タイトル:variant―鬼ごっこマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/21 01:28

●オープニング本文


そのキメラは、人の住まなくなった廃墟を拠点としていた‥‥。

※※※

そのキメラは頭に、己の存在を誇張するかのような鋭いツノが生えているのだと言う。

「鬼ごっこ?」

女性能力者が依頼内容を見て、怪訝そうな表情を見せた。

「そう。そのキメラはまるで鬼ごっこでも楽しむかのように退治にやってきた能力者を追いかけてくるんだとさ」

女性能力者の問いかけに、男性能力者が面倒そうに答えた。

そのキメラは外見は獣と人が混じったような姿をしていて、鋭い爪、素早さを誇る脚力で楽しむかのように戦いを行うのだと言う。

幸いにもまだ犠牲者は出ていないのだが、このままそのキメラを放っておけば死んでいく能力者も現れてくるかもしれない‥‥。

そのキメラ『鬼』と戦ったことのある能力者は語る。

『右手に気をつけろ‥‥奴の右手は戦いの最中で変化してくるんだ‥‥熊のように大きな力を持つ手に‥‥』

「気をつける点が結構あるわね‥‥爪、素早さ、そして手――他にもあるかもしれないわ」

このキメラは人の住まなくなった廃墟を拠点としているようで、出現区域は廃墟の奥にある小さな森だった。

「今は大人しくしているけれど‥‥いつまで続くか分からないものね、できるだけ早めに退治した方が良さそうだわ‥‥」

女性能力者はキメラ退治に向かう能力者に「頑張って」と短く話しかけたのだった‥‥。

●参加者一覧

ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
トレイシー・バース(ga1414
20歳・♀・FT
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
富垣 美恵利(ga4872
22歳・♀・BM
鬼界 燿燎(ga4899
18歳・♀・GP
レグルス(ga5589
25歳・♂・FT
Hish(ga6000
15歳・♀・ST

●リプレイ本文

「戦いを楽しむねえ‥‥なんとなく分からないでもないような気がするけど、でも似て非なるものなんだよね、あたしとは」
 キメラが潜む場所に向かう中、ミア・エルミナール(ga0741)が呟く。
「そんなに戦い――鬼ごっこが好きなら相手をしてあげるわ」
 皇 千糸(ga0843)が鬼界 燿燎(ga4899)と富垣 美恵利(ga4872)を見ながら話した。
 今回の作戦では、鬼界と富垣の二人が囮をしてキメラをひきつけてトラップなどを仕掛けて待ち伏せ班がキメラを待つ――という事だ。
 皇とミアの他に待ち伏せ班はトレイシー・バース(ga1414)、熊谷真帆(ga3826)、レグルス(ga5589)、Hish(ga6000)の能力者達も所属している。
「それじゃこれを渡しておくね」
 ミアが持っていた方位磁石をHishに渡した。
「それでは、わたくしと燿燎さんで囮でキメラを引き付けてきますね。皆様も良い待ち伏せ場所を見つけていてください」
 富垣は元俳優で「任せてください」と胸を叩くような仕草をしてみせた。
「では参ろうか」
 鬼界が呟き、二人はキメラのところへと向かい始め、待ち伏せ班もトラップなどを仕掛ける為に動き出したのだった。


「誘い込む場所は、障害物が少なくて連携が取りやすい開けた場所がいいわね」
 皇が森の中を見渡しながら呟く。
「一応市販のマップを持って来たんだけど‥‥この辺が開けていそうじゃない?」
 トレイシーがマップの一箇所を指差す、そこは確かに少し開けた場所のようで、位置的にキメラが拠点としている廃墟の近くであった。
「この場所とか良さそうですね、時間もなるべく急いだほうがいいかもしれませんし‥‥この場所に向かって仕掛けを始めませんか?」
 熊谷の言葉に皇も「そうね、準備前にキメラと遭遇とかしたくないし‥‥」と呟く。
「そうだな、それにしても鬼ごっことは随分と悪い趣味を持ったキメラだな」
 レグルスがため息を吐きながら小さく呟く。
「鬼キメラとは‥‥何でもアリなのね」
 熊谷の言葉に「どっちにしてもキメラだし、叩き潰すのみだけどね!」とミアが拳をバトルアクスを持ち上げながら答えた。
 それから能力者はマップで見つけた場所が、実際に見てトラップを仕掛けるに、そして戦いに適した場所かを肉眼で確認する。
「この地形なら大丈夫じゃないかしら? トラップを仕掛けてしまいましょう。囮班からの合図がないからまだキメラと遭遇はしてないみたいだけど‥‥」
 合図がないからと言って安心は出来ない。もしかしたら合図なしで此方に来る可能性もあるのだから。
 その時に囮班からの合図である『照明銃』が打ち上げられた。キメラと遭遇したという合図だろう。
「ありゃりゃ、急いだ方がいいかもね」
 トレイシーは言いながら、身を隠す為の木の葉落ち葉を捜しに行く。その中に身を潜ませてキメラが来たと同時に奇襲攻撃を仕掛けるという方法を取ろうと彼女は思っていた。
 ワイヤートラップを仕掛ける能力者は、片方のワイヤーを木に巻きつけ、もう片方を手に持って待機する。
 この時、走ってくるであろう囮役がワイヤーに引っ掛からないように最初は弛ませておき、囮役が通過した後にキメラが通るタイミングを見て引っ張るのだ。
 皇は少し離れた所から通信機を使って、ワイヤートラップを仕掛ける能力者に指示を出す役割だった。
「自分に自信があるのは羨ましい事だが、度が過ぎればご自慢の足に足を掬われる事になるだろうよ」
 レグルスが囮役を待ちながら小さく呟いた。
「そうですね、でも――それが理解できないからキメラなんでしょうね」
 Hishがレグルスに言葉を返した。


 そして一方、囮役の二人といえば‥‥。
 時が少し遡り、まだ二人はキメラと出会っていない状況だった。
「悪たれ鬼ぃっ! 遊びに来てやったぞ! 相手をせいっ!」
 廃墟付近まで歩くと、鬼界が大きな声で叫ぶ。シンとした場所に鬼界の叫びは大きく響いた。
 だが、相手も警戒しているのか姿を現す気配はない。
「もう少し慎重になられた方が‥‥あくまで『調査』なんですから」
 富垣が苦笑しながら鬼界に話しかける。
 そう、これは『調査』にやってきて二人の能力者が行動している『よう』に見せるという演技。元俳優の富垣は演技に慣れており、本当にキメラの事を知らないかのような表情を見せていた。
「うむ。すまぬ――――富垣殿!」
 鬼界が素直に謝ろうとしている時、富垣の背後から頭にツノのような突起物があるキメラが現れた。
「きゃあっ!」
「来よったな! 鬼さん此方じゃ!」
 鬼界は叫び、待ち伏せ班がいる場所を目指す。待ち伏せ班が目的の場所に到達した時に『待ち伏せ場所はここにする』と連絡を受けていた。
「燿燎さんっ! 避けてください」
 富垣が驚いたように叫びながら、持っていた武器で攻撃をする。しかしそれは照明銃でキメラにダメージはなかった。
 彼女の照明銃とほぼ同時期に奥の方からも照明銃があがる。待ち伏せ班の居場所を合図したのだろう。
 キメラは待ち伏せ班があげた照明銃には気がついていないらしく、目の前の獲物をどうやって狩ろうかと考えている――ような表情だった。
「お、驚いて間違えてしまいました‥‥」
 富垣は慌ててハンドガンを構えなおす。もちろん『間違えた』というのは嘘である。キメラを目の前にして通信機を使うわけにも行かず、待ち伏せ班に分かりやすいように照明銃で合図を行ったのだ。
 富垣は武器を間違えた事により軽いパニックに陥っているふりをしながら瞬速縮地を使って木々の間を縫うようにして待ち伏せ班のいる場所を目指す。
「はは、鬼の自覚が足りんの! 赤子でも逃げ切れる!」
 鬼界がキメラとの距離を保ちながら嘲るように笑って話す。その言葉が癇に障ったのかキメラが爪で攻撃を仕掛けてくるが、鬼界と富垣はジグザグ走行をしているせいか攻撃を当てづらいのだろう。鬼界はキメラからの攻撃を難なく避けてみせる。
 キメラを待ち伏せ班のところまで誘導して、ワイヤーが弛んでいる場所も見つけたので引っ掛からないようにワイヤーを通り過ぎると「今よ!」と皇の声が響く。
 その声を合図にミアが仕掛けていたワイヤーを思いっきり引っ張りキメラを転ばせた。
「厄介な芽は早めに摘ませてもらうよ!」
 キメラが起き上がる前にミアが豪破斬撃で右手をばっさりと斬る。厄介視されていたのは変化する右手。それさえなくせば後は連携さえきちんとする事によって倒せない相手ではないのだ。
「視界も奪われれば、どうなるのかしら」
 皇は強弾撃を使用してキメラの目を潰しにかかる。
 いきなりの奇襲攻撃にキメラは対処しきれていないのか、動きが凄く読みやすい。
「大人しく寝ていなさい!」
 トレイシーがバトルアクスを振り回して攻撃仕掛けるが、大振りの為にキメラに当たる事はなかった。
「例え全国節分豆組合の皆さんが許しても――私が許しません!」
 熊谷が叫びながらヴィアを振るう。全国節分豆組合というものは存在するのかというツッコミは軽く流しておこう。
「あなたの自慢は素早さでしたね――まずはそれを崩させてもらいます」
 熊谷はヴィアで足を集中的に攻撃する。熊谷の攻撃も入った事でトレイシーの攻撃を避ける事に集中できなくなったのか、トレイシーが繰り出した紅蓮衝撃をまともに受けてしまう。
「鬼さん此方、手の鳴る方へ――ってな。但し――最後に捕まるのはお前だけどな」
 レグルスが流し斬りを二回連続で使用し、最後に豪破斬撃で攻撃をする。
 Hishは味方が負傷した時の為に後衛で待機している。今回依頼をしている中で味方を回復出来る唯一の人物なので、他の能力者達も彼女に危害が行かぬように気をつけている。
 その後、ミアもバトルアクスからアーミーナイフに持ち替え、キメラに攻撃をしていく。
「何だ‥‥そのツノとか飛ばせるのかと期待していたら出来ないんだ‥‥」
 残念だよ、ミアは言いながらキメラの頭部に攻撃をしていった。
「自慢の足も手もなくしたキメラにこれ以上手こずる事はないわ、一気に畳み掛けるわよ!」
 皇の言葉を合図に能力者達はキメラに総攻撃をかけて倒したのだった‥‥。


「こんな鬼ごっこは一度で十分ですわね‥‥」
 ため息を吐きながら富垣が小さく呟く。
「所詮はキメラ、追いかけるだけしか出来ないキメラに人間である儂らには適わんよ」
 鬼界の言葉に「そうだね」とミアも呟く。
「現れるのが早かったのよ、節分はまだ先なんだから‥‥せっかちな鬼の末路はこんなものね」
 皇が物言わぬ遺体と化したキメラを見ながら冷たく呟く。
「鬼ごっこを楽しんでいたキメラの最後は鬼門に追い詰められ、消えてった‥‥ですね」
 熊谷が皇に答えるように言葉を返した。
「何はともあれ鬼の首を取ったように‥‥皆で笑いましょう」
「そうだな、下らない鬼ごっこの犠牲者が出る事はなくなったんだからな」
 レグルスが笑いながら熊谷に言葉を返す。
「もしかしたら鬼キメラがまた復活するかもしれませんし、確殺の為に解体するというのはどうでしょう?」
 にっこりとHishが笑顔で呟いた言葉に能力者達は驚きで目を丸くする。
「ふふ、どうなるでしょうか」
 怖い笑顔で呟くHish。
「え、本気で言ってるのか?」
 レグルスの言葉に「本気ですよ?」とHishはきょとんとした顔で答える。
「解体‥‥あまり見たいとは思えないのですが‥‥」
 富垣が苦笑しながら呟く。
 その後、本当に解体したのかは能力者達にしか分からないのだった‥‥。


END