タイトル:週刊記者と雨女マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/05 17:18

●オープニング本文


ざぁざぁと雨は降る。

こんな天気じゃ取材なんて出来ないじゃんっ!!

‥‥というと思ったら大間違い!

こんな事もあろうかと、別のカメラを準備したんだから!

水に濡れても大丈夫!

いつも以上に取材が出来るじゃんっ!

※※※

「今日は雨なのね‥‥これじゃ、取材なんていけそうにもないんじゃない?」

クイーンズ記者であるチホが残念そうな表情を見せながら土浦 真里(gz0004)へと言葉を投げかける。

実際にチホの心情としては雨で取材が駄目になった方がマリの無茶ぶりに巻き込まれずに済むから、と安心感のほうが強かったりするのだけれど。

「ふふん。そんな心配は無用! マリちゃんはこんな事もあろうかとカメラを新しくしました! 防水カメラだからたとえ台風の中でも取材は出来るのだよ! チホ君!」

じゃじゃん、と自慢気にマリが見せたのは確かに見慣れないカメラ。

「どうしたのよ‥‥それ‥‥まさか、買ったんじゃないでしょうね‥‥」

「違うよー。あ、でも修理には出したけどね」

修理? とチホが首を傾げながらマリに言葉を返す。

「これ、お兄ちゃんがいつも使ってたカメラなんだ。古くなってるし、埃とかも詰まっちゃってて使えそうになかったから修理に出したの」

マリの兄・草太は両親が亡くなってからマリを育てた男性。だがキメラに殺されてしまい、兄の荷物はほとんど使う事のない部屋へとしまわれていた。

「‥‥今回はこのカメラ持って行こうかなって思ってる♪ いつもより良い写真が撮れるかも♪」

「ちなみに今回の取材場所は‥‥?」

「‥‥んー、この街! 街って言うより廃墟なんだけど! 随分前にキメラに襲われて住人とかも、結構死んじゃったからね」

マリから渡された地図を見て、チホは目を丸くする。

チホの記憶違いでなければ、その地図の街は――既に現在の地図上からは消されている街であり――マリの故郷でもあった。

「今‥‥どうなってるのかなぁって思ってちょっと故郷に帰りたくなった」

マリの寂しそうな表情を見ると「行くな」ともいえず、チホは見送る事しかできなかった。

「あ! ちょっと待って! 一応能力者には‥‥」

「馬鹿ねー。こんな昔に滅んだ街にキメラとかいるわけないじゃん。一応メールしてから出るけどね」

笑いながらマリは出発していった。

自分の思い出したくない過去、そしていつまでも忘れたくない思い出が残る街へと。

そして‥‥マリが出発してから2日後に能力者達の携帯電話にメールが届く。


『たすけて』

たったそれだけが書かれたメールが。

●参加者一覧

小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
東野 灯吾(ga4411
25歳・♂・PN
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG
峯月 クロエ(gc4477
16歳・♀・FC
峰閠 薫(gc4591
23歳・♂・DG

●リプレイ本文

―― 週刊記者を助ける為に ――

 その日の能力者達はやや焦りの色が見えていた。お騒がせ記者である土浦 真里(gz0004)が送った一通のメール。
 たった一言『助けて』と書かれたメールが能力者達の不安を掻き立てていたのだ。お調子者の彼女ならばふざけた文面で送ってくる事が多い。
 しかし、今回はたった一言。それがどれほど危険な状況なのかを予想させていた。
「‥‥あたしや玖堂さんに黙って、安全が確認されていない街へ行くだなんて‥‥マリさんてば何を考えているの!」
 怒りを滲ませた声色で小鳥遊神楽(ga3319)が拳を強く握り締めながら叫ぶ。
「確かに‥‥ちょっとドキっとする文面だなこりゃ‥‥名物記者さんも今回はかなりヤバイ状態って事か?」
 急がねぇとな、東野 灯吾(ga4411)もメールを読み返しながら呟く。
「滅ぼされた故郷、ですか‥‥」
 玖堂 鷹秀(ga5346)はポツリと呟く。今回の能力者達は同じクイーンズ記者であるチホからある程度の事は聞いていた。
 今回、マリが向かった場所はかつて彼女が暮らしていた場所。だからこそマリは能力者には言わずに出かけていったのだろうという事も。
「複雑な思いもあるでしょうから人目に触れたく無いというのも分かりますが‥‥自分が如何にトラブルに巻き込まれる確率が高いかを忘れられると困るんですよね」
 苦笑しながら玖堂が呟いた。だけど彼の心の中には(何で自分に言ってくれなかったんだろう)という気持ちが強かった。
「‥‥急ぎましょう!」
 椎野 のぞみ(ga8736)が現場の地図をチホから受け取り、それを見ながら他の能力者達に言葉を投げかける。
 あのマリがマリらしくない文面でメールを送ってきたのだ、かなりヤバイ状況なのだろうと椎野は勿論他の能力者達も予想していた。
「‥‥マリさんが突っ走るのはいつもの事でしょうが‥‥鷹秀さんも、大変ですね」
 水無月 春奈(gb4000)が玖堂に視線を移しながら呟く。水無月は合流する前にチホからマリの元々の実家の場所などを聞いており、椎野の持っている地図にマリの実家の位置を赤いペンで印を付ける。
「やれやれ‥‥相変わらずミセス・ジャーナルは、中々愉快な星の下に生きてるねぇ‥‥」
 ファタ・モルガナ(gc0598)も口元に手を置きながら苦笑して呟く。
「ミスターの苦労が偲ばれるね‥‥胃薬を奢ってやろう」
 ファタが玖堂に言葉を投げかけると「残念ながら‥‥彼女と一緒にいて胃薬の必要の無かった事なんかありませんので‥‥切らさないように持ち歩いています」と玖堂が「ふ」と遠い目をしながらファタに言葉を返した。
(何としてでも、マリ君を助けたいですネ)
 峯月 クロエ(gc4477)が心の中で呟く。
「この人は‥‥新聞記者の方ですか? ‥‥深く関わる訳には行きませんが、生死が関わっている以上、話は別ですね」
 峰閠 薫(gc4591)が小さく呟く。
「早く行きましょう、こうしている間にもマリさんは‥‥」
 椎野が唇をかみ締めながら呟き、能力者達はマリを救出すべく現地へと出発していったのだった。


―― 壊れた街、壊れた‥‥ ――

 能力者達がたどり着いた廃墟。
 そこはかつて賑わっていたであろう多少大きな街だったけれど、ボロボロに崩れている事もさながら放置された期間も長かったのか、かつての面影など見る影もなかった。
 今回の能力者達はマリ捜索、そしてキメラ退治の為に班を3つに分けて行動する作戦を考えていた。
 本隊・小鳥遊、東野、峯月、ファタの4名。
 捜索A・椎野、峰閠の2名。
 捜索B・水無月、玖堂の2名。
「何かあったらトランシーバーで連絡を取り合いましょう。マリさんの保護を最優先事項で行きましょう」
 小鳥遊が呟き、他の能力者達も首を縦に振って、それぞれ行動を開始したのだった。

※本隊※
「結構大きな街で、それなりに住人も多かったんでしょうけど‥‥」
 小鳥遊が呟くが、その後の言葉は彼女の口から出る事はなかった。どれだけの被害を受ければ街全体がこんな状況になるのか、想像もしたくなかったからだ。
「視界が悪いな‥‥先手取れるといいけど」
 東野が双眼鏡で周りを見渡しながら呟く。ざぁざぁと降りしきる雨が能力者達の視界を悪くしており、それが任務内容に影響が無ければいいけど、と東野は言葉を続ける。
「真里君が無事だといいのですが‥‥この雨で身体も冷えるでしょうし」
 峯月が捜索をしながら呟く。確かにこの雨にずっと打たれていれば怪我とは別の心配も出てくる。
「じゃじゃ馬なお姫様を早く救出してあげたいけどねぇ‥‥こう視界が悪いと‥‥おまけに雨のせいで色んな音が混じって不審な音も聞き取れにくいしねぇ」
 ファタがため息を吐きながら呟く。彼女の言葉を聞いて「確かに」と小鳥遊も言葉を返す。警戒を強めてはいるが、雨が瓦礫に落ちる音、石が転げる音などが聞こえ、そこら中に警戒を強めなければならない状況だ。
「真里君は一般人ですよね?」
 峯月が呟き「えぇ、そうだけど‥‥どうしたの?」と小鳥遊が言葉を返す。
「この場所には、クロエ達と真里君しかいない筈なのに‥‥あの人は誰でしょうね」
 峯月が指差した方向へ釣られるように他の能力者達も視線を移す。
 すると、そこにいたのは‥‥弓を持った女性だった。雨に濡れながらも妖艶な笑みをたたえる見知らぬ女性の姿。
「えーと、あんたは‥‥」
 東野が言葉を投げかけようとした瞬間、女性は攻撃を仕掛けてきて、本隊は捜索A、Bの両班に連絡を入れた後、迎撃を開始したのだった。

※捜索A班※
 捜索を開始した後、椎野はバイク形態にした峰閠のAU−KVの後ろに乗って、捜索を行っていた。
 勿論、椎野は探査の眼を使用して異変があったらすぐに気づけるようにしている。
「何で、何でこんな場所に1人で‥‥いくら、自分の故郷でも‥‥危ないのに」
 捜索を行いながら椎野が消え入りそうな声で呟く。峰閠にも椎野の声は聞こえていたけれど、あえて聞こえない振りをして言葉を返す事はしなかった。
「少し飛ばしますので、気をつけてくださいね」
 峰閠は椎野に言葉を投げかけたあと、スピードを速めてAU−KVの運転を行う。
「止めて!」
 椎野が大きな声で叫び、峰閠はAU−KVを止める。
「マリさん!」
 AU−KVから降りて、椎野が駆け出した方向――そこには傷だらけで瓦礫に足を挟まれているマリの姿があった。
「彼女の様子はどうですか?」
 峰閠が椎野に問いかけると「雨にかなり打たれてるせいか、熱もあるし‥‥怪我もしてる」と椎野はぐったりとしているマリを抱きかかえながら呟く。
「とりあえず、他の人たちに連絡をします」
 峰閠はトランシーバーにて他の班へ連絡をいれ、マリを発見した事、予想以上に衰弱している事を伝える。
「――え」
「‥‥? 何かあったんですか?」
「‥‥本体が、キメラと遭遇――交戦中のようです」

※捜索B班※
(こういう時こそ、夫たる私の出番だと思うのですが‥‥何故、マリさんは何も言ってくれなかったんでしょう)
 自分に知らされず、そして自分の知らない所で危険な目に合っている――それが玖堂には許せない事だった。
「マリさんが見つかったようですね、直ぐいける場所ですし、これから向かいます」
 水無月が呟き、バイク形態にしたAU−KVの行き先をマリが見つかった場所へと変更して、移動を開始する。
「‥‥マリさん」
 最初にマリを見た玖堂は、予想以上に怪我をしている事から言葉を失っていた。
(もし、無傷だったり冗談を言ってくるようならお仕置きと考えていたのですが‥‥流石にこの状況じゃ‥‥)
 水無月も心の中で呟く。
「‥‥また、無茶をしたんでしょうね‥‥結婚したんだから、いい加減に落ち着いてください」
 表情を曇らせながら水無月も意識のないマリに言葉を投げかけた。
「キメラが見つかった場所もこの近くのようですね。鷹秀さんにマリさんを見てもらっていて、私たちは現場へ向かいましょうか」
 水無月の言葉に椎野と峰閠も首を縦に振り、それぞれ戦闘現場へと向かい始め、残された玖堂はスキルを使用してマリの怪我を治療したりなどを行い始めたのだった。


―― 戦闘開始 ――

「マリさんは‥‥大丈夫なの?」
 3人が戦闘場所へ合流すると、小鳥遊がマリの様子を問いかけてくる。
「雨に打たれたせいで熱があって、怪我もしていましたけど‥‥命に別状はないように見受けられました」
 椎野が言葉を返すと「そうか、それは良かった‥‥」とファタが言葉を返した。
「まずは、キメラを退治して‥‥早くマリさんを安静にさせてあげなくちゃ」
 東野が呟き、イアリスを構えてキメラへと攻撃を仕掛ける。途中でキメラの矢が東野の腕に突き刺さるけれど、威力は大した事なく、東野はひるむ事なくキメラを斬りつける。
「マリさんを危険な目に遭わせた罪は重いわ。あの世で後悔しなさい」
 小鳥遊もドローム製SMGを構え、スキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「向こうにはマリさんがいるんだ‥‥ここでお前を止めなければ‥‥大切な人たち守れなかったら‥‥ボクはガーディアンになった意味がない!」
 椎野は大きく叫び、洋弓・メルクリウスを構え、ひゅん、と風きり音をさせながらキメラを狙い打つ。
「そんな矢ごときで怯む私ではありませんよ。どうせ、2〜3回は攻撃されます。一気に近寄れば被害も減りますから」
 水無月は呟き、盾を前面に掲げて突進するように突き進む。そしてキメラのすぐ近くまで移動が終わったところで天剣・ラジエルを構え、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
「紫電一閃‥‥大人しく沈みなさい」
「そこのキミ、避けて」
 水無月が攻撃を繰り出した後、ファタの声が聞こえ、水無月はすぐに避ける。
「ありがとう、私はスナイパーほど優しく部位を狙わないよ! 穿てるだけ壊してやる!」
 ファタは叫びながら大口径ガトリング砲でキメラを撃つ。
「‥‥‥‥‥」
 キメラがファタの攻撃に気を取られている間に峯月は小銃WM―79でキメラの死角から撃つ。
「貴方は何故此処にいるのですか? ‥‥もう此処には何もありません。ですから、貴方の役目も終わったんですよ」
 峰閠が呟きながらM−121ガトリング砲でキメラを撃ち、前衛の能力者達の為に道を開く。
「これで、おしまいッと!」
 東野が攻撃を仕掛け、元々の力量自体が弱ったキメラなのか、能力者達に大きなダメージを与える事なく地面に沈んでいったのだった。


―― 彼女が訪れた理由、それは忘れない為 ――

 能力者達はキメラ退治が終わった後、マリを高速艇へと運び、彼女の意識が戻るのを待っていた。受けた傷自体も命にかかわるものはなく、切り傷や擦り傷などが多かったらしい。一番大きな怪我といえば瓦礫に挟まれた足の捻挫くらいだろうか。
「あー‥‥何かぐにゃぐにゃする」
 マリが目を覚ました後、苦しそうに小さく呟いた。
「イヌやネコだって1度怒られたら、同じ失敗をしないように注意するのに‥‥何度も何度もあたしに同じ台詞を吐かせて、右から左へと聞き流して‥‥! マリさんには学習能力というものがないの!?」
 小鳥遊が怒りながらマリへと言葉を投げかけると「え、えへへ、今回のはそういうんじゃないんだ」と寂しそうな目をしながら言葉を返した。
「とりあえず、理由くらいは教えてもらえますよね?」
 玖堂が黒いオーラを漂わせながら、しかしにっこりとした表情でマリに言葉をかける。
「こんな事いったら怒られるかもしれないけど‥‥明確な理由なんて、ないんだぁ‥‥ただ、どうしても来たかった」
 いつものような軽い口調ではなく、真剣な口調でマリが言うせいか、能力者達は考えていたお説教を言うタイミングを少し逃してしまった。
「‥‥マリさん、今度でかける時は1人で行動するな‥‥」
 椎野が涙目でマリをにらみつけながら呟くと「あ、あはは。善処します」とマリは苦笑しながら言葉を返した。
「‥‥やれやれ、キミは見ていて飽きないね。ホラ、食べなよ。落ち着く」
 ファタはマリにトリュフチョコを押し付けながら笑う。
「記者って人種はあまり好きじゃないけど、キミは別腹になりそうだよ」
 可笑しそうに笑うファタに「マリちゃんはそこらの記者とは違うからねっ」と威張りながら言葉を返す。
「でも無事でよかったですネ。皆さん、本当に心配していましたヨ? あまり心配かけるの、良くないと思いまス」
 峯月の言葉に「うん、今回は凄く反省する‥‥予定だから!」とマリが言葉を返す。予定という辺りが全く反省していない証拠であり、能力者達は盛大なため息を吐いた。
「‥‥1つ、お伺いしても宜しいですか?」
 峰閠がマリに問いかけ「ん? 何?」とマリは首を傾げながらきょとんとして言葉を返す。
「この街には‥‥貴方にとって何かがある。それは今の貴方を‥‥形作っているものなのですか?」
 峰閠の問いに「うん」と迷う事なくマリは言い切った。
「この街は私にとって大事な場所。お父さんやお母さん、お兄ちゃんと一緒に暮らした街。きっとこの場所がなかったら、今の私なんて無かった。だから‥‥それを忘れない為に、もう1度来たかったんだ」
 マリの言葉を聞いて「そう、ですか」と峰閠は言葉を返した。
「故郷、かぁ‥‥」
 マリの言葉を聞いて、東野がポツリと呟く。彼の故郷は東京であり、当分故郷に帰れそうにも無い。
「俺の故郷、東京なんすよ」
 東野が呟くと、現在の東京の事を知っているのか全員が押し黙る。
「いつか絶対取り返すんで、取材宜しくっす!」
 東野の言葉に「もちろん! マリちゃんだってその時は張り切っちゃう!」と言葉を返し、能力者達、そしてマリはLHへと帰還していったのだった。