タイトル:愚者達の行進曲マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/31 00:45

●オープニング本文


その街に、かつての面影はなかった。

※※※

「あ、この街‥‥」

男性能力者が、とある依頼に目を留め、ぽつりと呟く。

「何? 知ってる所?」

「昔、能力者になる前に少しだけ住んでた事がある街なんだよ」

女性能力者の問いかけに、男性能力者は寂しそうに言葉を返す。

「キメラ襲撃があって、住人も避難して、そのあと誰も住まなくなったって聞いたけど‥‥また、出たんだな」

「しかも資料によると‥‥3体のキメラが現れたらしいわね。かつての住人が発見して通報してきたらしいわ」

「かつての住人が?」

「えぇ、毎年一回は行ってるみたい。今年はその一回でキメラを発見してしまったみたいだけど」

女性能力者はため息混じりに呟く。

「人が戻ってくる事はないだろうけど、俺が住んでた頃は緑も多くて、住みやすい場所だったんだけどな」

「‥‥酷い言い方かもしれないけど、今の時代――そういうのは珍しくもないわよね」

女性能力者も悲しげに言葉を返すと「まぁ、そうなんだけどさ」と男性能力者が自嘲気味に呟く。

「とにかく、早く退治される事を願うよ。俺はいけそうにないしさ」

小さくため息を吐き、男性能力者は資料から視線を外した。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
黒羽 風香(gc7712
17歳・♀・JG
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA
マキナ・ベルヴェルク(gc8468
14歳・♀・AA

●リプレイ本文

―― キメラ退治のために集まった能力者たち ――

「‥‥キメラが3体、ですか‥‥」
 終夜・無月(ga3084)が資料を見ながらため息交じりに呟く。
(わざわざ廃墟に3体ものキメラが集まるとはな‥‥何か理由でもあるのか? それとも単なる偶然か?)
 終夜と同じく、資料を見ていた藤村 瑠亥(ga3862)が心の中で呟く。
「‥‥廃墟にキメラ、ねぇ」
 時枝・悠(ga8810)は大きくため息を吐きながら呟く。
(よくある話だ。本当に、珍しくもない。だからまぁ、今回もいつも通り。いつものように、どうにかしよう――ま、気張らずに行こうか)
 冷静さを欠けると、どんな事態を招くか――彼女は知っているからこそ『いつも通り』と言っているのだろう。
「まるでゴーストタウンだね‥‥。人が居なければ街は朽ちていくんだな」
 エイミー・H・メイヤー(gb5994)が街の地図と写真を見ながら呟く。彼女が見ている写真には朽ち果てた家、公園、かつて人が賑わっていたはずの街は、過去の姿を欠片ほどしか残していなかった。
「誰も住まなくなった街、ですか。何だか寂しい感じですね‥‥。戦争が終わったら、元に戻るといいんですけど‥‥」
 黒羽 風香(gc7712)は表情を悲しそうに歪めながら呟く。
「‥‥まるで死んでいるようだな、人の手から離れたモノは、どんどんと死んでいく」
 ルーガ・バルハザード(gc8043)は悲しみ、怒り、遣る瀬無さ、色々な感情を交えながらぐしゃりと資料を握りしめた。
「藤村さんだけではなく、時枝さんともここで会えるとは‥‥」
 マキナ・ベルヴェルク(gc8468)は藤村と時枝に挨拶をしながら呟く。
(お二人とも、英雄と呼ぶに相応しい勲功をお持ちの方ですからね。お二人のように‥‥とまでは言いませんが、足手まといにならぬように努めなくては‥‥)
「そろそろ出発しようか」
 藤村が呟き、能力者たちは高速艇に乗り、キメラが闊歩する廃墟へと向かって出発したのだった。


―― キメラ捜索、そして戦闘へ‥‥ ――

 今回の任務を受けた能力者たちは、キメラの数に合わせて班を3つに分ける作戦を立てていた。
 A班・藤村、時枝、マキナの3名。
 B班・ルーガ、エイミーの2名。
 C班・終夜、黒羽の2名。
「街の中を探していけばキメラも見つかるだろう。お互いに連絡を取り合って行動するようにしよう」
 ルーガが呟き、能力者たちはそれぞれ班に分かれて行動を開始した。

※A班
(藤村さんと同じ班ですか。同じ二刀小太刀を使う者として参考にさせて頂きたいですね)
 マキナはちらりと藤村を見ながら心の中で呟く。彼女が参考にしたいのは戦術だけではなく、剣の扱い方だった。
「この街、結構広い街だったんだね」
 時枝が地図を見ながら呟く。
「そうだな。人が住んでいた時はそれなりに賑わった街なんだろう」
 藤村は周りを警戒しつつ、時枝に言葉を返した。
「まぁ、今はだいぶ姿も変わっちゃってるし、地図ばかりを頼りにすると痛い目を見そうだね――それでも、参考程度にはなるけど」
「確かに、そうですね‥‥。このあたり、地図では住宅地になってますけど‥‥空き地にしか見えませんもんね」
 マキナが地図と視界に入る景色を交互に見比べながら呟く。他の場所と比べると瓦礫が多いので住宅地だったことは間違いないだろうが、それでもこの景色を見て、すぐにこの場所が住宅地だったとわかる者はいないだろう――マキナは心の中でそう思う。
「それにしても、まぁ‥‥弓、銃、剣、それぞれ違う武器を持つキメラが集まったものだ。偶然集まったのか、それとも故意にここに置かれたのか、どっちなんだろうな」
「さぁ‥‥どっちなんだろうね。バグアの考える事は全然わからないな――わかりたいなんて欠片も思わないけどね」
 時枝は軽く両手をあげながら、おどけたように呟いた――その時だった。
 銃声が響き、3人の近くにあった瓦礫に弾丸が当たった。
「‥‥現れたようだな」
 藤村が小さく呟き、二刀小太刀・疾風迅雷を構え、じろりとキメラを見据える。
(私も、足手纏いにならないようにしなければ‥‥)
 マキナは二刀小太刀・竜吟虎嘯を構えて、強くキメラを見据える。
 最初に攻撃を仕掛けたのは藤村だった。地面を強く蹴り、キメラへとめがけて一直線に駆け出す。
「射程入るなよー。当たっても責任持てんぞー」
 オルタナティブMを構え、キメラへ射撃を行いながら時枝が藤村とマキナへ言葉を投げかける。
 もちろん、万が一の事がないように注意をしているので、誤射の可能性は限りなく低いのだけれど。
(これが、数年間戦い続け至った今の姿だ‥‥)
 キメラへ接近し、藤村は手に馴染んでいる二刀小太刀を振るい、攻撃を仕掛ける。
(別段、俺こそが最速だ、最強だなどと自負するつもりでも、ひけらかすつもりもないが‥‥)
 スキルを使用し、小太刀を振り下ろしながら藤村は(それでもな、お前程度に触れられるほど落ちぶれてもいないのでな)と心の中で言葉を付け足した。
「私だって‥‥!」
 藤村が攻撃を仕掛けた後、マキナがスキルを使用して攻撃を仕掛ける。
 だけど、キメラからの銃撃を受け、マキナの勢いが落ち、キメラに攻撃は仕掛けたけれど強力な一撃にまではならなかった。
「早めに帰りたくてね、出し惜しみは無しだ」
 時枝はキメラへと近寄り、スキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
 時枝が攻撃を仕掛けた瞬間、マキナも反対側から攻撃を仕掛け、キメラに避ける隙を与えない。
「終わりだ」
 藤村が呟き、キメラの側面から攻撃を仕掛け、A班は無事にキメラを退治する事が出来た。

※B班
「不気味だな‥‥人気もなく、生気もなく、ただキメラどもが彷徨っているばかり、か」
 悲惨な状況の街を見渡しながらルーガがポツリと言葉を漏らす。
「今はこんな風に朽ちてしまっているけど、また賑やかな街に戻るといいんだけど‥‥」
 エイミーはジーザリオを運転しながらため息交じりに呟く。車で移動している彼女たちは地図を見ながら街を回っていたのだが、地図通りの場所など残っていなかった。
「どこを見ても瓦礫の山、惨い事だ‥‥」
「過去に現れたキメラのせいで、この街は壊滅したとあるけど‥‥キメラさえ現れなければ、ここにはまだ人が住んでいて、平和な街だったのにね」
 二人は会話をしながらも、流れる景色を見て不審な箇所がないか、キメラが潜んではいないか、見逃す事がないように警戒を強めている。
「この辺から少し歩いてみよう」
 エイミーはジーザリオを停め、双眼鏡を所持品から取り出す。
「確かにここなら、ある程度見渡す事が出来るし、キメラ捜索にはうってつけだな」
「うん、それにここから先は‥‥どうやら進めないみたいだからね」
 エイミーが前方を指差し、ルーガが視線を移すと、瓦礫が積み重なっていて車で先を移動するのは難しそうだ。
「幸いにもここは小高い丘だし――‥‥っ!?」
 ぞくりとするような殺気が向けられ、ルーガとエイミーはほぼ同時に後ろを振り向く。
「‥‥まさか、探し人の方から現れてくれるとはね」
 二人の背後に立ち、今にも襲い掛かってきそうなのは剣を持ったキメラだった。
「‥‥貴方たちさえ、キメラさえ来なければ‥‥この街が死ぬ事はなかったのですよ」
 エイミーは覚醒を行い、静かな怒りを湛えながら如来荒神を構えた。
「この街に住んでいた住人の怒り、私がお前に教えてやろう」
 ルーガも烈火を構え、キメラへと向かって駆けだす。
「‥‥はっ!」
 ルーガが攻撃を終えた後、追撃するようにエイミーもスキルを使用しながらキメラに攻撃を仕掛ける――が、キメラは攻撃を受けながらもエイミーへと反撃を行ってくる。
(くっ、避けきれない‥‥!)
 エイミーは剣の軌道から避ける事は不可能と判断し、少し後ろへと下がる。
「‥‥っ!」
 完全にキメラの攻撃を避ける事は出来なかったけど、後ろへ退いた事でキメラの攻撃の威力をわずかに殺し、大きな怪我には到らなかった。
「そちらばかりを気にしていていいのか!?」
 ルーガがキメラの背後から攻撃を仕掛ける。
「剣なんぞ携え、奪う事しか出来ないお前たちキメラがこの街を守っているつもりにでもなっているのか!?」
 スキルを使用し、ルーガは再度攻撃を仕掛ける。ルーガの攻撃の後、キメラに隙を与えぬようエイミーが攻撃を仕掛ける。
 エイミーは負傷しながらも『活性化』を使用しながら攻撃を行っているので、攻撃の手は止めず、キメラを追い詰める。
「そろそろ冥府へ送ってやろう!」
 ルーガが右から、エイミーは左から攻撃を行い、剣を持つキメラを無事に退治したのだった。

※C班
(‥‥まだ、何も引っかからないですね‥‥)
 終夜は『探査の眼』を使用しており、周りを見渡しながら小さな声で呟く。
「終夜さん、どうですか? 何か不審な気配は感じますか?」
 黒羽も周りを警戒しながら、終夜に問い掛ける。
「いえ、まだ何も‥‥それにしても、地図があまり役に立たないので現在地を把握するのが大変ですね‥‥」
 終夜は苦笑しながら地図を見る。
「そうですね‥‥。随分と様変わりしているようですし‥‥」
 黒羽が悲しそうに呟く。C班が担当している捜索区域は大きな瓦礫が多く、死角となる場所が多かった。
(こうも物陰が多いと、捜索するのも大変ですね‥‥)
 黒羽は慎重になりながら、キメラ捜索を続ける。
「これは‥‥」
 しばらく歩き続けた所で、終夜がぴたりと歩みを止めた。
「何か見つかったんですか?」
 終夜の後ろから顔を覗かせると、真新しい矢が落ちている。
「矢‥‥ですか? あ、こっちにも‥‥」
 合計で4本の矢が落ちており、黒羽と終夜は周囲の警戒を強める。
「こんな所に矢だけが落ちているなんて、変ですね」
「――っ、後ろです!」
 終夜は叫ぶと同時に、聖剣デュランダルでこちらに向かってくる矢を叩き落とす。
「‥‥キメラ、退治させて頂きます」
 終夜と黒羽はそれぞれ戦闘態勢に入り、キメラの放ってくる矢を叩き落とし、あるいは避けながらキメラとの距離を詰めていく。
「油断は禁物‥‥! 一気に仕留めます!」
 ひゅん、と黒羽の放った矢がキメラへとめがけて突き進む。キメラは黒羽の攻撃を避けた――が、避けた先には終夜がいて、彼はスキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「朽ちてしまった街でも、この場所に心を残す人が居るんです」
 終夜は剣を振るいながら、届かぬ言葉をキメラへと投げかける。
「あなたのような人‥‥キメラは、そんな想いを壊すだけの破壊者でしかない」
 とん、とキメラの左手に黒羽の放った矢が刺さり、キメラの動きが止まる。
 そこを狙ったかのように終夜はスキルを使用して、攻撃を繰り出し、キメラの左手を落とした。
「これで、もう矢を放つ事は出来ません」
「背中が空いていますよ?」
 キメラの背後に回った黒羽がスキルを使用しながら攻撃を行う。彼女の攻撃はすべてキメラへと当たり、ぐらりとよろけたキメラに終夜が最後の一撃を繰り出し、C班はキメラを無事に退治する事が出来たのだった。


―― キメラ退治を終えて ――

 それぞれの班がキメラ退治が終わり、合流したのは現地に到着してから数時間後の事だった。
「それは?」
 藤村が黒羽の持つ地図を指差しながら問いかける。黒羽の持つ地図は他の能力者たちが持っている地図と違い、色々と書き込まれていた。
「あ、探索時にわかった範囲のみですけど、地図と現地の差異を書いていたんです。街そのものが様変わりしちゃってますし、書き込む所ばかりだったんですけど‥‥」
 黒羽は書き込んだものを本部に提出するつもりでいた。
 もし、この街が再興される事があれば、何かしらで役に立つかもしれないと思ったからだ。
「私もしておけばよかったかな‥‥」
 マキナがポツリと呟く。
「今回、私がどれだけ役に立てたのかわかりませんでしたけど‥‥」
 少し落ち込んだように肩をがっくりと落としながら呟いていた――が、藤村がマキナの頭を軽く撫でた。
「戦い方には人それぞれのやり方がある。お前のやり方で屠っていけばいい」
「藤村さん‥‥」
「先はまだ長いんだ。在りたい姿があるなら、それを追い求めるのもいいだろう。どんなものだろうと追い続ければ不可能ではないのだから――今の自分が在るように、な」
「そうそう、背伸びしたやり方より、自分に出来る事をしっかりと見つける。これが一番大事だと思うな」
 藤村の言葉に賛同するように時枝も言葉を挟んでくる。
「そう、ですね‥‥これからも頑張ります!」
 2人に励まされ、マキナはこれからも頑張ろうと心に強く誓った。
「‥‥こんな所にも花が咲くんだな」
 エイミーは地面に咲く小さな花を見つけながら、小さく微笑む。
(こんな小さな花だって、花を咲かせようと頑張ってる。あたしたちも頑張れば、何だって出来るはずさ‥‥)
 地面に咲く花に励まされたような気持ちになり、エイミーはこの街がいつか再興する事を願ってやまなかった。
(いつか‥‥この戦いが終わったら‥‥)
 ルーガは廃墟を見渡しながら心の中で呟き、言葉を続ける。
(街は死んでいるけれど、けれどここのキメラを発見したのは、今もこの地に心を残す住人だ。この街も、この世界も、再びよみがえるのだろうか‥‥)
 街は死に絶えても、この地に残る想いはまだ残っているのだから――ルーガは心の中で言葉を付け足した。

 その後、能力者たちは報告を行うためにLHへと帰還した。
 いつか、滅びた街が息を吹きかえす事を願いながら――。

END