●オープニング本文

きっと、ボクにとっては絶対に忘れられない相手。

忘れようと思っても、絶対に忘れる事なんかできるはずがない。

正直な話、あの人が目の前にいたらすぐにでも殺してやりたいって思ってるから。


※※※


とある街で子供の誘拐事件が多発していた。

いなくなる子供はすべて小学生の男の子という奇妙な事件だった。

しかし、行方不明者がすべて子供――そして『彼』らしき人物の目撃情報が上がっており、
オペレーターである室生　舞（gz0140）は拳を強く握りしめながら資料を読んでいた。

（また、この人が動き始めたの‥‥？）

舞は心の中で呟きながら、能力者達に渡すために資料を集め始める。

もしかしたら違うバグアの仕業なのかもしれない。

もしかしたら、たまたま男の子ばかりが誘拐されたのかもしれない。

もしかしたら、バグアじゃなくて人間が起こした犯罪なのかもしれない。

そう心の中で願いながら、舞は資料まとめをしていたのだが、まとめればまとめるほどに
『彼』の仕業にしか思えなかった。

（また、ハルみたいな事が起こるのかな‥‥）

舞は心の中で呟きながら、早く事件が解決する事を祈るのだった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

――　動き出す闇　――

「今回の事件と似たような事件が過去に多発していました。その、関連性があるかは分からないんですけど‥‥気をつけて下さい」
　室生　舞（gz0140）が今回の事件に似ている事件の報告書を能力者達に差し出しながら震える声で呟き始める。
「惨い事をする‥‥」
　舞から渡された資料を読み、終夜・無月（ga3084）が眉を顰めながら呟いた。
「‥‥彼が動きだした‥‥という事ですか‥‥？」
　水無月　春奈（gb4000）が問いかけると「‥‥はっきりとは、言えません」と俯きながら舞も言葉を返した。
「舞君、過去の事件との類似点は？」
　夢守　ルキア（gb9436）が資料を読みながら舞に問いかける。
「類似点は、いなくなった子供が全て小学生くらいの男の子という事と男が目撃されているという事です‥‥」
　申し訳なさそうに舞が謝ると「いや、何人誘拐されたのかとか使われてない建物があるとか、分かるかな？」と夢守は聞き返す。
「えっと山の中に使われなくなって長い廃館があります。それと行方不明が確認されている子供は５人のようです」
　舞の返答を聞き「ふぅん‥‥男がどこで目撃されたとか、新しく引っ越してきた人がいるとかはわかる？」と資料と舞とを交互に見比べながら夢守が言葉を続けた。
「廃館から少し離れた所で男が目撃されています、それと引っ越しに関しては‥‥特別ご報告出来るような事はありません」
　ありがと、舞の返答に夢守は言葉を返し（５人、か）と心の中で呟いていた。
（‥‥まさか、この事件も？　もしまだ救える命があるなら‥‥行かなくちゃ）
　獅月　きら（gc1055）は資料と報告書を読みながら心の中で呟く。
「‥‥見れば見る程‥‥今回の事件とそっくりだね――‥‥考えたくはないけど、ううん、ちゃんと生還した子もいるんだから、諦めちゃダメだよね」
　シクル・ハーツ（gc1986）が資料を読み、表情を苦しそうに歪めながら呟く。
「‥‥こんな事をしやがるのは、どこのどいつだ」
　那月　ケイ（gc4469）が低い声で呟く。彼は『酷い』とぼやきたい所だったが、その言葉をぐっと飲み込んだ。まだ『結果』がわかっていないのだから。もしかしたら救えるかもしれない、そう心のどこかで思っていたのだろう。
「私の息子と娘もバグアに連れて行かれた‥‥生きてるか死んでるかなんて今でも分からない。けれど‥‥」
　李・雪蘭（gc7876）が呟き、言いかけた言葉を飲み込む。
（私がこの子達の母なら‥‥我が子が、人を攻撃するモノでしかなくなってしまったのなら、せめて安らかに眠らせてあげたいと思う‥‥）
　飲み込んだ言葉を李は心の中で呟く。
「か、感じるぞ‥‥彷徨える魂の悲痛な声を‥‥！　うおお！　俺様の熱き魂で導いてやらねばならん！」
　大げさにポーズを取りながら叫ぶのは（自称）勇者のジリオン・L・C（gc1321）だった。
「はは、テンション高いね」
　那月が苦笑しながら呟く。彼自身もジリオンのテンションの高さには救われている部分があった。
（あんまり沈んだり怒ったってのは周りに知られたくないからね‥‥）
　那月は心の中で呟く。
「‥‥この事件がどういったものなのか、分からない‥‥だけど可能性があるのなら、確かめに行きましょう‥‥私に出来る事は、それだけですから」
　水無月が小さく呟くと「‥‥どうか、みなさん気をつけて下さい」と舞が丁寧に頭を下げ、能力者達を見送ったのだった。


――　山奥に潜む悪　――

　問題の山へと到着した能力者達は捜索を開始する。
（‥‥戦う事以外、能がないというのは‥‥こういう時に困りますね‥‥）
　捜索をする中、水無月はため息を吐きながら心の中で呟いた。
「この廃館付近で目撃されているという事は、ここを拠点としている可能性も高いですね」
　依頼の資料とともに渡された地図を見ながら獅月が呟く。その道中でスキルを使用して地面、壁などを伝う振動の原因を突き止められるようにしておく事も忘れない。
「勇者！　アーイズ！！」
　すちゃっとポーズを決めながらスキルを使用するのはジリオン。ちなみにポーズをつけてもつけなくても効果に変わりはない。
「もう少し歩いたら、例の廃館が見えてくる頃かな？」
　シクルが呟く。覚醒を行ったせいで口調も視線も鋭いものとなっていた。
（‥‥もし、子供達が最悪の状況になっていたら‥‥考えるだけでも厄介だな）
　那月は心の中で呟きながら周りを警戒する。風に揺られる木々の音ばかりで、今の所は異常を見られない。
「さぁ、彷徨える魂よ！　この勇者パーティーの前に姿を現すのだ！」
　ジリオンの言葉に勇者パーティーに任命されている能力者達は苦笑する。
「むっ、誰だ！」
　ジリオンが勢いよく後ろを振り向くと、そこには３人の子供が立っていた。
「‥‥子供‥‥？」
　終夜が拳銃を構えたまま、小さな声で呟く。
「まだ、キメラだと分かったわけではありません。洗脳されているだけかも‥‥」
　獅月はここに来る途中で拾っておいた小石を握りしめ、ちらりと那月を見る。那月も子供が現れた場合、キメラか人間かを判別する為に小石を拾っていた。
　那月と獅月はそれぞれ目で合図をして、子供に向かって小石を投げつける。もちろん人間だった場合の事を考えて、当たってもあまり大した怪我にならないように力を制限して。
（洗脳されているだけなら、助けられるかもしれない‥‥）
　どうかキメラになっていませんように、２人は願いを込めて小石を投げたのだが‥‥。
「‥‥弾いた‥‥」
「という事は敵、ですか‥‥残念ですが、排除します」
　援護をお願いします、水無月は言葉を残して武器を構え、子供――いや、キメラへと向かって駆けていく。
　水無月が駆けていくのを見て、終夜が拳銃を構え、キメラを狙い撃つ。最初に小石を当てられたのが足という事もあり、キメラの行動は幾分か遅かった。
「ごめん、なんて言わないよ‥‥」
　夢守は呟きながらキメラの側面から心臓などの急所を狙って攻撃を行う。助けられないなら、せめて親元に帰せない姿で死なせたくはない、それが夢守の考えだったのだろう。
　いや、恐らく今回集まった能力者達の中でそれを考えなかった者はほとんどいない。
（人が材料のキメラを相手にするのは初めてじゃないけど、何度見ても慣れないな‥‥なるべく早く解放してやりたい）
　たとえそれが殺す事だとしても、那月は心の中で呟きながらキメラへと攻撃を仕掛ける。キメラもナイフを持っており、反撃されたが那月はスキュータムで攻撃を防ぐ。
「危ない！」
　別のキメラが那月に襲い掛かるが李がアルメリアの盾でそれを防ぎ、夢守が拳銃でキメラを狙い撃つ。
「‥‥‥‥」
　足元に倒れこんできたキメラの姿を見て終夜は唇を噛みしめる。もう少し早く来ていれば助けられたのではないか、という思いが胸を締め付けた。
「安心するがいい、この勇者パーティーが彷徨える魂を導く！」
　ジリオンは叫びながらキメラへと射撃を行い、水無月がトドメを刺すようにキメラを剣で貫く。
「‥‥こんなのって、ひどすぎる‥‥」
　３体のキメラを退治した後、獅月がポツリと呟く。
「こんな子供を、キメラにする理由はあったのか‥‥」
　李はキメラの遺体を見下ろしながら、悲しそうに表情を歪める。

「‥‥‥ぁ‥‥ぁぁ‥‥」

　山奥からわずかに聞こえた声に能力者達が一斉に声の聞こえた方を見る。
「‥‥あれが、問題の廃館か」
　サイトビジョンを使用したシクルがポツリと呟く。
「急ぎましょう、この子達は助けられなかったけど‥‥もしかしたら」
　まだ助けられる子がいるかもしれない、水無月は言葉を付けたし、他の能力者達と共に廃館へと急いだのだった。

「‥‥思っていたよりも広いな‥‥一部屋ずつ調べていくしかないか」
　廃館へと足を踏み入れ、シクルが小さな声で呟いた。誰も使っていないせいか中は薄暗かったが、窓から差し込む光のおかげで何も見えないという程ではなかった。
「‥‥音が違うものが３つ感じられる。それが全て人なら、３人という所かな」
　獅月がスキルを使用しながら呟く。
「いなくなった子供は５人。先ほどの戦闘で３人、残り３つの音――となれば、この事件を起こした犯人と残り２人の子供って考えるのが妥当かもしれないね」
　夢守が手を口元に当てながら呟く。
「ほとんどの部屋は使われてないみた――」
　シクルが呟いた時、子供の声が聞こえ「あっちからだ！」とスキルを使用していたジリオンが部屋の奥を指差す。
「‥‥ここか！」
　シクルが勢いよく扉を開くと、そこには子供２人が倒れていて、若い男が立っていた。
「おや、お客さんか――招いた覚えはないけどね」
　下卑た笑みを浮かべながら男、オーガスタが能力者達を見渡す。
「‥‥っ！」
　スキルを使用し、水無月はオーガスタとの距離を一気に詰めて剣を叩きつける――が、オーガスタはそれを避け、彼の後ろにあった診察台のような物が大きな音を立てて壊れる。
「その子達はキメラじゃない！」
　先ほどの子供達のように小石を当てて反応を見てみたが、ＦＦの発生は見られず、２人の子供達はキメラではなく、人間である事が証明された。
「私達が子供を避難させる、これから起きる事はとても子供に見せられる事じゃないからな」
　シクルが呟き「私も行こう」と李が言葉を返し、それぞれ１人ずつ子供を抱えて部屋から出ていく。
「どうやら、見知った顔もいるようだが‥‥やれやれ、そんなに弟探しの邪魔をしたいんですかね」
　はぁ、と大げさにオーガスタはため息を吐いてみせ、ひゅん、と風を切るように持っていた武器の切っ先を能力者達へと向ける。
「ここに来るまでに番犬を３匹ほどおいていた筈なんですけど、やはり偽物は偽物、役に立たないですね」
　オーガスタが言い終わると同時に終夜が拳銃を構え、狙い撃つ。
「貴方が人間であろうとバグアであろうと構いません‥‥貴方は命を弄びました。私は、私の意思で貴方を断罪します」
　水無月の攻撃を剣で受け止めながら「へぇ、人を断罪する立場にあるというんですか、貴方が？」と嘲るように言葉を返す。
「ねぇ、弟ってさっき言ってたけど‥‥弟って、殺したのはキミ？」
　夢守が武器を構えながら呟く。照明銃を使おうかと考えた彼女だったが、大して広くもない部屋の中で使うにはリスクが大きすぎて、使う事に躊躇いを感じていた。
「何故、弟の事を貴方達に語らなくてはいけないのですか？」
「‥‥そういえば、誰か一緒に行動してるんじゃないの？」
　オーガスタの言葉を流し、夢守が問いかけると「彼女はここにはいませんよ」と言葉を返してくる。
「ならば、ここで貴方を倒せれば‥‥」
　獅月がオーガスタの腕を狙って撃つ。それと同時にぼとりと音がしてオーガスタの腕が床へと落ちた。
「前にもこんな事がありましたね。欲しいならこの腕差し上げましょうか？　どうせスペアはいくらでもありますし」
　ひゅん、と義手を投げつけてきて怯んだ所をオーガスタが攻撃を仕掛けてきた。
「この勇者、ジリオン！　ラブ！　クラフ――ぐはっ」
「自己紹介している間、待ってあげるほど私は優しくはありませんよ」
　卑怯というべきか、オーガスタは自己紹介している途中で攻撃を繰り出す。
「やれやれ、か弱いサイエンティストに‥‥真面目というか、何というか‥‥ですね！」
　オーガスタが苦笑しながら背後の窓ガラスを割る。
「逃がすか――‥‥！」
　スキルを使用してオーガスタが逃走するのを阻止しようとした那月だが、僅かにオーガスタの行動の方が早かったらしく、窓から飛び降りてしまう。
「二階から落ちるのも痛そうですけど、このままそこでやりあうよりはマシでしょう」
　オーガスタはそれだけ言い残すと、窓から逃げた時に痛めたのか足を少し引きずりながら能力者達の前から姿を消したのだった。


――　被害者３人、救助者２人　――

「どうやら、逃がしてしまったみたいですね」
　戦闘が終わった後、シクルと李が部屋に戻ると能力者達以外は誰もいなかった事を見て、小さく呟いた。
「子供達は‥‥？」
　終夜が２人に問いかけると「今は眠っています」とシクルが言葉を返す。
「最初、目が覚めた時には手がつけられないくらいの暴れようだったけど、何とか今は‥‥落ち着いている」
　李が視線を部屋の方に向けて、ため息交じりに呟く。
（私の子達も、私の知らぬ間に、こうやって能力者達に殺されている可能性もあるんだな‥‥だが、恨みはしない。能力者の戦いは無力な大勢の人を守る行為だから‥‥だけど、我が子が人を殺す道具になった事、悔やみはするだろうが、な‥‥）
　李は心の中で自分の手から離れてしまった、離されてしまった子供達の事を思い、瞳を伏せた。
「‥‥これは‥‥」
　子供達がいる部屋とは別の部屋で水無月はオーガスタが使っていたと思われる資料などを見つけた。
（‥‥酷い）
　見ているだけで吐き気を催すような事ばかりが書かれた、それを見て、剣を振るい棚へと叩きつける。
「ここで、色んな事してたんだね――アイツ逃がしたって言っても、ビジネスじゃなきゃ対峙する理由もないケド――でも、弟に関しては異常とも言える執着だよね」
　夢守が床に落ちた資料を見ながら水無月へと言葉を投げかける。
「例えどんなにそっくりなモノを作っても、失くしたモノは戻らないのに」
　ポツリと呟かれたその言葉にどんな意味が込められていたのか、それは夢守自身にしか分からないだろう。
「‥‥この子達が行方不明の子供達なんでしょうか」
　獅月が眠っている子供を見ながら呟く。
「だとしたら、最初に退治したキメラ３体は‥‥残りの３人、なんでしょうね‥‥どうか、あの子達が安らかに眠れますように」
　手にかけてしまったのは自分達だ、だけど獅月は祈らずにはいられなかったのだろう。
「この辺の物は一応持ち帰った方がいいだろうな！　何か手がかりになるような物があればいいんだけど」
　ジリオンは散乱している資料や書きなぐられたメモなどを手に取りながら呟く。
「子供達が目を覚ましたら、この勇者ジリオンの武勇伝を語り聞かせてやろう！」
　はははは、と高笑いをするジリオンを見てシクルは「あ、相変わらずだね‥‥子供達には受けが良いかもしれないけど」と苦笑しながら呟いた。
（‥‥助けられなくて、ごめんな）
　高速艇に戻る途中、那月はキメラと化してしまった子供達を真っ直ぐ見据える。何があったのかを忘れないように。
「‥‥今回の事件に巻き込まれた子供達の親には、しっかりと伝えなくては。何があったのか、どういう最後を迎えたのか、親には知る権利があるんだから」
　李の言葉に「そう、だな」と那月が言葉を返した。

　その後、能力者達は無事に助けられた子供、助けられなかった子供達を連れて町へと向かい、事の顛末を伝えてから本部へと帰還していったのだった。


ＥＮＤ