●リプレイ本文
―― キメラの現れた町 ――
「‥‥っ! 既に中まで入ってしまったみたいだな‥‥急いで行かないと、間に合わなくなりそうだ」
シクル・ハーツ(
gc1986)が資料を見ながら小さく呟く。資料には一人の少年がキメラの事を知らせて回ったらしいが、普段からウソを吐いている少年の為、誰も少年の言葉を信じず、被害が広がってしまったと書かれている。
「‥‥狼が来たぞ、ですか」
辰巳 空(
ga4698)が資料を見ながら呟く。
「この話は、たとえ嘘でも事実を確認するまでは確認を怠ると酷い目に遭うという『危機管理の大切さを教える話だった』というのが私の持論なんですが‥‥」
ともかく早く現場へ向かわなくてはいけませんね、辰巳は言葉を付け足す。
「そうですね‥‥早々に討伐しなければ‥‥犠牲者が増えるだけです、急がなければ‥‥」
アリエイル(
ga8923)が愛用の槍を強く握り締めながら呟く。
「アリエイルさん、久しいな‥‥今回は実戦でも頼らせてもらう」
周太郎(
gb5584)がアリエイルに言葉を投げかけると「お久しぶりです、こちらこそ頼りにさせていただきますね」と周太郎に言葉を返した。
「あぁ‥‥果たしてこいつは何の化身かな」
周太郎は資料のキメラ情報に視線を落としながら、表情の読めない冷たい声で呟いたのだった。
「町中に紛れ込んだキメラも厄介だけど、パニックになった住人の方も厄介かもしれないわね」
巳乃木 沙耶(
gb6323)がため息混じりに呟く。資料を見る限り避難もされてないのは一目瞭然であり、町の中には逃げ惑う住人達で溢れかえっているだろう。
「そうですね‥‥キメラ退治も勿論ですが、住人の安全確保もしなければなりませんからね」
立花 零次(
gc6227)が呟き「しかし、こんな時に負傷とは‥‥不覚でした」と申し訳なさそうに他の能力者達に言葉を投げかけた。彼は先日の任務で負傷してしまい、今回の任務では無理が出来ない状況にあった。
「ですが、今の自分に出来る事をしたいと思いますので宜しくお願いします」
立花は他の能力者達に軽く頭を下げながら言葉を付け足す。
「しかし、穏やかじゃないな‥‥ノイズだらけだ」
ウィリ(
gc6720)が資料を見ながらため息混じりに呟く。
「話を聞ける状況じゃなさそうだが、キメラの数や場所を住人に話を聞いて確認したいところだが――‥‥まぁ、無理だろうな」
ウィリの言葉に「そうですね」とルミネラ・チャギム(
gc7384)が言葉を返した。
「状況が状況だけにゆっくりと話してくれる人はいなさそうですから、自分達で探すしかないでしょうね‥‥」
ルミネラは「話を聞けたら、その方が迅速に動けそうなんですけどね」と言葉を付け足す。
「さて、うまくおさまるように頑張りましょうか」
ルミネラは小さく呟き、住人達を混乱させているキメラを退治すべく高速艇へと乗り込んで、現地へと出発したのだった。
―― キメラ捜索&避難誘導 ――
「これは‥‥」
現地へ到着して、辰巳が驚いたように呟いた。町から少し離れた所に高速艇を停めたのだが、離れている場所からでも聞こえる住人達の叫ぶ声。
「‥‥急いだ方が良さそうですね」
アリエイルが小さく呟き、能力者達は予め決めていた作戦で行動を開始したのだった。
今回、能力者達が立てた作戦は6班編成で住人の避難、そしてキメラ捜索を行うというものだった。
アリエイルとルミネラ、周太郎とウィリ――この2班のみ2人編成で、他の能力者達はそれぞれで臨機応変に行動を開始する。
「何かあったらすぐに連絡を取り合いましょう」
巳乃木が言葉を残し、そのまま混乱に満ちた町の中へと入っていった。
※アリエイル&ルミネラ※
「敵の数と現在位置が正確に把握できればいいのですが‥‥急いで探さないと‥‥」
アリエイルが呟くと「そうですね、急ぎましょう」とルミネラも言葉を返す。
「‥‥既に避難した人達もいるみたいですね、足跡があっちからこちら側に向かってきていますね‥‥」
アリエイルが地面に残された足跡を見ながら呟く。遠くに見える畑などには逃げる際の足跡が乱暴に残されていた。
「人々が逃げてくる方向に‥‥居るかもしれません」
アリエイルが呟いた時、ルミネラが倒れている人を見つけ、2人が駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
倒れていたのは若い女性で、腕を怪我しているようでじんわりと血の赤が服に滲んでいた。ルミネラは持っていた救急セットで住人を治療し始め、アリエイルが軽く話を聞く事にした。
「キメラはあっちにいるのですか?」
「え、えぇ‥‥逃げる途中で襲われてしまって、腕を――‥‥キメラが他の人に襲い掛かった所を逃げてきたんです‥‥自分が助かる為に、お願い、あの子を助けて」
がたがたと震える女性を落ち着かせ、ルミネラが他の班へと連絡を入れる。
「落ち着いてください。キメラは町のどの辺にいたか分かりますか?」
ルミネラが他の班に連絡を入れている途中、アリエイルが女性に何度も言葉を投げかける。
「‥‥町から少し離れた場所に、公園があるんです‥‥その公園に」
女性から聞いた言葉をルミネラは他の班へと伝え、女性を高速艇を停めた近くにある避難所へと連れて行ってから、キメラ捜索と住人の保護を再開したのだった。
※周太郎&ウィリ※
「酷い状況だなぁ‥‥まずは俺達が落ち着かないとな、焦って怒鳴り声で呼びかけたんじゃ、かえって混乱させちまう」
ウィリが苦笑しながら呟くと「‥‥助ける、護るのは相応しい人に任せる。俺は戦闘と手伝いに回るつもりだから」と周太郎が言葉を返す。
(今回は犬――獣の人形か、人形なら――‥‥壊すだけだ)
周太郎は心の中で呟きながら捜索を再開し始める。
「ちょっと待った、どうやら動けない怪我人がいるみたいだ」
ウィリがスキルを使用して感じ取った気配を周太郎に伝え、怪我人がいる場所へと向かう。
すると、少し歩いた先には2人の老人が座り込んでいた。外傷こそ見当たらないけれど、服が泥だらけになっており、逃げる際に転んだのだろう。
「大丈夫かい?」
ウィリが話しかけると老人達は「少し転んだだけですから‥‥」と言葉を返してきた。
「治療の必要があるならするが‥‥?」
周太郎が2人に問いかけると、2人は首を横に振って「大丈夫です」と言葉を返してきた。
「逃げる時に後ろから押されて‥‥ここならキメラもいないようだし、と少し休んでいただけです。自分で歩けますから、どうぞ気にしないで下さい」
「そうか、なら急いで逃げるんだな‥‥別の班から聞いたが、避難所があるんだろう? そこまで行けば適切な手当てをしてくれる奴もいる‥‥」
周太郎の言葉に2人は首を縦に振って、避難所へと向かい始めたのだった。
※1人で行動する能力者達※
「ここにはいない、ですか‥‥」
辰巳は小さくため息を吐きながら周りを警戒する。彼が現在いるのは小学校、キメラがいないかと思って捜索をしていたのだが、どうやらここにはいないらしい。
「‥‥? あちら側が騒がしいですね、行ってみましょうか」
ざわめきが聞こえる方向へと足を進めると、パニックを起こした住人達を諌める巳乃木の姿があった。
「落ち着いて、慌て過ぎれば逆効果になりますから」
「大丈夫ですか?」
辰巳が巳乃木に話しかけると、彼女はやや困ったような表情を見せた。戦いの場に慣れていない一般人だから仕方ないのかもしれないが、パニックを起こした住人達が何人も集まると、さすがに一人では対処しきれない部分が出てくる。
「ごめん、あっちでもパニックを起こしてる人がいて‥‥」
「分かりました。私はそちら側に行きましょう」
「えぇ、お願い」
辰巳はその場を離れ、少し離れた所へと向かう。そこには半狂乱で泣きじゃくっている女性が座り込んでいた。
「大丈夫ですか? どこか怪我でも?」
辰巳が問いかけるのだが、辰巳の言葉が耳に入っていないかのように「もう死んでしまうんだわ」とぶつぶつ呟いている。
「‥‥辰巳さん?」
自分の声もまともに聞かない女性をどうやって説得しようか悩んでいた時、立花がやってくる。
「あぁ、ここにもいたんですか。向こう側にもパニックになって逃げ惑ってる人がいたので、避難所の方まで連れて行ってきたところなんです」
「‥‥大丈夫、なんですか?」
立花は負傷している身、それを心配して辰巳が問いかけるが、立花は穏やかに微笑むだけで言葉を返す事はしなかった。
立花は混乱している住人を更にパニックにさせるかもしれないと、包帯などは服の下から見えないように気を配っていた。
「大丈夫です、どうか落ち着いて。すぐに何とかしますから」
優しい声でパニックになっている女性に声をかけ「避難所の方まで連れて行ってきます」と立花は巳乃木がいる所へと向かい、まだ町に残っている住人達を避難所まで誘導する事にした。
その頃、別の場所ではシクルが逃げ遅れた住人がいないかを探していた。
「あっ‥‥」
町から少し離れた場所、そこには既に息絶えた住人と血まみれの少年の姿があった。
「‥‥! 大丈夫か!?」
シクルが慌てて少年に駆け寄ると、キメラにやられたのだろうぐったりとして顔色も悪く、弱々しく息をしているだけだった。
(まだ、息がある‥‥!)
シクルはすぐさま他の班に連絡を入れようとした時、背後から唸り声のようなものが聞こえる。
「!」
シクルがゆっくりと振り向くと、口の周りを真っ赤に染めたキメラの姿があった。
(ここで治療するのは危ないか‥‥)
シクルはちらりと公園に設置されている休憩所を見て、少年を抱え、休憩所まで走り、少年を中の椅子に横たわらせ、自分はすぐに外に出る。
「シクルだ、公園でキメラと接触している――それに重傷の少年がいるんだ、出来ればすぐに来て欲しい」
トランシーバーで他の班に連絡を入れた後、少年を休ませている休憩所から引き離すようにシクルはキメラへと攻撃を仕掛けたのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
シクルからの連絡があった後、避難を終わらせた能力者達はすぐさまシクル、そして重傷の少年がいる公園へと向かっていた。
シクルからの連絡が、ほとんど避難を終えた時に入ってきた事が幸いしたのか、連絡を受けた数分後には合流できていた。
「負傷者は?」
辰巳がシクルに問いかけると「あそこの休憩所に‥‥治療しようとしたらキメラが現れて治療できなかった」と言葉を返す。
辰巳は「分かりました」と言葉を残し、スキルを使用しながら休憩所まで一気に距離を詰める。
しかし途中でキメラが攻撃を仕掛けようとした――が「あなたの相手は私達よ」と巳乃木が割って入り、銃口を向けてキメラへと発砲する。
「きみが傷つけた人の分まで、報いを受けてもらうよ」
ルミネラがスキルを使用しながらキメラへと射撃を行い、動きの鈍くなったキメラに躊躇う事なく周太郎が攻撃を仕掛ける。
「獣の姿をした人形は壊す、それだけだ」
周太郎が呟き、スキルを使用しながらキメラへと攻撃を繰り出す。周太郎の攻撃を避けようとしたキメラだったが、シクルの放った矢がキメラの足を止め、キメラは周太郎の攻撃をまともに受けてしまう。
「多くの人を傷つけ、多くの人を恐怖に貶め、自分が危なくなったら逃げる――ですか? そんな都合の良い事など許されません」
アリエイルは愛用の槍でキメラを突きながら冷たい眼差しを向ける。
「俺も混ぜてもらおうか? 俺の歌はしびれるぜ?」
呪歌だから当然だけどな、ウィリは言葉を付け足しながら呪歌を使用する。呪歌の効果が現れ、キメラの動きがぴたりと止まる。
だが、ウィリは歌う事を止めず、動きを止めたキメラに能力者達は攻撃を仕掛け、静かな町を騒がせたキメラを無事に退治する事が出来たのだった。
―― キメラ退治後 ――
「あの子は大丈夫です。出血が多かったみたいですが、幸いにも命に別状はないでしょう。ただ、あのまま誰にも気づかれなかったら結果は分かりませんでしたけど」
能力者達が戦闘をしている間、辰巳と立花は少年‥‥アキラの治療に専念していた。
「なんとかなったみたいで、本当に良かったです‥‥」
立花もホッとしたように呟く。自らも負傷しており、傷が痛むはずなのに――と能力者達は心の中で呟く。
「‥‥本当にキメラはいたのに、みんな信じてくれなかった」
ポツリと呟かれた言葉に能力者達が視線を向けると、まだ苦しげなアキラの姿が視界に入ってきた。
「‥‥嘘吐きの小僧、か。嘘を辞めろとは言わん――が、覚えていられるなら誰かを呆れさせない、迷惑でない嘘を言えるようになるんだな」
周太郎がアキラに向けて呟き(‥‥だが、嘘は嘘‥‥か)と心の中で言葉を付け足した。
「あなたが普段から嘘を吐いてるから、今回のような大変な時にも信じてもらえなかった。これに懲りたらもう嘘は吐かないことね」
巳乃木の言葉にアキラは唇をかみ締めながら「‥‥これから、控える」とだけ言葉を返した。
「‥‥辞める、とは言わないんだな。まぁ、別にいいが‥‥イタズラも程ほどにしろよ?」
苦笑しながらシクルがアキラに言葉を投げかける。
「まぁ、皆無事――とまでは行かなかったけど、良かったじゃないか。これからも仲良くやっていけばいいさ」
ウィリが小さな声で呟く。確かに数名の犠牲者は出たけれど、たとえどんなに能力者達が早く来ていても助けられなかった命。本部に今回の騒ぎが届く前に亡くなっていた人達なのだから。
それでも、それ以上の犠牲者を出さなかったのは能力者達が必死に住人達を避難させたからだろう。
「住人の方々は大丈夫でしょうか‥‥」
ルミネラが呟くと「避難所の方にキメラが行った形跡もなかったし、大丈夫だと思うよ」とウィリが言葉を返した。
「それでは早く帰りましょうか。この少年を病院に運ばないといけませんし‥‥それと一つだけ覚えていてください。嘘には良い嘘と悪い嘘があるんですよ」
アリエイルがアキラに向けて言葉を投げかける。この言葉の意味をアキラはすぐに理解できないだろうが、悪い嘘を言う大人には成長して欲しくないと願うアリエイルだった。
その後、アキラを病院へと運び、能力者達は任務成功の報告を行う為、LHへと帰還していったのだった。
END