●リプレイ本文
―― キメラ退治に向かう能力者達 ――
「‥‥は? 戦闘不能の能力者が現地に居る、ですか?」
オペレーターからの追加事項を聞いてラナ・ヴェクサー(
gc1748)は目を瞬かせながら驚いた口調で言葉を返す。
今回の任務は至ってシンプルな物だった。狼に似たキメラを退治する、と言う事だけ。複数存在する話も聞かないから恐らくは一匹だろうとオペレーターは言葉を付け足した。
「‥‥まずは、すべき事をこなしていこう。街の人達の保護、そしてキメラの掃討だ。行こう。いい、ね?」
皐月・B・マイア(
ga5514)は深呼吸しながら自分の武器を確認し、言い聞かせるように呟く。
「そうですね、街の人達の安全が確認されないままだとキメラ退治に専念できませんからね」
アリエイル(
ga8923)は皐月に言葉を返しながら資料に視線を落とした。
「街中にキメラ‥‥ねぇ。最近出番の無いこの子で相手してあげる」
ふふ、と獅堂 梓(
gc2346)は楽しげに呟きながら彼女が「この子」と呼んでいるM−121ガトリング砲に視線を移した。
「キョウもこの依頼を受けていたのか。仕事ではあの時以来か。またよろしくな、頼りにしてるぜっ」
那月 ケイ(
gc4469)は不破 炬烏介(
gc4206)の背中を軽く叩きながら挨拶の言葉を投げかけた。
「う、ム‥‥久々‥‥だ、な‥‥ケイ、い、ヤ‥‥やは、リ‥‥止めと、く‥‥」
不破は何かを言いかけたが、途中で止めて「今回、は‥‥宜しく、たの‥‥ム」と代わりの言葉を返したのだった。
「そういえば、さっき気になる事を聞いたんですよね」
ラナが思い出したように呟くと「気になる事、ですか?」とティームドラ(
gc4522)が言葉の続きを促すように問いかけた。
「戦闘不能の能力者が1名いるって‥‥怪我なのかどうか分からないですけど、急いだ方がいいかもしれません」
「戦闘不能の能力者‥‥何だろう、何だか嫌な予感がするよ‥‥」
雪代 蛍(
gb3625)がざわめく胸を押さえながら呟く。
しかし彼女の言う『嫌な予感』が的中した、と能力者達、そして雪代が知るのはこれからそう遠くない未来のこと。
他の能力者達も戦闘不能の能力者の事は気になったが、まずは住人の安全、そしてキメラ退治が先決だと心の中で思いながら高速艇に乗り込んで、現地へと出発していったのだった。
―― キメラの走る街の中で ――
今回の能力者達は班を三つに分けての行動をする事になっていた。
A班・アリエイル、獅堂、ティームドラの三名。
B班・ラナ、不破、那月の三名。
C班・雪代、皐月の二名。
「商店街での戦闘‥‥周囲にも気をつけなければなりませんね」
アリエイルが周りを見渡しながら呟く。今回は商店街の中、もしくはその付近での戦闘になる事が伺え、その為、ただキメラを退治すればいい――と言うものではなかった。
周りの建物、街の住人、能力者達が気にかけなくてはいけない事が沢山存在する。
「血の匂いに誘われて、ノコノコと顔を出してくれると楽なんだけどねぇ」
獅堂は血の滴る肉を持参してきており、ぶら下げてキメラ捜索を行う事を考えていた。上手くいけば先ほど彼女自身が言った通り、血の匂いに誘われてやって来るかもしれないから。
「それではキメラを素早く退治してしまう為にも早く見つけてしまいましょう」
ティームドラが呟き、能力者達は班に分かれて行動を開始したのだった。
※ C班 ※
「此処からが人の多い商店街。住人達の保護に向かいましょう、蛍」
皐月が雪代に言葉を投げかけると「うん、そうだね」と言葉を返し、逃げ遅れた住人が居ないか、探し始めたのだった。
突然キメラが現れたという事もあり、人が襲われたのだろう。地面には生々しい血痕が至る所に残っていた。
「オペレーターの話だと死人は居ないみたいだけど‥‥まだ全て確認したわけでもないだろうし、確認する余裕もないだろうし‥‥こっちも油断は出来ないね」
雪代が血痕を見ながら表情を少し苦痛に歪めて呟く。
「あ、あんた達‥‥能力者なの?」
店の中からこそりと数名の住人達が顔を覗かせ、2人に問いかける。
「この街の住人の方達ですか? 大丈夫でしたか? 私達はULTの傭兵です」
皐月が住人に言葉を投げかけると「キメラはどうなってんだい、ちゃんと退治したんだろうね!」とややきつい口調の言葉が返ってきた。
「中間達が既に掃討に入っているので、討伐は時間の問題でしょう。皆さんには心苦しいとは思いますが、今暫しの辛抱をお願いします」
皐月が丁寧に言うと「さっきの能力者より全然あんた達の方が頼りになるね、早く退治しておくれよ」と中年女性が言葉を返してきた。
「‥‥さっきの能力者?」
雪代が呟いた時「あれは‥‥能力者!? 武器も持ってて、何でこんなとこ‥‥」と皐月が七海 鉄太(gz0263)を見つける。皐月の言葉に雪代も釣られるように視線を移し、そして鉄太を視界に入れた途端に驚きで目を大きく見開いた。
「鉄太!?」
「‥‥蛍? 知り合い? ‥‥‥‥任せる、私は外の警戒をしてるから」
皐月は鉄太を雪代に任せ、外でキメラへの警戒を強めていた。
そして雪代は他の班へと連絡を入れる。戦闘不能と言われていた能力者が鉄太だった事、そして異常な程に怯えているという事を。
※ A班 ※
「戦闘不能となっていた能力者を見つけたみたいですね。外傷は無いのに異常な程怯えているというのは気になりますが‥‥」
アリエイルは雪代からの連絡を受けた後、小さな声で呟いた。
「そうだね。でもそういうのは後から本人に聞けばいい。まずはキメラを退治してしまわないとね」
獅堂がアリエイルに言葉を返すと「えぇ、勿論キメラの事を忘れたわけではありませんよ」と周りを警戒しながら言葉を返す。
「獅堂様の持って来られた肉の効果はありそうですか?」
ティームドラはゼロを両手に嵌めたままキメラ捜索を続け、言葉だけを獅堂に投げかける。
「どうだろう、意外と街の中にも血の匂いがあるし‥‥効果は薄そうかな?」
獅堂が言葉を返す。大量の血ではないけれど、キメラに襲われた時に散ったであろう住人の血の匂いもしており、キメラを肉の血で誘き出そうとする作戦は失敗に終わりそうだ。
「まだ向こうの班も見つかっていないのでしょうか? まぁ‥‥キメラ自体も動き回っているでしょうから狭い範囲と言っても結構見つけづらいものですね」
アリエイルは苦笑しながら呟き、キメラ捜索を続けたのだった。
※ B班 ※
「う‥‥ム‥‥大丈夫、カ‥‥?」
不破はラナに言葉を投げかける。不破が見ているのはラナの左手のひら。ラナも獅堂と同じくキメラが血の匂いに誘われてやってくればいいと考えていた一人であり、ラナは自分の手のひらをアーミーナイフで傷つけて血の匂いを出していた。
「あぁ、大丈夫ですよ。流石にこれ以上は戦闘に支障が出ちゃいそうですから、これ以上傷つける事はしませんけどね」
苦笑しながらラナは「心配してくれてありがとうございます」と不破に言葉を返した。
「そういえば、戦闘不能の能力者って雪代さんの彼氏さんだったんですね」
那月が思い出したように呟く。先ほど雪代から入った連絡は戦闘不能の能力者を保護したこと、そしてそれが雪代の彼氏である事が彼女本人から告げられた。
「彼氏‥‥恋、人‥‥」
不破は小さく呟き、首を緩く振って言葉を飲み込む。
(キョウ、何か考えてるみたいだけど‥‥無理に聞き出すのも無粋だしな、とりあえずお仕事に集中しよう)
那月は先ほどから何か言いかけようとしている不破の事を考え、心の中で呟く。
「‥‥あー、もしかして‥‥アレ、ですかね」
ラナがぴたりと歩く足を止めて前方をしっかりと見据える。不破と那月も其方に視線を移すと商店街には不釣合いな狼――キメラが三人を威嚇するように唸っているのが視界に入ってきた。
「流石に店が沢山の此処で戦闘はマズイ、ですよね。何処かに誘導しましょう」
那月が呟き、B班はキメラを発見した事、場所が悪い事から誘導をする事をAとCの二つの班に連絡を入れて、キメラに牽制攻撃を仕掛け、退治する為に誘導を開始したのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
B班の3名がキメラを誘導したのは空き地。恐らくこれから何か建つのだろう、まだ何もされていない空き地を見つけ、そこへキメラを誘導した。
キメラを誘導してから数分後、A班も空き地へとやってきて、キメラ退治の為の本格的な戦闘が開始されたのだった。
「援護‥‥宜しくお願いします!」
アリエイルはセリアティスを構え、キメラへと向かって走り出す。アリエイルが武器を振り上げ、キメラが逃げる動作を見せた瞬間を見逃さずにラナが小銃S−01でキメラの脚を狙って射撃を行う。逃げようとしていた時の攻撃でキメラは避ける事が出来ず、ラナの射撃もアリエイルの攻撃もまともに受けて地面へと倒れこむ。
「ワンコが、なめてんじゃないよ!」
獅堂はM−121ガトリング砲を構え、躊躇いの色を一切見せずに攻撃を行う。
「足止め完了! 任せたよ!」
獅堂の言葉に「‥‥任された‥‥殺して、やる‥‥」と不破が身体からにじみ出る殺意をキメラへと叩き込む。
キメラは不破にもダメージを与えたけれど、自身に受けたダメージの方が大きく、ぎゃうん、とみっともない声で鳴きながらよろめく。キメラは不破に攻撃を仕掛けようと勢いをつけて向かっていったが、向かってくるのを待っていた不破により叩きつけられた。自身の勢いもあり、普通より大きなダメージを受け、キメラは中々立ち上がれなかった。
「‥‥そうだ‥‥みっともなく、死ねよ‥‥」
みっともなく倒れるキメラを見て不破は罵るように呟く。
「危ない!」
キメラが突然起き上がり、不破に攻撃を仕掛けたが那月がスキルを使用して庇う。
「援護するぞ、攻撃は任せた! 暴れて来い!」
不破が感謝の言葉を言う前に那月が先に言葉を言う。
「此方としても手間を掛けたくありません、早々に退治される事をお勧めしますね」
ティームドラはゼロを振るい、キメラに攻撃を仕掛ける。攻撃した瞬間を狙っていたようにティームドラもダメージを受けたのだが、彼は「ふ」と笑って「周りを見るべきですね」と言葉を付け足した。
「簡単に言うと‥‥さっさと死ねって事よ‥‥!」
ラナがキメラの背後からグラスホッパーを装着した靴で攻撃を仕掛ける。
「‥‥死ね、よ‥‥虐鬼王拳‥‥」
不破が己の技で攻撃を仕掛けたが、キメラは逃げる素振りを見せた――けれど。
「逃がさない、貴方は此処で倒されてもらう」
合流した皐月がスキルを使用してキメラにトドメを刺して、能力者達はキメラを無事に退治する事が出来たのだった。
―― 怯える子供 ――
他の能力者達がキメラ退治を終えて雪代の所へと戻ってくると雪代の大きな声が聞こえてきた。
「あたしも‥‥昔は同じ風に思ってた。護ってくれるのが当然だって‥‥だけど能力者だって人間なんだよ? 血だって流すし怖いと思うし‥‥限界だって来る!」
雪代が言い切った所に他の能力者達が建物の中へと入ってきて、それまでの事情を雪代が説明した。一人では勝てないと判断した鉄太を無理矢理キメラの所へ放り込もうとした住人が居た事、鉄太がキメラより人間を怖がっている事。
「人の心には魔物が棲むと言われる事がありますね‥‥キメラよりも恐ろしいかもしれません」
アリエイルが住人達を見ながら呟くと住人達は気まずそうに視線を逸らした。
「私は盾になるつもりはありません‥‥人々の剣になる為に此処にいます」
アリエイルが呟いた後「私からも一言いいですか?」とティームドラが呟く。
「子に範を示すべき大人がこのような醜態を、自分の子供が見たら、なんと言いますかな?」
ティームドラの言葉に住人達も口を閉ざす。恐らくは自分達でも分かっているのだろう。たとえ一般人だとしても、大人として悪い事をしたという事に。
「人ってのは鬼にも菩薩にもなれるんだよ。俺もお前さんも、お前さんを責めた人達も。みんな一緒だ」
那月は一言だけ鉄太に言葉を投げかけた。
「鉄太‥‥仰向けに寝てミロ‥‥良い‥‥ソラ、だ‥‥ソラは言う‥‥答エナド無い‥‥」
不破は呟く――が鉄太は未だ小さな子供のように泣きじゃくっている。
「鉄太、キミが恐れているのはあの人達にじゃない――知らない何かに対して、だ。鉄太、考えろ、教えを乞い、その通りにするだけじゃ、自分は変われない、自分の意思で考えろ」
皐月は「私も受け売りだけどね」と言葉を付け足しながら鉄太に言葉を投げかけた。
そして、本部に帰還する為に高速艇へと乗り込む能力者達だったが雪代に「ちょっと待ってて」といわれ、能力者達は高速艇へ、雪代と鉄太は外で少し話をする事にした。
「鉄太‥‥あの時の鉄太は何処行ったの? あたしの為に強くなりたいんじゃなかったの? いい加減、大人になってよ!」
雪代の言葉に鉄太はビクリと肩を震わせる。
「もしかしたら、あたし達は別れた方がいいのかもしれないね。このままじゃ二人とも駄目になっちゃうよ‥‥」
「い、嫌だっ! おれ、蛍と離れるの嫌だああ」
うわぁん、と先ほどより大きな声で泣き喚き「だったらあたしを思い留まらせてみてよ、抱きしめてみてよ――彼氏じゃない」と雪代は小さな声で言葉を付け足す。
「おれ、今度こそ本当に強くなる、蛍を悲しませないように‥‥だ、だから‥‥離れたくないよ‥‥」
鉄太はおずおずと蛍を抱きしめながら呟いたのだった。
そして、その二人の様子はしっかりと他の能力者達も見ていたという事に気づいてないのは当事者二人だけ。
「初々しいですね、まぁ焦らずともゆっくりと進んでいけばよいと思いますよ」
ティームドラは微笑みながら鉄太と雪代を見ていた。
「‥‥ケイ‥‥は、自ら、の為‥‥友や‥‥恋人、殺せる、か‥‥?」
不破が那月に小さな声で問いかける。
「‥‥難しい質問だなぁ‥‥でも、きっと俺には出来ないな‥‥でも、そうする人を咎めたりはしない」
咎められる程偉い人間でもないしね、と那月は言葉を付け足す。
その後、能力者達は報告の為に本部へと帰還していったのだった。
END