●リプレイ本文
―― 出発する能力者たち ――
「‥‥今回は、宜しく」
少し憂鬱そうな表情の能力者・タクヤが今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶をする。
「あぁ、こっちこそ宜しくな」
絶斗(
ga9337)がタクヤに言葉を返し、先ほどまで読んでいた資料へと再び視線を落とす。
「ガキ型キメラか‥‥」
はぁ、と小さくため息を吐きながら賢木 幸介(
gb5011)が呟いた。
(また性質の悪いの作ってくるもんだぜ‥‥俺は容赦なんざする気はさらさらねえし、ガキ同士だしよ)
「‥‥バグアの奴ら、この手の人道に訴えるようなキメラが好きだなぁ」
テト・シュタイナー(
gb5138)も資料を見ながら呟いた。
「見た目がどうあれ、もう化けもんの類には変わりねぇんだ。とっととやっちまった方がいい」
賢木の言葉に「あぁ、そうだな」とテトが言葉を返し、そのまま続ける。
「‥‥殺すために生まれた奴を相手に、手加減する理由は全く無ぇからな」
「‥‥そうですね。たとえ子供の姿をしていようが、関係ありませんよ」
ふ、と微笑みながら使人風棄(
ga9514)がつぶやく。
「子供、か‥‥」
同行者であるタクヤは他の能力者達と違って、子供を相手にするという事に僅かではあるが躊躇いがあるように能力者達には見えた。
(いや、相手が子供のキメラだからというよりは‥‥もっと別のことのような気もするな)
煌・ディーン(
gc6462)が心の中で呟き「おい」とタクヤに声をかけた。
「何を悩んでるんだか知らねぇがよ‥‥足引っ張る真似だけはするなよ。ウロチョロされても邪魔なだけだ」
ディーンの言葉に「あぁ、分かってる‥‥」とタクヤは力無さげに言葉を返す。
(‥‥分かってる、とは言ってますけど分かっているようには見えませんね‥‥)
諌山美雲(
gb5758)はタクヤを見ながら心の中で呟く。
「分かっているようには、あまり見えませんが――大丈夫ですか?」
ファリス・フレイシア(
gc0517)がタクヤに言葉を投げかけると、タクヤは自分の悩みを能力者達に打ち明けた。子供が生まれるという事、今の自分が怖くて仕方が無いということ――。
「‥‥なるほど、それは多くの方が一度は思うことなのかもしれません。親に相応しいか、という事で悩むのであれば見方を変えてみませんか?」
「見方?」
ファリスの言葉にタクヤが怪訝そうに言葉を返す。
「えぇ、子供のために自分がどうするべきなのか‥‥自分に出来ることではありません。自分がこうありたいという事です」
「‥‥我は医者を目指していた。だが今はそれ以上に大勢の人の未来を救える。その為に我は能力者になったのだから」
煌 輝龍(
gc6601)がタクヤに言葉を投げかけ、タクヤが答えようとした時「そろそろ行った方がいいんじゃない?」と使人が言葉を投げかけてきて、能力者たちはまずキメラ退治を終わらせる事に集中し、高速艇へと乗り込んで目的地へと出発していったのだった。
―― 廃墟に潜むは無邪気なる悪魔 ――
今回、キメラが現れたのは廃墟。以前はきっと人が住んでいたのであろうが、キメラに襲撃された箇所が多々見られ、現在は無人となっている。
そして今回の能力者達は東西南北に分かれて行動をし、キメラ捜索を行うという作戦を取っていた。
東班・使人、絶斗の2名。
西班・賢木、輝龍の2名。
南班・諌山、ディーン、タクヤの3名。
北班・テト、ファリスの2名。
能力者達はそれぞれ連絡を取り合う事にして、行動を開始したのだった。
※東班※
「おい、何処へ行く」
行動を開始した直後、使人は一人で単独行動を始めようとして絶斗が呼び止める。
「もちろんキメラを探しに行くんですよ」
「単独で行動をするのは――‥‥「貴方の事は嫌いではありませんが、そもそも一人で行動するのが好きなものでして」――‥‥はぁ」
使人の言葉を聞いて、絶斗はため息を吐いて使人の向かう方向へと歩き始めたのだった。一緒に行動をする――というわけではないが、一人で行動をして万が一の事も考えられる為、絶斗は言い方こそ悪いけれど使人がふらふらしないように監視をするという意味も含めて少し離れた所をついていく。
「色々な場所が壊されていますね‥‥ですが、壊すならもう少し綺麗に壊してほしいものです」
使人は小さくため息を吐いて、崩れた壁を見た。ひび割れて綺麗さの欠片も感じられない。そもそも『壊された場所』に綺麗さがあるのかは分からないけれど。
(いないな‥‥シンとして何の気配も感じられない)
絶斗は足音を潜めながらキメラ捜索を行っていた。
しかし周りからは何の気配も感じられず、東側にはキメラがいないという事だけが判明したのだった。
※西班※
「さてと‥‥どこにいるんだろうなぁ」
賢木はきょろきょろと周りを見渡しながら小さく呟く。
(ガキ型だけど、今回の仲間を見ている限り、動揺とかって事はねぇんだろうけど‥‥変に喋ってきたりしやがったら厄介かもな‥‥俺はシカトこいてやるけどよ)
賢木は心の中で毒づく。
「おい、大丈夫か?」
初任務という事でやや緊張気味の輝龍に気がついたのか、賢木が話しかけると「大丈夫だ、心配するな」と輝龍は言葉を返す。少しだけ声が震えていることに気がついた賢木だったが、本人が『心配するな』と言っているため、あえて口にする事はなかった。
「まだどの班もキメラを見つけていないみたいだな」
輝龍の言葉に「あぁ、そうみてぇだ。連絡ねぇしな」と賢木はトランシーバーを見ながら言葉を返す。
無人という事もあり、2人の足音以外しないため、それが余計に不気味さを醸し出している。
その時だった。トランシーバーに北班のテト、ファリス組からキメラを発見したという連絡が入ったのは。
それを聞いた賢木と輝龍はすぐさま進路を変え、キメラのいる北班のもとに向かい始めたのだった。
※東班※
「あの、さ。さっきはキツい事を言って悪かったな」
キメラ捜索をしている時、ディーンがタクヤに向かって言葉を投げかける。
「え? ‥‥あぁ、別に気にしてないよ。それに言われても仕方ないから‥‥」
タクヤは俯きながら言葉を返す。
「俺さ、ずっと親父いねーんだわ。顔も知らねぇ、だから親父のいる餓鬼の考えなんざわからねぇがよ‥‥餓鬼にとっては親父はどんな奴だろうが誇りだと思うぜ?」
ディーンの言葉に目を瞬かせながら、タクヤはふっと笑い「‥‥敵ではあるけど、命を奪い続ける親でも?」と言葉を返した。
「戦いで手を血に汚していようが‥‥それは人に言って恥ずかしい行為でもないだろ。多くの人を守った証だ。それを恐れる餓鬼なんざいねぇってよ」
自信もて、と言葉を付け足して笑うディーンだったが、それでもまだタクヤは浮かない表情を浮かべたままだった。
それを見ていた諌山は小さく息を吐き「私にも子供がいます」と呟く。
「自分で産んだ子です。私はね、この子が過ごすであろう未来を少しでも明るいものにする為に戦っています。その為だったら、自分の手を血で汚す覚悟も出来ました」
諌山が強い意志を持った瞳で、タクヤを見ながら呟く。その瞳に迷いは一切見られず、彼女自身が言っている通り『覚悟が出来た者』の持つ強い瞳だった。
「タクヤさんが心配するように子供に怖がられるかもしれない。命の尊さは人間もバグアも変わらないと思う。でも、子供達の未来の為に戦っているんです。誰かがやらなくちゃいけないんだもの。そう思うしかないでしょ?」
それともこのままでいいと思っていますか? と諌山から問いかけられタクヤは首を横に振る。
「優しい気持ちを持つのはいいと思います――‥‥でも、厳しいことを言わせてもらえば、優しいだけでは何も守れないんですよ」
諌山の言葉を聞いて、タクヤは唇をかみ締めて黙ってしまう。
「ま、とりあえずはキメラを探そうぜ。まずは仕事終わらせてからだ」
ディーンが呟き、諌山とタクヤは再びキメラ捜索を始めたのだった。
※北班※
まだ北班がキメラを発見していなかった頃に時は遡る――‥‥。
「さて。んじゃー、頼りにさせてもらうぜ? ファリス」
テトは大きく伸びをしながらファリスに言葉を投げかける。
「はい、此方こそ宜しくお願いしますね」
ファリスは丁寧に言葉を返し、セベクを両手に持ってキメラ捜索を開始した。
(今回の敵は小さい子供――‥‥膂力は低めですが、動きは素早そう。私と同じタイプですね)
ファリスは資料に書いてあったことを思い出しながら心の中で呟く。
「しっかし寂れた場所だな――っつーか、廃墟にキメラとかも最早定番だな、こりゃ」
苦笑しながらテトは呟き、周りを見渡す。
「そうですね‥‥でも住人がいない場所、というのはマシな方なのでしょうか」
ファリスもテトにつられるように苦笑しながら言葉を返した。
「‥‥」
「テトさん?」
「何か、音がしなかったか?」
テトが後ろを振り返りながら呟く。するとかつん、かつんと靴音のようなものが聞こえ、テト、ファリスはそれぞれ愛用の武器を手にする。
やがて薄暗い場所から現れたのは、少年だった。普通の少年のように見えるが、両手に持たれた鎌のような武器が明らかに敵だという事を示していた。
「聞いても無駄だと思うが、迷子――‥‥じゃねぇよなぁ?」
テトが少年に問いかけるが、にぃ、と不気味な笑みを浮かべた後にテトとファリスに襲い掛かってきた。
「すばしっこい奴だな!? ファリス、回避方法を限定するから、その隙に仕掛けろ!」
テトがファリスに声を投げかけ、その後に「キメラ見つけた! すぐに来てくれ!」とトランシーバーで他の班へと連絡を入れたのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
テトが連絡を入れた後、10分も経たないうちに全員が合流して、キメラとの戦闘を開始していた。
「オープンコンバット!」
絶斗は呟き、普段から使用している義手で攻撃を仕掛ける。
「‥‥さぁ、綺麗に壊してあげますよ」
使人は微笑みながらルベウスを構え、キメラへと攻撃を仕掛けた。途中でキメラからの反撃が行われたが、傷の痛みに構う事なく使人は特攻する。
「攻撃を受けても自分が死ぬ前に壊してやればいい――‥‥ただ、それだけですよ」
使人は呟きながら、血が流れることにも構わず追撃する。
「ちっ、中々素早いな‥‥」
賢木は舌打ちをしながら呟き、スキルを使用して能力者達の強化を行う。
「捕まらねぇなら、捕まえられる奴に、だぜ」
賢木は不敵に笑って、キメラを見据え「沈め」と言葉を付け足した。
「そんな外見に騙されません」
諌山は破魔の弓でひゅんと矢を射ながら呟く。その矢はキメラの足に刺さり、素早かったキメラの動きが僅かに鈍る。
「はぁっ!」
動きが鈍った所へ、ファリスがスキルを使用して攻撃を仕掛け、キメラは床に倒れこんでしまう。
「勝利を呼び込んでくれよ、一気に決めるぜ、ガーネット!」
ディーンは炎剣・ガーネットを勢いよく振り下ろすが、キメラは鎌のような武器でそれを防ぎ、ディーンの腹を強く蹴りながら、倒れこんでいた場所から立ち上がり、輝龍へと襲い掛かる。
「人型のキメラ‥‥我らがすぐ楽にしてやる」
輝龍はまっすぐ自分の方へと向かってくるキメラに狙いを定めてハンドガンで射撃を行い「後は任せる」と詰め寄られた分だけキメラから距離を取った。
「HUDとの連携開始。クエイクモーション――せいやああああああっ!」
絶斗が攻撃を仕掛け、逃げようとしたキメラに諌山が弓を使って動きを止める。
「甘ぇよ!」
キメラは賢木に攻撃を仕掛けたが、賢木はライオットシールドでそれを防ぎ、攻撃を返すように機械剣でキメラの腹部を斬る。
「悪趣味なモン作りやがって‥‥お前も暴れてねぇで、さっさと寝ろ!」
ディーンは叫びながらキメラへと攻撃を仕掛け、輝龍も同時にハンドガンでキメラの頭を打ち抜き、無事にキメラを退治する事が出来たのだった。
―― キメラ退治後、そして ――
「悩みは吹っ切れたか?」
絶斗はキメラを退治した後、タクヤに言葉を投げかける。だがまだ悩みが解決しているようには見えず、それを見て鬱陶しく思った使人がため息を吐く。
「全部辞めればいいじゃないですか。目を背けて、何も見ずに蹲っていればいい。心配せずとも次に顔を上げた時には誰にもどうにも出来ない状況が出来上がっているでしょうから」
冷たく突き放すような言葉にタクヤは拳を強く握り締めていた。
「あのよぉ‥‥人類の未来を守るために戦うって事が、そんなに気が引ける事か? ついでに言わせて貰うけどよ、親ってーのはいるだけで有難いもんだと思うぜ? 世の中には親の顔を見たくても、それが叶わない奴だっているんだからな」
テトの言葉に先ほどのディーンの言葉がタクヤの頭の中で蘇る。
「血に染まった手で子供を抱きたくないのなら、親として生きてください。沢山の愛情を注いでください。その分、私達が明るい未来を切り開くだけです」
ファリスがタクヤに言葉を投げかける。ファリスはタクヤを突き放しているのではなく、心からタクヤの事を心配して言っているのだろう。
「どうするかはお前の自由だ。だけど‥‥餓鬼が生まれたら、よ‥‥しっかり愛してやってくれ。寂しい思いをさせねぇようによ」
その為にも、死ぬなよ――ディーンは顔を背けながら言葉を投げかけた。
(あーやだやだ。俺らしくなく情けねぇこと言いまくったな――‥‥恥ずかしい)
ディーンは言った後で後悔したけれど、それは偽りのない彼の本心だった。
「俺は‥‥もしかしたら、傭兵を辞める選択をするかもしれない――でも、まだ悩んでみようと思う。悩んで悩んで‥‥でも、子供に胸を張れる親になりたいと、思う」
タクヤは「ありがとう」と言葉をつけたし、能力者達に向かって頭を下げた。
その後、能力者達はキメラ退治が成功したという報告を行う為に本部へと帰還していったのだった。
END