●リプレイ本文
―― 相変わらずのオカマ ――
「はぁい♪ 今日はよろしくねぇ♪」
投げキッスをしながら一緒に任務を行う能力者達に挨拶をするのは鵺(gz0250)だった。
「クリスマスだもの! アタシだってイチャイチャラブラブ、そして‥‥きゃあ♪ これ以上はアタシの口からはいえないわ!」
モジモジとしながら呟く鵺の姿ははっきり言って「うわぁ」と後ずさりしたくなるほど。
「今回の目的はキメラ退治と‥‥鵺さんの幸せなクリスマス、でしょうか」
ふふ、と笑みを浮かべながら呟くのは石動 小夜子(
ga0121)だった。
(鵺さんも随分と努力をなさっていますもの‥‥そろそろ良い出会いがある頃合だと思います)
心の中で石動は呟き(頑張ってくださいね)と言葉を付け足したのだった。
「水無月 魔諭邏(
ga4928)と申します。皆様、宜しくお願いします」
ぺこり、と水無月は丁寧にお辞儀をしながら能力者達に挨拶をする。
(‥‥件のキメラの退治、及び『問題行動を起こしそうな』傭兵が暴走をした際の歯止め、が私の役割でしょうか)
水無月はちらりと鵺を見ながら心の中で呟く。
「うふ、宜しくねぇ♪ アタシは鵺よ♪」
鵺が水無月に挨拶をすると「つかぬ事をお聴きしますが、何故に本名を名乗る事を避けておいでなのですか?」と水無月が鵺に言葉を返す。
「え? そうねぇ‥‥名乗りたくないからよ。あんな名前、捨てれる物なら本当に捨てたいくらいだもの」
鵺は小さな声で言葉を返し「そんな事より今日は頑張りましょうね」とまるで話を逸らすかのように無理に明るい声で水無月に言葉を投げかけたのだった。
(‥‥相変わらずのようだな)
シルヴァ・E・ルイス(
gb4503)は鵺の様子を見ながら心の中で呟く。以前から表情が豊かな方ではないシルヴァだったが、今日は一段と無表情ぶりに磨きが掛かっているようにも見えた。
そんな彼女は『相変わらず』だと鵺の事を思っていたが、それは悪い意味ではなく、むしろ微笑ましいものでも見るかのような心情だった。
「キメラはさっさと退治してクリスマスを楽しもう」
エイミー・H・メイヤー(
gb5994)が能力者達に言葉を投げかける。
「そうだね。折角だし、是非そうしたいね」
夢守 ルキア(
gb9436)もエイミーの言葉に賛同した後「その為にも鵺君、キミにも協力お願いできるかな?」と鵺に言葉を投げかけた。
「えぇ、もちろん!」
「ありがとう。鵺君には探査の目で敵数の確認をお願いしようかな。私達が迎え撃つから」
「分かったわ、アタシに任せてちょうだい!」
ぐっ、と拳を強く握り締めながら鵺が夢守に言葉を返すと「頼もしいね」とエイミーも笑って鵺に言葉を投げかけた。
「クリスマス‥‥」
ラサ・ジェネシス(
gc2273)がポツリと呟く。
(クリスマスに鵺殿と一緒デ幸セ!)
心の中でガッツポーズを取りながら、ラサはちらりと鵺を見る。ここ最近、鵺の身辺で起きている事を見ているから余計にラサは鵺の事が心配で仕方がなかった。
(ウーン‥‥鵺殿も色々大変みたいだけど‥‥何か力になれないかナ?)
ラサは小さくため息を吐きながら心の中で呟くが、何をしてあげればいいか思いつかず(まずは、キメラ退治に専念しよウ)と付け足したのだった。
「鵺さんは初めましてだっけ? セラ(
gc2672)だよ、宜しくね!」
セラが鵺に挨拶をすると「あら、アタシの方こそ宜しくねぇ♪」と鵺も言葉を返した。
(この人がラサさんの好きな人? ‥‥うん、ステキな人だね。ラサさん、がんばって!)
セラは心の中でラサを応援しながら(そうだ、出発する前にラサさんをイケメンに変身させちゃおう)と思いつく。
「ちょっと出発は待っててね! ラサさん、ちょっと行こう!」
「え? え? な、何ですカ!」
セラはラサの腕を掴み、勢いよくトイレへと駆け込む。変身させるにしても人前で着替えるなど許されないからだろう。
「俺は――「やぁん! イケメン発見だわ!」――は?」
沙玖(
gc4538)が自己紹介をしようとしたのだが、言葉を鵺に遮られ「ヤダ! 今回は貴方が唯一のイケメンなのね! どうしようかしら! 運命を感じるわ」と一人で舞い上がった発言をする鵺に「は? 運命?」と沙玖はうろたえる事しか出来ない。
「や、待て。俺には大切な女がいてだな‥‥今は余計なことは考えられないというか‥‥」
「大丈夫よぅ! アタシ、その女に負けない!」
「いや、だから人の話を‥‥」
鵺は沙玖の言う『大切な女』に対して敵対心を見せながら叫ぶ。ちなみに沙玖の言う大切な女と言うのは妹のことであり、絶対に鵺に勝ち目のない戦いという事を鵺自身は気づいていない。
その後、変身を終えたラサが戻ってくると怪盗・黒いチューリップの姿をしたラサの姿があり「やだ! 可愛いわ!」と鵺がはしゃぎ始め、能力者達は騒ぐ鵺と一緒に本来の目的であるキメラ退治に出発し始めたのだった。
―― 森の中、潜むキメラ ――
今回のキメラは資料によると半人半獣のキメラらしく、しかも問題な事に人間部分――つまり上半身がイケメンと言う情報があった。
だから能力者達は鵺のことも考えて、鵺のサポート班、そしてキメラ迎撃班の二つに分けて行動する作戦を立てていた。
鵺サポート班・沙玖、水無月、ラサの三名。
キメラ迎撃班・シルヴァ、夢守、石動、エイミー、セラの五名。
戦闘班の中でも夢守は奇襲迎撃を取り、キメラを絶対に逃がさないようにする――という考えを持っていた。
「鵺君、どうだい?」
夢守が鵺に問いかける。森の中に入った時点で鵺はスキルを使用しており、キメラが待ち伏せなどをしていないか確認している最中だった。
「う〜ん、多分キメラは一匹じゃないかしら? 資料に数が書いてないから分かんないけど、大勢いる雰囲気じゃない‥‥と思うわ」
「キメラの動きも分かりませんし‥‥十分に注意をしなければなりませんね。形状からして突進が得意そう、でしょうか」
石動は「はっきりとは言えませんけど‥‥」と言葉を付け足しながらキメラについて予測を立てる。
「うー、それにしても寒いねぇ‥‥一応寒さ対策として水筒にホットミルクティーを用意してきたよ。対策になるかは分からないけどね」
エイミーが水筒を見せながら苦笑する。
「本当に寒いな‥‥「きゃ、凄く寒いわ! 暖めて欲しいわぁ!」‥‥あぁ、寒すぎだ。別の意味でも寒すぎだな。思わず今すぐ何処かに行きたくなるほどに寒いな」
唯一の男性能力者と言うことで鵺は何かと沙玖に話しかけたりちょっかいを出したりしている。
「鵺様、今回の依頼はキメラ退治ですよ? あまり沙玖様のお邪魔をなされぬようにして下さいね? あまり暴走されるようなら‥‥叩きのめして差し上げます」
水無月は笑顔で鵺に言葉を投げかけ「わたくしとしましては『男の道を踏み外した輩』に好印象は到底もてませんの。これ以上、印象を悪くさせないで下さいね」と言葉を付け足した。
「し、失礼ねぇ! 誰が道を踏み外してるって言うのよ!」
やや怒りながら鵺が叫ぶが、明らかに踏み外しているのは一目瞭然である。
「‥‥おい、あれ‥‥」
シルヴァが小さく呟き、前方を指差す。すると資料にある通り、上半身が男性、下半身が獣と言う誰が見ても人以外の生物が能力者達から離れた所に立っている姿があった。
「‥‥私は回り込んで背後から攻撃をするよ。奇襲攻撃が成功した後に皆で一気に叩き潰そう」
夢守が呟き「分かった」と沙玖も言葉を返し、まずは夢守が攻撃するのを待ってから他の能力者達は行動を開始する事になったのだった。
―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者達 ――
夢守が班から離れてから数分後、彼女はスキルを使用しながら気配を絶ち、キメラの背後に回りこんでエナジーガンと拳銃バラキエルで射撃を開始する。
「!?」
いきなりの攻撃でキメラは初動が遅れたのだろう。能力者達はキメラの攻撃を受ける事なく、それぞれの行動を行う事が出来た。
「身体の中心に、急所が集まる」
夢守は呟きながら、次々とキメラに射撃を繰り出す。
「ああ、イケメンが‥‥!」
鵺が残念そうに呟くのだが「‥‥今すぐお仕置きされたいですか?」と水無月からの冷たい言葉に「そ、そんな事ないわよぅ」と言葉を返し、大人しくしているのだった――というよりキメラの血を見た直後に「うっ」と叫びながらバタンと倒れてしまったのだ。
「ぬ、鵺殿!」
ラサが慌てて駆けつけるが既に意識を失った後で(これで邪魔をされる事はなさそうですね)と水無月は冷たい言葉を心の中で呟いていたのだった。
「‥‥せめて、人として生まれていればその美形さも役にたったことでしょう‥‥ですが、今の貴方にはそれを悪用するしか出来ないと思います」
石動は呟きながら、蝉時雨を構え、スキルを使用しながら攻撃を繰り出した。彼女の攻撃が終わった後、シルヴァがスキルを使用して移動してきて、キメラに反撃の隙を与える事なく追撃していく。
「下、いくよ!」
シルヴァが上半身に攻撃を行っている最中、エイミーがシルヴァに声をかけ「機動力を奪っておいて損はないだろうからね」と言葉を付け足してキメラの足に強力な一撃を繰り出す。
「危ないでス!」
ラサの声にエイミーがハッとして上を向くと、キメラの攻撃が自分に向かっている事に気づき「ちっ」と小さく舌打ちをする。
「やれやれ、レディに対してそういう挨拶はどうかと思うけどね」
セラがプロテクトシールドでキメラの攻撃を防ぎながら呟く。いや、セラというよりはもう一つの人格であるアイリスと言った方が正しいのだろう。
「私が全力で守るよ、だから攻撃面は任せるからね」
アイリスの言葉に「分かった」とエイミーは短く呟き、再び攻撃を行った。
「さて、色んな事があって既に(主に精神面で)ボロボロな俺だが、もってくれよ、俺の体! 喰らえ! ファイナルエッジ!!」
沙玖がスキルを使用しながらキメラに攻撃を繰り出した――が、ファイナルと名前のついた技の割にトドメには至らなかったらしく、追撃したシルヴァがトドメを刺し、キメラ退治は無事に終わったのだった。
―― 聖なる夜に、恋の天使が舞い降りる? ――
能力者達はキメラ退治が終わった後、ラサが背負ってきたヤドリギを置き、ささやかながらのクリスマスパーティーをする事にしていた。
「ドリンク類、持ってきて良かったな」
沙玖が短く呟く。彼は今回の能力者たちのためにジュースを持参してきていた。彼自身を含め、ほとんどが未成年なのでアルコールの入ったものはなかったのだけれど。
「鵺様、外見だけは立派な殿方ですのに、不潔です! 破廉恥です! 世も末です!」
きっ、と水無月は鵺を見ながらお説教モードに入る。恐らく沙玖にちょっかいを出したこと、キメラのイケメンについて言った事なども含まれているのだろう。
「まぁまぁ‥‥人によって生き方は違うものですよ? あまり怒らなくても‥‥」
石動が沙玖の持ってきたジュースを勧めながら宥め「どうぞ」とシルヴァにもジュースを勧めた。
「‥‥ありがとう」
「あら、もしかして‥‥それお嫌いでした?」
無表情で受け取ったシルヴァに石動が「他のと変えましょうか?」と言葉を付け足すと「いや、そういうわけじゃないんだ」と先ほどと同じような無表情で言葉を返した。
「温かいホットミルクティーもあるから、飲みたい人は言ってね」
エイミーが能力者達に聞こえるように言うと「アタシ、貰っちゃおうかしら」と鵺が軽く手を挙げる。
「あー、美味しいわぁ」
「あ、そうだ。悪いんだけどそのカップを渡してもらえるかな? ラサ君もホットミルクティーが飲みたいって言ってるから」
「えぇ、いいわよ」
エイミーは鵺からカップを受け取り、それにホットミルクティーを注いでラサへと渡す。
(こ、これハ‥‥! ぬ、鵺殿と間接なキスでハ‥‥!)
いきなり顔を真っ赤にしたラサを「ふふっ」とエイミーは笑いながら見ている。勿論これはエイミーが企んだラサへのサプライズ的なものだったのだけれど。
「あら、短冊? 結構時期ハズレなのねぇ」
夢守がヤドリギにつるしている短冊を見ながら鵺が言葉を投げかける。
「皆でやれば変じゃないしー、楽しければいいんじゃない? ま、神様とか信じてないけどね」
夢守が苦笑しながら言葉を返すと「そうね、楽しければ何でもいいわね!」と鵺も賛同する。
ちなみに夢守がつるした短冊には『鵺君がステキな人と、幸せでいられますよーに』と書かれている事に鵺は気づいていない。
「そうそう、お菓子にシュトレンを持ってきたから皆で食べよう♪」
セラがシュトレンを出しながら皆に勧めていく。
「鵺殿! メリークリスマス!」
ラサがヤドリギの下に鵺を呼び出し、高速艇の中においていた『クリスマスローズの花束』を鵺に渡す。花言葉は慰め、いたわり、追憶であり今の鵺にぴったりだと思ってラサはプレゼントする事にしたのだ。
「あら! ありがとう。そうだ、アタシからもいつもお世話になってる人にプレゼントがある「鵺殿! ス、好きでス‥‥」え?」
きょとんとしながら鵺がラサを見ると、ラサは顔を真っ赤にしながら冗談を言っているようにも見えなかった。
「め、迷惑かナ‥‥」
「そんな事はないわよ、っていうか変わり者なのねぇ。自分で言うのもアレだけど、アタシってば普通じゃないわよ?」
そう言いながら鵺はラサに銀細工の花が施された指輪をプレゼントした。
「ちなみに指輪は貴方だけよ。他の子達にはブレスレット」
その意味が分かるかしら、そう言葉を残して鵺は楽しそうにその場から離れていった。
しかし、鵺とラサ――気がついていただろうか? 雰囲気が出るようにと石動が持参してきた紙吹雪が舞っていたという事に。
そして、向こう側で騒いでいるはずの能力者達がいつの間にかこっそりと二人を見守っていたという事に。
帰りの高速艇、妙にご機嫌な鵺と妙に静かなラサの姿を見て、能力者達は微笑ましそうに笑っていたのだった。
END