●リプレイ本文
―― キメラ退治に向かう能力者達 ――
「今回は‥‥宜しくお願いします」
女性がぺこりと丁寧に頭を下げながら、能力者達に挨拶をしてきた。
(何かワケがありそうだな‥‥)
憂いた表情の女性を見て、水無月 湧輝(
gb4056)が心の中で呟く。
(こんな場所に一般人の同行か‥‥まぁ、なんでもいいが‥‥)
黒雛(
gc6456)も女性の行動を不思議に思いながらも(仕事なら果たすまでだ)と心の中で言葉を付け足した。
「‥‥目的地までの安全は約束する」
やや緊張気味の女性に黒雛が言葉を投げかけると「ありがとうございます」と言葉を返してきた。
「もし、地理が分からなくなったら言ってくださいね‥‥多少、外見は変わってても行きなれた場所だから、わかりますので」
女性の言葉に「過去の街の生き残り‥‥か」と壱条 鳳華(
gc6521)がポツリと呟いた。
その声は本当に小さくて、他の能力者や女性の耳に入ることはなかったけれど。
(その心境を深く察する事は出来ないけど、訪れる事で何かが良い方向へ向かうなら、その手助けはしてあげたいね)
壱条は心の中で呟く。女性は何も言わないけれど、おそらく彼女の行動には意味があるのだろうと壱条は考えており、それが良い方向へ進む事を願っていた。
そして、同じように考えている能力者が他にも存在していた。
(キメラが出ても行きたいと仰る場所なのですから、何か思い出や理由があられるのでしょうね‥‥それが何かは分かりませんが、依頼人様のお気持ちに叶いますよう、微力ながら力を尽くしたいですね)
祈宮 沙紅良(
gc6714)は女性を見ながら心の中で呟く。
「あの、皆さんのように戦う力もないですけど‥‥足手まといにならないよう、気をつけますから‥‥」
「All right。事情は知らないが護衛をしろというならする。それが傭兵の仕事だからな、クライアントの意向に応えよう」
ウィリ(
gc6720)が女性に言葉を返すと、少し微笑みながら「ありがとうございます、一人ではどうしても無理だと思ったから‥‥」と言葉を返した。
「ふぅ‥‥女性を守る、キメラを退治する――両方やらないといけないのが傭兵のつらいところ‥‥ってやつですかね」
宇加美 煉(
gc6845)がにんまりと笑いながら呟く。辛いところ、と言いながらも辛そうでないのは、宇加美が人の願いを叶える事に興味を持っているからだろう。
「あの‥‥よろしくおねがいします」
やや内向的に挨拶をしたのはマーシャ(
gc6874)だった。口下手という事もあり、あまり話す事に積極的ではない彼女だが、依頼を一緒にする能力者達には挨拶をしておかねば、と思い、挨拶をしたのだ。
「宜しくお願いします。今回が初依頼なのですが‥‥頑張りますね」
セシル・ディル(
gc6964)はマーシャに言葉を返した後、他の能力者達にも挨拶を行う。
「あ‥‥」
女性にも挨拶をしようと思ったセシルだったが、地図を見て悲しそうな表情を見せた女性に言葉をかけることが出来なかった。
(滅ぼされた街の生き残り‥‥その場所の、丘‥‥きっと何かワケがあるのでしょうね。何もない場所、だけれど、何かある場所‥‥)
心の中でセシルは呟き、考えを振り払うように「それでは、参りましょうか」と能力者達に声をかけ、能力者と女性は高速艇に乗り込み、目的の場所へと向かい始めたのだった。
―― そこにあった幸せの形 ――
「そういえば、何故こんな危険を冒してまで来ようと?」
水無月が女性に問いかけると「私が街の生き残りだという事は知ってますよね」とポツリと漏らすように言葉を返した。
「あぁ、確か数名生き残ってて、その一人だと資料にはあるが」
黒雛も資料を見ながら女性に言葉を返す。
「私には兄弟のように育った幼馴染がいました。大人になって、私は彼の事が凄く好きで‥‥結婚も決まっていました」
過去形で話す女性に能力者達は訝しげな表情を見せた。
「でも‥‥街が無くなる時に死にました――これから向かう丘で」
丘、という言葉に能力者達は驚きで目を丸く見開いた。
だけど、それと同時になぜ一般人の女性が危険を冒してまで行きたがるのか納得できる気もした。
「私は彼の事を忘れたいんです。彼の事を忘れて、前に進みたい。だから最後に彼と別れた場所に行きたいんです」
女性の言葉に能力者達は誰も口を出すことが出来なかった。彼女の人生は彼女の物。彼女が決めた道なら、進む為に忘れるというならば誰もが口を出すことなど出来ないと分かっているからだろう。
(‥‥忘れる事も大事なのかもしれない。それは私には分かりません‥‥答えは常に自分の中にあるのですから)
セシルは心の中で呟きながら、そっと女性を見る。
「‥‥軽蔑しますか? 自分のこれからの為に、大好きな人を忘れるという私を」
女性が自嘲気味に呟くと「‥‥区切りをつける事も必要だろうよ」と水無月が言葉を返した。
「そうですね‥‥貴方が決めたことに私達が口を挟めるはずもありません」
壱条が呟くと「ありがとう」と女性は言葉を返してきた。
(危険を冒してまでこの丘にいらっしゃった本心は、本当に忘れたいからなのでしょうか‥‥)
祈宮は心の中で呟くのだが、まるで自分に言い聞かせているような女性に、そんな問いかけを出来る筈もなかった。
「一つお聞きしてもいいですかぁ? 死にに行くわけではないですよねぇ?」
宇加美が女性に問いかけると「死にたいわけではありません」ときっぱりと答えた。
「それなら良かった。死にたい人の身を守るのは大変ですしぃ」
女性が死ぬ為に行くのではないと分かり、宇加美は安心したように言葉を返した。
「私が行きたい場所は‥‥この先です」
女性が呟き、マーシャが先に視線を向けると「見晴らしの良い場所ですね」と独り言のようにポツリと呟いた。
「確かに、随分と見晴らしが良いんだな」
黒雛も賛同するように呟くと「えぇ」と短く言葉を返す。
「さて、キメラは何処かな」
ウィルは周りを見渡しながら小さく呟く。もちろん今までも警戒していなかったわけではないが、目的地に着くという事で警戒を強めるという意味なのだろう。
その時、ばさ、と大きな何かが羽ばたく音が能力者達の耳に入る。
「あれがキメラ‥‥ですね」
セシルが呟き、能力者達は女性を守るため、そしてキメラを退治する為にそれぞれ行動を開始し始めた。
―― キメラ VS 能力者 ――
「下がれ‥‥これは俺達の仕事だからな」
水無月は女性に向けて呟き、獅子牡丹を構えてキメラを迎え撃つ準備をする。
だが、今回の相手は鳥型のキメラ。地に足をつけて戦っている能力者達には分が悪い。
「くっ‥‥空からでは分が悪いな」
黒雛はキメラの攻撃を避けながら、空を見上げ、少し忌々しそうに呟いた。
「今回のキメラは鳥‥‥か。大きいには大きいけど、そこはまぁ、恐れることはなさそうか」
壱条はキメラを見ながら呟き「やはり厄介なのは飛ばれる事だね」と言葉を付け足した。
「あ、あの‥‥大丈夫ですか‥‥?」
戦う能力者達を見て女性が祈宮に問いかける。
「大丈夫ですよ。皆様頼りになる方ですので、ご安心なさってくださいましね」
にっこりと笑顔で女性に言葉を返す。
「Hei! 皆で声を掛け合って地上へ誘い込むように射撃をしよう! ただし、こちらに気を引いちまったら、クライアントに行っちまうからな」
ウィリが他の能力者達に話しかける。
そして、後方から攻撃を出来る祈宮、ウィリ、宇加美、マーシャはキメラを地面に落とす為に射撃、攻撃を開始する。
さすがにキメラも4人からの攻撃をされて、全部を避けきるのは無理だったらしく、片方の翼を奪われ、キメラの体がガクンと揺らぐ。
「さて、本格的に戦闘開始‥‥だね! まずはコレでっ!」
壱条は天剣・セレスタインを構え、キメラが地面に落ちてくる所を狙い、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
「前に出る! 美しき私とその剣の力、存分に見せてやろう!」
すまないけど、依頼人の護衛は任せたよ――と壱条は祈宮とウィリに言葉を投げかけ、追撃を行う。
「鳥が狐に勝てるわけないでしょう。しかも墜ちた鳥なら尚のこと‥‥飛べる事だけが鳥の優位ですからぁ」
宇加美は呟きながらクルメタルP−38でキメラを狙い撃つ。その攻撃に合わせてマーシャもスキルを使用しながら攻撃を行なう。その際にハーモナーの2人と護衛対象である女性にキメラを近づけさせないような位置から攻撃を行っていた。
(この位置からなら護衛対象である彼女には注意がいかないはず‥‥でも‥‥万が一の可能性もあるし‥‥)
作戦に絶対はない。その事をマーシャは判っており、どんな状況になっても護衛対象の女性を守る事を最優先としていた。
「大丈夫です。万が一の時には私が盾になります」
マーシャの不安を分かっていたのか、セシルが言葉を投げかける。
「地に墜ちた鳥の出番はもう終わりだよ」
水無月がキメラへと呟き、獅子牡丹を構え、スキルを使用しながら攻撃を行なう。
「♪ 天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄 祓給う ♪」
祈宮は『呪歌』を歌いながらキメラの動きを封じる事を試みる。
「OK、俺も歌ってキメラの動きを封じようじゃないか」
祈宮と同じハーモナーであるウィリは効果が広がるかもしれないという事で『呪歌』を歌い始める。
スキル・呪歌の効果が出たのか、キメラは麻痺して動けなくなってしまい、地面へと倒れこむ。
もちろん、それを見逃す能力者達でもなく、それぞれがトドメを刺すように攻撃を仕掛ける。
「さぁ、そろそろ終わらせるよ! 無駄な足掻きもここまでだ! L‘eclat des rose!」
壱条は薔薇の爆発という意訳を持つ、自身の必殺技を繰り出してキメラへと攻撃を仕掛けた。
「羽根を奪えばぁただのカモなのですよ」
翼を失ったキメラを見ながら宇加美が呟き、スキルを使用しながら攻撃を行なう。
「さぁ、躍らせてあげますよ」
マーシャは呟きながら宇加美と攻撃を合わせながら射撃を行う。
ほとんど、同じタイミングで攻撃を仕掛けた為、キメラは逃げる事も出来ずに、全ての攻撃をその身に受け、倒れていったのだった。
―― 未来の約束を ――
能力者達がキメラを退治した後、女性が行きたがっていた丘へと来ていた。
「あの、危険を冒してまでこの丘にいらっしゃった本心は、本当に忘れたいからなのでしょうか」
ずっと疑問に思っていた事を祈宮が女性に問いかける。
「私も疑問でした、どうしてここへ?」
セシルも祈宮と同じ事を思っていたのか問いかける。
「ここは、大好きだったあの人が死んでしまった場所。だから忘れる為に、ここに来たかった‥‥いつかとかきっととか、曖昧な言葉が好きだったあいつの、死んだ場所」
「いつかきっと‥‥曖昧な言葉でも、そこに願いを込めたかったのだと思います」
祈宮の言葉に「そうかもしれないな」とウィリが呟く。
「たとえ先の見えない未来の事でも、そこに向かうんだって気持ちを持ちたいもんさ。叶うか叶わないか分からない願いでもな」
ウィリの言葉に「気持ちを持ちたいから‥‥?」と女性がポツリと呟く。
「貴方のことに口を挟む権利はないのかもしれません。ですが無理に忘れようとしなくてもいいのではないのでしょうか。癒える事のない傷であっても、いつかきっと貴方が幸せに過ごしてくれることを望んでいたのではないでしょうか」
祈宮の言葉に「きっと、そうだと思います」とマーシャが呟く。
「忘れる事で、あなたが幸せになれるのであれば‥‥その、亡くなった方も本望だと思いますが‥‥私の見る限りでは、とてもそうとは思えません」
マーシャはおどおどとした口調で呟く。マーシャが言うのも無理は無い。なぜなら、女性は今にも泣きそうな表情をしていたから。
「私達の仕事はここまで。ここからは自分次第だよ」
壱条の言葉に「ありがとう、貴方達に頼んで本当に良かった」と女性は泣きながら言葉を返した。
「これで‥‥任務終了だな‥‥」
黒雛は小さく呟き、空を見上げる。
「過去‥‥か。俺にあの時もう少し力があれば‥‥」
黒雛は消え入りそうな程に小さな声で呟いた。その表情はとても悲しく、彼自身もまた何かを背負って生きていることを伺わせていた。
「さて、一曲披露しようかな」
水無月は呟きながら超機械を構え、亡くなった全ての者たちに向けて鎮魂歌を奏で始めた。
澄み渡る空に響くようなその音色は、まるで全ての悲しみを溶かしてしまうかのようだった。