●リプレイ本文
―― 相変わらずの魔王もやし ――
「花見をするわ、私と一緒になれた事を地面に額擦りつけて感謝する事ね」
どこまでも尊大な態度で能力者達に言葉を投げかけるのはキルメリア・シュプール(gz0278)だった。
(‥‥さすがに時期がずれ過ぎてると思うのですけど、まおーさまにそんな言い訳通じる筈もないですよねー)
はぁ、と小さくため息を漏らしながら土方伊織(
ga4771)が心の中で呟いた。
(なるほど、この子が噂の‥‥まぁ、典型的な魔王っ子だなー)
椎野 のぞみ(
ga8736)は殴られているオペレーターを見ながら心の中で呟いていた。
「あ‥‥おひさっ、美雲さんっ!」
椎野は諌山美雲(
gb5758)の後ろから挨拶をしながら抱きついた。
「のぞみ〜ん、久しぶり!」
諌山も挨拶に応えながら「キリーさん、紹介するね。私の友――」と椎野の事を紹介しようとしたのだが‥‥。
「はじめまして! ボクは椎野のぞみ! 美雲さんの愛人だよ、よろしくね!」
「うんうん、私の愛人‥‥ってちょっと待てぇぇぇぇ! 変な誤解生むような事言わないで!」
笑顔で挨拶する椎野、焦ったように言う諌山。だが諌山の焦り具合が椎野の言葉に信憑性を持たせてしまい、キリーの表情が凍りつく。
「‥‥そう、そういう関係なのね。分かったわ」
「え、ちょ、キリーさん!?」
「安心なさい、私はそういう偏見は持たないから。たとえ家族ある身で女の愛人がいても私は気にしないわ、えぇ、全く気にしないから私の半径300キロ以内に入らないでくれる?」
(はわわ、偏見もたないとか言いながらすっごく偏見もってるのですぅ‥‥)
土方が心の中で呟いたが、その呟きを察したかのようにキリーの渾身のパンチが土方に繰り出された。
「ただいまー、キリーお姉ちゃん!」
白虎(
ga9191)がキリーに対して言葉を投げかける。どうやらキリーと一緒にいられる事に喜びを感じているらしく、総帥の威厳がいつもよりも100%ダウンしている。
「ふぅ、せっかく花見に行こうと思ったのにキメラがいるなんて私以上の可哀想な子はいないわよ」
キリーが嘆きながら呟くのだが、現時点で一番可哀想なのは土方だったりする。
「お花見会場にキメラねぇ‥‥まぁ、さくっと倒しちゃえば問題ないんじゃないの?」
神咲 刹那(
gb5472)がキリーを宥めるように苦笑しながら呟く。
「今日のもやし荒れてんなぁ‥‥」
ガル・ゼーガイア(
gc1478)がポツリと呟くと「分かってんなら私の機嫌が良くなるような事をしなさいよ! このドヘタレが!」とガルの鳩尾に鋭い突きを繰り出す。
「やっほ〜、キリーちゃん♪ お久しぶり〜、今日も可愛いね〜♪」
ララ・フォン・ランケ(
gc4166)がキリーに挨拶を行う。
(可愛い‥‥今の俺の状態を知ってなお言えるのか、ぐぅ‥‥)
ララの言葉を聞きながらガルは心の中で呟くが、それを口にする度胸は今のところなかった。
「初めまして、キルメリアさ「馴れ馴れしいわよ」立花 零次(
gc6227)と言いま「聞いてないわよ」宜しくお見知りおき下さ「知ったこっちゃないわよ」‥‥全てに対してのツッコミありがとうございます」
立花は苦笑しながらキリーに言葉を返す。
「とりあえずさっさと行ってキメラを退治するわよ、私の花見の為に」
ふん、と鼻息荒く前を歩くキリーを見て、彼女を知る者達は心の中で同じ事を思っていた。
(‥‥多分、今回も何もせずに野次だけ飛ばしてくるんだろうなぁ‥‥)
―― キメラさん、空気読んで早々にご退場下さい ――
「うわぁ、見事に誰もいないねぇ‥‥」
今回、キメラが現れたのは植物園。能力者達は高速艇に乗って問題の植物園へとやってきていたが資料にある通り係員なども避難しており、植物園内にいるのは能力者達、そしてキメラだけとなっていた。
能力者達は班分けを行わずに植物園内を見て回る事にしていた。
「へぇ、色んな花があるんだ‥‥キメラ退治した後のお花見が楽しみかも」
椎野はキメラ捜索をしながら花を見ていた――‥‥その時、どす、と地面に矢が突き刺さる。距離があるせいか能力者達に届く事はなかったが、能力者達がキメラの位置を知るきっかけとなる攻撃だった。
「僕は前衛でキリーさんから離れて戦うのですー。絶対、こっちの方が安全ですか「わんこ‥‥キメラ退治が終わったらぶっ潰す」はわわわ‥‥」
土方の何気ない言葉がキリーの怒りを買い、キメラ退治後の恐怖を約束する羽目になってしまった。
「やれやれ、この後予定があるんだから早く倒されちゃってねっ!」
ララは愛用のグローブを構え、スキルを使用しながらキメラへと接近していく。
「もやし! 今回もこの竜騎士がお前を守ってやるぜ「頼んでないし」」
ガルはキリーから間髪入れることなく告げられた言葉にややショックを受けながらキメラの攻撃に備える。
「‥‥流れ矢が怖いからね、キリーはしっかり隠れててね? なんなら、ボクの背中にはりついてる?」
神咲が冗談めかしてキリーに告げると「御託はいいからさっさとキメラ退治しなさいよね、ヘタレ」と厳しい言葉が返ってきて「相変わらずだねぇ」と苦笑しながら神咲は言葉を返した。
「ふふん、キリーお姉ちゃんへの攻撃は全部シャットアウトなのだ!」
白虎は不敵な笑みを浮かべながら超機械を取り出し、白虎のぬいぐるみの姿をしたその超機械は口から衝撃波を発生させ、キメラを攻撃する。
「あぁ、もう! さっさと退治しなさいよ!」
戦闘の様子を見ていたキリーが苛々した様子で隣にいる立花を殴ったりしている。
しかし立花はキリーから殴られても我慢しているのか、表情を笑顔から崩す事はなかった。
「手、傷つくといけませんから。殴る時はコレを使うといいですよ」
にっこりと微笑みながら立花がキリーに渡したのは巨大ぴこぴこハンマー。
「分かったわよ、御礼はコレでいいわね」
キリーは受け取ると「ありがとう」という言葉の代わりに全力で立花を巨大ぴこぴこハンマーで殴りつける。
(‥‥このままでいけば、俺はキメラではなく隣の少女にやられてしまいそうです)
相変わらず笑顔のままだったけど、立花は心の中で呟き早くキメラ退治が終わるようにとスキルを使用して能力者達の武器を強化し、キメラの防御力を低下させた。
そして、そのままキメラへと向かって駆け出し、名刀・国士無双でキメラに攻撃を行う。
「よーし、これくらい私だって‥‥」
諌山が気合を入れて破魔の弓でキメラへと攻撃を仕掛ける――が、それは何故か同じ後衛に居るはずのキリーの前へと突き刺さる。
「あのね、美雲? キメラは前よ、前! 何で矢を真上に飛ばす必要があるのかを一文字で答えちゃいなさいよ、このど阿呆!」
危うく頭から矢が刺さる所だったキリーは怒り狂っていたが「えへっ、失敗☆」と諌山は大した失敗と思っていないようだった。
「これで、お終い!」
椎野はスキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛け、土方、神咲、立花も椎野の攻撃に合わせてキメラへと攻撃を繰り出す。
数名の能力者の攻撃を同時に受け、キメラは血を噴出しながら地面へと倒れ、能力者達はキメラを退治し終えたのだった。
―― 実はこれがメインだったりするんです? ――
「お弁当作ってきたので食べましょうかー!」
椎野が笑顔で取り出したのはからあげ沢山のお弁当‥‥10人前。
「これは‥‥随分と沢山作ってきたんですね」
苦笑しながら立花が問いかけると「うーん、気分的に? 作りたくなっただけだよ?」と椎野が笑顔で言葉を返してきた。
「私も使用人が10分で作ったしょっぱい飯だけどあるわよ。七代先まで感謝して食べる事ね」
キリーも使用人に作らせたお弁当を広げながら「さぁ、お食べなさい」と偉そうに能力者達へと言葉を投げかける。
「はわ、お弁当美味しそうなのです‥‥でも、すっごく使用人さん達が不憫でならないのです」
土方の言葉に「あんたさっきから私にケンカ売ってるでしょ」と頭突きと一緒に言葉を投げかけられ、土方は視界が真っ白になる感覚を味わっていた。
「あ、ボクもお弁当持ってきたよ。あと紙皿、箸にフォーク、ウェットティッシュと紙コップかな」
神咲も手際よく準備をすると、一緒に諌山もお弁当を広げていく。
「‥‥ねぇ、地味なツッコミいいかな? 花見っていうか、お弁当食べきるのがちょっと難しい量じゃない?」
ララが呟く。様々な能力者達がお弁当持参(しかも人数分)で、レジャーシートの上には所狭しとお弁当が広げられている。
「ま、まぁ時間はゆっくりあるしゆっくり食べてゆっくり植物園を見て花見すんのもいいんじゃねーか?」
ガルがお弁当を食べながらララに言葉を返す。
「あ、そうだ‥‥この造花、お前の為に作ったんだぜ! これでもっと花見してる気分になるだろ?」
思い出したようにガルが手作りの造花をキリーへと渡す。
「へぇ、あんたって意外と器用なのね。1ミリ程度だけど見直してあげるわ」
素直じゃない言葉だが、キリーなりに喜んでいる言葉――なのだとガルは信じたい。
「くっ‥‥そんなに花が好きなら――ラフレシアっていうでかい花を持ってきてや「もしそんなもんマジに持ってきたら、あんたのその顔に塗りつぶすわよ」‥‥それは困りますにゃー」
白虎のラフレシア作戦は失敗に終わり、次なる作戦の為に白虎がその場を離れていく。
「そういえばまだキルメリアさんの事をよく知りませんので、教えていただけると嬉しいんですが‥‥」
立花がキリーに言葉を投げかけると「何が知りたいのよ。大出血サービスで答えてあげなくもないわよ」とキリーがお弁当を食べながら言葉を返す。
「そうですね、どんなお菓子が好きかとかお料理できるのかなど‥‥」
「美味しいお菓子、何で私が料理をしなくちゃいけないわけ? ヘタレ。こんな感じでいいかしら?」
根本的な回答になっていないが、その答えで少しだけキリーの性格を知る事が出来た立花は「‥‥えぇ、充分です」と苦笑しながら言葉を返した。
「でも、桜じゃないお花見もいいもんだね」
ララが周りを見渡し、色々な花を見ながら嬉しそうに呟く。
「ねぇ、そういえば何で最初あんな事したの?」
諌山が椎野にこっそりと問いかける。あんな事、とは愛人発言の事を言っているんだろう。
「あはは、あの時はごめんね。あんな魔王っ子は桃色な感じが苦手かなーって。一年だけ通ってた超がつくお嬢様女子高で、あんな子、10人以上はいたから〜。まぁ、慣れてるっていうかなんというか」
苦笑しながら椎野が言葉を返すと「ふぅん、そうなんだ」と諌山は納得したようなしていないような曖昧な言葉を椎野に返した。
「そうだ、この植物園って蛍が見れるらしいよ。皆で一緒に行ってみない?」
ようやくお弁当を食べ終わる頃、神咲が片付けをしながら能力者達に提案をする。
「お、いいな! もやしも見てみてぇだろ?」
ガルがキリーに問いかけると「そうね、どうしてもっていうなら見てあげない事もないわよ」と相変わらず素直じゃない言葉を返し、能力者達は蛍を見る為に移動することにした。
そして数分後――‥‥。
「えええ!? ど、どこに行ったのにゃー!? 何で誰もいなくなってるのにゃー!?」
帰って来た白虎が誰もいない事に気づき、慌ててキリー達を探しに植物園内を走り回る事になったてしまった。
植物園を見終わる頃には空も暗くなっており、蛍を見るにはちょうど良い時間になっていた。
「そうだ、ちょっと皆お腹痛くなったからキリーはここで蛍を見ているといいよ」
「あ?」
突然の神咲の言葉にキリーが怒ったような表情になるが、キリーの言葉を聞くことなく神咲は他の能力者達を連れてどこかへと行ってしまう。
「ちょ、ちょっとー抜け駆けはダメですー。二人っきりはダメなのに、皆さん何でばがめーずになってるですかー」
土方が(小声で)一生懸命他の能力者達に言う。
「大丈夫じゃない? 二人とも桃色に弱そうだし」
「うん、何かあるとも思えないよね」
「何かあったら私達が邪魔すればいいんですよ」
「くっ、何で俺までこんな事に‥‥」
「え? しっと団の皆にお土産を持って帰りたいから、かな?」
「いまいち状況が分かってないのですが、何となくノリで?」
上から椎野、神咲、諌山、ガル、ララ、立花の言葉。
「あー! ようやく見つけたのにゃ! 何で僕だけ置いていくにゃー!」
そこにタイミングよく現れるのは白虎。
(くっ、本当なら僕が蛍の所まで連れてくるはずだったのに‥‥)
白虎は心の中で悔しそうな言葉を吐くのだが、周りを見て誰もいない事を知ると結果オーライなのかもしれないと思い始める。
(‥‥とは思ったものの、この微妙な雰囲気の中でどうしろって言うのにゃあああ‥‥)
一人で悶々と悶える白虎を見て他の能力者達が面白可笑しく笑っている事などきっと白虎自身は気がついていないのだろう。
(よし、こうなればさっき調達してきたウェディングブーケを‥‥!)
心を決め「キリーお姉ちゃん!」と少し大きな声で白虎が叫ぶと‥‥。
バチ――――――ンッッ!!
「「「「「「「!?」」」」」」」
突然乾いた音が響き渡り、ひっそりと見守っていた能力者達もぎょっと目を丸くする。
「あ、ごめん。蚊」
白虎が心を決めてブーケを渡そうとしているタイミングでキリーからひっぱたかれ、状況を知らない人が見れば‥‥。
「結婚して下さい」
「嫌よ(ばちーん)」
こういう図に見えないこともない。
「あははははっ」
突然神咲が笑い始め、他の能力者達も続くように笑い始める。
「な、な、何で其処に‥‥!?」
「うんうん☆ しっと団の皆にイイお土産が出来たね!」
ぐっじょぶ、とララは親指をたてながら白虎へと言葉を投げかける。
「うわ――んっ! 何で総帥だけなんだよ――っ! 俺だって頑張ってるのに!!」
ガルが嘆きながら叫ぶのだが、はっきり言って先ほどの行動にガルが羨ましがる要素は一つもないはず。
「う、うおおお! 貴様らーーーー!」
もう何が何やらの八つ当たり状態で白虎が能力者達を追いかけ始め「私を無視してんじゃないわよ!」とキリーからラリアットを食らい、少しだけ泣きたくなった白虎だった。
END