しかったからいいかな」と言葉を付け足した。
「あ、わた飴‥‥」
 子供がわた飴を食べているのを見て、レインも少し食べたくなり、わた飴屋を探して1つ購入する。
「美味しい。白くてふわふわで、甘い雲を食べているみたいです」
 ぱくりと食べながらレインは呟く。だけど少しべたべたするのが気になって、レインは食べ終わった後に水道を探して口回りを洗い流したのだった。

「お、流叶ってば浴衣着てきたんだ? うん、綺麗だよ♪」
 ヴァレスは流叶の浴衣姿を見て満足そうに呟く、すると流叶は少し照れたように「‥‥ありがとう」と言葉を返し、2人は手を繋いで祭へと向かい始める。
「何か、こういうのもいいね‥‥と、射的か‥‥やってみるかい?」
 流叶がヴァレスに問いかけると「よし、全部撃ち落す!」とヴァレスは気合を入れた言葉を返してくる。
「多分、無理だと思う‥‥よ?」
 流叶が苦笑しながら言葉を返すが、既に気合の入ったヴァレスの耳には届いていないらしく玩具の銃を構えて「流叶、何が欲しい?」と問いかける。
「別に何でも‥‥」
 何でもいい、と言い掛けて流叶にはウェディングドレスとタキシードを着たうさぎのぬいぐるみが視界に入ってくる。恐らくはウェディングシーズンの残り物なのだろうが、折角なのだから――という気分になり「あれがいい」と短く言葉を返した。
 頼まれたヴァレスは「任せといて」と笑い、よく狙ってうさぎのぬいぐるみを撃つ。すると1回で撃ち落すことに成功して「もう今年は赤字ばかりだよ!」と射的屋の中年男性がやけになったように「おめでとう! ちくしょう」とうさぎのぬいぐるみを2人の渡してきたのだった。
 その後、境内に行くと様々な人間が集まっており、お互い願い事を願う。そしてお参りが済んだ後――‥‥。
「ほむ。流叶、1つ舞ってみてはどうかな? 綺麗だし♪」
 突然のヴァレスの提案に「此処で舞えって‥‥正気? ‥‥みたいだね」と流叶は冗談を言っている表情には見えないヴァレスの顔を見て苦笑して言葉を返した。ヴァレスに乞われれば嫌とも言えず、流叶は戸惑いながらも日舞を披露する。神社、神様の前という事もあり、流叶は真剣に日舞を舞う――がやはり人の目を引いてしまう事には変わりなく、流叶が舞い終わった後、割れんばかりの拍手に見舞われた。
「だ‥‥だから言ったじゃないか!」
 拍手の中、流叶はヴァレスの腕を引っ張りながら旅館へと戻っていく。
「でも綺麗だったよ♪」
 ヴァレスの言葉に先ほどまでの恥ずかしさも吹き飛び「‥‥あ、りがと‥‥」と俯きながら小さな声で言葉を返した。
 その後、旅館に戻った2人は女将の許可を貰って露天風呂に2人で入っていた。
「あつい‥‥」
 ぱたぱたと手で仰ぎながら流叶が呟くと、なにやら視線を感じて其方へと視線を向ける――とそこには自分を見るヴァレスの姿があった。
「そんなに見られると恥ずかしいんだが‥‥」
 いくらタオルを巻いているとはいえ、やはりジッと見られると恥ずかしい事には変わりない。
「いや、こうして2人でゆっくりするのもいいもんだねぇと思ってさ♪ あれ? 何か顔が赤いけど、のぼせちゃった?」
 ヴァレスの言葉に「‥‥少し、のぼせたかな‥‥」と流叶は言葉を返す。
 その後、2人は露天風呂からあがり、ヴァレスが買ってきた冷たい牛乳と珈琲牛乳を飲んでいた。
「あの、さ‥‥有難う‥‥うん、いえた‥‥」
 突然の流叶からのお礼に「どうしたの?」とヴァレスが言葉を返す。すると流叶はプロポーズに対してのお礼だと微笑みながら答えた。
「い、いや‥‥まぁ、うん。本音だし‥‥いつか言おうと思ってたし‥‥‥‥ね」
 ヴァレスも珈琲牛乳を飲み、少し赤くなった顔を冷ますように一気に飲み干した。
 その時だった。少し騒がしい声が聞こえ、2人が視線を向けると‥‥大荷物で帰って来たマリと玖堂の姿がそこにはあった。
「マリさん、さすがにちょっと買いすぎじゃ‥‥」
「何言ってんのっ! 祭なんて一年に一回行けるか行けないかなんだよ?! 行った時くらい想いっきり悔いのないように買い物しなくっちゃ! 神様だって許してくれるって! 信じてないけど!」
 りんご飴、わた飴、あんず飴、チョコバナナ、とうもろこし、焼きイカ、色々な匂いを立ち込めさせながらマリが帰ってきて2人は思わず笑ってしまう。
「一体、いくら使ったんだろうね」
「さぁ‥‥あの顔見れば、多少祭にしては多めにつかったんじゃないかな?」
 玖堂の少し疲れた顔を見ればマリによっていろいろなところに連れまわされたのが見て判る。
 結局、そのせいか次の日、マリが一番寝坊して他の能力者達を待たせる事になったのは言うまでもなかったりする。


END