●リプレイ本文
―― キメラ退治のために集まった能力者達 ――
「あの、僕が言うのも変かもしれないんですけど‥‥気をつけて下さいね」
オペレーターの室生 舞(gz0140)が、重症に近い傷を負いながらも任務へ行こうとするアリサに視線を向けながら呟いた。
もちろん、同行する能力者達もアリサの異変には気が付いており、気にかけるようにしようと決めていた。
「任務で命を失う‥‥珍しい事ではありませんが、必ず無事に生還させなければならないですね‥‥」
アリエイル(
ga8923)がポツリと呟く。
アリサがこれから向かう任務で一度失敗し、そのせいで怪我をした事も能力者達には伝えられていた。
だからこそ、能力者達は余計にアリサの事を見ていなければ、と考えていた。
(うーん、何があったのかはまだ聞かない方がいいんだろうなぁ。依頼を無事にこなしてから考えよう、これは彼女の問題なんだし‥‥)
イスネグ・サエレ(
gc4810)はちらりとアリサを見ながら心の中で呟く。彼女はぼんやりしているけれど、時に眉を顰め、厳しい表情をしながら何かを見つめている。
(多分、形からして写真か何かだと思うんだけど‥‥)
あまりにも真剣な表情のため、アリサに問い掛ける事をイスネグは躊躇っていた。
「‥‥アリサさん、あなたはなぜこの依頼に‥‥?」
モココ(
gc7076)が躊躇いがちにアリサへと言葉を投げかける。他の能力者たちもその事は気になっていたのか、アリサが答えるのをジッと見つめている。
「‥‥別に、キメラ退治をしたいからに決まってるじゃない」
「でも‥‥」
「‥‥‥‥」
モココは言葉を続けようとしたけど、アリサはそれ以上何も言わず、ふいっとモココから視線を逸らした。
そんなアリサの態度を見て、アリサが依頼に参加したのは『キメラ退治をしたい』という事ばかりではないのだろう――と能力者達は心の中で呟いていた。
(私には助けてくれた姉がいた。助けようとして結局助けてくれた敵がいた。助けられたからにはその命を背負わねばならない‥‥そして、逃げる事はその人達を冒涜する他ない)
モココは心の中で(もし、アリサさんが私の考えている事をしようとしているなら‥‥何としてでも止めなくては)と言葉を付け足した。
そして、モココはかつて同じ終焉の地に立っていた者として、大神 哉目(
gc7784)の事も気になっていた。
(友を亡くした仇、か。行動は過ちだが思いは本物だろうな)
月野 現(
gc7488)はアリサを見つめながら、心の中で呟く。亡くした仲間がアリサにとって大事だったからこそ、アリサはあんな状態で任務に行こうと考えたのだろう。
(人は失ってしまったモノを必死に取り戻そうと足掻く。友が存在しない事を理解したくはないから戦うのだろう)
(だけど、依頼が終わり時間が経過すれば現実を突きつけられる――ならば、その損失を僅かでも軽減させてやりたいが――)
月野はアリサの様子を見ながら(どうも、良からぬ事を考えていそうだな)と言葉を付け足した。
「友達を亡くした、ねぇ‥‥。ま、やけっぱちになる気持ちもわかるけどさ、今回の仕事が終わったら、もう1回その友達の事を思い出してみるといいよ。やけっぱちになって危ない目にあう事なんて、きっと望んでないでしょ。大事な友達だったらさ」
「‥‥‥‥」
大神がアリサに言葉を投げかけるが、アリサは先ほどと同じ様に何も答えない。
「もう一度言うよ。今回の仕事が終わったら、よく考えてみるといい」
大神は『今回の仕事が終わったら』という言葉を強調してアリサへ言葉を投げかけた。それは『死のうとするな』という意味を込めての言葉だったのかもしれない。
「アリサ殿、その傷であまり無理をするな。あなたは戦闘時には後方にいてくれ、そして私たちをサポートしてほしい」
ルーガ・バルハザード(
gc8043)が友を亡くしたアリサを気遣い、優しく言葉をかける。
もちろん、その言葉の裏ではアリサが考えているであろう事を思いとどまらせようとしていたが――今の時点でアリサにその言葉が伝わっているかは、まだわからない。
「気を付けないといけないな」
烽桐 永樹(
gc8399)がぼそりとアリエイルに向けて呟く。
「‥‥えぇ、そうですね」
「アイツが何を考えてるのかわかんねえけど、死人は出したくないしな‥‥」
「はい、それは私も同じ考えです」
アリエイルと烽桐は小さくため息を吐きながら、いまだ目的の意図がわからないアリサを見つめた。
「‥‥おっさんぽ小石で躓いた♪ あっしもっと睨んでこっいしーをキーック! 前見て歩かにゃ迷子の子♪ あったまっに落っちたぞ鳥―のふんっ!!」
火霧里 星威(
gc3597)が楽しそうに歌を歌っている。
「‥‥何、その歌」
アリサがポツリと問いかけると「えっとね、フクシュー者の歌! 先生が考えたの!」と火霧里が言葉を返す。
復讐者という言葉にピクリと反応を見せたアリサだったが「‥‥そう」と短く言葉を返し、火霧里から視線を逸らした。
「それでは、皆揃いましたし‥‥そろそろ出発しましょうか」
イスネグが呟き、能力者達は高速艇に乗り込み、目的地へと出発した。
―― 捜索、キメラの潜む森 ――
今回の能力者達は班を分ける事はせず、固まって行動をする作戦を取っていた。アリサの事が気にかかったという事もあるだろうが、夜の森を離れて行動する方が危険――と判断したのかもしれない。
夜の森は暗くて鬱蒼としていたが、六人の能力者がランタンを持参してきている為、光源は確保できていた。
「いくら地図があっても、こう暗いとあまり意味を為さないな」
ルーガがランタンで地図を照らしながら、小さく愚痴るように呟いた。
(不測の事態があったとオペレーターが言っていましたが、何があったんでしょう)
アリエイルは心の中で呟き、周囲を警戒しながらキメラ捜索を行う。
「うーん、まだ何も感じないなぁ‥‥」
火霧里がスキルを使用して、地面の振動を探っていたが範囲内に怪しむような振動は伝わってこない。
「私の方も何も感じませんね。あ、足元も注意してね。木の根が張ってて躓きやすくなってるから」
イスネグはランタンで地面を照らしながら他の能力者達に言葉を投げかける。
(やっぱり夜だと、いつも以上に警戒しなくちゃいけないですね)
モココは心の中で呟き、周囲を見渡す。せめて昼だったら、もう少し視界も開けているだろうし、ここまで緊張する事はないだろう。
(夜だと、敵から奇襲を受けやすくなりますし‥‥特に、こんな森の中では)
「‥‥はぁ」
傷口を押さえ、苦しそうに表情を歪めるアリサに月野が気づく。
「大丈夫か? あまり無理をする必要はない」
「‥‥大丈夫。私にはやらなくちゃいけない事があるから」
「‥‥‥‥」
その『やらなくちゃいけない事』が何なのか、月野が聞こうとしたけど、その問いから逃げるようにアリサは歩き始めた。
(あんなに切羽詰った感じで戦う事が出来るのかね)
大神はアリサを見て、ため息を吐く。
「‥‥なあ、あんた――死ぬ事が目的か? ‥‥仇を取りたいとかだったら手伝えるけど?」
誰も聞けなかった事を、烽桐がストレートに問いかける。
「‥‥‥あんたに関係――」
アリサが呟こうとした時、火霧里が「何か、いるよ」と呟いた。
「‥‥火霧里殿、それは本当か?」
「‥‥うん、いる‥‥オッキーよ‥‥」
ルーガの問い掛けに火霧里が言葉を返し、能力者達は今まで以上に警戒して周りを見渡した。
「‥‥来る!」
月野が呟いた瞬間、巨大な狼が能力者達の前に姿を現した。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
「いきなり紅蓮衝撃!」
キメラが攻撃を仕掛ける前に、烽桐がスキルを使用してキメラへと攻撃を仕掛けた。
「あなたはそこで我々のサポートをしてほしい、あなたの援護があってこそ我々も十分に戦える」
ルーガがアリサを前線に行かせないように言葉を投げかけるが、アリサは答えない。
「キメラ‥‥討伐します、限定解除」
アリエイルは覚醒を行い、雷槍・ターミガンを振るいながらキメラへと攻撃を行う。
「あわわわ‥‥オッキぃ、こっちに来たら大変かも‥‥」
アリサの隣で火霧里がキメラを見ながら呟く。
「‥‥‥‥」
「おねえちゃん!?」
アリサはスキルで能力者達の武器を強化した後、自らも前線に出ようと駆け出した。
「駄目だ! アリサ殿! そんな傷で何をするつもりだ!」
アリサが駆けだした瞬間、月野がスキルを使用してでも止めようとしたが、その前にルーガがアリサの肩を掴み、後方へと連れ戻した。
「放してよ! 私は、死にたいの! あの子が死んだここでキメラに殺されなくちゃいけないの!」
アリサが半狂乱になったように叫ぶ。
彼女の言葉を聞いた能力者達の中にあまり驚く者はいなかった。彼女の様子を見ていて、もしかしたら――という考えがなかったわけでもないからだ。
「‥‥さっさと退治した方が良さそうだな」
「そうですね」
アリサの様子を見ていた烽桐が呟き、イスネグが頷きながら言葉を返した。
(アリサくんにトドメを刺させてあげたいという気持ちもあったが、あの様子では無理そうだね)
モココはキメラの攻撃を避け、ちらりとアリサに視線を向けながら心の中で呟く。
「ほらっ、こっちを向いてよ、狼くん! キミにはここで倒れてもらわないといけない」
スキルを使用し、キメラとの距離を詰めたモココが言葉を続ける。
「キミが死ぬ事で前を向ける人がいるんだよ!」
モココはキメラの足を狙って攻撃を行い、キメラの巨体がぐらりとゆれる。
「俺たちは本当にキミの戦いに協力させてほしかった。だが、今のキミの状態を見ると、キミを前線に出す事は出来ない」
月野がアリサに言葉を投げかける。
「私は、死ななくちゃいけないのに‥‥何で邪魔するの、この為に私は来たのに‥‥」
ぼろぼろと涙を零しながらアリサが泣き喚き「何で!」と何度も言葉を繰り返す。
「はっ!」
モココの攻撃の後、大神がスキルを使用してキメラへと攻撃を行う。キメラは避けようとしたが、モココに足を狙われて攻撃されており、バランスを崩してそのまま倒れ込む。
「‥‥きみが与えた苦しみは、こんな物じゃすまないんだよ。あの人の心には、きっと一生消える事のない、癒える事のない傷が刻まれているんだから」
大神は冷たくキメラを見下ろし、再び攻撃を行う。
「‥‥きっとあんたは関係ないって怒るんだろうな。確かに俺たちには関係ない事だよな。だって友達とやらの事を知ってるのはあんただけなんだし」
イグニートを構えながら烽桐がアリサへと言葉を投げかける。
「だからこそ、そいつがあんたに望んでいること、望んでいないことはあんたにしかわかんないと思うぜ?」
「‥‥っ」
烽桐の言葉にアリサがピクリと反応する。
「あとの答えを出すのは――あんただ!」
言葉を残し、烽桐は地面を蹴ってキメラの元へと駆けだす。
「‥‥お兄ちゃんイツも言ってるんだよ? 戦い方は選ばなきゃダメだって! だから、ボクらはボクらのデキる事しよ! ね、おねーぇちゃん!」
火霧里は呟いた後『呪歌』を使用し始める。ランク1、ランク2――ランクが上がっていく事にキメラの動きが鈍くなり始め、ランク3になる頃にはキメラは完全に麻痺していた。
「蒼電の一撃を‥‥此処で‥‥せぇぇぇぇっ!!」
アリエイルはスキルを使用し、強力な一撃をキメラへと食らわせる。
その攻撃の後、他の能力者達も攻撃を合わせ、キメラを無事に退治する事が出来たのだった。
―― 戦闘終了後 ――
さすがに無傷――とはいかず、能力者達はそれぞれ傷の手当てをしていた。
「‥‥今は安らかに眠ってください。そして近い日、こんな別れがなくなる未来を生き残った私たちが作っていかなくては‥‥」
アリエイルはキメラの遺体に向けて呟き、小さく拳を握りしめる。
「‥‥私で良ければ力になるよ‥‥もし、良かったら話してくれないかな?」
イスネグがアリサに言葉を投げかけると、止まっていたアリサの涙が再びぼろぼろと零れ落ち始めた。
「私にとって、2回目の任務だった。まだキメラへの恐怖も残っていて、大きな体のキメラを見て足がすくんでしまった」
俯きながら、アリサがぽつり、ぽつりと呟くように話し始める。
「私が怪我をして、友達が私を庇い――役に立たなかった私だけが生き残った。よくある話、よく聞く話――だけど、まさか自分がその話の一部になるなんて思わなかった!」
アリサの痛々しい言葉を能力者達は黙って聞き続ける。
「私なんかよりも生き残らなくちゃいけない人がいたのに、そんな人を差し置いて私が生き残ってしまった‥‥だから死ななくちゃいけないの! 誰か私を殺して!」
「‥‥私も訳あって友達や先輩を亡くしました。中には私自らが手をかけた人もいます。それでも彼らを本当に思うのなら、彼らの意思を背負って生きていかなくちゃダメなんだと思う――出過ぎた事かもしれない、でももう私は誰にも死んでほしくないんだ」
イスネグの言葉を聞き、アリサは少しだけ落ち着きを取り戻したかのようだった。
「自分の命は自分だけの物じゃない。そんな事も分からない人に生死を語ってほしくないです――傭兵になった以上、私たちに残された道は荊の道だけなんですよ」
モココは少し厳しい言葉をアリサに投げかけたが、それもアリサを想っての言葉なのだろう。
「友達を亡くして、戦いは終わった。で、これからどうするつもりなのか聞いておこう」
大神がアリサへと向けて言葉を投げかける。
「私としてはこのまま腐るも良し、バグア許すまじの精神で戦い続けるも良し。でもさ、どうせなら誰かを助けるために何が出来るか考えても良いと思うよ? せっかくのサイエンティストなんだしね」
「‥‥次に会う時、身も心も強くなっているのを楽しみに待っているよ」
月野が大神の言葉の後に呟いた。
その様子を、ルーガは少し離れた所でぼんやりと見ていた。
(‥‥もしも、私も大切な者が奪われたら‥‥)
ルーガは心の底からアリサの考えを否定する事は出来なかった。
(私もすべてをかなぐり捨てて、復讐を望むだろうから‥‥)
そのような瞬間が来ない事を切実に願いながら、ルーガは空を仰いだ。
その後、能力者達は報告のためにLHへと帰還した。報告をした後、アリサとは別れた。
能力者達はアリサがどんな道を選択するか分からなかったが、間違った道だけは選ばないでほしいと願わずにはいられなかった。
END