●リプレイ本文
―― 旦那さんが帰れない理由は果たして‥‥? ――
「どうか私の旦那様を助けてくださいませ‥‥宜しくお願いします」
異臭のする箱(旦那さん宛)を持った鈴音は能力者達に丁寧に頭を下げながら話しかけた
「はい、もうすぐバレンタインですもの‥‥奥さんの準備が報われるように、早く旦那さんを助けなくては、ですね」
石動 小夜子(
ga0121)はにっこりと女性を安心させるように笑顔で言葉を返す。
「俺だって、小夜ちゃんに何かあれば気が気じゃないもんな‥‥だから奥さんの気持ちは分かるし、早く奥さんを安心させてあげたいね」
新条 拓那(
ga1294)は石動の肩に手を置きながら呟く。新条の言葉に石動は嬉しそうに微笑んだ。
(‥‥でも、奥さんのプレゼントは改めて用意してもらった方がいいんじゃないかな)
鈴音の持っている箱(異臭付)を横目で見ながら新条は心の中で呟いた。
「折角鈴音さんの作った食物兵器‥‥もとい、バレンタインデーの贈り物で悶え苦しんでいただく為‥‥もとい×2、幸せを味わっていただく為に頑張りましょうかね〜」
野良 希雪(
ga4401)は鈴音に言葉を投げかける。露骨に興味本位、面白半分なのが見え隠れしているが、そこは気にしないでおこう。
(今回はるみと一緒か‥‥一緒の任務になるのは久しぶりだな。アイツの前でみっともない所は見せられないから、クールに決めてやるぜ)
嵐 一人(
gb1968)は心の中で呟きながら自分にとって大事な人である天戸 るみ(
gb2004)をちらりと見たのだった。
「先遣隊の人たちを無事に保護しなくちゃですね‥‥そして、ハーモナーの力を使いこなさなくては‥‥」
ぐ、と拳を強く握り締めながら天戸は小さく呟いた。
「‥‥あの依頼人の旦那さんは、どういった人物なのでしょうね?」
ソウマ(
gc0505)は身の内に沸き起こった疑問をポツリと口にした。
「え?」
天戸はその真意が分からず、目を瞬かせながらソウマに聞き返す。
「いえ、確実なのはまともな神経を持った人ではないという事ですね」
異臭のする箱を見ながらソウマは言葉を付け足し、沸き起こる好奇心を抑えてクールに呟いたのだった。
「ふーん、今回のキメラは犬っころか。今回も雑魚だな! 楽勝楽勝! 百戦錬磨のこの俺に任せな!」
ふん、とふんぞり返りながら春夏冬 晶(
gc3526)が腰に手を当てて豪快に笑い始める。
「おお、頼もしいっすね! それにしても旦那さんを心配する奥さん‥‥リア充爆発しろッス!」
ごごごご、と嫉妬に駆られたカデュア・ミリル(
gc5035)は呟くが「去年の10月から準備しているこれを渡すためにも、どうか旦那様を‥‥」と鈴音がカデュアに懇願する。
(きょ、去年の10月から用意してる料理‥‥!? う、うわぁ‥‥)
カデュアは異臭から逃げる為、顔を逸らすが、既にキツい匂いだけではなく精神的につらい何かを感じていた。
「こ、こんなに奥さんに愛されてて旦那さん羨ましいなぁ〜、お二人の幸せの為に依頼達成してみせるっす」
完璧な棒読みでカデュアは鈴音に言葉を投げかける。
だが、その心の中では(旦那さん、生きて帰って来た方が地獄かもしれないっす‥‥ナムナム‥‥)と他人事のように言葉を付け足していたのだった。
いや、実際に他人事なのだけれど。
「それでは、地獄を見せる為‥‥もとい、旦那さんに幸せを感じてもらうためにも早く行きましょうか」
野良が能力者達に言葉を投げかけ、鈴音の旦那さんを保護する為に能力者達は高速艇に乗り込んで現地へと出発していったのだった。
―― 森の中に潜む獣は ――
今回の能力者達は、キメラ捜索と能力者保護の為に班を4つに分けて行動する事にしていた。
A班・石動、新条の2人。
B班・野良、嵐の2人。
C班・天戸、ソウマの2人。
D班・春夏冬、カデュアの2人。
「それでは、何かあったら各自で連絡をするという事で‥‥」
石動が呟き、能力者達はそれぞれ行動を開始したのだった。
※A班※
「私は拓那さんと組んでの行動、ですね。ふふ‥‥一緒に頑張りましょうね」
石動がにっこりと微笑みながら新条に言葉を投げかけると「うん、一緒に頑張ろうね」と新条も言葉を返したのだった。
「それにしても‥‥旦那さん、何処にいるんでしょうか? 資料にもある通り、大きくない森ですし‥‥犬キメラから逃げ続けているにしても、帰って来ない理由にはなりませんよね?」
石動が周りを見渡しながら呟く。確かに資料にもあった通り、誰が見ても大きくない森。逃げようと思えば逃げられるハズ。それが石動の考えだった。
「小夜ちゃん、見て」
新条の言葉に石動が足を止め、新条が指差した方向を見る。
「あ‥‥」
そこにあったのは血痕。多量ではないが、この付近で襲われた事には間違いが無いだろう。
「この辺で何かあったのは間違いなさそうだね。後はこれが最近のもので、近くにいてくれればいいんだけど‥‥」
どうやらそれは無理そうだね、と新条は言葉を付け足す。血の乾き具合から見てもここ最近の物ではない。
だからこの付近にいる、という事は無いだろうと新条は心の中で呟いた。
「‥‥何処に居るんでしょう? まさかとは思いますけど、木の上に避難して逃げられなくなった、という可能性とか‥‥」
「はは、まさか‥‥まさか、そんなことが‥‥」
「試しに人が登れそうな木も見ていった方がいいですね」
新条と石動は見つけた血痕を他の班へと伝え、木の上も含めて再び捜索を開始し始めたのだった。
※B班※
「血痕、ですか? 分かりました。此方も気をつけて捜索していきますね」
トランシーバーから連絡を受けた野良は「この森ではトランシーバーが通じるようですね」と言葉を付け足して、嵐に通信内容を伝えた。
B班は嵐のタンデムに野良も乗って捜索をする、という形を取っていた。
「エンジン音で向こうが気づいてくれれば話は早いんだがな」
嵐が小さく呟くと「確かに、気づいてくれれば仕事も手っ取り早く済みますね」と野良も言葉を返した。
「他の班からの連絡はどうだ?」
「さっき、石動さん達からの連絡以外は無いですね。依頼人の旦那さんチームも見つかっていないみたいですし」
嵐の言葉に野良が言葉を返す。
「あれ、ちょっと止まるぞ」
嵐が何かを見つけたようで、バイクを止め、地面を見る。
「どうかしたんですか?」
野良もつられるように嵐が見ている方向を見ると――‥‥そこには真新しい足跡が残っていた。
「これは、つい最近のですね。キメラの足跡も一緒にあるから、キメラから逃げているのでしょうか」
野良が呟きながらトランシーバーで連絡を入れて、足跡を追いかけ始めたのだった。
※C班※
「先ほどの通信ではこちら側に向かっているとの事ですけど‥‥それらしい人やキメラは見つかりませんね」
天戸が呟くと「事前準備で調べた感じでは、それほど脅威になるキメラには思えませんけど」とソウマが言葉を返す。
「行方不明者もそれなりの実績を持つ能力者。今回のようなキメラ相手に簡単にやられてしまうとは思わないんですけどね」
事前に調べてきた能力者達の特徴、森の地理、キメラの特徴などを照らし合わせながらソウマは「物事の成否は準備の段階で、9割型決まるものなんですよ」と言葉を付け足す。
「ちょっと待ってください」
天戸はスキルを使用しながら地面から伝わる振動を見つけ、ソウマを呼び止める。
「人の足音のようですね、ここから近いみたいです。急ぎましょう」
天戸の言葉に二人とも駆け出し、音のほうへと向かう。
すると、木にもたれている3人の能力者を見つけた。2人が足に怪我をしており、地面には引きずるような血痕も残されている。
「大丈夫ですか!?」
天戸が駆け寄ると「あ、あぁ。俺は大丈夫なんだが‥‥こっちの2人が足をやられてて‥‥」
男性能力者がちらりと仲間を見ながら言葉を返してくる。男性能力者自身も至る所に怪我をしており、仲間を庇いながら逃げ続けていたのだろう。
「1匹は退治できたんだが、もう1匹にやられてしまって‥‥」
「キメラはどうしたんですか?」
「さっきまで追いかけられてたんだけど、何とか逃げる事が出来て‥‥、あっち側にいったよ」
男性能力者が指した方向はD班の春夏冬とカデュアが捜索をしている付近だった。
「こちらC班ですが――‥‥えぇ、其方側にキメラが、はい、お願いします」
ソウマはトランシーバーでD班に伝え、他の班にも伝えた後、能力者達の怪我を見始めたのだった。
※D班※
「ちっ、獣相手で森の中かよ。相手に地の利があると見ていいな。十分注意していかねぇと」
春夏冬がC班から連絡を受けた後に舌打ち交じりに呟く。
「負傷した人がいるみたいっすから、この救急セットで治療してあげれればいいんっすけど‥‥」
カデュアが呟くが「でもキメラはこっちに向かってきてるみたいっすし‥‥まずはキメラの方を先に何とかしないとっすね」と言葉を付け足した。
その時、がさがさ、と何かが駆けてくるような音が聞こえ、春夏冬とカデュアはそれぞれ武器を構える。
「さっきの通信で他の皆もすぐにこっちに向かうって言ってたが、それまでは俺らだけで相手しなくちゃならねぇな――ま、俺がいれば大丈夫なんだけどさ」
春夏冬は呟き、カデュアと共に戦闘態勢を取り、キメラを迎え撃つのだった。
―― 戦闘開始・ 能力者 VS キメラ ――
D班がキメラと接触してから10分経たないうちにA、B、C班の能力者達が合流し、本格的に戦闘が開始される事になった。
「行きます!」
石動は呟きながら新条と挟み撃ちにするように攻撃を仕掛ける。キメラは避けようとしたが、避けた先に新条がおり、石動の攻撃を避けても新条の攻撃をまともに受けてしまい、地面へと倒れこむ。
「弱い犬ほどよく吼えるってね! 違うってーなら正面きって向かってこいってんだ!」
攻撃を仕掛けた際に新条が叫ぶ。
「旦那さんに地獄‥‥いえいえ、天国を味わっていただく為にも早々に退治させていただきます」
野良はにっこりと微笑みながらスキルを使用して能力者達の武器を強化する。そして、キメラを牽制するように超機械・ラミエルで攻撃を仕掛けた。
「大人しくやられてくれれば、こっちの仕事も減るんだがな」
嵐は呟きながら下段から攻撃を仕掛ける。
「ふぅ‥‥いきます」
天戸は呟きながらハーモナーになって得たスキルを使うべく歌い始める。扇嵐とセレスタインをそれぞれの手に持ち、神前演舞のような舞を合わせて歌う。その効果が現れたのか、キメラはぴたりと動きを止め、苦しそうに呻いている。
「‥‥魔猫を瞳に映し出すことは出来ない――‥‥決して誰にもね」
呟きながらソウマはスキルを使用して疾走しキメラに静かに、だが苛烈に攻撃を仕掛けた。
「うおぁっ! あ、あぶねぇな!」
キメラが動けず、その場に倒れただけなのだが春夏冬は大げさに驚いてみせる。
「ふ、だが俺にその攻撃が効くはずが(がぶっ)ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
転げたキメラの近くに春夏冬の足があったせいか、キメラから噛みつかれてしまう。
「だ、大丈夫っすか!?」
慌ててカデュアが駆け寄り、スキルを使用して春夏冬を助ける。幸いにも春夏冬の受けたダメージは大きいものではなく「だ、大丈夫だ」と涙目で言葉を返していた。
「それでは、動けないようですし終わらせてしまいましょうか」
野良が小さく呟き、能力者達はそれぞれスキルを使用してキメラへと攻撃を仕掛け、無事にキメラ退治を終える事が出来たのだった。
―― 旦那さん、貴方の真意は‥‥ ――
「ってぇぇぇぇぇぇぇ!」
キメラ退治が終わった後、森の中に保護された能力者の悲鳴が響き渡る。
「大丈夫ですか〜? しみますけど我慢して下さいね〜」
野良はにっこりと微笑みながら言葉を男性能力者に返すのだが、その笑顔がSっ気全開であり男性能力者は恐怖と痛みに耐え抜いていた。
「ふふ‥‥奥さんもプレゼントを用意して待っていますよ」
石動の言葉に「げ」と男性能力者は下品な声を出して呟く。
「ま、まだ諦めてなかったのか‥‥お、俺はそういうのはいらないって言ってたのに」
がっくりとうな垂れながら助かった事に喜ぶより、帰った後に待っている地獄を想像して男性は盛大なため息を吐いた。
「‥‥あんた、まさか‥‥?」
嵐が引きつった笑顔のまま呟く。恐らくその言葉の先は(まさか、わざと帰らなかったのか?)と言いたかったのだろうが、仲間が怪我をしている所を見ればそうではないと思い、言葉を止めたのだ。
「まさか、奥さんに会いたくなくて帰らなかったってことはないですよね?」
天戸がさらりと聞いてしまい、嵐も驚いた表情を見せるが「それだけは無い。何でわざと帰らないなんて事があるんだ」と男性能力者は言葉を返し、そうですか、と天戸は言葉を返す。
(もしYESだったら眠らせてでも連れ帰っている所でしたけど)
天戸は心の中で呟く。
(なるほど‥‥この人が旦那さんですか。見た目は普通の人なのに、きっとまともな神経をしていないんでしょうね)
しみじみとソウマは心の中で呟き、旦那さんを観察していた。
「ま、まぁでもさ、せっかく奥さんが一生懸命作ったんじゃねぇか!」
「‥‥それならキミにプレゼントしようか?」
「ちょっとォォォ! アレを食えって罰ゲームってレベルじゃねぇぞ!?」
慌てて春夏冬が断る。きっとあれはどんな兵器よりも(精神的に)効果があるだろうと異臭を嗅いでしまった春夏冬には分かっているのだろう。
「愛と気合と根性で頑張るッス! 愛の力があれば何とかなるッスよ! ‥‥多分!」
カデュアが呟き、男性能力者の肩をポンと叩く。
(結婚は料理の上手い人としないと大変ッスね‥‥気づかせてくれてありがとう、旦那さん‥‥そして幸運を祈るッスよ)
ほろり、と心の中で涙を流しながらカデュアは旦那さんの無事を心から祈る。
その後、治療を終えた能力者達は報告の為に本部へと帰還していったのだが、本部には異臭のする箱を抱えた鈴音が待ち構えており、旦那さんだけが顔面蒼白になってしまっていたのだった。
END