●リプレイ本文
―― もやしがいない筈なのに ――
(ただのキメラ退治‥‥にこの面子が揃うのは珍しいっつか妙だな)
偶然だろうか、と心の中で言葉を付け足しながら呟くのは龍深城・我斬(
ga8283)だった。
確かにキルメリア・シュプール(gz0278)に関わりのある能力者が異常に集まっているから彼が疑問に思うのも無理はない。
(早く行かなくちゃ‥‥勇輝さんとガル君に遅れを取ってたまるかっ)
白虎(
ga9191)は拳を強く握り締めながら心の中で叫ぶ。
「はわわ、電話です? もしもしなのです。はわわ、き、キリーさんのお母さんですかっ? 何で僕の電話番号知ってるです? いいから話を聞け? わ、分かりました」
土方伊織(
ga4771)がびくびくしながら電話で話し、盛大なため息と共に電話を切る。
「はわわ、折角まおー様のいない依頼を受けたのに、どーしてこんなタイミングで、キリーさんのお母さんから電話があるのです?」
がっくりとうな垂れながら土方が呟く。その表情はまさにこの世の終わりを経験したかのようだった。
「電話は何て? 電話してくるなんてよっぽどの事なんじゃない?」
神咲 刹那(
gb5472)が土方に言葉を投げかけると、これから向かう場所付近にキリーが出かけているという事を他の能力者達に伝える。
「実はー、これから僕達が向かう所にまおー様が買い物に行ったらしいのですー。だからついでに一緒に連れて返って来いって‥‥脅されました」
はわわ、と言葉を付け足しながら土方は涙目で言葉を返した。脅されたというのだから、本当に脅しのような口調で土方に言ったのだろう。
「もやしが山に? でも買い物できる場所なんてねーだろ」
ガル・ゼーガイア(
gc1478)が地図を見ながら呟く。確かに彼らがこれから向かうのは山の中。街なんて何処にも見当たらない。
「もしかして、こっちじゃないですか?」
立花 零次(
gc6227)が地図の上で指を滑らせながら苦笑する。彼が指した先は、山ひとつ越えた場所。そちら側の山には麓に街がある。
「こっちか‥‥確かに歩けない距離じゃないが」
仮染 勇輝(
gb1239)が苦笑しながら呟く。
「でもこっち側にいるわけじゃないだろうシ、危険はないんじゃないカナ? キメラがいるのはコッチ側の山ダシ」
ラサ・ジェネシス(
gc2273)は「キメラ退治した後に迎えに行こウ」と言葉を付け足す。
「‥‥‥‥」
その中で1人、白虎だけが(な、なぜこうなった)と心の中で悶えていた。きっと彼としては依頼をすぱっと終わらせた後にしゅたっとキリーを迎えに行く、そんな図でも出来上がっていたのだろう。
しかし、リリシアから電話が来た事によって白虎の計画は瓦礫のようにガラガラと崩され去ってしまったのだ。
「とにかく、雨だしキメラ2体だし今回は厄介な事になりそうダナ‥‥しっかり準備しないト――って白虎殿? 顔面蒼白デスガどうかしましたカ?」
ラサが白虎に問いかけると「何でもにゃい! 何も抜け駆けなんてしようとしてにゃい!」と慌てて否定する。
誰も『抜け駆けしようとしてない?』なんて聞いてもいなかったのに。
「まぁ、別にいいけどそれじゃさっさとキメラ退治しにいこうか」
龍深城が呟き、能力者達は高速艇に乗り込んでキメラ2体が暴れている山へと出発し始めたのだった。
―― キメラ捜索開始 ――
今回の能力者達は班を2つに分けて行動するという作戦を立てていた。
A班・龍深城、白虎、神咲、土方の4名。
B班・仮染、立花、ガル、ラサの4名。
勿論何かを見つけたりキメラを発見したらお互いに連絡を取り合う事にして、雨が降りしきる山の中を能力者達は歩き始めたのだった。
※A班※
「雨ん中、山でキメラとか退治より先ず探す方が大変だな‥‥」
はぁ、とため息を吐きながら龍深城が呟く。折角残った痕跡も雨で消されてしまうから余計に雨の日の捜索は難しくなる。
「根気よく捜索するしかねぇか」
「そうだね。でも珍しいよね、普通の依頼でこういうメンバーが揃うなんて」
神咲が呟くと「他に何か言う事はないかっ!」と白虎が叫びだした。白虎が怒っている原因、それは高速艇の中で何故か青い髪染め剤と青い服に着替えさせられてしまい、白虎というより青虎みたいになってしまっているからだ。
「ほら、キメラ探しから始まるしラッキーカラーとか重要だよね」
にっこりと神咲が言葉を返すのだが「がー君もすればいいだろう! 何故ボクだけ!?」と白‥‥青虎が叫ぶ。
「いや、俺に来たら全力で抵抗するよ?」
龍深城が武器に手をかけながら言葉を返すと神咲は「しないしない」と笑いながら手を軽く振っていた。
「それにしても凄い雨なのですよー‥‥風邪引いちゃいそうですー」
土方が呟いた時、龍深城がぴたりと足を止めた。
「コレは‥‥雨で分かり難いがもしかして‥‥」
「どうかしたのかにゃ?」
青虎が問いかけると「コレ、足跡に見えないか?」と地面を指差しながら龍深城が言葉を返してきた。
その言葉に神咲と土方も地面を覗き込む。確かに雨で消えかかってはいるけれど、足跡に見えなくもない。
「あれ? でもこの足跡‥‥2人分に見えるですよ?」
土方が屈んで足跡をよく見ながら呟く。まるで逃げるかのように力強く踏まれた足跡。
「まさか、キメラに襲われてる人間がいる、とか? そういうの資料にはなかったけど」
神咲が資料の内容を思い出しながら呟く。
「でもその可能性があるなら急がないとヤバイよな」
龍深城が呟き、A班は歩く足を速めて捜索を再開し始めた。
※B班※
「これは‥‥まだ雨が強くなりそうだな」
仮染が空を見ながら呟く。既に雨は降っているけれど、どんよりと灰色な空から降る雨はどんどん強くなってきている。
「キメラとの戦いも大変そうダナ‥‥わっ」
ラサが周りを警戒しながら捜索していると、ぬかるみに足をとられてしまい、転びそうになる。
「滑りやすくなってますから、足元に気をつけてくださいね」
転ぶ寸前の所で立花が手を引き、ラサが転ぶ事はなかった。
「あ、ありがとう‥‥」
「あー、それにしてもツイてねぇなぁ‥‥今日のラッキカラーは青だったのによぉ」
ガルが盛大なため息を吐きながら呟く。持っている武器の柄の色が青色でガルは多少機嫌よく依頼へとやってきていたのだが、生憎の悪天候と悪状況に二度目のため息を吐いた。
「まぁ、AU−KV着てるし問題はねぇんだけどな! ‥‥ただ気分的なだけで」
ガルが呟きながら地面や木などを注意しながら進んでいると「ちょっと待て」と仮染が言葉を投げかけてきた。
「何か見つけたのですカ?」
仮染が何かを地面から拾っている姿を見て、ラサが問いかける。
「携帯‥‥‥‥の上半分」
「はぁ? 携帯の上半分って‥‥」
仮染の言葉にガルが近くに寄ってみてみると、確かに彼が言う通り携帯の上半分だけが持たれていた。
「こんな所に不自然ですね、もしやキメラに襲われている人がいるんでしょうか」
携帯が落ちていた付近を調べながら立花が呟く。
「でも、これ‥‥壊されたというより、明らかに意図的に壊したような気がするのは気のせいでしょうカ?」
綺麗に真っ二つに折られている携帯電話。襲われてキメラに壊されたりしたのならば、こんなに綺麗に真っ二つに折られているだろうか?
「あぶねぇ!」
その時、木の上からひゅんと矢が放たれてきてガルはラサを突き飛ばし、矢から庇う。
「雨音で全く気がつけなかったですね」
苦笑しながら立花が呟き、A班にキメラを発見した事を告げ、戦闘に入った。
※A班※
「B班がキメラを見つけたみたいなのにゃ」
連絡を受けたA班はB班と合流――とも思ったけれど、今回のキメラは2体。そしてA班が出会ったのは1体。
まだもう1体のキメラが残っている上に、こちら側にも襲われている人が居るかもしれないという事から合流は出来なかった。
「そういえば、向こうの班にもおかしな事があったみたいだな」
「真っ二つの携帯電話だっけ? 妙な物が落ちてる事もあるんだね〜」
龍深城の呟きに神咲が苦笑しながら言葉を返す。
「お〜い、誰かいるのか! 我々はキメラを退治に来た能力者だ!」
「聞こえてたら返事するのにゃー!」
龍深城と青虎が大声で叫ぶのだが、いつもならば響き渡る声でも雨音のせいでかき消されていた。
「きゃあああ‥‥!」
「い、今のって悲鳴です? 悲鳴ですよね?」
「急ごう!」
雨音に混じって僅かに聞こえた悲鳴を辿ると、キメラに襲われている子供の姿が視界に入ってくる。
「ちょ、あれやべえ!!」
龍深城は呟いた後、スキルを連続で使用して一気に駆け抜け、子供と襲っているキメラと思しき物との間に割って入る。
そしてキメラに攻撃を行い、スキルを使用して他の能力者達の所へと再び戻る。
「き、キリー!?」
「な、何でこんな所にいるのです!?」
「山一つ向こうじゃなかったのかー!」
神咲、土方、青虎は龍深城が抱えて助けた子供――キリーを見ながら慌てていた。それもそうだろう。まさかこの山の中にいるはずのないキリーがいるとは予想もしていなかったからだろう。
「恐らくさっき襲われた時にもう意識はなかったんだろうな」
戦闘に影響がない場所でキリーを木に凭れさせて「まずはキメラ退治だな」と龍深城は言葉を付け足し、戦闘を開始する。
「まおー様を襲うなんて何て事するですかー‥‥その八つ当たりは僕に来るのですよ、僕にー!」
土方はこれから起こるであろう身の危険に震えながら、キメラへと攻撃を繰り出す。男性型で剣を持ったキメラは土方の攻撃を剣で受け止め、足で蹴りつける。
「お姉ちゃんに手出しはさせないっ!」
青虎は叫びながら武器を構え、キメラへと攻撃を仕掛ける‥‥が、バナナの皮に滑ってしまい攻撃がキメラに届く事はなかった。
「だ、誰だー! こんな所にバナナの皮を捨てたのはー! ってボクだー!」
うおおお、と頭を抱えながら叫ぶ青虎だったが自分で仕掛けた物に引っかかったのだから天罰としか言えない。
「えっと‥‥とりあえず冗談でしてるのかな、青虎くん」
神咲がキメラに攻撃を仕掛けた後、青虎に言葉を投げかける。
「おい、この辺土砂崩れの可能性もありそうだから急ごう」
強くなる雨に龍深城が呟き、それぞれの動きをあわせるようにしてキメラを攻撃していく。
※B班※
「まさかもやしがここにいたなんてな!」
キメラの矢を避けながらガルが叫ぶ。あれからA班から連絡を受けたB班はキリーがいた事に驚きを受けていた。
「雨に打たれたのと、キメラから受けていた傷で今は意識がないそうですガ‥‥大丈夫でしょうカ、キリー殿」
ラサはキメラを狙いながら呟くのだが、キメラに攻撃は当たる事がなかった。
しかし、ラサの攻撃を避けたキメラは地面へと下りてきて能力者達に有利な状況を作り出している。
「もしかしたら、この携帯も」
仮染は見つけた携帯(上半分のみ)を見ながら呟き、キメラを強く睨みつける。
「まさか、お前もキリーさんを追い掛け回したのか? その弓でキリーさんを襲ったのか?」
低く呟く声、だがその声は小さくて他の能力者達には聞こえなかった。
「援護射撃行きます」
立花は呟きながらスキルを使用して、キメラの側面から弓で攻撃を仕掛ける。立花の弓で動きが鈍った所を仮染が真正面から攻撃を仕掛ける。
「おら! カンチョーの痛みを思い知りやがれ!」
キメラの背後に回ったガルは装備していた槍で強烈な刺突攻撃を繰り出す。
「が、ガル殿‥‥キメラなのですけど、確かにキメラだケド、その攻撃は見ていてセクハラ的な何かを感じるですヨ」
苦笑しながらラサが銃で攻撃を繰り出しながら呟く。確かにこの場にキリーがいたら「何変態な事してんのよ、この変態どえむ!」と叫ばれていただろう。
「でもキメラだから」
仮染が呟いた後、強く斬り付けて2つの班の能力者達はキメラ2体を無事に退治する事が出来たのだった。
―― キメラ退治後 ――
「う、うー‥‥ん」
あれから次第に雨足も遠のき始め、能力者達は合流しており、キリーが目覚める。
「お姉ちゃん! 大丈夫!?」
「はわわ、恐怖のまおー様が目覚めたですよ‥‥」
「やぁ、キリー。水も滴るいい女――かな?」
青虎、土方、神咲が目覚めたキリーに言葉を投げかけたのだが‥‥。
「‥‥‥‥」
「どうかしましたか?」
黙りこくったキリーを不思議に思って、立花が問いかける――と同時に‥‥。
「もう青なんか見たくもないわよ! 何なの、それ! 嫌がらせ!? 大体今日のアンラッキーカラーが青だって言うのに、何でわざわざ目の前に現れるわけ!? 大体ね、何でわざわざ髪染めて、服も青にしてんのよ、このバカ虎!」
一気に捲くし立て、キリーが再び青虎を殴りつける。
「はわわ、僕の髪の毛は天然ですぅー!」
「俺だって天然なんだけどね、どこかの青虎君と違って」
「な、何をー! ボクだって自分からしたわけじゃないのにゃ!」
それぞれぎゃあぎゃあと喚きたてる中、龍深城が「大丈夫か? あんまり無理すると大変だぞ。毒受けてたんだから」とキリーに言葉を投げかける。
女性型キメラが持っていた矢には毒が塗られていたらしく、合流した後に龍深城が治療を行なっていた。それと怪我をした能力者を立花がスキルを使用して治療していた。
「大体何でこんな所にいたんだ、もやし」
ガルが問いかけると「ふんっ」と鼻息荒く答え始めた。
「お洋服買ってたらバスの出発時間をちょっとだけ過ぎちゃったわけよ。チケットも買ってたし、置いてかれる事はないと思ってたら、見事に置いてきぼりにされて、仕方ないから歩いて帰ろうとしてたら雨降るし、泥まみれになるし、襲われるしでもう散々だったわ」
はぁ、とため息を吐くキリーを見て、どこからツッコミを入れていいかわからずにいた。
「もやしって結構ドジなんだな!」
ガルが言葉を投げかけたが「誰がドジなのよ! この変態ドエムが!」とバチーンと平手打ちを食らわす。その攻撃でガルは倒れたのだが、倒れる瞬間――気持ち良さそうにしており、やはりドエムだという事が証明されていた。
「それにしても気持ち悪いなぁ」
びしょ濡れの服を気持ち悪そうにしているとラサがテントを持って来ているらしく、その中で着替えをする事になった。
その時、青虎がスクール水着などを差し出してきたのだが「てめぇが着ろよ」と顔に押し付けられてしまう。
「今度は可愛いお洋服が汚れないように、これを使ってください」
立花が傘を差し出し「ありがとう」とキリーが素直にお礼を言う。
「いえいえ、今度はキメラに襲われないように買い物に行かなくちゃダメですよ」
立花の言葉に「好きで襲われたんじゃないわよ」と鳩尾を殴られて、立花はその場に蹲る。
その後、青虎が持参してきたお弁当を高速艇の中で食べながらLHへと帰還していったのだった。
END