●リプレイ本文
―― キメラ退治と救助のために ――
今回、能力者達に課せられた任務はキメラ退治と逃げ遅れた住人の救助というものだった。
「単に逃げ遅れたのか‥‥もしかしたら‥‥怪我をしているのかもしれない‥‥早急に‥‥対処しないと‥‥」
資料を見つめながら幡多野 克(
ga0444)が独り言のように呟いた。
「依頼そのものは難しいものではないみたいだけどな‥‥単純な殲滅と救助、だが‥‥今回のキメラは犬、犬は天性の狩人だからな‥‥」
グロウランス(
gb6145)も小さくため息を吐きながら「まごまごしては居られんかもな」と言葉を付け足しながら呟いた。
「んー‥‥できれば事前に家族にでも話を聞いて、逃げ遅れた人がいた場所について聞いてみたかったんだけど‥‥さすがにそんな余裕はなさそうだね」
フローラ・シュトリエ(
gb6204)が肩をすくめながら呟く。話を聞こうと思えば聞く事は出来るかもしれないが、その間に逃げ遅れた住人に危険がないとも限らない。
「とーぅ!」
しゅぱっとポーズを取りながら資料を見るのはジリオン・L・C(
gc1321)だった。ちなみにポーズを取っているせいで、少し資料を見にくそうにしているのは気が付かない振りをしてあげた方がいいのだろうか。
「彷徨える魂達が、この街に‥‥だとゥ! ハァーッハッハッハ! よかろう、俺様の炎天よりもなお熱い魂で‥‥導いてやるぜ!」
再びしゅぱっとポーズを取りながら楽しげにジリオンが叫ぶ。
ちなみにジリオンは『魂』と言っているが、別に住人が手遅れの状態というわけではない。
「何か‥‥魂って言われると、不吉な感じがするのは気のせいかな‥‥」
苦笑しながら呟くのは獅堂 梓(
gc2346)だった。
「逃げ遅れた人は‥‥少なくとも3人か‥‥キメラに襲われる前に確保したいとこだね」
急がないと、と御剣 薙(
gc2904)が言葉を付け足しながら呟く。
「そうですね、キメラもそうやけど、逃げ遅れた人たちの安否が気になりますわ‥‥助けを待ってるでしょうし、早いところ行って、助けなあきませんな」
御剣の言葉に月見里 由香里(
gc6651)が首を縦に振りながら言葉を返す。
「でも、逃げ遅れた人は運が悪かったね♪ さぁ果たして彼らは無事に家族の下へ帰れるのだろうか!? なんてナレーションが流れてそうかも!」
エレナ・ミッシェル(
gc7490)が拳をぐっと握りしめながら呟く。多少不謹慎な言葉が見え隠れしているが、そこは思った事をすぐに口に出してしまう子供ゆえの素直さのせいなのだろう。
「逃げ遅れた住人達がどんな状況になっているかは分からないが、仕事である以上、完璧にこなしたいものだ」
グロウランスが呟き、能力者達は逃げ遅れた住人を救助する為、そしてキメラを退治する為に高速艇へと乗り込んで、目的の街へと出発したのだった。
―― キメラと住人捜索 ――
今回は捜索対象がキメラと住人という事もあり、能力者達は班を2つに分けて行動する作戦を立てていた。
1班・獅堂、御剣、フローラ、ジリオンの4名。
2班・グロウランス、月見里、幡多野、エレナの4名。
「それじゃ‥‥お互いに連絡を‥‥取りあって、捜索をしましょう‥‥」
幡多野が呟き、2つの班はそれぞれ行動を開始したのだった。
※1班※
「血の匂いに誘われて、ノコノコと顔を出してくれると楽なんだけどねぇ」
獅堂は血の滴る肉を見ながら小さく呟く。キメラを誘き出せるかもしれない、と考えて彼女は生肉を持参してきていた。
「誰かいませんか!? ULTの傭兵です、救助に来ました!」
御剣は大きな声で叫ぶが、周りからの返事はない。
「‥‥早く、見つける事が出来ればいいんだけど‥‥」
御剣は「‥‥はぁ」と小さくため息を吐いた後、再び「誰かいませんか!?」と大きな声で問いかけ始める。
「どちらかを先に見つける事が出来れば、対処もしやすいのかもしれないんだけど‥‥キメラがいる中でとなると、無闇に時間をかけるわけにはいかないわよね‥‥」
フローラは小さく呟く。
確かに彼女の言う通り、捜索に時間をかければかけるほど住人の危険が増していく。
だからこそ能力者達は焦っている部分があるのかもしれない。
「やっっっほ―――――ぅぃ! 俺様だっぞぉぉぉぉぉ! 助けが来たぞぉぉぉぉぉ! 俺様達が来るまで動くなよぉぉぉぉぉぉぉぃ!」
ジリオンが街中に響き渡るのではないかというくらいに大きな声で叫ぶ。
「気のせいかな、何か山に来てるような感じがする」
叫ぶジリオンを見ながら獅堂が笑いをこらえながら呟く。
「あ、もしかして‥‥あれがキメラじゃ‥‥」
フローラが指差した先にいたのは、1匹の犬。ただ普通の犬と違うのは、口元が真っ赤に染まっているという事。
あまり考えたくはないけれど、おそらくは誰かを襲い、その時についた人の血なのだろう。
まさか、既に犠牲者が――?
そんな言葉が能力者達の頭に過った時、2班から通信が入り、1班がいるすぐ近くの場所で救助対象の3名を発見したと連絡が入った。
そのうちの1人は怪我をしているが、命に別状はないとの事。
「治療が終わり次第、こっちに向かうとの事です。だからボク達はここでキメラの足止めをしておけばいいんですね」
御剣が呟き、1班の能力者達はキメラへと攻撃を仕掛けるのだった。
※2班※
時を少しだけ遡り、1班と別れた頃に戻る――‥‥。
「キメラの数が‥‥不明だけど‥‥複数いる事を想定しておいた方が‥‥いいかな‥‥」
捜索を行いながら幡多野が小さく呟く。
確かに能力者に渡された資料にはキメラの数が明確にされていなかった。
「そうだな‥‥複数いる事を考えていた方がいいだろうな。いなかったらいなかったでよし、いたらいたで殲滅すればいいだけの話だからな」
幡多野の言葉にグロウランスが言葉を返し「しかし‥‥」と同じ班の能力者達を見渡す。
「うむ、美人さんも居てオッサンには嬉しい限りだ」
うんうん、と首を縦に振りながらグロウランスが呟き「確かにオッサンだね!」とエレナが満面の笑みで言葉を返した。
(‥‥‥‥確かにこの子から見たらオッサンだけど、面と向かってオッサン言われると少しばかり、傷つくのは何でなんだろうな)
エレナの言葉に引きつりながらグロウランスが心の中で呟く。
「とりあえずー、このお家から突撃ー♪」
エレナは近くにあった家の中に入り込む。
「こちら可愛い可愛いエレナちゃん♪ 今から潜入開始しまーすっ! 何かあったら連絡するよー!」
1班に連絡を入れた後「突撃開始ー!」と叫びながら家の中へと入っていく。
「あんまり派手に動くとあきませんって」
月見里が慌ててエレナの後を追う。
「‥‥キメラがいても‥‥救助者がいても‥‥騒げば見つけてもらえやすいかな‥‥」
幡多野が呟き、エレナと月見里の後を追いながら家の中へと入る。
家の中はシンと静まり返っていて、人の気配は感じられなかった。
「‥‥慌てて‥‥逃げたんだろうね‥‥」
幡多野が家の中の様子を見て呟く。確かに彼の言う通り、家の中には物が散乱していて、慌てて荷物をまとめて逃げた――という感じだった。
「‥‥外からの様子は、どうですか‥‥?」
幡多野は家から出て、屋根の上から様子を見ているグロウランスへと言葉を投げかける。
「地図によると、ここから少し向こうに行けば避難所があるみたいですけど‥‥」
月見里も外へ出て、グロウランスに周りを見るようにと頼む。
「う〜ん、この家には誰もいなかったかー‥‥別の家に突撃―っ♪」
家の中に誰もいなかったのを確認すると、エレナは次の家へと向かって突撃を開始する。
それから暫くの間、捜索を続け、能力者達が町はずれにある家の中から聞こえる呻き声に気づき、救助者3名を発見する。
「怪我‥‥してますね、大丈夫ですか? すぐに治療しますから‥‥」
月見里が呟きながら救急セットを取り出して、負傷している住人の治療を始める。
「傷の方は?」
グロウランスが問いかけると「出血は多いみたいですけど、命に別状はなさそうですわ」と月見里が言葉を返す。
「よ〜し、可愛いエレナちゃんが1班に連絡しておくねっ! こちらエレナちゃん! 救助者発見したよー! 血がどばーってなってるけど、命に別状はないって! ちなみに街はずれにある家の中にいるよ!」
エレナがトランシーバーで1班に連絡を行い、1班と2班は近くにいるようであり、1班はキメラを発見したとエレナに伝えてきた。
「それじゃ、治療が終わったらすぐにそっちに行くねー!」
エレナが通信を切り、通信で得た情報を他の能力者達に伝える。
「‥‥キメラは他にいるんですか‥‥?」
幡多野が住人に問いかけると「いえ、1匹しか見てませんけど‥‥」と言葉を返してくる。
「とりあえず、キメラも近くにいるんじゃ下手に動くよりここにいた方がいいかもしれんな。キメラを退治した後、避難所まで連れていけばいいだろう」
グロウランスも治療を手伝いながら呟き、応急手当をした後、住人を残して1班のいる場所へと向かい始めたのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
2班が住人の治療を終えて、1班がいる場所へと合流したのは通信をしてから十分程度が経過した頃だった。
キメラの数が1匹という事もあり、2班が来るまで1班はあまり苦労する事もなく牽制を行っていた。
「怪我人もいるんだから、時間をかけてはあげられないよ‥‥」
幡多野が呟きながらキメラを見据え、月詠を振り上げてキメラへと攻撃を仕掛ける。スキルを使用して攻撃力を上昇させてからの攻撃だったせいか、予想よりも遥かに大きなダメージをキメラに与える事が出来た。
「さすがに犬という事だけあって、多少素早さに覚えがあるのか‥‥だが、足さえなくなってしまえば、それも無意味だろう」
グロウランスは呟きながら、超機械・扇嵐を構え、スキルを使用して能力者達の武器を強化し、キメラの防御力を低下させる。
そしてキメラの後ろ脚を狙って攻撃を行う。グロウランスの攻撃をキメラは避けようとしたのだが「逃がさないわよ」とフローラのエネルギーガンの攻撃を受けて足止めをされてしまい、グロウランスの攻撃を避ける事は出来なかった。
「平和に暮らしている街に押し入ったのはあなた達でしょ。自分だけ逃げようなんて随分自分勝手だと思わない?」
フローラは呟き、再びエネルギーガンで攻撃を行う。だが、攻撃を受けたキメラはフローラめがけて突進をしようと勢いよく走りだす――が。
「勇者タッコゥ!」
ジリオンの勇者タックルがキメラへとお見舞いされ、ジリオンと共にキメラは壁に激突してしまう。
「くっ‥‥人助けにはなるが、地味に痛いぞ、この野郎!」
頭を打ってしまい、ジリオンは涙目になりながらキメラへ言葉を投げかけるのだがもちろん通じる筈もない。
「ジリオンさん、避けて!」
直後、獅堂が大きく叫び、ジリオンはすぐ横に避ける。
それと同時に「撃ちぬく!」と獅堂が叫び、彼女愛用の武器でキメラの右足に杭を打ち込んだ。
「キミのその口についてる血、誰のものなのかな‥‥命に別状はないってさっき聞いたけど、それでも痛いんですよ」
御剣は小さく呟くと、機械脚甲・スコルを装着した足でキメラへ強い蹴りを入れる。
「傷つけられた人の痛みは、ここに住んでる人達の痛みは、こんなもんじゃない」
何度も蹴りを入れながら御剣は呟く。
しかし、キメラも反撃に出て、御剣に噛みついた後、攻撃の対象をエレナへと向ける。
「‥‥行かせる思いますか?」
月見里が呟き、深呼吸をした後『呪歌』を使用し始める。軽やかなメロディに乗せて使用されるそのスキルはだんだんとキメラの自由を奪い、ついには動く事も出来なくなってしまう。
「おーっとぉ、動けなくなりましたっ! そこへ可愛いエレナちゃんの攻撃ぃ!」
エレナは小銃・バロック、小銃・ブラックローズを構えてキメラへと狙いを定めて撃つ。動く事が出来ないキメラはもちろんそれを避ける事が出来ず、すべての弾丸をその身に受けてしまう。
そして、ジリオン、獅堂が連携してキメラへと攻撃を繰り出し、能力者達は街に潜むキメラを無事に退治する事が出来たのだった。
―― キメラ退治後 ――
能力者達はキメラを退治した後、逃げ遅れた住人を避難所まで連れて行った。
避難所に連れて行くと3人の家族が喜び、何度も「ありがとうございます」と言いながら能力者達に頭を下げてくる。
「‥‥無事でよかった‥‥」
家族が心配しているだろう、と思っていた幡多野がホッとしたように呟く。
「まぁ、怪我はしたが命あって何よりだ――しかし、こいつを使う暇がなかったな」
グロウランスは持参してきた試験管を見ながら苦笑する。キメラの嗅覚を奪う為に持ってきたものなのだが、それを使う事なく退治する事が出来たのだ。
(嗅覚も犬並だったら、相応の嫌がらせになるかと思ったんだけど)
グロウランスは心の中で呟く。
「他にも怪我した人はいない? いたら治療するわよ」
避難所にいる住人達にフローラが言葉を投げかけるが、負傷したのは逃げ遅れた住人だけのようで「怪我がないなら、何よりだね」と言葉を付け足した。
「今回の任務もうまくいったようで何よりだ。さすが勇者パーティーだな! さすが勇者! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ!」
しゅぱっとまたもやポーズを取りながら言うジリオンに他の能力者達は苦笑する。キメラ退治で疲れているはずなのに、よくも元気に動けるものだ、とでも思っているのだろうか。
「緊急事態だったからキメラの数も明確にされていなかったのかしらね。まぁ、なんにせよ、大きな怪我もなく無事にキメラを退治できてよかったわ」
獅堂も服の汚れを払いながら呟く。
「キメラ退治‥‥確かにキメラを倒すのもウチらの仕事やけど、やっぱり一人でも多くの人を救うんがウチの性にあってますわ」
月見里の言葉に「そうだね‥‥ボクもそう思うよ」と御剣も言葉を返す。
その後、僅かの休憩を終えた能力者達は、本部へ依頼成功の報告を行う為にLHへと帰還していったのだった。
END