●リプレイ本文
―― 所詮マリはマリでしかない ――
週刊個人雑誌・クイーンズの土浦 真里(gz0004)が暴走して飛び出した事をチホから聞かされた能力者達は盛大なため息を吐いた。
「‥‥しばらく大人しくしていたと思ったら、やはりマリさんはマリさんか‥‥少しは落ち着いたと思ってたあたしがバカだったみたいね」
小鳥遊神楽(
ga3319)は手を頭に置きながらマリ絡みで何度目になるか分からないため息を吐いた。
「出来れば危険のない取材にしてほしいですね。良いネタを手に入れても死んでは元も子もありません」
風見 遥(
gc6866)が資料を見ながら小さく呟く。彼女はマリと面識はないが、周りの能力者、そして今回の無茶ぶりを見て、マリがどのような人物なのか少しだけ分かったような気がしていた。
「一般人の保護と‥‥人型キメラか。初任務を思い出すのぅ」
煌 輝龍(
gc6601)が苦笑すると「生半可な一般人じゃないわよ」と苦笑しながら小鳥遊が煌に言葉を返した。
「‥‥行動力旺盛な方なんですね。羨ましいです」
クラリア・レスタント(
gb4258)が小さく呟く――が、電話の時のチホの様子を思い出すとマリの普段の暴走っぷりが想像できて(‥‥あまり行動力旺盛すぎるのも問題なんでしょうけど)と心の中で言葉を付け足したのだった。
「ああ、これは酷い‥‥しばらく大人しくしてた分、文字通り反動が大きいですね――というか、初心に戻るも何も元から進歩してないでしょ? と言っても通じませんよね、どうせ」
はぁ、と玖堂 鷹秀(
ga5346)はため息を吐きながら自分の妻であるマリにある程度の諦めが出てきていた。
(マリさん‥‥もう周りの人が諦めてるからいいんですが。まぁ、良くないとかいう言葉が聞こえてきそうですけど、しょせん他人事です)
何気に酷い言葉を心の中で呟いているのは佐倉・拓人(
ga9970)だった。
「それにしても‥‥『結婚は人生の墓場』という言葉は聞いた事がありますが、私の場合は拷問部屋でしたか‥‥やはり人生とは奥が深い」
きりっとした表情で言っている玖堂だが、既にそこまでマリによって追い込まれていると言っても過言ではない。
その証拠に玖堂を見る周りの表情が哀れみや同情に満たされていたのだから。
「もっと強く‥‥あの人の為に、さ、行こっか」
常木 明(
gc6409)が小さな声で呟くと「え? 何か言いましたか?」と佐倉が言葉を返してきた。
「ううん、何でもない。この記者さんも放っておけないし、早く行こうよって言っただけ」
常木の言葉に「そうだね」と椿姫(
gc7013)が言葉を返す。
「今回の場所って廃墟かぁ‥‥私はなんだかワクワクするけど、一般の人があんな所に行ったら危ないわよね。キメラもいるし、早く助けてあげないと‥‥」
椿姫の言葉を聞いて「ふふ、普通の一般人と同じに見てたら酷い目にあいますよ」と玖堂が椿姫に言葉を投げかけてきて(‥‥え、旦那さんだよね? 旦那さんにここまで言わせるってどういう人なの?)と別な意味での不安を椿姫は覚えていた。
「マリさん絡みのトラブルの後始末もマリさんの友人であるあたしの役目よね。我ながら手のかかる友人を持ったものだわ‥‥」
小鳥遊は本日だけで何回目になるか分からないため息を吐きながら、任務を遂行すべく他の能力者達と一緒に高速艇へと乗りこみ、目的地へと出発したのだった。
―― 廃墟に存在するはキメラと騒がしき女記者 ――
今回は場所が廃墟と言うことで能力者達は3つの班に分かれてマリ、そしてキメラを捜索する作戦を立てていた。
A班・小鳥遊、玖堂の2人。
B班・風見、常木、煌、椿姫の4人。
C班・クラリア、佐倉の2人。
「それじゃ、何かあったら連絡を取り合いましょう」
小鳥遊が呟き、能力者達はそれぞれ不気味な廃墟での任務を開始し始めた。
※A班※
「‥‥しばらく大人しかったから、玖堂さんの愛の鎖でマリさんをきちんと縛ってくれていると思ったんだけど、マリさんを縛るなんて無理みたいね」
苦笑しながら小鳥遊が呟くと「そのようですねぇ‥‥」と玖堂も疲れた表情で言葉を返す。
「逃げ出すタイミングでも伺ってたんですかねぇ‥‥本当に鎖で繋いでおく必要があるんでしょうか」
玖堂の眼鏡を妖しく輝かせながら呟く姿に(相当追い詰められてるみたいね)と小鳥遊は心の中で同情するしか出来なかった。
「そうだ、玖堂さん。キメラ退治が終わったらマリさんにお灸を据えるけど大目に見てね」
「大丈夫ですよ。もちろん私もお仕置きをする予定ですから」
二人は捜索しながらマリへの『お仕置き』を想像して「ふっ」と微笑む。ある意味、マリにとって本当の戦いはキメラ退治が終わった後なのかもしれない。
※B班※
「それにしても‥‥こんな所で何の取材なんでしょうか」
風見が周りを見渡しながら呟く。廃墟になってから長い時間が経過しているのか元の町の形を留めていない。
「あちきもスキルを使ってるけど、今の所は不審な音とかはしないねぇ」
常木が廃墟内を見渡しながら呟く。廃墟の規模としては小さい方なので、すぐにどちらかは見つける事が出来ると思っている能力者達なのだが、今だにその気配はない。
「何にせよ、今回の保護対象は今までにも同じような事が多いらしいな。見つけたら力ずくでも止めないと危ないだろうな」
煌の言葉に「能力者にそこまでさせる人なんだ‥‥その記者さん」と椿姫は引きつった笑みを浮かべながら言葉を返した。
「あれ? 何か‥‥あそこでうろうろしてる、あれ、人かな?」
椿姫が前方を指差すと、確かに大きなバッグを背負い、カメラを持ってうろうろとしている怪しげな人物がいる。
「間違いなく保護対象だな?」
煌が呟いた後「マリちゃんらしき人発見よー」と常木がトランシーバーで他の班に連絡を入れる。
「ねぇ‥‥土浦さんですよね? えっと助けに来ました」
風見がマリに言葉を投げかけると「あ! もしかして能力者!?」とマリはきゃあきゃあと騒ぎ立て始める。
「よっしゃ、マリちゃんってばツイてる! 戦いが始まる前に能力者と接触できちゃったよ!」
「えーと、あのね? 危ないから安全な所に‥‥「何言ってんの!」え?」
椿姫がマリに安全な所まで避難するようにと言い掛けたのだが、マリによって凄い剣幕で怒られてしまう。
「安全な所で何を記事にしろって言うの!? マリちゃんは皆に伝わる記事を書きたいんだよ!? その為には危険を省みず、前線で写真を撮らなくちゃダメなんだからね!」
何で私が怒られてるんだろう、と椿姫は釈然としない何かを胸に抱えながら「で、でも危ないし‥‥」となおも椿姫は説得を試みる。
「‥‥あぁ、分かった」
煌はトランシーバーを切り「下手に動くでないぞ? 旦那から殴ってでも止めろと言われておるのでな」とマリに言葉を投げかけた。
さきほど、トランシーバーで玖堂にどう対処していいかを聞いていたのだろう。
「はぁ!? 鷹秀がマリちゃんを殴ってもいいって言ったの!? 許せん‥‥大事な愛妻に向かって殴ってもいいだなんて、何考えてるのっ!」
(その大事な旦那に心配かけまくっている人が言える台詞じゃないんじゃ‥‥)
能力者は心の中で呟いたのだが、怒りの矛先が自分に向かってきそうなので口からは出さずにいた。
その時、照明銃が打ち上げられ、C班からキメラを発見したとの連絡が入ってきた。
※C班※
(‥‥マリさんみたいに行動力のある方が、あの人も喜ぶのかな?)
マリとキメラを捜索している間、クラリアは自分の行動力に関して考えていた。
しかし、明らかにマリと交友のある能力者、そしてマリにとって大事な人である玖堂すらも憔悴しているように見えた為、結果的に(もう少し、落ち着いている方がいいのかな‥‥)という結論に至った。
「最悪の状況になってないといいんですけど‥‥」
「最悪、ですか?」
佐倉の呟きにクラリアが問いかけると「キメラとマリさんが一緒にいる事ですよ」と佐倉がにっこりと穏やかに微笑みながら言葉を返した。
確かに一般人であるマリがキメラと遭遇していれば危険度は更に上がってしまう。
「そう、ですね‥‥確かにキメラと一緒にいると危ないですからね‥‥」
「そうなんですよね、しかもマリさんはキメラに向かっていくタイプの人ですから余計に危ないと思うんですよ」
はぁ、と佐倉は小さなため息を吐く。
「資料を見る限り、大したキメラではなさそうですけど――どんなキメラでも油断は出来ません。心してかかりましょう」
佐倉の言葉にクラリアも首を縦に振って答えた。
「あ‥‥」
クラリアが呟き、佐倉も彼女が見ている方向を見ると‥‥大きな爪を装備し、人型ではあるけれど、明らかに人ではない姿の人物が立っていた。
「キメラ発見‥‥行きますっ」
クラリアは呟くと同時に照明銃を頭上に打ち込み、他の班にキメラを見つけたとの連絡を入れ、他の仲間達が合流するまで佐倉と牽制攻撃を続けるのだった。
―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者達 ――
A班とB班が合流した後、最初に攻撃を行ったのは小鳥遊だった。ドローム製SMGを構え、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
そして、小鳥遊の攻撃で足を止めたキメラを見て、佐倉が超機械・シャドウオーブを掲げ、スキルを使用しながら「シャドウボルト!」と叫んだ。
「ちょっとぉ! 鷹秀! マリちゃんを殴ってもいいとか言ったらしいなぁ! 後で覚えてなさいよー!!」
後方からぎゃあぎゃあと喚きたてるマリの姿を見て(‥‥後で覚えてろって、その言葉、そのまま返しますけどね)と玖堂は心の中で言葉を返し、スキルを使用して能力者達の武器を強化した。
「謳え、ハミングバード!」
クラリアはスキルを使用しながらハミングバードでキメラへと斬りかかる。
「そんな攻撃じゃあちきを止める事なんて出来っこない‥‥よっ!」
常木は乙女桜を構え、キメラへと斬りかかる。その際に返り血を浴びても動じる事なく、そのまま攻撃を続けた。
「ぐっ‥‥退けないんだよ‥‥ねっ!」
キメラからの反撃を受けながらも、常木は攻撃の手を緩める事はなかった。
「キメラの動きはこちらで殺す、トドメは任せて良いじゃろう?」
煌はスキルを使用しながらキメラの関節を狙い、機動力を削ぐ事に専念する。一人での攻撃ならばキメラにも避けるという手段があったが、避ければ更に別の能力者が攻撃‥‥という方法を取られ、キメラは能力者達の攻撃を避ける事が出来なかった。
「こっちに来られても困ります‥‥それに邪魔はさせません。そこで大人しくしていてください」
マリの近くにいる風見が呟き、SMGターミネーターで攻撃をしながらキメラを前衛能力者達の方に押し戻す。
「そんな動きで捕まえられると思う? 武道有段者をなめないでよね!」
椿姫はスキルを使用し、スピードを上昇させながらキメラを撹乱していく。
そして、再びクラリアが照明銃を打ち上げ、キメラが驚いている間にトドメに入り始める。
「強化をしますので、宜しくお願いしますね」
玖堂が呟き、能力者達の武器を強化し、それぞれ能力者達は攻撃を行って、キメラを無事に退治する事が出来たのだった。
「それじゃ、ご機嫌よぅ、結構楽しかった‥‥かな?」
トドメにフォルトゥナ・マヨールーを使用した常木が満足したように笑顔で呟いた。
―― 本当に怖いのはこれから ――
キメラを退治した後、マリはなぜか正座させられていた。
「‥‥さて、マリさん。マリさんに無茶するなというのは、マリさんに息をするな、というくらいに無理だとすでに諦めてるわ」
「へ、へい!」
「茶化さないで聞きなさい。だから危険な場所に行く前には玖堂さんとかあたしとか知り合いの能力者に一声かけてからになさいと言ったわよね?」
小鳥遊は表情こそ笑顔だったが、目が笑っておらずかなりご立腹だという事が伺える。
「まさかとは思うけど、忘れてたなんて言わないわよね? マリさん?」
「わ、忘れてたなんてありえないよ!? マリちゃんは今回初心に戻って頑張って取材をしよ「忘れてたのね?」‥‥へい、ついうっかり忘れちゃってたぜ! てへ!」
笑いで誤魔化そうとしたマリだが、小鳥遊の怒りを上昇させただけに終わってしまったらしく、小鳥遊はマリに梅干の刑を執行した。
「きゃああ、鷹秀! 鷹秀助けて!」
「あっはっは、助けるわけないじゃないですか? 言葉で通じないなら肉体で伝えるしかありませんからねぇ? まぁ、帰った後には私からのお仕置きがあるのを忘れず、楽しみにしていてください」
怪しげな笑みと同時に「嫌―! 何でキメラがいなくなった方がマリちゃんの危険度あがるのー!」と悲痛なマリの叫び声が響き渡った。
「マリさん‥‥私からは、何も言うことはありませんが‥‥南無」
BGMに『チーン』と音をさせながら佐倉がマリへと言葉を投げかけた。
「マリさん‥‥決断力すごいですね‥‥。オペレーターになってる舞さんから‥‥聞いていた以上です」
クラリアはマリが騒ぐ姿を見ながら、かなり驚いた表情をしていた。
「少々、落ち着きを持った方が良いと思うのじゃが」
煌の言葉に「そういう時期は過ぎたんですよ‥‥」と玖堂が遠い目をしながら言葉を返した。
「一応、まだキメラがいるかもしれないからちゃんと見て回ってから帰った方がいいよね」
椿姫の言葉に能力者達は首を縦に振り、暴れるマリを押さえつけながら廃墟内を見回った後、LHへと帰還していったのだった。
END