●リプレイ本文
昼間でも少し薄暗い場所、この森にキメラが出現するのだと言う。
「昼間は攻撃して来ないとは分かっていても‥‥少し警戒してしまいますね」
水上・未早(
ga0049)が森の中を見渡しながら小さく呟いた。
「そうだね〜‥‥でも昼間のうちに場所とか詳しく調べていれば戦いには有利――になるかな?」
一月の寒さに震えながら呟くのはハルカ(
ga0640)だった。
「でも確かすばしっこいキメラなんだよな‥‥すばしっこい奴が相手ってのは苦手だな」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)が頭を掻きながら苦笑気味に呟く。
「あ、ブレイズ君。あけおめ〜♪」
ハルカがブレイズに気づき、近寄りながら新年の挨拶をする。ハルカとブレイズは同じ仕事に幾度かなった事がある為、知り合いのようだ。
「問題は‥‥どうやって敵を捕まえるか、だよなあ‥‥」
時任 絃也(
ga0983)が森の中を見渡しながら呟く。その言葉にシエラ(
ga3258)が小さく言葉を返す。
「暗く‥‥冷たい‥‥闇の世界‥‥私にとっては‥‥それが正常な世界なのかもしれません」
盲目のシエラにとっては戦いの時間が昼だろうが夜だろうが関係ないのだ。彼女の言葉でシンとなった森だったが、ハルカが「なでなで」と言いながらシエラの頭を撫でた。
「気楽に‥‥とまではいかないけど、難しく考えないで行こうよ。皆で戦えば何とかなるはずだから♪」
「ハルカ‥‥さん―――はい」
シエラは首を縦に振り、ハルカの言葉に同意した。
「今回は狐人なんですよね? そのうち豚人とか恐竜人型とか出そうな感じだなぁ‥‥」
苦笑しながら話すのはヴァイオン(
ga4174)だった。
「私も狐型と聞いて大人しくしてられなかったわ――でも、私をキメラを間違わないでね? 私も狐だから、ふふ」
笑って話すのはビーストマンの羅・蓮華(
ga4706)だった。
「ふふ、それは流石にないでしょう。キメラとあなたとは全然違うのですから‥‥」
羅の言葉に南部 祐希(
ga4390)が言葉を返す。
それから暫く歩いて、能力者達は橋の落ちた崖を見つける。それは向こう側へと続く森へ架けられていた橋だったのだろうが、老朽化して橋が落ちている。
「この場所にキメラを引き付けたらどうでしょうか。一方塞がりですし、キメラも簡単に逃げられるとは思いません」
水上の言葉に能力者達は首を縦に振り、キメラと戦う為に一度森から出て、夜になるのを待った――‥‥。
そして夜――不気味な鳥の鳴き声が響く中、南部がビクリと肩を震わせる。
「此処からは班で行動しよう――狐狩りの時間だ」
時任の言葉に能力者達は予め分けていた班のメンバーの所へと歩く。
囮班としてヴァイオン、ブレイズ、時任、南部の四人が行動を共にし、キメラにマーキングを行うという大役がある。マーキングをした後に昼間に見つけた崖の所まで誘導する役割も受けていた。
潜伏班としてハルカ、シエラ、羅、水上の四人が行動を共にし、崖付近でキメラが誘導されるのを待ち、逃げられないように囮班と一緒にキメラを包囲するような陣形を取って戦い、キメラを倒す――。
能力者達が行動を開始しようとした時、奇怪な声が森の中に響いてきて能力者全員を攻撃してきた。
「きゃああっ」
突然の攻撃に驚き、水上が悲鳴をあげる。攻撃を受けた直後、ヴァイオンがいち早くキメラを追いかけ、残りの囮班も彼に続くように走り出した。
囮班がキメラを追いかけていくと、潜伏班は囮班とは違う方向から指定の場所を目指す。
―囮班―
「‥‥分かっていても襲われるというのは‥‥良い気持ちではありません、ね」
南部は小銃『S−01』を手に構えながらキメラを追いかける。
そして、キメラが木の上に立ち、此方を攻撃しようとした時に南部がペイント弾を使用してキメラにマーキングを行った。
「やった――っと」
キメラに直撃したペイント弾を見て、ブレイズが小さく呟き、その次の瞬間に来た攻撃を間一髪で避ける。
一番囮として目立つ行動をしていたのはヴァイオンで、木から木へと移り、影から影への行動を行っていた。
「えーと‥‥こういうのをなんだっけ‥‥影に非ず、猿に非ず、だったかな?」
クッと呟きながら、後ろから追いかけてきているキメラを見て笑う。
「逃げられると――思うなよ」
低く、冷たい声で南部が呟く。一撃目を受けた時に彼女は覚醒しており、臆病を彼女は機械のような不気味さへと変えた。
「風向きもいい、そろそろ合流地点へと誘導しよう――」
時任は潜伏班に誘導する事を伝えると、囮班全員はキメラに怪しまれない程度に誘導を始めた。
―潜伏班・戦い開始―
「そろそろかな?」
ハルカが周りを見渡しながら呟く。囮班からの連絡が入って十分程度、場所的にはそんなに離れていない場所なのに来ないという事は誘導に手間取っているのだろうか。
「寒い中で待つのはちょっと嫌ねぇ‥‥」
羅が気づかれないように息を潜めながらも小さく呟く。
「‥‥そうですか? 私は‥‥待つことに慣れていますから、そんなには‥‥」
シエラが白い息を吐きながら羅に言葉を返す。
「通信で誘導状況を聞いてみたんですが、すぐ其処まで来ているようです、戦闘準備を始めた方がいいかもしれませんね」
水上の言葉に潜伏班は首を縦に振り、それぞれの武器を構える。
「Einschalten‥‥」
呟きと共にシエラは覚醒する、続いて羅も覚醒して金色の狐耳と尻尾が出現する。
「蓮華さん‥‥暖かそう〜‥‥」
羅の耳と尻尾を見てハルカが小さく呟く。
「本当に‥‥きっと首に捲いたら暖かいでしょうね‥‥」
水上とハルカの視線にゾクリとした羅は「き、キメラが来るわよ」と話を逸らして戦闘準備を行う。
それと同時に囮班と狐キメラが潜伏班の場所に到着する。指定場所に到着すると囮班&潜伏班はキメラを包囲するような陣形を取り、キメラの背後には崖、素早いキメラと言えども簡単に逃げられる場所ではない。
最初に行動を起こしたのは羅、彼女は『瞬速縮地』でキメラとの距離を一気に縮め、攻撃を仕掛ける。
「――鬼火がお前を、呼んでいる」
南部も呟き、貫通弾を装填してキメラに発砲する。キメラにはそんな大きなダメージはなかったが、南部は続いて『鋭角狙撃』と『強銃弾』をキメラに向けて使う。
南部の攻撃を受け、横へと逃げようとしたキメラだったが、ヴァイオンが退路を断ち、アーミーナイフを構えた。
「マシラが如く、お前を切り刻む」
ヴァイオンは『先手必勝』と『瞬天速』を使い、キメラへと近づき攻撃を仕掛ける。
仲間が攻撃をしていく中で、シエラだけが自ら攻撃を仕掛けることはなかった。キメラはそれを見て『怯えている』とでも思ったのだろうか。標的をシエラに変えて鋭い爪で攻撃を仕掛けた―――が瞳を閉じていたシエラはキメラが急接近してきたのを感じて瞳を開く。
「‥‥仕留める‥‥!」
そう呟いてシエラはファングでカウンターで攻撃を仕掛けたのだが、それは紙一重で避けられた。
しかし、シエラはそれを読んでいたのだろう。瞬天速を使い、キメラとの距離を縮めて攻撃を繰り出した。後ろ向きで攻撃を避けたため、キメラには一瞬の隙が出来てしまい、シエラの攻撃をまともに受けることになった。
今までに現れた能力者と違い、自分が主導権を握る戦いでないため、キメラも苛立っていたのだろうか。森中に響き渡るような声をあげ、攻撃を仕掛けてくる。
「いい加減に諦めてやられちまえよ」
ブレイズの言葉と同時にガキンと金属音が響く。その音の正体はキメラの攻撃をブレイズの持つシールドが代わりに受けた音だった。
「上には上がいるって事を知っていた方がいいな――もう無駄だけどな」
ブレイズは呟き、シールドから手を離し、ソードでキメラを攻撃する。
「同じ狐として‥‥あなたの存在は我慢ならないのよね、私も同じ狐だから言うんだけど、はっきり言ってあなたみたいなのと一緒にされそうで‥‥迷惑なのよ」
羅はクスと笑みながら呟き、そしてキメラを斬りつける。
「羅さん! 少し横にズレて下さい」
水上の声が聞こえると羅は指示通りに横へと跳ぶ、それと同時に水上のアサルトライフルがキメラを攻撃していく。
キメラが木の上に逃げようとすると、ハルカが瞬天速でキメラに近づき、元の位置に戻るようにファングで攻撃をする。
キメラはハルカに攻撃された事で尻餅をつくような形になり、すぐさま立ち上がろうとするが時任がキメラの前に立つ。
「狩られるのはお前の方だったようだな」
ファングで攻撃して、キメラは初めて怯えたような目を見せる。
「‥‥笑えよ、ケモノが。お前が今まで人に与えていた『恐怖』を今、お前が受けているんだ、それだけだ」
南部は小銃『S−01』をキメラの足を狙って撃つ。これで先ほどのように素早く行動する事はできないだろう。
「皆さん、退いてください」
水上が呟き、能力者達が射撃軸線上にいない事を確認すると、キメラに向かって発砲し始めた。
流石に至近距離からの発砲だったため、キメラも撃たれているうちに絶命し、森の中には再び静寂が戻った。
「終わったな」
時任が呟き、武器をしまう。彼は先ほどから周りの気配に注意していたが、他にキメラの気配がしないことから武器をしまうことにしたのだ。
「自らの土俵で戦うのは良い考えだったけれど、もう少し戦法を学ぶ必要がありましたね‥‥まぁ、僕のいう事じゃないかもしれませんが」
ヴァイオンが呟くと「そんな事はないぜ、皆で倒したんじゃないか」とブレイズが言葉を返してくる。
「それにしても‥‥こいつが役にたってよかったぜ」
ブレイズがシールドを見ながら小さく呟く。
「ホントだね、これがなかったらもっと重症を負っていたかもしれないし」
ハルカが「ね?」とシエラに同意を求めながらブレイズに言葉を返した。
シエラはといえば、戦いが終わり、覚醒状態を解除して再び瞳が闇一色になる。目の所を押さえるシエラに「どうしたんですか?」と南部が問いかけてくる。
「いえ‥‥どうせ目を開いても‥‥見えるのは朱一色だけ‥‥ならばいっそ‥‥闇は全てを覆ってしまえばいいのにと思って‥‥」
覚醒状態になったシエラは一時的に視力が戻るが、瞳に映るの朱の色だけ。そして彼女はその朱色の世界を‥‥覚醒状態になるのを嫌っているのだ。
その事に対して能力者達はかける言葉が見つからなかった。これだけは他人がいくら優しい言葉をかけても『気休め』にしかならないという事が分かっているから‥‥。
「さて、そろそろ帰りましょうか。一月の森は冷えますしね。風邪を引かないうちに帰るのがいいかもしれません」
ヴァイオンが能力者達に向けて呟く。彼自身は寒さは割りと平気な方なのだが、他の能力者達が心配なのだろう。
「そうですね、冷えますし帰りましょう」
水上が言葉を返すと「私も賛成〜、さっきから寒くてしょうがないわ」と羅も苦笑しつつ呟く。
「それにしても所詮は狐型キメラだったわね、美形とか可愛い顔立ちのキメラだったら苛めてあげたんだけど‥‥ケモノむき出しの顔はちょっと見るに耐えられなかったわ」
羅の言葉に笑いながら、能力者達はラストホープへと帰還していった。
END