タイトル:もやしと災難マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/04 04:26

●オープニング本文


彼女に関わってしまった能力者の中で、どれだけの人間が甚振られただろう。

甚振りこそ生きがいと言っても過言ではない程に、彼女の性格は激しすぎる。

少しばかり強固な精神など、彼女の前では無に帰す。

※※※

「‥‥暇だわ」

ぽつりと少女、キルメリア・シュプール(gz0278)が呟く。

「ぐはっ!」

「アンタも男なら面白い事の一つや二つ、常に用意しておきなさいよね。ヘタレ」

「がふっ!」

言葉のたびにキリーは男性能力者(見知らぬ他人)を殴っている。

男性能力者も相手が少女という事で、怒る事も殴り返す事も出来ないようだ。

これで、もし仮に彼女を叩いたりしたら――‥‥きっとLHには住めなくなるに違いない。

「あ、あのさ。あんまり人を叩かないようにした方がいいんじゃないかな」

「あんた如きが私に意見するなんて100000000年早いわよ」

トドメだと言わんばかりにキリーは渾身の一撃を男性能力者の鳩尾に食らわせた。

普段彼女を知る者がいたら『戦闘でそれだけ戦えよ』と言いたくなるはずだ。

※※※

「さぁ、任務に行くわよ!」

「はっ!? え、何で‥‥」

「私が暇‥‥ううん、キメラがいるからに決まってるでしょ!」

「今、本音が聞こえ――がはっ!」

「うるさい。さっさと任務に行くわよ。(私にとって)楽しい事するわよ!」

悪戯百科と書かれた本を持ち、能力者たちを引っ張っていくキリーの姿を見ると、とてつもなく嫌な予感しかしなかった。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
土方伊織(ga4771
13歳・♂・BM
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
雁久良 霧依(gc7839
21歳・♀・ST

●リプレイ本文

―― もやしと災難な能力者たち ――

(はわわ、どーして? どーして僕が受けた任務にまおー様が参加してるのですかー‥‥っていうか、ひまーだからって任務を受けるのは間違ってると思うのですけどー)
 不真面目ですぅ、と土方伊織(ga4771)が心の中で呟く。
「悪戯百科‥‥なんという危険たっぷりな」
 白虎(ga9191)がキルメリア・シュプール(gz0278)が持っている本を見ながら小さな声で呟いた。悪戯というより呪いの辞典とでも言った方が正しいような表紙を見て、能力者達は嫌な予感しかしない。
「‥‥いつものメンバーだと安心できるくらいの付き合いになりましたね‥‥良い意味でも悪い意味でも」
 苦笑しながら仮染 勇輝(gb1239)が呟く。
「やっほ〜。今回もよろしくねー」
 神咲 刹那(gb5472)がキリーの頬にキスをしながら挨拶をした――が、白虎と仮染から叩かれ、キリー本人からは百科事典並に分厚い本で鳩尾を思い切り突かれる。
「‥‥ぐっ、初っ端からこれはキツいよ‥‥」
「当然でしょ。あんた日本人のくせにキスを挨拶にしてんじゃないわよ! セクハラ魔!」
 ふん、と鼻息荒くキリーが言葉を返す。
「キリー姉様、お久しぶりなの。ファリス(gb9339)と一緒にキメラ退治をするの」
 ファリスがにっこりと微笑みながら挨拶をする。きっと天使の微笑みとはファリスのような子供の事を言うのだろう――しかし‥‥。
「勝手にすれば。私を巻き込むんじゃないわよ」
 ファリスと二年ぶりに会ったにも関わらず、キリーの態度は相変わらずである。
(まるっきり成長してないの‥‥。叔母さまが言ってたようにキリー姉様はお子ちゃまなの。ファリスはお姉さんだから、少々の悪戯には目を瞑るの)
 まさかキリーも自分より年下であるはずのファリスに、そんな事を思われているなんて夢にも思ってはいないだろう。
「よう、もやし‥‥今回もよろしくな」
 ガル・ゼーガイア(gc1478)がテンションの低い声で挨拶をしてきて「暗いわよ!」とキリーが背中を強く叩いたのだが‥‥。
「今回の俺は真面目モードだ‥‥どんな事にも屈しないぜ‥‥」
 いつものように表情を崩す事なくキリーに言葉を返した。
「‥‥あんたが真面目なんて気持ち悪いわね」
 キリーが眉をひそめながら呟いた時「ハァハァハァハァ‥‥」とまるで変質者のような荒い息をする女性、雁久良 霧依(gc7839)に気がついた。
「キリーちゃん‥‥13歳‥‥ハァハァ‥‥他にも可愛い子がいて‥‥まとめてペログリしたいわ‥‥小っちゃい子は最高よ!」
 ぐ、と拳を強く握りしめながら雁久良が己の欲望、煩悩、すべてを叫ぶ。
「ひ、ひぃぃぃ‥‥何か思いっきり身の危険を感じるぅぅ!」
「はわわ、ま、まさか小っちゃい子ーって僕も入ってるです?!」
(もしかして、ファリスも小っちゃい子に入ってるの?)
「‥‥あんた達、万が一の時には犠牲になりなさい。私の身を守るためにも」
 キリーは白虎と土方の肩をポンと叩きながら、真剣な表情で呟く。
「初めまして、キリーさん、よろし「宜しくしたくないわよ」‥‥‥‥」
 辰巳 空(ga4698)は笑顔のままキリーを見下ろし、どうしたものかと考える。
(バグアとの戦いも佳境に入り、これから先どのように生きていくのか‥‥私でも思案に暮れるのですよね――ですから、キリーさんにももう少し考えてもらいたいんですけどね‥‥悪戯がどのような結果になるのか、噛みしめつつね)
 辰巳は心の中で呟き(それを今回わかってもらいましょうか)と言葉を付け足した。
「ねぇねぇ、こう言っちゃなんだけど、今回のキメラもキリーより可愛く見えるのは何でだろうねぇ」
 首を傾げながら神咲が呟き、キリーから飛び蹴りを食らわされる事になる。
「早くキメラ退治に行くの。暗くなると大変なの」
 ファリスが呟き、能力者たちは高速艇に乗り込み、キメラが現れた山道へと向かい始めたのだった。


―― キメラ捜索 ――

 今回の能力者たちは班を分ける事をせずに固まって行動をする作戦を立てていた。
「はぐっ!」
 キメラ捜索開始早々に土方はキリーから飛び蹴りを受けた。
(な、なんて事なのですかー! これは悪戯じゃなくてぼーりょくです、ぼーりょく!)
 キリーに言葉を投げかけたいのだが、口に出してしまえば今以上の事をされるのがわかっているので、仕方なく土方は心の中で叫ぶ事にした。
(こ、こんな事をされて任務失敗とかやめてほしーですから、まおー様抑えるのに戦力の大半を回さないとーですよ)
 なぜキメラを退治に来たはずなのに、味方を抑えないといけないのか、その理不尽さに土方を含む能力者達は涙が出そうだった。
「そういえばお弁当を用意してきたのにゃー」
 白虎が人数分のお弁当の入ったバッグを見せながら能力者たちに言葉を投げかけた。
(皆で楽しくお昼を食べて帰って来れる空気になりますように!)
 白虎がそんな事を心の中で願っていたなど、他の能力者たちは気づいていない。
(キリーさんの悪戯を止めたいとは思うんですけど、下手な止め方をすれば悪化しそうですし‥‥どうしたものか)
 仮染は飛び蹴りを受けた土方とキリーを見ながら心の中で呟く。はっきり言ってキリーは自分勝手であり、言葉一つで機嫌が良くなる事もあれば逆の事もある。
「ふふん」
 キリーは石ころを拾い、神咲に向けて投げつける。神咲はひょいっとそれを避ける。
「わぁー、いまのはなんだろー、きめらのわなかなぁー、くそぅきめらめ、ひきょうなてをー」
 物凄い棒読みで神咲が呟き「わざとらしいわよ!」とキリーからパンチを受けてしまう。
「あんたはあんたで静かにしてんじゃないわよ! 何考えてんのよ!」
 いつものように平手打ちをガルにお見舞いしようとしたのだが、ガルはキリーの手をぱしりと取る。
「‥‥もやし、戦闘が終わったら大事な話がある‥‥俺にとっては重要な話だ‥‥」
 あまり見ない真剣な表情のガルにキリーは悪戯するのも忘れ「わ、わかったわよ」と頷いていた。
「あら、可愛いキリーちゃん♪ 何をボーっとしてるのかしら、お姉さんが襲っちゃうゾ☆」
 キリーを後ろからむぎゅっと抱きしめるのは雁久良だった。
「あ、あんたはなんて破廉恥な格好をしてるのよ! 胸が当たってるわ! このけしからない胸が!」
「えぇー、だって最近暑いじゃない?」
「あんたは暑かったらビキニに白衣を着るわけ!? なんて事なの! 信じられないわ!」
 持っていた分厚い本を辰巳に向けて投げようとしたが、投げる寸前にくるりとキリーの方を向いてしまい、辰巳への悪戯(という名の暴力)は失敗に終わってしまう。
「くっ、アンタのせいで失敗したじゃない!」
 雁久良を振り払い、次の悪戯を仕掛けるために本をぱらぱらと捲り始めた。
「我々はキメラ退治に来ているのですから、あまりはしゃぎすぎるのはいけないと思いますよ」
 辰巳が優しくキリーを諌めるが、そんな言葉で言う事を聞くような相手であれば、キリーはこんな魔王には育っていないだろう。
「キリー姉様、働かざる者食うべからず、なの。姉様、恥ずかしくないの?」
 ファリスが侮蔑の色を交えた視線を向けながら問いかけると「私ン家、お金持ちだから働かなくても食べていけるの、わかった?」という最低な言葉が返される。
(なんて人なの、同じ能力者として恥ずかしいの‥‥)
 はぁ、と大きなため息を吐く。
(どっちが年下なのかわからないのにゃー‥‥)
 さすがの白虎も呆れたように小さくため息を吐く。馬鹿にお金を持たせるととんでもないという事を、キリーを見ていてよく分かるような気がする。
 その時、能力者たちを牽制するかのように銃弾が地面にめり込む。
「‥‥来た、か」
 仮染が小さく呟き、視線の先にいる少女――キメラを退治するべく、それぞれ戦闘態勢に入ったのだった。


―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――

「銃も女も相手にはしたくないんだが‥‥」
 仮染は覚醒を行いながら呟き、キツくキメラを見据える。たとえ相手がキメラであろうと、女性を斬る事に躊躇いを感じずにはいられないらしい。
「人型を模してもキメラなら倒すの! 力のない人を害するなら、それは敵なの!」
 ファリスが大きく叫びながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
 しかし、なぜだろうか。ファリスの叫んだ『力のない人を害するなら、それは敵』という言葉が、この9人の中の1人に当てはまるような気がするのは‥‥。
「‥‥こう言っちゃまずいだろうけど、依頼を受けるのがこのメンバーじゃなかったら、もしかしたら手加減とかあったかもしれないねぇ‥‥」
 神咲が被害メンバーを見て、苦笑交じりに呟く。
「ま、それはそうとキメラ退治を頑張りますか」
 神咲は炎剣・ゼフォンを構え、キメラへと向かって駆けだす。
「私は支援するわ、みんな頑張ってね!」
 雁久良はスキルを使用して、能力者たちの武器を強化する。
「行きます」
 辰巳はスキルを使用して回避力を上昇させ、味方が攻撃するタイミングに合わせて『呪歌』を使用して、キメラをマヒさせる。
「まおー様から離れられるなら、前衛でも大歓迎ですー」
 土方がぼそっと呟いたが、地獄耳のキリーには聞こえていたようで「わんこぉ!」と叫んでいた。
(はわわ、キメラ退治したあとが、僕にとって恐怖の始まりなのですぅー!)
「とにかく、銃を封じるのだ! こうしてしがみついてしまえば何も出来まい!」
 無謀とも呼べる白虎の作戦、題して『別に下心で抱き着いているんじゃないよ☆ ホントだよ!』作戦が実行された。
 いきなりしがみつかれたキメラとしては動けず、白虎の行動は他の能力者たちを助ける事になった――が。
「‥‥ひどいわ、白虎‥‥私だけだって言ってたのに、そんな女に抱き着くなんて! 私との事は遊びだったのね!」
 突然キリーが泣き始め、白虎は慌てて離れる――が、そこを狙われて攻撃されてしまう。
「ぐはっ!」
「あははははっ! 何動揺してんのよ! や〜らしいわね!」
 お腹を抱えて笑うキリーに白虎は密かにイラッ☆ としていた。
「‥‥これ以上長引かせると、余計な怪我をする人が出そうなの」
 ファリスはスキルを連続で使用して、キメラへと攻撃を仕掛ける。
「もやし! あぶねぇ!」
 キメラの攻撃がキリーを狙った時、ガルが身を挺してキリーを庇う。
 そして、スキルを使用してキメラとの距離を詰めた後、ガルが強力な一撃をお見舞いする。
「敵の防御をさげるわよ〜!」
 雁久良は呟いた後、スキルを使用してキメラの防御力を低下させる。それを待っていたのか辰巳は『呪歌』でキメラをマヒさせて動きを止める。
 動きの止まったキメラを能力者たちが囲んで、一気に攻撃を仕掛ける。相手は少女の姿をしているため、罪悪感などに見舞われる能力者たちもいたが、このキメラを逃せばどうなるかわかっているので、迷いの生じている能力者は心を鬼にして攻撃を仕掛け、無事にキメラを退治したのだった。


―― 戦闘終了後、騎士の心 ――

「まぁ、よく頑張ったと思うわ。ご苦労様」
 何もしなかったキリーが傲慢な態度で能力者たちを労う。
「キリー姉様。姉様は本当にこれでいいと思ってるの? みんなが一生懸命戦ってるのに、姉様一人だけ何もしないで本当に何も思わないの?」
 ファリスが一生懸命キリーを改心させようとするが、純真なファリスの言葉は真っ黒な心を持つキリーに届く事はない。キリーはぷいっと横を向きながら、ファリスの言葉に耳を貸そうとはしなかった。
「もやし‥‥ちょっといいか?」
 今日は少し様子のおかしいガルがキリーに呼びかける。
「別にいいけど、何よ」
「もやし‥‥一年ぐらい前に聞いたが俺の事は友達感覚なんだよな‥‥?」
 何言ってんのよ、といつものように言葉を返そうとしたが、ガルの真剣な表情を見て冗談で言葉を返す事をやめた。
「‥‥期待ばかりさせるのもいけないと思うから、はっきり言うわね。ガルの事は嫌いじゃない、むしろ面白いしMだし、好きだけど――多分、あんたが言うような好きにはならないわ」
 キリーの言葉を聞き「‥‥そっか」と呟いた後――。
「なら、騎士も必要ねぇな‥‥」
 呟いた後、ガルはキリーの頬を軽く叩いた。
 その行動にその場にいた能力者たちは驚きで目を丸く見開く。
「これで俺はお前の騎士じゃなくなった、ついでにこれを機会に悪戯をやめてくれたら嬉しいぜ‥‥ってうおおっ!」
 ガルが目の前のキリーを見て、驚く。
 なぜなら、普段は何様俺様キリー様の彼女がぼろぼろと涙を零していたからだ。
「な、何をするのよぉぉ! 普段叩かれる事なんてないのに! 何であんたが叩くのよ! お母さんに言いつけてやるんだから! 覚えてなさい!」
 ガス、ゴス、バキ、言葉の端々に効果音が響き、その度にガルの呻く声が聞こえる。
「わ、わりぃもやし‥‥これくらいしねぇと未練が残るからよ‥‥」
「あんたの未練を断ち切るために何で叩かれなくちゃいけないのよ! このドヘタレ!」
「キリーちゃん! こっちにいらっしゃい! お姉さんが慰めてあげる、ハァハァハァ」
 雁久良がキリーを抱きかかえ、近くの茂みへと連れ込み、たわわな胸でむぎゅっと慰める。
「キリーちゃんに教育的指導よ、さぁ、悪戯しないと言いなさい、ウフフフフ」
 一歩間違えればセクハラ、むしろセクハラの線を超えるような事をしながらキリーに言葉を投げかける。
「な、なんて事だ! ガル君に言いたい事はあるけど、キリーお姉ちゃんが色んな意味でピンチ! しかしあの中にいけばボクまで巻き込まれる予感! ええい! わんこ、行くぞ!」
「はわわ、な、何で僕を巻き込むーですかー!」
「やれやれ、結局はいつも通りになるんだね」
 神咲は笑いながらカオスに満ちた空間を見ている。
「とりあえず、どうしたらいいんでしょうか‥‥」
「あ、いつもの事だし放っておいても大丈夫だと思うよ」
 苦笑する辰巳に神咲が言葉を返す。

 結局、キリーの機嫌が治まる事はなく、白虎の持ってきたお弁当をキリーは3人分平らげながら本部に到着するまで延々と文句を言い続けていた。


END