●リプレイ本文
―― キメラ退治の為に集まりし能力者達 ――
「‥‥今回はよろしく」
少し表情を暗くした女性、カナが今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶をする。
「宜しくお願いします、今回の相手は鳥型‥‥という事は、頭上注意が必要そうですね」
リゼット・ランドルフ(
ga5171)は資料を見ながら小さく呟き、そしてカナをちらりと一瞥する。
どこか様子のおかしいカナの事が気にはなったけれど、まずは依頼をきちんとこなさなければ、と心の中で言葉を付け足した。
「あの、何かあったんですか?」
加賀 弓(
ga8749)がカナに言葉を投げかける。他の能力者達も気がついていたけれど、これから戦場へ赴くというのに、カナは何かを気にしているような素振りを見せていたからだ。
「いえ、私事なんですけど‥‥実は、恋人と――‥‥」
カナは「すみません」と言葉を付け足しながら、自分に起きた出来事を話した。恋人が死ぬかもしれない現実に耐え切れず、自ら別れを切り出した事。自分の事を忘れて欲しいと願う反面、忘れないで欲しいと願っている自分がいるという事。
「‥‥そう、ですか‥‥このご時世、こういう事は珍しくないんでしょうね‥‥でも」
加賀は俯きながら言葉を止めた。彼女自身にも何か思う事があるのだろう。
「ふぅん‥‥」
カナの言葉を聞いた後、榎木津 礼二(
gb1953)は特に言葉を返す事はなかった。
それは彼が何も思っていないから、というわけではなく自分が首を突っ込んでいい問題なのか分からなかったからだ。
「迷いがあるなら、依頼には行かない方がいいんじゃないか? 戦いの場で迷いを持っている人間は、自分の命、そして仲間の命を危険に曝す」
能見・亮平(
gb9492)がカナに言葉を投げかけると「大丈夫、迷いは‥‥ない。迷わない為に私は‥‥」とカナは拳を強く握り締めながら言葉を返した。
(‥‥大丈夫なようには見えないけどな)
能見は心の中で呟き、小さくため息を吐きながら「わかった」と短く言葉を返した。
「お前の気持ち、俺には分かるよ‥‥俺も似たような心境だからな」
明菜 紗江子(
gc2472)はポツリと小さな声で呟いた。
「え‥‥?」
「でも、俺とお前――違う所があるとすれば、俺はたぶん、それでも気丈に振舞うんだ。でも、俺もきっとお前みたく、自分から逃げちまうかもしれないな」
遠くを見るように呟かれた明菜の言葉に「私、別に逃げてなんか‥‥」とカナが言いかけて口を閉ざした。
「いえ、逃げてるんだわ。嫌な事を見たくないから、知りたくないから‥‥私は、逃げたんだわ」
「‥‥逃げる、ですか」
音桐 奏(
gc6293)は小さく呟いた。
(別に世界中の人が私の事を忘れても構いません――ですが、私は世界を、人を観察し続けます。観察した事を私は忘れる事はありません)
音桐は迷いを見せるカナを見ながら心の中で呟いた。
「男女の道は他人には解せぬものよ」
くっ、と笑みを見せながら呟いたのは玄埜(
gc6715)だった。
「私は助言や励ましなど言うつもりはない――‥‥が」
言いかけた所で玄埜は言葉を止めた。
「いや、よそう。まずは与えられた仕事をしてからの話だな」
「‥‥そう、ですね。まずはお仕事を頑張りましょう」
ミルヒ(
gc7084)が能力者達に挨拶をしながら呟いた。
「とりあえず、地図とかは支給されるみたいですね。特に脅威となるキメラでもなさそうですけれど、油断せずに行きましょう」
加賀が能力者達に言葉を投げかけ、能力者達は任務を遂行すべく高速艇に乗り込み、現地へと出発し始めたのだった。
―― キメラ捜索 ――
今回、キメラが現れた場所は森の中。
能力者達はキメラ退治を迅速に終わらせるため、班を3つに分けて行動する作戦を立てていた。
1班・リゼット、玄埜、カナの3名。
2班・加賀、榎木津、明菜の3名。
3班・音桐、ミルヒ、能見の3名。
能力者達はキメラを見つけたり、何か異変を感じたらすぐさまトランシーバーで連絡を取り合う事を決め、それぞれキメラ捜索に向かい始めたのだった。
※1班※
「地図を見る限り、広い森ではないみたいですね。これならキメラもすぐに見つかるかもしれません」
リゼットが地図を見ながら呟く。
「地図をもらっておいて正解だったな。右も左も分からない状況じゃないが、キメラ発見の際に他の能力者達に今いる場所を伝えられないのは困るからな」
玄埜が周りを見渡しながら呟く。キメラが潜んでいるせいなのか、それとも森そのものに何もいないのか、動物や鳥の気配すらも感じられない。
「静かだけど、寂しい場所ね」
カナがポツリと呟いた。リゼットと玄埜はカナの言う『寂しさ』が何に対しての寂しさなのか聞きたかったけれど、あえて聞くことはしなかった。
「お前らはなぜ‥‥」
玄埜はカナに言葉を投げかけようとしたけれど、今言ってもカナの迷いを増すばかりだと判断して「いや、何でもない」と言葉を止めた。
その時、2班からキメラを発見したという連絡と共に照明銃が打ち上げられ、1班の能力者達は打ち上げられた場所を目指して走り出したのだった。
※3班※
「今のところ、何かがいそうな気配は感じられないな」
能見は空を見上げながら呟く。今回のキメラが鳥型という事もあり、能見は空を特に警戒してキメラ捜索を行っていた。
「他の生物の音など何もない静かな森ですからね、何かキメラが行動を起こせばすぐに分かりそうですね」
音桐も空、そして木の上などを注意しながら捜索を続ける。
「これは‥‥キメラの爪痕でしょうか?」
ミルヒが木を指差しながら能見と音桐に言葉を投げかける。彼女が指差した木には深く抉られたような爪痕が残されており、キメラの攻撃力が僅かながら伺えるものだった。
「この攻撃を人間が受けたと考えたら‥‥少々厄介かもしれませんね」
「空から勢いをつけてつけた爪痕だろうな」
能見が爪痕をじっくりと観察しながら冷静に分析していく。
「とりあえず、キメラを見つけないと――」
ミルヒが呟いた時、照明銃が打ちあがる音が聞こえ、それとほぼ同時に2班からキメラを発見したと連絡が入った。
※2班※
「この辺はキメラがよく来る場所なんでしょうか」
加賀は木の枝を見ながら小さく呟いた。
「何か変わった所でも?」
榎木津も加賀が見ている場所を覗き込みながら問いかけるが、それを見て「あぁ‥‥」と納得するように言葉を付け足した。加賀が見ていた木の枝、それは不自然に折れた枝がいくつもあり、枝の折れている木のほとんどに深い爪痕が残されていた。
「注意して探さないと不意打ち、とかありそうだな――‥‥あ、話は変わるんだけど、みんなは何を思ってこの依頼に来たんだ?」
明菜が2人に問いかける。
「何を思って‥‥ですか? そう問われるとこれと言った答えを出せないのですが‥‥」
「俺は試したい物があったから、かな? 良いテストになればいいんだけど」
加賀と榎木津がそれぞれ言葉を返した後、上空からばさりと羽ばたく音が聞こえ、3人はハッとして音の方を見る。
すると資料にある鳥型のキメラがその姿を現しており、明菜が照明銃を打ち上げ、榎木津がトランシーバーで他の班に連絡を行い、他の班の能力者達が合流するまでキメラを足止めする事を始めたのだった。
―― 戦闘開始 ――
2班からの連絡を受け、十分程度で合流を果たした能力者達は鳥型キメラとの戦闘を開始していた。
最初に攻撃を仕掛けたのはリゼット。小銃・クリムゾンローズでキメラの翼を集中的に狙って撃つ。
「この手の銃はあまり使わないのですが、何事も経験ですね」
音桐はSMG・ターミネーターを構え、キメラを狙い撃ちながら呟く。
「‥‥行きます」
ミルヒはスキルを使用して自身の防御力を上昇させた後、超機械・ミスティックTで遠距離攻撃を行う。3人の攻撃をほぼ同時に受けたキメラはバランスを崩し、地面へと落ちてしまう。
「ようやく私の範囲に入ってくれたか」
玄埜はニィと笑みを浮かべながら蛇剋と忍刀・颯颯を振り上げてキメラへと攻撃を繰り出す。
「逃がしません」
加賀は鬼蛍を携え、キメラに攻撃を仕掛けようとするのだが――キメラの方の反応が早く、加賀はキメラからの攻撃を受けてしまう。
「くっ‥‥キメラの貴方に分かるでしょうか、肉を切らせて骨を断つ――という言葉が」
加賀は呟いた後、スキルを使用してキメラに大きなダメージを与える。
「この程度の攻撃で、私は怯みません」
加賀の攻撃の後、榎木津は鳳凰剣を構え、スキルを使用しながらキメラにバツの字を描くように上から攻撃を繰り出した。彼の攻撃のおかげでキメラの翼は完全に使い物にならなくなり、キメラは空へ逃げる事が出来なくなった。
「強化する」
能見は短く呟き、拡張練成強化を使用して範囲内にいる能力者達の武器を強化する。
「よぉし、行くよ! 鳥のキメラってのはあまり会った事がないんだよね‥‥!」
明菜は呟きながらサブノックを装着した手でキメラへと攻撃を仕掛けた。明菜の攻撃によって動くことが出来ない状態のキメラを見て、ミルヒが機械剣・サザンクロスを構えてキメラへと攻撃を行う。
「これで詰みだ」
能見が小さな声で呟いた後、攻撃を繰り出し、鳥型キメラを退治する事が出来たのだった。
―― 自分の心のままに ――
キメラを退治した後、能力者達は僅かな休憩を取っていた。
「ごめんなさい、皆に甘えて何も出来なかった‥‥」
カナは申し訳なさそうに呟き、負傷した能力者達を救急セットで手当てしていく。
「あの、カナさんの彼氏さんは‥‥納得されているのですか? 私にも能力者の恋人がいて‥‥気持ちは痛いほど分かるんです」
リゼットの言葉に手当てをしているカナの手がぴたりと止まった。
「カナさんはそれで満足ですか? 恋人に突然、そういう理由で別れを告げられたら、私なら納得できないです。もし、カナさんの心に引っかかる何かがあるのなら‥‥もう一回考えてみた方がいいと思います」
後悔しないように、とリゼットが言葉を付け足すと「その通りですね」と加賀が話し始める。
「私にも大好きな人がいました。私はあの人を愛した事を後悔してませんし、今でも愛してると言えます。結婚しようと言われて嬉しかった‥‥婚約して、結婚する前にあの人が死んでしまったとしても、その時の想いは嘘じゃないですから」
加賀の言葉にカナが「え?」と驚きで目を丸く見開いた。加賀の言葉をそのまま受け取れば、彼女の大事な人は既に亡くなっていると聞こえるからだ。
「私も同じように悩みましたし、別れようと思った事もありました――でも、これだけは言わせてください。たとえ矛盾していたとしてもカナさんの想いはきっと正しいと思います。忘れて幸せになってほしい、でも忘れて欲しくない――当然だと思います」
能力者達もカナの事を気にしてくれていたのだろう。カナが周りを見れば心配そうに自分を見る能力者の姿が多数見られたから。
「昔、裏社会のとある組織に一組の男女がいた」
ポツリと話し始める玄埜、カナ、そして他の能力者達も声につられるように玄埜を見る。
「ある日、女は男に別れを告げる。愛が色褪せたわけじゃない。互いにいつ命を失うか分からない。その恐怖に女は耐えられなかったのだ」
玄埜の話を聞いてカナは俯く。まるで自分の事を言われているようだと感じたから。
「しかし、男は納得せず、女を恐怖させ別れを告げさせる原因、組織を潰そうとした。だが男一人でそれが出来るほど甘くはない。男は組織から仕向けられた始末屋に葬られ、それを知った女も始末屋に自分も殺してくれと頼んだ――男のいない世界で生きていく事など自分には無意味だと」
そして玄埜はカナを強く見据えて「そこまで想いあっていたのなら、なぜ共に生き、共に死のうとしなかったのか」と言葉を付け足した。
「あー、俺も似たような事を思った。一緒にいて守りあうって選択はなかったのかな。せっかく助け合える力があるのに勿体無いって思わない?」
榎木津の言葉に「守りあう‥‥」とカナが小さく呟く。
「人は死ぬ。いつか必ず死ぬ、ならばせめて‥‥いや、つまらん話をしたな」
玄埜はそれだけ言って、一人高速艇の方へと戻っていく。
「忘れないでと願う気持ちがまだあるのなら、二人で生きる道を探した方がいいと思います。さきほども言ってましたが、人間いつかは死ぬのですから、それまでは楽しい思い出を作るべきです」
ミルヒもカナに言葉を投げかける。
「まぁ、そろそろ行こうか」
明菜が立ち上がりながら他の能力者達に言葉を投げかける。
そして、能力者達が高速艇へと向かい始め、明菜とカナの二人になった時‥‥。
「これはお前の問題だから、誰も口出しは出来ないだろうけどさ――‥‥皆の言葉を聞いて『つまらない話』と聞き流すのか、それとも‥‥もう一度考える材料とするかはお前次第だよ」
それだけ言葉を残し、明菜は先に行った能力者達を追いかけて高速艇へと戻っていった。
その後、LHへと帰還して、報告を済ませた能力者達の前にカナが立ち「もう一度、よく考えてみます。自分が後悔しない道を探してみます」と言葉を投げかけ、深く頭を下げて本部から出て行ったのだった。
END