●リプレイ本文
「霧の中を襲う‥‥ね、卑怯者ではあるけれど自分の勝ち筋をちゃんと見極めた厄介な相手とも言えるか‥‥面白そうだ」
呟くのはジーラ(
ga0077)だった。
今回のキメラ――‥‥どちらかといえばキメラ自体には苦労しないのかもしれない。鳥型なので多少の厄介さはあるけれど、一番厄介なのは『場所』である。常に霧があり、しかも地面はぬかるんだ状態。視界も足場も悪い場所での戦闘になるのだ。
「作戦を確認します、敵戦力の総力は全く不明、しかも発生している霧のおかげで索敵しにくいし、足場が悪いから回避しにくい‥‥本当にゲームの中のような出来事ですね」
ため息を吐きながら作戦確認を行っているのは緑川 安則(
ga0157)だった。
「囮役が引き付けた所を皆で叩く、基本的にオーソドックスなものになりましたね」
「なぁに、幽霊と戦うんじゃないんだから。単に視界と足場が悪いだけ‥‥やりようはあるさ」
伊佐美 希明(
ga0214)が愛用の武器・長弓を手に持ちながら呟く。
「そう、単に自分の有利な場所に陣取るキメラ――本能的なものか、それとも戦術的に知恵が回る相手なのか‥‥後者であればやりにくいですね」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)もため息混じりに呟く。
「もし知恵が回る相手なら重傷も覚悟しなきゃ‥‥ってことかな」
斑鳩・眩(
ga1433)が飄々としながら呟いた。
「しかし‥‥既に戦死者が出ているにも関わらず、赤外線センサーなどの貸し出しを許可してくれないとは‥‥借りることの出来たのは通信機のみ―‥‥ですか」
ランドルフ・カーター(
ga3888)が少し怒りを露にした口調で呟く。
そう、彼は霧の中でも索敵できる赤外線センサーを貸してくれえるように申請したのだが、それを許可してもらうことは出来なかった。
「‥‥はぁ」
ため息を吐きながらオルランド・イブラヒム(
ga2438)は周りの状況を見る。周りは鬱蒼と生い茂る森。
「‥‥これは火をつけて霧を消すわけにはいかんな‥‥」
オルランドは呟く。周りが森だという事は周囲に延焼する可能性が高い。キメラを倒しても森を焼いてしまっては元も子もない。
「さて‥‥そろそろおいでのようだぜ」
大山田 敬(
ga1759)が頭上を飛ぶキメラの羽音を聞きながら呟いたのだった。
●極限の状況での戦い――。
今回、能力者達はスパイク持参で仕事にやってきた。スパイクでぬかるみを多少でも軽減できると思ったからだ。
キメラの出る場所はカーブ、少し前までは車でやってきていたが、キメラに破壊されないように、安全な場所へと車を置いてやってきた。その距離は二キロほど。
「それにしてもスナイパーがこんなに揃うとはね、レアケースだが対処しないと、ついでに言えば、まさか使う事はないだろうと思っていた盾が役に立つとは思わなかったぞ」
苦笑しながら緑川はプロテクトシールドを構え、奇襲に備える。
「此処からは私とランドルフでキメラ出現ポイントまで行くよ」
伊佐美は呟き、ランドルフと共に出現ポイントまで歩き出した。
「この場所で火を使うのは危険でしょうか‥‥」
霞澄が周りを見ながら呟く。もし、周りに可燃物がないようだったら霞澄はオルランドを手伝って火を焚く準備の手伝いをしようと考えていた。
「そうだねー‥‥此処から先は森があるから火は使えないね。だーいじょうぶよ、失敗してもせいぜい死ぬだけ!」
斑鳩が笑いながら言うが、彼女自身も覚悟を決めて仕事に来ている。
「さて―‥‥この辺でそれぞれ射撃ポイントを押さえとこうか」
「‥‥何をしているの?」
ジーラが大山田に問いかける。それもそのはず。彼は自分が着ている外套に水を掛け始めたからだ。
「くそ、寒っびい」
不満そうに大山田は呟く。彼はキメラが何故、霧の中で獲物を狙えるのかと考え『音』か『熱源感知』の為じゃないかとよんでいる。音の場合なら自分が気をつければいいだけだし、熱源感知なら外套の下にエマージェンシーキットの断熱シートを捲き、その上から外套を羽織って水を掛ける。
これなら熱源感知をキメラが行っていた場合、分かりにくく出来るはずだと考えた。
「とりあえず‥‥囮役がキメラを上手く引き付けてくれることを祈ろう」
緑川は呟き、先にキメラ出現ポイントに向かった二人の身を案じていた。
●囮役――必死の引き付け
「‥‥出てくる場所は分かっているんだから‥‥」
目的のポイントに到着し、伊佐美は自分自身を落ち着かせるように呟く。
「外敵なんて無い。戦う相手は‥‥常に自分自身のイメージ。私は私に負けない」
彼女は確信にも似た言葉で自分を落ち着かせる。彼女の確信‥‥それは『仲間が援護してくれる』だった。
「戦死者を出した相手ならナイトフォーゲルの使用許可を出してくれれば、こんなに苦労しなかったものを‥‥」
ランドルフは愚痴るように呟く。しかしそれは伊佐美に聞こえない程度の小さな声。戦いの前に無用の不安を与えないようにという彼の心配りだ。
「‥‥誰?」
バッと伊佐美が後ろを振り返ると斑鳩が立っていた。
「驚かせてごめん、蛍光ライトを二箇所くらい設置してダミーにしてたんだ、ま、気休めだから効果は期待できないけど」
苦笑しながら斑鳩は答えた。彼女も二人が心配で様子を見に来た――という所だろう。
「‥‥きた」
ランドルフが呟き、上空を見る。
すると、此方に気づいているのかキメラが雄叫びのような大きな声で叫び、此方へと急降下してくるらしく羽音が急速に近づく。
「相手が攻撃する瞬間――そこに必ず隙が出来る‥‥そこを狙う!」
ランドルフも腰にランタンなどをつけ、アサルトライフルを構えながらキメラの羽音がする方向に向かって攻撃をする。
伊佐美・ランドルフは最初に『強弾撃』を使用して攻撃の威力を上昇させ、続いて『鋭角狙撃』でキメラを攻撃する。
キメラが攻撃する瞬間、ランドルフの攻撃がキメラに当たり、そのおかげで大きな隙が出来て伊佐美も攻撃を当てる。
「あはっ‥‥鬼さんこちら!」
斑鳩がメタルナックルで攻撃して、仲間のスナイパーたちが待機している所まで誘導を始める。
攻撃をまともに当てることが出来なかったキメラは怒り、斑鳩の後を着いていく形になった。
「おのれぇ‥‥あの偽ブライトン博士に前世紀の言葉で『ぎゃふん』と言わしめなかったか!」
ランドルフは忌々しげに呟き、キメラの後を追い始めた。
●決戦――勝つのはどちらだ?
囮役がうまくキメラを引き付け、仲間の能力者が待ち伏せている場所までやってきた。
「足場が悪いから、あんまり動き回るのは得策じゃないね」
ジーラが呟き、自分の武器・長弓『鬼灯』でキメラを狙う。
仲間が攻撃していく中、緑川はキメラからの攻撃を受けぬようにと、盾で仲間を護る為に走っていた。
「ふむ、熱感知か超音波か分からないが、なかなか厄介だな‥‥だが面白い」
緑川は少し笑み「とにかく弾幕を張っていく、それしかない」と呟いた。
「敵は空の上‥‥逆を言えば今回の編成は良かったのかもしれませんね」
霞澄は呟き『強弾撃』と『鋭角狙撃』を使用し、キメラに攻撃をする。
「あれ――キメラ、光ってねえか?」
大山田が呟き、指差す。確かにキメラが飛んでいるあたりがうっすらと光っているのが分かる。
「あれは私が囮の際にキメラにつけたランタンです」
ランドルフがアサルトライフルを構えながら呟く。確かにランタンという目印があればキメラの位置を特定しやすい。
「皆っ、ちょっと目ぇ瞑ってて!」
斑鳩が叫び、能力者達は目を閉じる。すると斑鳩が照明銃を使い、暫しの間だが周りが明るくなった。
「グォオオオオォォッ」
キメラは眩しさで目をやられたのか叫び、羽根を飛ばす攻撃を仕掛けてくる。
「危ない!」
他の皆は羽根を避けきる事が出来たが、照明銃を使った斑鳩はワンテンポだが行動が遅れ、羽根を避ける事が出来なかった。
その時、彼女の盾となったのがランドルフだった。
「ちょ―‥‥大丈夫!?」
斑鳩が問いかけると「問題ありませんよ」とランドルフは答えた。
「これは私の誇りであり、自己欺瞞だ。年長者たるもの、若者の盾にならなければ‥‥それがレディならなおさら!」
彼の言葉に斑鳩は「ありがと、でも無理はしないでよ」と答え、戦いの場に戻っていった――戦いが自分達の有利になっているうちに倒そうと考えたからだ。
「今のうちに叩いちまおうぜ」
大山田が呟き、アサルトライフルで攻撃を仕掛け始める。もちろん先ほどより多少視界が良くなったとはいえ、誤射の可能性もありえなくない。
だから、彼は浅い角度で攻撃を仕掛けていた。
「‥‥流石にこの場所では使えないな」
オルランドは低く呟く。彼は最初効率よくキメラを倒せて、周りに問題がなかったら火の使用を考えていた。
しかし、今の戦況を見ても火の使用をするまでもない、むしろ今のままで戦った方が効率よく倒せると考えた。
「‥‥ジーラの方向にキメラは向かった」
通信機でキメラの方向を教えながら、オルランドは自分もスコーピオンで攻撃をしていく。
緑川も能力を使い、盾の役回りもしながらキメラに攻撃を仕掛けていく。
キメラも攻撃を仕掛けてくるのだが、照明銃で目をやられているせいか、能力者に当たる事はなかった。
「キメラの爪が木に刺さった――今だ!」
緑川が大きな声で叫ぶと同時に、能力者達は自分達に出来る最大限の攻撃をキメラにし、見事悪状況の中でのキメラ退治に成功する事が出来たのだった‥‥。
「どうだ! これが人間様の底力でぃ!」
寒さに震えながら、キメラを倒した後、大山田の叫ぶ声が森の中に響いていた‥‥。
●仕事終了――。
「結局怪我をしたのはランドルフだけか、大丈夫?」
キメラを倒した後、伊佐美がランドルフに問いかける。
「えぇ、大丈夫ですよ」
ランドルフは答え、オルランドの持っていた救急セットで治療を受けていた。
「でも無事に終わってよかったね、早く動物に囲まれたいなぁ‥‥」
動物好きのジーラは呟き、幸せそうな顔をしている。
(「‥‥良かった、幽霊とかじゃなくて‥‥。怪我もキメラも平気だけど、幽霊だけは苦手なんだよね‥‥」)
能力者がキメラ退治を喜んでいる中、伊佐美だけが別のことで安心していたのだった‥‥。
END