●リプレイ本文
―― 白馬王子を退治する為に ――
今回は誰が作ったのか、どんな顔をして作ったのか分からない王子様キメラを退治するという任務が能力者達に与えられていた。
「王子様ね‥‥」
終夜・無月(
ga3084)が資料を見ながら小さく呟く。まだ任務そのものが始まっていないというのに、彼の表情からは疲れや呆れの色が伺える。
「ふむ、まぁ‥‥よろしくな。適当に何とかなるだろうよ」
適当に、役に立ってもらうがね――と言葉を付け足しながら能力者達に挨拶をするのは水無月 湧輝(
gb4056)だった。
「宜しくお願いします!」
八葉 白珠(
gc0899)が水無月に挨拶を返し、他の能力者達に向けて何度も丁寧に頭を下げる。
(今日は兄さまも姉さまもいないから一人で頑張らないと!)
八葉は兄弟がいない事に不安を感じながらも、その不安をかき消すように心の中で大きく叫ぶ。
「しかし王子か‥‥王子‥‥何で王子なんだ? よく分からないが、ともかく依頼なんだから迷いなく倒すぜ」
何故キメラが王子なのか、その答えは出なかったけれど秋月 愁矢(
gc1971)はキメラなのだから倒す、という結論に至ったようだった。
「こんにちは、今日は宜しくお願いします。初陣ですが、かといって緊張はしすぎていませんわ」
サクヤ(
gc7494)がにっこりと微笑みながら能力者達に挨拶をする。確かに彼女は自分で言うように、緊張している様子は微塵も感じられない。
「‥‥私達は未熟ですが、足を引っ張るつもりはありませんので、よろしくお願いしますね」
サクヤ同様、ミヅキ(
gc7495)も緊張する様子はあまり感じられない。
「それにしても敵には妙なものがいるものですね、王子様のキメラなんて‥‥しかもご丁寧に白馬まで用意して」
オボロ(
gc7496)がため息を吐きながら資料に視線を落とす。
「乙女の理想像‥‥を元にしたのでしょうか――‥‥ですが、私たちの理想像とは違いますので、一夜の夢の如く散らせてみせましょう」
冷たい微笑みを見せながらカゲツ(
gc7497)が呟く。
「まぁ、とりあえず作戦などは行きながらでも大丈夫だろう。それではさっそく出発するとしようか」
水無月が能力者達に向けて呟き、能力者達は高速艇に乗り込み、キメラが現れた場所へと出発していったのだった。
―― 森の中に現るは白馬の王子様 ――
今回は班分けを行わず、全員で固まって行動をしてキメラを捜索することになっていた。
「そういえば、出発前に言っていた事って何だったんでしょう?」
キメラ捜索を開始する前、サクヤが水無月に言葉を投げかける。出発前、作戦は行きながらでも大丈夫だろう、という言葉を気にしていたのだろう。
「今回のキメラは王子様だ‥‥となれば、女性の悲鳴でも聞いたら寄って来るんじゃないかね?」
水無月がニヤリと何かを思いついたように能力者達へと言葉を投げかける。
「女性の、悲鳴‥‥ですか。一理あるような、ないような‥‥そこまで王子様になりきっているでしょうか?」
終夜が苦笑しながら水無月に言葉を返す。確かに彼の言う通りの方法でキメラが寄ってきてくれれば、探す手間も省けるし、能力者である彼らは楽を出来るのだが‥‥。
「俺にも協力できることがあるならしよう。何かあるか?」
「私が悲鳴をあげましょうか?」
かくりと首を傾げながら八葉が呟く。
「いや、ただ悲鳴をあげただけではキメラが寄ってこない可能性もある。心からの悲鳴でなければいけないだろう」
という事で失礼、と呟きながら水無月は八葉の胸を触る。
「「「「「「「!?」」」」」」」
触られた八葉はもちろん、それを見ていた能力者達も驚きで目を丸くし、口から言葉が出なかった。
「い‥‥」
「い?」
「いやあああああああ! 何するんですかあっ!」
バシ、バキ、メキ、どの音か判別はつけられなかったが八葉によって殴られた水無月から鈍い音がする。
「これはキメラ退治の為だ」
殴られながらも真剣な表情で呟く水無月だったが、どう見てもキメラ退治以外の何かが働いているようにしか見えないのは気のせいだろうか。
「‥‥まぁ、誘き寄せる餌になるんだ。諦めてくれ」
ニヤリと笑みを浮かべ、ゆっくりと女性陣へと向かう水無月――有る意味、女性陣にとってキメラよりも遥かに脅威となる存在だということを水無月本人は果たして気がついているのだろうか。
「や、やめてください!」
「こんな方法だなんて‥‥」
「一言も仰ってはいませんでしたよ!」
「いくらキメラを誘き寄せるためとは言え、ひどいです!」
サクヤ、ミヅキ、オボロ、カゲツは後ずさりをしながら水無月に向かって叫ぶ。
「な、なんだろう‥‥この場合、俺達はどっちの味方をすればいいんだ」
「確かに‥‥でも女性陣の嫌がる姿を黙って見ているわけにもいかないんじゃ‥‥ないかと」
秋月と終夜が引きつった表情で呟き、女性陣に駆け寄る水無月を止め始める。
「水無月さん、これほど悲鳴が響いているにも関わらずキメラが来ないから‥‥多分、この方法は効果がないんじゃないかな‥‥」
「この状況を見て、さすがに俺達も黙って見ている事は出来ないよ」
秋月と終夜から止められ「む、そうか‥‥」と残念そうに呟く。
結局、この作戦は失敗して能力者達は皆で固まってキメラを捜索する事にした。
「えっと、スキルを使って見つけられないかやってみますね」
八葉はスキルを使用しながら索敵を行い、サクヤ、オボロ、カゲツ、ミヅキも周りを警戒しながらキメラを見逃さないように捜索を行う。
そして秋月は愛用のヘッドセットのサーマル、望遠、集音機能をフル活用してキメラ捜索を行う。
「やっぱりそれなりに広い森のせいでしょうか」
「中々キメラを見つける事が出来ませんね」
小さくため息を吐きながらミヅキとオボロが呟く。
「待ってください」
その時、八葉がぴたりと足を止め、前方をまっすぐ見る。
「この先に、恐らくキメラではないかと思われるものがいます」
スキルを使用して、何かを感じ取ったのだろう。八葉の表情が厳しいものへと変わっていた。
「‥‥来ます!」
八葉が呟いた瞬間、数十メートルほど離れた場所に問題のキメラが現れ、能力者達に攻撃を仕掛けてきたのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS 白馬の王子様 ――
「‥‥子供の夢を壊すから‥‥御伽の国に帰れ‥‥というより、貴方は王子ではない‥‥」
終夜が忌々しささえ感じさせる表情でキメラへと言葉を投げかけ、明鏡止水でキメラが乗っている白馬キメラへと攻撃を仕掛ける。
「人を歩き回らせた報いだ。さっさと地獄に堕ちてもらおうか」
水無月は獅子牡丹へと武器を持ち変え、白馬へと攻撃を仕掛ける。
「えっと‥‥あれが、キメラ?」
かくりと首を傾げながらも八葉は超機械・天狗ノ団扇でキメラへと攻撃を仕掛けた。八葉の攻撃でキメラのバランスが崩れ、乗っていた王子キメラが振り落とされ、地面へと落ちてしまう。
「王子を名乗るなら、落馬をしちゃダメだろ」
秋月は呟き、とりあえずは白馬キメラから退治する事を優先とし、鬼刀・酒呑を振り上げ、スキルを使用しながら攻撃を繰り出した。
「もし、キメラにも魂があるのなら、来世での幸福を祈らせてもらいますわ」
サクヤは呟き「神楽舞!」と大きな声で叫ぶ。神楽舞はサクヤ、ミヅキ、オボロ、カゲツがキメラを囲み、舞うように攻撃を行う4人の必殺技のようなもの。
「離れます、トドメをお願いします!」
攻撃が終わり、離れる瞬間にカゲツが叫び、その声を聞いた終夜が入れ替わるようにキメラへと近づいてスキルを使用しながら強力な一撃を白馬キメラへと繰り出し、まずはキメラの足とも呼べる白馬キメラの退治に成功した。
「残るは、お前だけだな」
水無月が獅子牡丹の切っ先を王子キメラへと向け、自分が攻撃されるのも省みず、キメラを斬りつける。
「‥‥ふっ、ただの傭兵と思ってもらっては困るな。覚悟のひとつは決めていなければエミタを埋め込んでもらった価値がないというものだ」
先ほど女性の胸を触った人物と同一人物とは思えないほどの真剣な表情である。
「八葉流参の型‥‥跳蔓草!」
八葉は攻撃する際にノリで口にするのだが、彼女の姉が見ていたらきっと笑うような技だった――が、本人は相当本気で仕掛けている。
「王子なんてリア充臭いのは間違いなく俺の‥‥いや、非リアの敵だ。それだけでお前は万死に値する!」
秋月はくわっと表情を険しくしながらキメラへと攻撃を仕掛けるのだが、言っている言葉は妬みにしかなってないような気がするのはきっと気のせいだろう。
「私達巫女は、長き時を魔を払い人々の幸せを願ってきました。今更現れた貴方たちの好きにはさせませんわ」
ミヅキは凛とした口調でキメラへと言葉を投げかけ、他の姉妹たちと協力してキメラに隙を作る事に専念する。
「私達姉妹の絆、侮らないことですわ‥‥言葉が通じてるか分かりませんが、せめてもの忠告です――‥‥遅いかもしれませんけどね」
オボロは攻撃を仕掛けながら、キメラへと言葉を投げかける。
そして4人が作った隙を突き、終夜、水無月、秋月が同時に攻撃を仕掛け、王子キメラは無残な姿で退治される事となったのだった。
「王の資質無き者を王子とは見なさない‥‥」
キメラの血を払いながら終夜が静かに呟いたのだった。
―― キメラ退治後 ――
「‥‥まぁ、運が悪かったと思ってくれや‥‥」
キメラを退治した後、水無月がキメラを見下ろしながら小さく呟く。
「俺は‥‥まだ死ねないからな。死ぬ時は‥‥彼女の胸の中ってな」
くっ、と笑みを漏らしながら水無月は空を仰ぐ。
(わたし、がんばりました!)
水無月の隣では同じく空を見上げながら、心の中で兄と姉に報告をする八葉の姿がある――‥‥が彼女の兄や姉はまだ健在である。
「それにしても、何でこんなキメラを作ったんだろうな。バグアの頭も夏ボケしてんのか」
はぁ、と秋月はため息を漏らしながら今はもう動かないキメラを見下ろす。
(戦闘中はリア充っぽく見えたが、こうして見ると明らかに残念な非リアだよな)
苦笑しつつ、キメラを哀れに思いながら「さて、仕事は終わったな」と秋月は言葉を付け足した。
「早くキメラのいない世の中になればいいんですけどね‥‥」
「その為には私達巫女が頑張らないといけません」
「そうですね、そのために私達は巫女なのですから」
「今日はもう帰りましょう、仕事は終わったのですから」
サクヤ、ミヅキ、オボロ、カゲツはそれぞれ微笑みながら互いをねぎらうように呟いた。
その後、能力者達は本部へと帰還し、白馬の王子様キメラを退治したことを報告したのだった。
END