●リプレイ本文
―― キメラ退治のために集まった能力者たち ――
「雨の森か‥‥少し面倒な状況だな‥‥視界も足場も悪い‥‥気を抜かないで対処‥‥しないと‥‥」
幡多野 克(
ga0444)が資料に目を通しながら小さな声で呟く。
「雨‥‥」
終夜・無月(
ga3084)が同じく資料を読みながらポツリと呟いた。
(別の意味で問題が出てきましたね‥‥)
終夜は自分の格好を見ながら心の中で呟く。現在彼が着ているのは極普通の白いシャツ。普通の天気であれば全く問題はなかったのだが、これから赴く先は土砂降りの雨。
白いシャツは雨に濡れて透けてしまう事だろう。
(さすがに対策していった方がいいですよね‥‥)
終夜は覚醒すると外見的に女性へと変化する。だから白いシャツのまま戦闘を行えば、シャツが透けてしまって彼自身が言っているように『別の意味の問題』が出てきてしまうのだ。
(レインコートなどで対策になるでしょうか‥‥あと、視界が悪くなるのを防ぐためにゴーグルでも持っていけば大丈夫かと‥‥)
「正直、いくら倒しても一向に減る気配もない‥‥」
辰巳 空(
ga4698)は小さく溜息を吐きながら呟く。
(元々途方もない数だったのは知っていたつもりですが‥‥ひとまず今出来る事は『能力者がいらない』と思われない程度に片っ端から殲滅する事ですね)
「猪キメラかぁ、突進は能力者でも気を付けないと危なそうだね。それに天気も悪いけど、晴れるまでキメラは待ってくれないだろうし、気を引き締めていくしかないね」
イスネグ・サエレ(
gc4810)が資料を読みながら呟く。
「雨とか最悪ー、びしょびしょになっちゃう‥‥」
はぁ、と盛大な溜息を吐きながら呟いたのはエレナ・ミッシェル(
gc7490)だった。
「もっと大人な女性が雨で透けてたりしたら良いのかもしれないけど、私みたいなちびっこがスケスケになっても面白くなーい!」
面白くないという部分がちょっと違っているような気がするが、その辺は置いておこう。
「けっひゃっひゃ、我が輩はドクター・ウェストだ〜」
独特な笑い方と共に自己紹介をしたのは、ドクター・ウェスト(
ga0241)だった。
だが、同じ仲間である筈の能力者たちを見る目は冷たいものだった。
「‥‥?」
彼の態度が冷たい理由を知っている者は何とも思わなかったけれど、知らない能力者もおり、彼の態度を不思議がっていたが、誰も口にする事はなかった。
「そろそろ出発しましょうか。雨で視界も悪い上に夜になってしまったら最悪でしょうし」
イスネグが呟き、能力者たちは高速艇に乗って目的の森へと出発し始めた。
―― キメラ捜索開始 ――
「夜ほどじゃないけど‥‥やっぱり雨の森は暗いな‥‥」
幡多野が周りを見渡しながら「どこにキメラがいるとも限らない‥‥奇襲を受けないようにしないと」と言葉を付け足して、他の能力者たちに注意を呼びかけた。
「我が輩は一人で行動させてもらう〜」
水玉レインコートを着たドクター・ウェストが一人能力者たちから離れながら呟く。
「え? でも‥‥」
エレナが何か言葉を投げかけようとしたけれど、ドクター・ウェストはそれを遮るように終夜へと視線を向ける。
「ムヅキ君もいるし、他にも治療が出来る者がいるのだから、我が輩が一人で行っても構わないだろう〜?」
ドクター・ウェストはそれだけ言葉を残して、そのまま雨の森の中へと消えて行った。
「‥‥‥‥」
事情を知っているのであろう辰巳は遠ざかって行くドクター・ウェストを見て、小さく溜息を吐いたのだった。
「‥‥まぁ、こちらはこちらで何とかしましょう」
場の空気が重くなり始めた頃、終夜が他の能力者たちに言葉を投げかける。
「そうですね‥‥視界も悪いですからいつも以上に周りを警戒しなくてはいけませんし」
終夜の言葉に幡多野が言葉を返す。
「そうだね、雨音が酷くて音も聞き漏らす事があるかもしれないし‥‥」
イスネグは呟きながら、バイブレーションセンサーを使用して『音』の確認を始める。
(こうも雨が酷いと音を拾うのも一苦労だけど、頑張らないとね)
イスネグは心の中で呟き、音に対して集中し始める。
(うーん、私はどうしよう。私が手伝えるのは戦闘になってからなんだよね)
キメラへの警戒を強める他の能力者たちを見ながら、エレナが心の中で呟く。
それでも目に見える物を知らせる事は出来るので、エレナも他の能力者同様にキメラ捜索を始める。
そして、一方その頃――。
「我が輩は、どうしたらいい‥‥?」
雨の中、ふらふらとした足取りでドクター・ウェストが歩きながら呟く。
暗視スコープのせいで彼の表情は見えず、声も雨の音にかき消されるくらい小さなものだった。
考え事をしていたせいだろう。ドクター・ウェストは背後から近づいてきたキメラに気づくのが一瞬遅れ、キメラからの突進攻撃を受けてしまう。
「ぐ、ぅ‥‥!」
咄嗟に機械剣で斬りかかろうとしたけれど、反応が遅れたせいで上手く斬りつける事が出来ず、キメラによって弾き飛ばされてしまう。
「‥‥我が輩は、何をしているのだ‥‥」
キメラはそのままドクター・ウェストを放り、別の方へと向かって走って行ってしまう。
「‥‥‥‥」
ドクター・ウェストは自分の身体が折った木々を見て、悲しそうに表情を歪め「‥‥本当に、何をしているんだか‥‥」と再度呟いた。
そして再び他の能力者たちの所へと視点は戻る。
(‥‥雨で視界が悪いな)
幡多野は小さく溜息を吐きながら周りを見渡す。コートのおかげで全身が濡れるのは避けられているが、いつも愛用している眼鏡に雨が降りかかり、視界が滲む事がある。
(まぁ、雨水や泥水が目に入らないだけでもいい方なんだろうけど‥‥)
心の中で言葉を付けたし、幡多野は再びキメラ捜索を行う。
(やっぱり晴天の時の方が戦いやすいですね。こんな風に自分の格好を気にする事なく戦えるのは晴れてる時だけですし‥‥)
おなじく服が濡れて透けないように対策をしているせいか、いつもより動きにくい格好になっている。
その点、辰巳は全身鎧のおかげで水に濡れる事をあまり気にする様子はない。ただ他の能力者以上に足場の悪い所は避けなければならない――といった所だろうか。
「‥‥待って」
森の中を捜索し始めてから1時間近くが経過しようとした頃、イスネグが能力者たちに言葉を投げかけた。
「バイブレーションセンサーの範囲ギリギリに奇妙な音が混じってる」
イスネグは目を閉じたまま、音に集中する。
「雨音でもない。動物の足音のようだけど‥‥重さがあるみたいで鈍い音だ」
「‥‥こんな森に重量級の動物が?」
辰巳が眉をひそめながら呟く。能力者たちがキメラを捜索しているこの森は狭くはないけれど、大して大きくもない。
「この森って大きな動物の目撃情報とか出てないっぽいけど‥‥」
エレナも森に来る前に読んだ資料の内容を思い出しながら呟く。
「近付いてる‥‥50‥‥40、30――」
イスネグがカウントを始めて『20』と言った時、能力者たちはキメラの姿を確認する。
(動きは素早いけど、遠距離の攻撃方法はないはず――‥‥)
幡多野は心中で呟き、キメラが接近してくるその瞬間を待つ。危険な方法だと彼自身もわかっていたが、それが一番確実な方法だという事もわかっていた。
「――来る!」
終夜が呟き、キメラと能力者たちの戦闘が開始された。
―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――
「さぁ、ここからだるまさん大作戦始動だよ」
エレナは冷たく微笑み、傘を持っていない方の手で拳銃を持ち、それをキメラに向け、狙いを定める。
「雨に濡れるのは嫌だし、傘を差したまま動こっと!」
エレナは拳銃・CL−06Aを構え、キメラの手足を狙って攻撃を行う。
「‥‥流石に一発じゃ動きは止まってくれないかぁ」
むぅっと頬を膨らませながらエレナは呟き、再び射撃を行う。
その時、ドクター・ウェストが合流して、エネルギーガンでキメラへと攻撃を仕掛ける。
「‥‥‥‥」
だが能力者たちに何か言葉を投げかける事は一切なく、ちらりと一瞥した後、再びキメラとの戦闘に戻る。
(そうだ、こっちに来い‥‥)
幡多野は攻撃を受け、自分の方へ向かってくるキメラを見据えながら心の中で呟く。
そして、キメラが幡多野を狙う瞬間、彼はキメラの攻撃を避け、仕掛けてきた瞬間を狙って攻撃を繰り出した。
「どんなに強力な攻撃であっても‥‥当たらなければどうという事はない!」
無傷で攻撃――というわけにはいかなかったが、幡多野は攻撃を受けながらもキメラに強力な一撃を与えた。
幡多野の攻撃によってキメラは動きを止め、エレナが足を狙って攻撃を行う。
キメラは一発受けた後に逃げようと傷ついた身体を動かしたが、それはイスネグが許さなかった。
「YOUはノロイ? それは呪い♪ 体が重イ? ミーの思い♪」
イスネグは呪歌を使用しながらキメラの動きを麻痺させて動かなくさせる。
「動けなければ、逃げようもないでしょう」
終夜が呟き、聖剣デュランダルを振るってキメラへと攻撃を仕掛ける。
そして辰巳は終夜の逆側から動き、イスネグの呪歌効果によって動けないキメラを狙い朱鳳で攻撃を仕掛ける。
「これで終わりだよ〜」
ドクター・ウェストがエネルギーガンでキメラを狙い撃ち、終夜、幡多野、そして辰巳がその攻撃に合わせて同時にキメラを攻撃した。
元々地力の違いもあり、キメラは能力者たちの攻撃を避ける事も出来ず、まともに攻撃を受けてそのまま地面へと倒れて絶命したのだった。
―― 戦闘終了後 ――
「はぁ、濡れないように気を付けてたのにやっぱり濡れてるし‥‥」
エレナはぐっしょりと濡れてしまった服を見て、盛大な溜息を吐いていた。
「しかも泥水とか血で汚れてるし、これ‥‥洗って落ちるかなぁ」
落ちなかったら最悪だー、と愚痴を零すエレナを見て他の能力者たちは苦笑していた。
無傷でキメラを退治する――という事は出来なかったけれど、重い傷を受けた能力者はいない。
「‥‥自分の傷は自分で治したまえ〜」
ドクター・ウェストは能力者たちに救急セットを投げ渡し、戦闘によって切り裂かれてしまった植物の方を優先して治療を始めた。
(バグアを全滅させるまでは壊れるわけにはいかないのだよ〜)
拳を強く握りしめ、ドクター・ウェストは心の中で呟く。
「‥‥泥だらけだ」
苦笑しながら幡多野が能力者たちを見て呟く。もちろん呟く幡多野自身の顔も泥で汚れているけれど、その汚れが精一杯戦った証のように思え、不思議と嫌ではなかった。
(濡れた服が張り付いて‥‥気持ち悪い‥‥早く帰って‥‥熱いシャワーを浴びたいな‥‥)
幡多野は(その前に風邪引くかも)と心の中で言葉を付け足した。
(戦闘よりも服に気を遣う方が大変だったような気がします‥‥)
レインコートの下で張り付くシャツの気持ち悪さに耐えながら、終夜が心の中で呟く。
「まぁ、無事に退治できて何よりですね。あと、どれくらい退治すれば終わりが見えてくるのかわかりませんけど‥‥」
辰巳は苦笑しながら呟き、一分一秒でも早く平和になる日がやって来て欲しいと願った。
(‥‥泥だらけだし、色々と問題はありそうだけど‥‥この肉食べれるのかな?)
イスネグは、今はもう動かぬ遺体となったキメラを見下ろしながら心の中で呟く。
その後、能力者たちはラストホープへと帰還して、本部に任務達成の報告を行った後、濡れた服を着替えたい一心でそれぞれ自宅へと急ぎ足で戻って行ったのだった。
END