タイトル:泥の川にてマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/25 03:41

●オープニング本文


現在の場所、水の溢れかえった川の近く。

現在の状況、後ろは土砂崩れ、前には――‥‥キメラ。

※※※

「今回の戦闘は山道になりそうだなぁ‥‥」

男性能力者が資料を見ながらため息混じりに呟く。

「そうね‥‥でもただの山道じゃないみたいよ」

女性能力者が追加で加えられた資料を男性能力者に放りながら言葉を返した。

「ただの山道じゃないって‥‥」

資料を見れば分かるわよ、と女性能力者は資料を指差しながら言葉を返す。

「‥‥げ、マジかよ‥‥」

追加として送られた資料、それは散々降り続いた雨のせいで土砂崩れが起きており、その山道にキメラが潜んでいると言うものだった。

「うわぁ‥‥何だよ、これ‥‥」

「他にも土砂崩れしそうな箇所が幾つかあるみたいで、派手に動きまわる事も出来ないみたいよ」

「最悪じゃん、いくら能力者でも土砂崩れに巻き込まれたら‥‥」

「無事ではいられないでしょうね」

女性能力者が言葉を返すと「‥‥い、行く奴らは頑張れよ」と引きつった笑みで資料をテーブルへと放り投げたのだった。


●参加者一覧

高日 菘(ga8906
20歳・♀・EP
アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
赤月 腕(gc2839
24歳・♂・FC
春夏冬 晶(gc3526
25歳・♂・CA
荊信(gc3542
31歳・♂・GD

●リプレイ本文

―― 土砂降りの中へ ――

 今回の能力者達が受けた任務――それは多少厄介なものだった。
 別にキメラが特殊な能力を持つわけでもない、強化人間やバグアが姿を現す任務でもない。
 ただ‥‥戦闘を行わなければならないであろう場所に問題があった。
 ここ最近降り続いた雨のせいで山道は泥の川のようになっており、滑らないように歩くのが精一杯の場所。しかも近くには川まで存在していて、雨のせいで水が溢れかえっている。
「雨がやんで斜面が落ち着いてから、ってわけにはいかへんよねぇ」
 高日 菘(ga8906)が少し深いため息を吐きながら呟いた。
(でも‥‥ちょい状況は特殊みたいやけど、キメラは何処に居ても厄介やからなー。それに悪環境には強いエキスパートや、やるときゃやるでぇ)
 高日は心の中で呟き「よし」と小さく口にしながら今回の任務への意気込みを見せていた。
「‥‥雨、ですか‥‥足場も悪そうですね」
 アリエイル(ga8923)がレインコートをローブの上から羽織りながら呟く。
「それでも、誰かがやらなくちゃいけない仕事ですから」
 橘川 海(gb4179)がアリエイルに言葉を返し「だから皆で一緒に頑張りましょう!」と言葉を付け足した。
「悪天候のオフロードか、モトクロスなら喜んで爆走するんだが」
 月城 紗夜(gb6417)が苦笑しながら呟く。バイク愛好者である彼女にはちょっと興味を惹かれる道なのだろう。
「まぁ、しかし今回はキメラ退治だからな。油断しないで行くとしようか」
 月城が「ふ」と小さくため息を吐きながら資料を見て呟いた。
「凄い雨みたいですねぇ‥‥土砂崩れが本当に起きそうですよ」
 八尾師 命(gb9785)が現地の写真などを見ながら呟く。写真からも分かるほどはっきりとした悪天候。少し時間を置けば晴れるかも、という考えを見事に写真は打ち砕いてくれた。
「土砂崩れの可能性ね‥‥いっそのことキメラが生き埋めになってくれればいいんだがな‥‥」
 ぱくり、と南瓜パイを食べながら赤月 腕(gc2839)が呟く。
「雨、山道でキメラか‥‥ま、俺に掛かれば一撃だけどな」
 ふん、と少しばかり鼻息荒く言うのは春夏冬 晶(gc3526)だった。言葉だけを聞くならばかなりの自信家にも思えるけれど、手はかたかたと、よく聞けば声も震えているように感じられる。
 恐らく春夏冬の自信たっぷりの言葉は自分を奮い立たせるためのものなのだろう。
「やれやれ‥‥厄介な雨だな‥‥音と匂いが殺されるが、それは向こうも同じか」
 荊信(gc3542)はため息混じりに呟く。悪天候の中での戦闘、それは即ち能力者達に不利とも呼べる状況だけれど、考えてみれば条件はキメラの方も同じ。
 だから、より実力を持った方が勝つ――と荊信は心の中で言葉を付け足した。
「なぁ、みんなこれ見てんかー」
 高日が現地の地図を広げながら能力者達に声をかける。
「これで、ある程度の土砂崩れが起きそうな場所とか戦いやすそうな場所とか予測しておければええなー、思て借りて来たんやけど」
 高日の言葉に能力者達が地図を覗き込む。
「資料には、この場所と――あ、此処も土砂崩れが起きやすい場所と書いてあるね〜」
 八尾師が地図の中にペンでマルを付けていく。
「この辺とか開けてるみたいだし、戦いやすそうかもね。あ、こっちも」
 橘川も山道の中に幾つか存在する開けた場所に印をつけていく。
「‥‥という事は、このルートで行けば土砂崩れに巻き込まれにくい――のかな」
 荊信が別の色ペンで山道を回るルートを書き出す。全く土砂崩れに巻き込まれないという保証はないけれど、資料にある土砂崩れが起きやすい場所などを計算して一番危険の少ないルートを彼は見つけていた。
「それじゃ出発しようか」
 赤月が南瓜パイを食べ終わった後に呟き、キメラを退治する為に高速艇の外へと出たのだった。


―― 捜索開始・豪雨の中で ――

 今回の能力者達は班を3つに分けてキメラ捜索を行うことにしていた。
 近距離班・アリエイル、春夏冬の2人。
 遠近距離班・橘川、月城、荊信の3人。
 遠距離班・高日、八尾師、赤月の3人。
 今回の捜索場所、そして戦闘場所はキメラが強敵という意味ではないが厄介な戦闘になる事は間違いがない。だからそれぞれ協力してキメラを無事に退治できるようにと、このような作戦を取っていたのだ。
「うわ、結構な雨だな‥‥まぁ、男なら傘なんか差さなくても平気だけどな」
 春夏冬は自分を見る能力者達の視線に気づいたのだろう、金が無かった訳じゃねぇよ、という言葉を付け足したのだがその言葉が(金が無かったのか‥‥)と他の能力者達に思わせてしまう結果になってしまった。
「探査の眼‥‥自然災害にも使えればいいけど」
 高日は覚醒をしながら探査の眼を使用し、呟く。
「それにしても凄い雨ですね〜‥‥土砂崩れに巻き込まれるのを避けれたとしても、風邪を引いちゃいそうですよ〜」
 八尾師がくしゃみをしながら小さく呟く。確かに長時間こんな雨の中にいたら風邪を引いてしまう。
「だったら‥‥風邪を引く前にさっさと退治して帰ろう‥‥」
 赤月が八尾師に言葉を投げかけると「そうですね〜、頑張りましょう」と言葉を返し、キメラ捜索に戻ったのだった。
「山道は木があっても崩れる所は崩れるからな、気をつけねぇと‥‥それはそうと今回のキメラは狼みてーな奴だったよな?」
 春夏冬がアリエイルに問いかけると「えぇ、資料にはそう書いてありますね」と言葉を返す。
「まぁ初戦でスゲー強敵と戦りあった俺に問題うおおおぉぉ!」
 喋っている途中で物音が聞こえ、それに驚いたのか春夏冬は大げさに驚いてみせる。
「大丈夫ですか?」
「‥‥ばっか、ちげぇよ! 手前らがきちんと警戒してたかテストしてなおおおぁぁぁ!」
 苦し紛れの言い訳をするのだが、雷の音が聞こえ、更に驚きの声を響かせる。
「あは、何か楽しそうですね」
 橘川は春夏冬の行動を見て笑う、そして「何処にいるのかな? この雨だと見つけにくいね」と言葉を付け足した。彼女はゴーグルの望遠なども使って捜索しているのだが、中々キメラを見つける事が出来ない。
 それとキメラを見つけた時の為に橘川は銃使いにペイント弾を渡していた。ペイント弾で印をつければこの見えにくい視界の中でも多少マシになるだろうと考えてのことだ。
(こう、峠道が続くと走りたくなるよな‥‥自然の脅威にめげず、果敢に挑むのがモトクロスの醍醐味でもあるし)
 月城は降り続ける雨を見ながら「雨も、自然の美の1つだものな」と小さく呟いた。
「ちょっと待って!」
 高日が呟き、能力者達が足を止める。
「その先の開けた場所‥‥気をつけた方がいいかもしれません」
 高日が呟き、橘川が望遠を使ってみると「キメラが居るよ」と他の能力者達に知らせる。もしかしたら通信も届いていないかもしれない事を考え、予め決めていたハンドサインでキメラが居る事を知らせる。
「キメラを見つけたなら、さっさと退治してしまおう‥‥土砂崩れに巻き込まれる前にな」
 荊信が呟き、武器を手に持つ。そして渡されたペイント弾を装填し、他の銃を武器に扱う能力者達もペイント弾を装填し始める。
「危ないです!」
 その時だった、ゴゴゴ、という音が響き、能力者達から少し離れた場所で土砂崩れが起きたようで、地面が少し揺れる。
「此方に、気づきましたね」
 土砂崩れが起きなければ、恐らく能力者達の不意打ちが成功していた筈なのだが、土砂崩れの音のせいでキメラの視線が能力者達のほうへと向いてしまう。
「土砂崩れに‥‥巻き込まれなかっただけ、まだラッキーな方かもな」
 赤月は呟きながら小銃S−01を手に持ち、他の能力者達も戦闘態勢に入ったのだった。


―― 戦闘開始・悪天候の中で ――

 最初にキメラへと攻撃を仕掛けたのは荊信と赤月だった。2人はペイント弾でまずはキメラに印を付けることから始める。
「この辺で土砂崩れの可能性は低いかも。思いっきりやっちゃって」
 高日は呟き、自らも番天印を構えてスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「煌く翼よ‥‥開け‥‥能力限定解除!」
 アリエイルも覚醒を行い、3人の射撃が終わった瞬間を狙ってキメラへと攻撃を仕掛ける。バランスを崩した所へアリエイルの攻撃、たとえどんなに素早くても簡単に攻撃を避けることは出来ず、キメラはアリエイルの攻撃をまともに受けて呻くような低い声を聞かせた。
「こっちは任せてねっ!」
 橘川は自分に向かってくるキメラをスキルを使用して吹き飛ばし、近距離戦闘を行う能力者達のほうへキメラを追いやった。彼女自身は後衛を守る意味でも、その場から動かず、相手が来た時のみを狙って攻撃を行うように考えていた。
「敵にケツを向けたという事は、死ぬという意思表示だな」
 キメラが橘川の方へ行った後、すぐさま月城が追いかけ、自分達の方へ飛ばされてくるキメラを狙い、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
 キメラは全くの無防備状態でその攻撃を受け、地面にべしゃりと倒れ、よろめきながらも立ち上がって能力者達に向かって威嚇してくる。
「支援かけますよ〜、足場に気をつけて〜」
 八尾師が能力者達に言葉をかけながらスキルを使用し、能力者達の武器を強化し、キメラの防御力を低下させる。
「あまり時間をかけると万が一もあります〜、気をつけていきましょう」
 八尾師が言葉を付けたし、自らが持つ超機械で攻撃態勢を取る。
(「足を、奪わせてもらう」)
 赤月が思い、キメラの手足を狙って射撃を行う。視界が悪く、全てが命中――とまではいかなかったけれど、キメラの後ろ足を奪う事が出来て、キメラの動きが格段に鈍くなった。
「散々驚かしやがって、だが俺の前に出てきた事を後悔させてやんよ! ‥‥一応、念のためにもう一度聞くけど、此処って土砂崩れの可能性があるところか?」
 剛拳・エリュマントスを構えながら春夏冬はくるりと振り返って他の能力者に問いかける。
 だが、他の場所よりは比較的安全な場所だという事を知ると俄然強気の態度になる。
「最後に言い残す事はあるか? ‥‥まぁ、俺は聞かねぇけどな!」
 春夏冬は叫びながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「我流とは言え、やる事ぁやってんでな、仕留めさせてもらうぜ!」
 荊信も武器を持ち変えて、春夏冬よりやや遅れて攻撃へと向かう。だがその僅かにズラしたタイミングがよかったのだろう、キメラは春夏冬の攻撃を受けた後、体勢を整える暇もなく荊信の攻撃を受けたのだから。
「行きます‥‥蒼電の一撃‥‥打ち砕け‥‥せぇぇぇっ!!」
 アリエイルは叫びながら自らの技でキメラに攻撃を行い、キメラを無事に退治する事が出来たのだった。


―― 戦闘終了後 ――

 戦闘が終了した後、能力者達は再び土砂崩れに巻き込まれぬように警戒を行いながら高速艇へと戻ってきていた。
「怪我してる人おったら遠慮なく言ってやー」
 高日が能力者達に話し掛け、傷の深い能力者の治療を行おうとしていた。
 だが、能力者達は無傷で任務を終えることは出来なかったけれど、怪我と言ってもまだ軽症に入る部類であり、高日の治療が必要になる事はなかった。
「とりあえず、大きな怪我をしてる人がおらんでよかったわ」
 高日もタオルで頭を拭きながらほっと胸を撫で下ろしながら呟く。
「雨と泥でドロドロですね‥‥早く暖かいお風呂に入って着替えたいものです」
 アリエイルも手や足、顔に飛び跳ねた泥が気になるのだろう、ため息を吐きながら呟いた。
「土砂崩れの処理もあるだろうし、明日は晴れるといいですねっ」
 高速艇から外を見ながら橘川が呟く。呟くその表情は向日葵のような笑顔であり、晴天も連想させるものだった。
「今回、峠道を歩いたせいかな。帰ったら走りに行ってみるか」
 月城もポツリと呟く。難関な場所だったけれど、バイク愛好者としては何かうずうずさせるものがあったのだろう。
「う〜、風邪を引いたかもしれないですよ‥‥」
 コーンポタージュを飲みながら八尾師が呟く。
「大丈夫か?」
 そこへ荊信が話しかけてくる。
「あ、戦闘中はありがとうございました〜」
 戦闘中、荊信は八尾師が攻撃されそうになったりしている所をスキルを使用して庇ってくれたりなどしていた。
 だから八尾師の怪我が少なかったのも荊信のおかげなのである。
「いや、気にするな」
 荊信は軽く言葉を返す。
(帰ったら、もう一個南瓜パイを食べるかな‥‥)
 戦闘したことで少しおなかも空いたのだろう、赤月は腹部に手を当てながら心の中で呟いた。
「はー、何かもう終わりかって感じだな。あ、ちなみに奴が弱かったんじゃねぇ、俺が強かっただけの話、ただそれだけだ」
 春夏冬は胸を張りながら呟くのだが、捜索中&戦闘中の彼の行動を見ていると、憎まれ口も逆にほほえましく思えてくるのだから不思議なものである。

 その後、能力者達は本部に報告をした後、雨で冷えた体を温める為に自宅へと帰っていったのだった。


END