●リプレイ本文
―― 傭兵救助に向かう者達 ――
「ふぅん‥‥キメラが2匹と要救助者がいるわけさね」
ソルナ.B.R(
gb4449)が資料を見ながら小さな声で呟く。
今回の能力者達に課せられた任務内容、それは森の中に潜むキメラ2匹の殲滅と取り残された能力者1名の救助というものだった。
「キメラが潜む中に取り残されちゃったんだ‥‥依頼書を見る限りそれ程強いキメラじゃない筈だけど‥‥その人、何か迷いがあったのかな?」
御剣 薙(
gc2904)も資料を見ながら呟いた。御剣の言う通り、キメラの強さ自体は大したものではない筈であり、救助対象になっている能力者、そして救助要請を出してきた能力者達でも十分に勝てるんじゃないだろうかという事が伺える。
(とにかくあまり猶予はなさそうだ、早く行って見つけないと‥‥)
御剣は拳を強く握りしめながら、心の中で言葉を付け足した。
「油断する‥‥ってわけじゃねぇけど、キメラよりも救助者の方が心配だな」
小さくため息を吐きながら荊信(
gc3542)が呟く。
「そうだね! ヨーヘーさんがピンチなんだもんね! お助けしなきゃ♪」
がんばろーね、と他の能力者達に言葉を投げかけるのはまだ幼い火霧里 星威(
gc3597)だった。
「おう、がんばろーぜ!」
火霧里の頭を撫でながら言葉を返したのは空言 凛(
gc4106)だった。
「資料を見ればー、森って言ってもそこまで広い森じゃないみたいだから、探すのに苦労はしないかもな。まぁ、現地行かないと詳しい事はわかんないけどさ」
「そーだねー、あれ? 炬烏介にーちゃん! どーしてココに来たのぉ?」
火霧里は同じ小隊の仲間である不破 炬烏介(
gc4206)を見つけて言葉を投げかける。
「ヒトは‥‥何故。戦う‥‥少年‥‥さしず、め‥‥無垢の子。お前、は。己の『宿命』を‥‥信じる‥‥か‥‥?」
不破が火霧里に問いかけるのだが、火霧里は首をかくりと傾げながら(やっぱり、何かフシギな感じがする人なの!)と心の中で呟いていたのだった。
「救助対象、か‥‥負傷してるから逃げられなかったんだろうし、時間もだいぶ経過してる‥‥無事でいてくれるといいんだけど‥‥」
資料を見ながら杉田 伊周(
gc5580)が小さな声で呟く。同じ能力者という立場、そして医者という立場からも救助者である男性の事が心配で仕方ないのだろう。
(今回の任務は、怪我を負った能力者の救助、ですね‥‥人の命がかかっています‥‥初めての任務といえど、気を引き締めなければ‥‥)
唇を噛みしめ、拳を強く握りしめながらレスティー(
gc7987)が心の中で呟き「足手まといにならないようにしなければ‥‥」と小さな声で言葉を付け足したのだった。
「そろそろ急いだ方がいいかもしれないね。こうしている間にも救助対象者は危険に曝されているかもしれないさね」
ソルナが言葉を投げかけ、能力者達は高速艇へと乗り込んで、キメラと負傷した能力者がいる森へと出発していったのだった。
―― 静寂の森にて ――
今回、能力者達がやってきた森は広いと言える場所ではなかったが負傷者捜索の為に班を2つに分けて行動する作戦を立てていた。
A班・荊信、不破、火霧里、杉田の4名。
B班・レスティー、ソルナ、御剣、空言の4名。
「負傷者、キメラ‥‥どっちかを見つけたらすぐに連絡、ですね」
御剣が呟き、能力者達はそれぞれの班で行動を開始したのだった。
※A班※
「血痕があるね‥‥あっちに続いてる」
杉田が木の近くにある血痕を発見して立ち止まる。捜索開始早々に地面にある血痕を見つけ、近くに負傷者がいるのかと考えたが、既に乾ききっていて、新しい血痕とは言えなかった。
「どれくらいの怪我をしてるか分からねぇが、予想以上に急いだ方が良さそうな感じだな」
荊信が呟くと「‥‥キメラと、思われる‥‥足跡‥‥ある」と不破が立ち止まりながらぽつりと呟いた。
「ホントだ、ココだよ、ココー!」
荊信と杉田を呼ぶように火霧里が子供らしくぴょんぴょんと飛び跳ねながら2人が足跡付近まで来るのを待っていた。
「‥‥大きさがわずかに違う足跡が2つ、そしてその周りにある血痕‥‥冗談抜きであんまり良くない状況なんじゃないかな」
杉田の言葉に荊信も同意らしく、首を縦に振って答えた。
「‥‥無垢の子‥‥何か、分かった‥‥か‥‥?」
不破が火霧里に言葉を投げかけると「ううん、まだ何にも‥‥この辺にはいないんじゃないかな」と言葉を返してくる。
捜索を開始してから火霧里は『バイブレーションセンサー』を使用して異変がないかを調べているのだが、まだ何も引っかかるような事はなかった。
「簡単には見つからない、か。仕方ない、もう少し向こう側を探してみよう。とりあえずキメラか負傷者、どっちかを見つける事が出来ればいいんだが‥‥」
ため息交じりに荊信が呟き、A班の能力者達は移動して捜索を再開したのだった。
そして、捜索開始から30分が経過しようとした頃――‥‥。
「居るよ‥‥すごく弱い感じだけど、距離は――うん、すぐ近く‥‥」
火霧里が呟き、荊信、不破、杉田は慌てて周りを警戒し始める。
「‥‥う‥‥うぅ‥‥」
「あそこだ!」
森の奥側、よく探さないと分からないような場所に腹を押さえて呻く男性の姿を見つける。
「こちらA班、要救助者をはっけ――‥‥」
杉田がトランシーバーを使ってB班に連絡を入れようとした時、森中に音が響き渡り、照明銃が打ち上げられる。
そして打ち上げられた直後にB班からの連絡が入り、キメラ2匹を発見して交戦中という事が伝えられた。
「‥‥打ち上げられた場所、すぐ‥‥近く‥‥」
不破が少し離れて様子を見ると、すぐ近くにB班がキメラと交戦している様子が見受けられた。
「‥‥治療に入るよ、護衛は頼んだ」
杉田が呟くと「了解」と荊信が言葉を返し「俺と杉田は要救助者の治療が終わった後に合流する」とB班に伝え、不破と火霧里はB班へ合流する為に走り出したのだった。
※B班※
時をまだB班がキメラを発見していない時まで遡る‥‥。
「獣は鼻が利くさね、奇襲に気を付けていこうか」
ソルナが周りを警戒しながら同じ班の3名に言葉を投げかける。
「予想よりは明るいけど、やっぱり森の中という事もあって鬱蒼としてるね」
御剣は覚醒を行い、AU−KVを装着して胸部装甲のライトで森の中を照らしながら呟いた。昼間という事もあり、見えないほどに暗いというわけではないが、薄暗い事に変わりはなく、ライトで照らした事によって様々な痕跡も見逃す事はないだろう。
「さぁて、サクっと探そうぜ! どっちにしろ救助者もキメラもお互いの近くにいると思うんだけどな」
空言が呟きながら、周りを警戒し、少しの音も聞き逃さないように耳を澄ませる。
(‥‥早く見つけなければ‥‥)
小さく呼吸を飲んだ後、レスティーが心の中で呟く。初任務という事もあってか、レスティーはやや緊張気味の様子だった。
「そんなにガチガチにならなくても大丈夫だって! あんまり気負いすぎると逆に悪い方に行くんじゃねーかな」
レスティーの背中を軽く叩きながら空言が言葉を投げかける。
「いえ、わたくしは初任務ですし‥‥足手まといにならないようにしなければ‥‥」
「初任務っていうのは誰にでもあるんだし、空言さんの言う通りであんまり気負いすぎない方がいいと思うよ」
御剣もレスティーに言葉を投げかける。
「‥‥おや」
3人のやり取りを見ていたソルナがポツリと呟く。もちろんソルナ以外の3名も『異変』について気づいたらしく、そちらへと視線を向ける。
すると能力者達に向かって威嚇をする狼――キメラ2匹の姿が視界へと入る。
「とりあえずこっちに引きつけておこうか」
「同感さね」
空言の言葉にソルナが首を縦に振って答え、照明銃を打ち上げ、キメラが怯んだ隙に御剣がトランシーバーを使って、A班へと連絡を入れる。
「‥‥わかりました」
通信を終えた後、御剣が真剣な表情で「A班も要救助者を発見して、現在治療中との事です。荊信さんと杉田さんは治療を終えてからこちらへと向かうそうです」
A班が意外と近くにいる事にB班は驚き、それ以上にキメラをA班の方へ行かせてはならないと考え、戦闘を開始したのだった。
―― 戦闘開始、キメラと負傷者 ――
(‥‥これは酷い‥‥)
治療を行いながら杉田は心の中で呟く。一番酷い傷なのが腹部であり、他にも手、足など重傷とまではいかない怪我があちらこちらに存在している。
「‥‥少し離れる、1匹こっちに来るかもしれん」
荊信は呟き、少しだけ、だが万が一の事があった場合にはすぐに駆けつけられる場所に移動する。
「‥‥仲間の、所に行かなくて‥‥いいのか」
治療を受けている男性が杉田へと言葉を投げかける。
「そんな心配はいらないですよ。ボクの仕事は君を治療する事ですから」
杉田は言葉を返し、そのまま治療を続ける。しばらくした後に再び荊信が戻ってきて「‥‥どうだ?」と男性能力者を見ながら杉田に問いかける。
「大丈夫です。後はちゃんと病院に行って安静にすれば問題ないですよ」
杉田の言葉に荊信は安心したように「そうか」と言葉を返す。
「‥‥俺は大丈夫だから、仲間の所に行ってやってくれ‥‥」
男性能力者の言葉に「ボクはここから支援させてもらいます」と言葉を返し、荊信は前線で戦う能力者達の元へと駆けて行ったのだった。
「この道は聖者の道だ‥‥貴様らには似合わんさね‥‥」
負傷者、そして杉田の方へと向かおうとするキメラ2匹を見ながらソルナが呟き愛用の妖刀を構えてキメラの前に立ちふさがる。
「そう、君達の相手はボク達だよ」
スキルを使用しながら御剣がキメラへと攻撃を繰り出す。
「‥‥ううぅ‥‥雷神のジュツ、いっくよォオオ!」
火霧里は機械巻物・雷逅を構えながら叫び、キメラへと攻撃を行う。御剣、ソルナによって攻撃を受けた直後のキメラは避ける事が適わず、火霧里の攻撃を受けてしまう。
「ほらほら、よそ見してると怪我しちまうぜ? よそ見してなくても怪我するかもしんないけどな!」
空言は攻撃を仕掛けながら楽しげに叫ぶ。空言から攻撃を受けたキメラは反撃を仕掛けたのだが、空言がステップ中に木を挟んでいた為、キメラは空言ではなく、木に噛みついてしまう。
「‥‥所詮‥‥雑魚、か。だが‥‥ソラノコエ、言う‥‥『敵ハ敵‥‥然ルベキ、暴力ヲ』‥‥殺す、殺す殺す‥‥!」
不破は呟きながらキメラとの距離を詰め、一気に強力な一撃を叩きこむ。
だが、攻撃を受けて尚も向かってくるキメラに不破も攻撃を受けてしまう――が、キメラの攻撃が直撃する寸前にレスティーがスキルを使用して防御力を上昇させていた。
「‥‥ま、間に合ってよかった‥‥」
ほっと胸を撫で下ろしながらも警戒を続ける。
「貴様らに似合うのは死への道のみさね」
さっさとお眠りよ、と言葉を付けたしてソルナがキメラへと攻撃を繰り出す。キメラは立ち上がり、攻撃を行おうとしたが荊信の銃撃が命中し、キメラは地面へと倒れこむ。
「‥‥時間が、惜しい‥‥死ねよ‥‥あっけなく‥‥虐鬼双王拳‥‥!」
不破が低い声で呟き、自らの技で攻撃を繰り出し1匹――そして空言と御剣が連携を行い、スキルを使用して2匹目へと攻撃を繰り出し、能力者達は無事にキメラ退治を終える事が出来たのだった。
―― 迷うならば ――
キメラ退治を終えた能力者達は男性能力者の所へと来ていた。杉田の治療のおかげで男性能力者は一命を取り留め、最初よりはだいぶ良い顔色になっていた。
「そういえば、さっきは助かったさね。キメラの防御力を低下させてくれていただろう」
先ほどキメラにトドメを刺す間際、杉田がスキルを使用してキメラの防御力を低下させていたのだ。
「ひ弱なお医者さんでも、支援では役に立てるかなと思ってね」
杉田が苦笑しながら呟くと「役に立つどころか、今回はあんたがいなかったらもっと大変だったと思うよ」と空言が男性能力者を見ながら言葉を返した。
そして、能力者達は何故今回のような事になったのか、男性能力者を問い質す。
「迷い‥‥? 私も最初は不慮の死を恐怖していた事があった気がするけど奴らを道ずれにくたばるのなら、今は喜んで受け入れるだろう。戦う事の意味など知らぬが、ただそれが私を生かし、動かす力になっているのだから迷う事はない」
きっぱりと言い放つソルナに男性能力者は「‥‥強いね」と申し訳なさそうに言葉を返した。
「汝、暴威を薙ぎ払う剣たれ――これがボクの学んだ御剣流の心得、バグアという暴威から皆を守る剣でありたいから、ボクはこの道を選んだんだ」
御剣は目を伏せ、そして決意溢れる瞳で男性能力者をしっかりと見据えながら呟く。
「俺はバグアの連中が気に食わねえ。だから奴らと殴りあう。これは俺の喧嘩だ、それ以上でも以下でもねえ! ただ‥‥理由が見つからねえならとっとと降りるこった」
さもねぇと、次は死ぬぞ――全身が震える程の冷えた視線を男性能力者に向けながら荊信はタバコを咥えながら言葉を投げかけた。
「迷ってたねぇ、戦いの最中にあれこれ迷ってたら、そりゃこうなるよな。目的忘れたってんなら、適当に新しい目的でも考えたらどうだ? 身体張って新人逃がしたんだから、自分のやるべき事は忘れちゃいねぇんだろ?」
空言の言葉に男性能力者は「‥‥ほとんど、無意識だったんだ。逃がさなくちゃって」と小さな声で言葉を返してくる。
「それでいーんじゃねぇの? ごちゃごちゃと考える必要なんてないと思うぜ? もっと単純に自分の心に聞いてみな」
「‥‥心折れた傭兵‥‥お前は‥‥ソラノコエ、言う‥‥『何ヲ目指シ、戦人トナッタ』‥‥何故、戦いを始めた」
不破の言葉に「炬烏介にーちゃん、ちょっと難しいよぉ」と火霧里が言葉を返す。
「あの、わたくしは今回が初めての任務ですが‥‥わたくしは皆さんの笑顔を見る為に、そして未来ある子供達の為に戦おうと決めました‥‥」
レスティーは強く拳を握りしめながら、ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。
「無論、戦いが終われば私の名など、誰も覚えてはくれないでしょう。それで良いのです。だって、世の中を動かしているのは、多くの名も無き方達なのですから‥‥命をかけていようと、そうでなかろうと‥‥私は未来への捨石になれるのなら、それで本望なのです」
だから、貴方も貴方の心の思うままに動いて下さい――レスティーは言葉を付け足しながら男性能力者へと言葉を返した。
「‥‥ありがとう、これからどうするかまだはっきりとは決めてないけど‥‥もう一度よく考えてみるよ。誰よりも自分で後悔しないように」
男性能力者は「ありがとう」と言葉を付けたし、支えられながら高速艇へと向かう。その表情は最初の暗いものではなく、吹っ切れた清々しい表情だった。
END