タイトル:週刊記者から攻撃されるマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/24 01:42

●オープニング本文


こんなつもりじゃなかったのに‥‥

私がいるだけで、皆に迷惑がかかってしまう――‥‥。

※※※


事の始まりはクイーンズ記者・チホが能力者の所へと駆け込んだことからだった。

そして彼女は驚くべき事を能力者に向けて話した。

「私とマリで‥‥取材に行ったんです。けれどそれは間違いだった‥‥」

チホの左腕には包帯が巻かれていて、血が滲んでいた。

「そういや、マリは‥‥?」

チホといつも行動しているマリの姿が見かけられず、能力者は何気なく問いかけた。

「マリは‥‥キメラがいる森にいます――‥‥携帯に連絡しても繋がらないし‥‥もしかしたら」

言いかけてチホは涙を流す。

「取材している森にキメラが現れて、キメラからの攻撃をマリが庇ってくれたの‥‥けれど」

「その傷もキメラに‥‥?」

「いいえ、これはマリに攻撃されました―‥‥恐らくは噂に聞く幻覚を見せたりするキメラなんじゃないかと思います‥‥マリに私の言葉は届かなかった」

チホは俯き「お願い、マリを助けて」と能力者に頭を下げながら懇願するように頼んだのだった。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
花柳 龍太(ga3540
21歳・♂・FT
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD

●リプレイ本文

「私個人は彼女と面識はないが‥‥彼女を助けようと人が集まるんだ‥‥それなりの人柄だったのだろう」
 御影・朔夜(ga0240)が土浦 真里(gz0004)を助ける為に集まった能力者達を見ながら呟く。
「チホ、知っている全てを話してくれ。マリを助ける為にも」
 沢村 五郎(ga1749)がクイーンズ記者であるチホに話しかける。
 するとチホは「犬みたいなキメラで‥‥」とキメラについて話し始めた。
「キメラからの攻撃をマリが庇ってくれて‥‥でもその後にキメラの目が光って‥‥それからマリはおかしくなったんです‥‥私を化物でも見るかのように‥‥」
 恐らくはその妖しい光を見た事によってマリは幻覚状態に陥ったのだろう。
「ふむ、では目の光にさえ気をつけていればいい‥‥のかな。それにしても幻覚、ね。悪くはないが期待出来ないのは満たされない渇望を超えるに足らないからか‥‥」
 崎森 玲於奈(ga2010)が小さく呟く。
「お願い、マリを‥‥」
 チホが弱々しい声で呟くと「大丈夫よ」とナレイン・フェルド(ga0506)がチホの肩に手を置きながら言葉を返した。
「マリちゃん‥‥必ず助けるから、チホちゃんも安心して待っていてちょうだい」
 ナレインの真剣な表情に「そうですよ」と翠の肥満(ga2348)が呟く。
「たとえ一度は破れた愛でも見捨てるワケにはいきません。マジワキさん、いつも以上に頑張っちゃいますよ‥‥上手くやれば男として見直してもらえるかも‥‥ヘヘ」
 翠の肥満は怪しげな笑顔を見せながら一人自分の世界に浸っている。
「それでは手遅れになる前に急ごうか」
 漸 王零(ga2930)が呟く。
「あぁ、知っている奴が危ない目にあっているからいてもたってもいられないが――それは何とか抑えて、任務を遂行しなくちゃな」
 花柳 龍太(ga3540)が呟くと「あたしはどうだろう‥‥冷静でいられるかな」とキョーコ・クルック(ga4770)が小さく言葉を返した。
「心配なのは分かるが、冷静さを欠いたら助けられるものも助けられなくなるぞ」
 御影の言葉に「ん、分かってる」とキョーコは答え、マリがいる森へと移動を始めたのだった。


●森の中、孤独のマリ

「何で‥‥何でこんな物が見えるのかな‥‥勘弁して」
 ふらつくマリはバッグに残っていた最後の食料を口にする。キメラと遭遇して咄嗟にチホを庇ったまでは良かった。
 けれど、その後にマリは幻覚に囚われてしまい『血に塗れた兄の姿』が見えるのだ。いきなりの事で持っていたペンを振り上げたのだった。
 そして、それが結果的にチホを傷つけるものになったのだ。
 それからマリはキメラさえも兄の姿に見えて森の中を彷徨っているのだった。

 森に辿り着いた能力者達は2つに班を分け、それからさらに2つの班を編成した。
 まず囮班として森の中を派手に歩き回るのは漸、ナレイン、キョーコ、翠の肥満。この班の中でマリの保護を優先とするのはキョーコと翠の肥満の2人である。
 そしてキメラを挟み撃ちにする為に隠れて行動するのは花柳、崎森、御影、沢村。此方の班では沢村だけがマリの保護を優先する事になっている。
「マリ〜〜! どこだ〜い!」
 最初に動き始めたのは囮班だった。彼らが派手に動き回ってキメラを見つけない事には作戦の進行もないのだから。
「土浦さァァァん! 待ってて、すぐにお助けしますッ! ついでにマジワキさんってニックネーム、僕は結構気に入ってますよォォォッ!」
 翠の肥満が森の中に響き渡るように叫ぶ。ちなみに後半は何か関係があるのかと囮班の能力者達は首を傾げたのだった。
「マリちゃ〜〜ん! 何処にいるの〜! 出ていらっしゃい!」
 ナレインも声を大きくしてマリを探す。もちろんキメラをひきつける意味でも声を大きくしているのだ。
「向こうの班からも何も連絡がない‥‥まだマリは見つかっていないのか」
 漸が通信機を見ながらため息混じりに呟く。
「極度の緊張状態が続いている筈だから、一般人のマリにはもう限界が近づいている筈‥‥急いで見つけないと」
 キョーコが呟き、先程より大きな声でマリに呼びかける。
 その時だった、近くの木の所で枝が折れる音がして能力者達は其方に視線を向ける。
「マリちゃん!」
 現れたのは紛れもなくマリだった。キョーコの言った通り極度の緊張状態が続いていたせいかいつもの覇気もなく、弱々しい姿だった。
「土浦さん! あなたのマジワキさんです!」
 翠の肥満が近寄ろうとしたとき「待て!」と漸がそれを制止する。
「誰、誰なのよ、アンタたちは――‥‥誰――‥‥」
 ガタガタと震えながらペンを握り締めるマリの姿に、能力者は互いの顔を見合わせる。
「もしかして‥‥私達が誰かマリちゃんには分かっていないのかしら‥‥?」
 ナレインが呟くと同時にマリは背中を見せて走り出す。
「あ、待っ――」
 翠の肥満が逃げるマリを追いかけようとした時に運悪くキメラが現れる。
「キメラ‥‥あなたのせいでマリちゃんは‥‥」
 その時、珍しくナレインが怒りを露にした表情・口調で呟いた。


●戦い・逃げるマリ――。

「マリが見つかったらしい――それに‥‥」
 通信機を切りながら花柳が能力者達に向けて話す。
「それに? 何だ?」
 崎森が口ごもる花柳を見て不思議そうに問いかけると「キメラも現れた」と花柳が言葉を返す。
「おまけにマリは囮班を見て怯えるように逃げてしまったらしい」
「幻覚には囚われたまま、か。キメラを倒せば幻覚も解除されるんだろうか」
 御影が囮班のところへと急ぎながら呟く。
「恐らくはな。マリに見せたように私に見せるとしたらどんな幻覚の世界かな?」
 崎森が呟くと森の中には不釣合いな音が耳に入ってくる。恐らくは戦いの場が近いのだろう。
「おい、あれ――‥‥」
 沢村が指差した方向にはマリの走る姿が視界に入ってきた。
「マリ!」
 花柳が呼びかけると、マリは立ち止まり此方を見るが、その途端に青ざめた表情に変える。
「お、お兄ちゃん‥‥」
「は?」
 マリの見当違いな言葉に花柳が間の抜けた声を出す。
「何だ、お前はマリの兄貴だったのか?」
 沢村が問いかけると「いやいやいや、違うから」と慌てて答える。
「どうやら見せられている幻覚に関係があるみたいだな」
 御影が呟くと「マリは俺が追いかける」と沢村がマリの方へと走る。残りの能力者達はキメラがいる方へと走り、囮班との合流を果たした。


●戦いの始まり

 囮班との合流は果たしたが、挟み撃ち班はまだキメラのところへ姿を現していない。タイミングを外せば別れて行動した意味がなくなるからだ。
「許さないわよ! 大切な友達を傷つけるあなたを!」
 ナレインが叫び、ファングで攻撃を仕掛ける。もちろん攻撃をした後は距離を保つ。攻撃しては距離を取る、そんなやり方をしている能力者達に痺れを切らしたのかキメラの目が妖しく光りかけた時――崎森が小銃『S−01』で攻撃を始めた。
「――アクセス」
 御影も呟き「幻覚か――度し難いが、実にくだらない」と言って『鋭角狙撃』『強弾撃』を発動させる。
「何者であろうと生きて逃れられはしない――この『悪評高き狼』の爪牙からはな‥‥!」
 御影は言いながら攻撃をしていく。御影の攻撃の後に花柳がグレートソードでキメラを斬りつける。
「そういえば沢村はどうしたんだい?」
 キョーコが問いかけると「マリを追いかけていった」と花柳が答えるが、それから少しした時に沢村が戦闘現場へとやってきた。
「マリを追いかけたんじゃ‥‥?」
 崎森が呟くと「見失った」と沢村が短く言葉を返す。どうやら石を投げられたりして見失ったらしい。
「私たちが探しに行きますよ」
 翠の肥満とキョーコが戦闘を離脱しながら沢村に話しかける。
「キメラがここにいる以上は土浦さんに危険はないでしょうし‥‥」
「分かった、俺も直に向かう」
 そう呟き、沢村はキメラから幻覚を受けぬように瞳を閉じる。
 それを『諦めた』と勘違いしたのかキメラが沢村に向かって走り出す――が、向かってきて攻撃射程距離に入ってきたキメラを沢村は紅蓮衝撃で攻撃する。
「マリに幻覚を見せ、苦しめた報いだ」
 花柳も沢村の攻撃の後に流し斬りを使ってキメラに攻撃をする。
「‥‥‥ハハハ、幻覚という安い手品も使えなければ意味がない。使えていたとしても私の渇望を癒せるとは思えないが」
 崎森は蛍火でキメラを攻撃しながら低い声で呟く。
「他人に恐怖を与えるお前だ。恐怖を与えられた事などないのだろう――ならば見せてやる。これが‥‥渇望の王が振るいし剣だと知れ!」
「闇影よ。我が求めに答えよ」
 漸が覚醒して蛍火を構える。
「聖闇倒神浄影滅魔流継承者、零――参る!」
 戦いも終盤になった頃、漸がキメラに向かい攻撃を繰り出す。
 きっと『幻覚』に囚われる能力者がいたならば此処まで順調に戦闘が進む事などなかったのだろう。
 だが、能力者達の中には『マリを傷つけた』事で怒りに満ちた人物もいて、キメラに幻覚の能力を出させる暇を与えなかった。
「マリちゃんを傷つけた罪を償いなさい――あなたにできる方法でね」
 ナレインが呟き『瞬即撃』で攻撃しながら呟く。普段は女らしいナレインだが、この時だけは少しだけナレインの中の『男』の部分を見た気がした。
 その後もキメラは自分の能力を生かすことなく倒れ、残る問題はマリのみになった。
「汝等にもはや未来などない。我が刃にて清浄なる闇の中で未来永劫眠るがいい‥‥」
 漸が呟き、戦闘を終えた能力者たちはマリのところへと向かい始めたのだった。


●彼女の悪夢・そして‥‥

 時間は少し遡り、まだキメラを退治出来ていない時だった。
「マリ〜、あたしが分かるかい?」
 翠の肥満とキョーコは逃げていったマリを探していて、マリを見つける事は出来たが幻覚に囚われたままのマリには何一つ言葉が通じない。
「クリスマスに一緒に料理したじゃないか‥‥忘れちゃったのかい?」
 キョーコが一生懸命言葉を投げかけるが、マリには伝わっていないのか「う、あ‥‥」と怯えたような瞳しか向けてこない。
「土浦さん、ほらマジワキさんです。あなたのマジワキさんです」
(「いつからあんたはマリのモンになったんだい‥‥」)
 翠の肥満の説得にキョーコは心の中でツッコミを入れる。
「あたし達は敵じゃないから、落ち着いて――っ」
 キョーコが呟いた瞬間、何かパキンと割れるような音がして、それと同時に「‥‥キョーちゃん」とマリが呟いた。
「どうやらキメラを無事に倒すことが出来たみたいですね」
 翠の肥満が呟くと「マジワキさんも‥‥」と呟き、その場に膝折れる。見知った顔がいたことで緊張の糸が切れたのだろう。
「土浦さんッ」
 地面に顔面直撃する寸前で翠の肥満が抱きかかえ、直撃は免れたのだった。
「大丈夫ですか? 土浦さん」
「へへ、大丈夫ッスよ。マジワキさん、私の事はマリでいぃー‥‥ッスよ‥‥苗字で呼ばれるのは‥‥苦手、だから」
 そう言ってマリはすぅと眠り始めたのだった。


 ――それから数日後――
「マリちゃん‥‥良かったわ!」
 マリが入院している病室にやってきた能力者の中でナレインが一番早くマリに抱きついた。
「お、お姉様、痛い痛い」
「あら、ごめんなさいね、嬉しくってつい‥‥」
 その様子を見ながら「全くお前はいつも‥‥」と沢村がため息混じりに呟いた。
「えへへ、何かさ、皆の姿が血まみれのお兄ちゃんに見えてさー」
 マリがシーツを強く握り締めながら「お前だけなんで生きているんだって‥‥皆に迷惑かけているお前が何でって‥‥」と弱々しい声で呟いた。
「おい」
 沢村が呟き、マリが「え?」と顔を上げた瞬間にあんまんを口の中に突っ込まれる。
「んーーっ!?」
「誰にも迷惑かけずに生きている奴なんていねえよ。死んでいる奴にだってそうだ。とりあえず食っとけ。結構限界状態だったんだからよ」
「今回は色々と災難でしたね。でもこの程度でめげる貴女じゃないんでしょ?」
 翠の肥満が問かけると「もちろん!」とマリが笑って答える。
「それじゃあ、これからも頑張って無茶をしてくださいよ。無茶のしすぎでピンチになった時は、僕が飛んでいきますから」
 にっこりと笑って翠の肥満は『牛乳大好き! 翠の肥満』と書かれた名刺を置いて立ち去ったのだった。
「‥‥‥‥マジワキさん、キメたつもりなんだろーけど、キマってないよね」
 マリが名刺を見ながら呟く。
「まぁ、何にせよ無事でよかったな。我も心配したぞ」
 漸がマリに話しかけると「ご心配ありがと! 王ちゃん!」と言葉を返す。
「もう体は平気なのか? あとチホが心配していた‥‥ちゃんと謝っておくんだな‥‥」
 花柳の言葉に「こってり説教くらったよ‥‥」とマリは沈んだ表情で呟く。
「それは仕方ないだろうな、まぁ‥‥心配したのは俺達も同じだけどな」
「ホントだよ! 凄く心配したんだからね。でもマリが無事でほんっとに良かった〜」
 キョーコが心から安堵したような表情で呟くと「今回はホントにごめんね!」とマリも珍しく素直に謝る。
 そして――スパーン! と心地よい音が響く。
「お、お姉様!?」
 マリが頭を擦りながら驚いた顔でナレインを見る。
「ふふ、シリアスで終わるつもり〜? 愛情ハリセンよ♪」
 ナレインがにっこり笑って話した言葉に「うぅ、ホントに反省してます」と眉を下げ、笑いながら呟いた。
 ちなみに後日談だが翠の肥満の所に大量の牛乳がマリから送られてきたのだった‥‥賞味期限は明日までの牛乳が。


END