タイトル:マーメイドの海マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/26 23:54

●オープニング本文


青い空、白い雲、そして目の前に広がる綺麗な海――とぶっさいくな人魚。

※※※

【人魚】

 上半身が人間の女性で、下半身が魚の形をしており海中に住むという想像上の生物。

今回のキメラは海に潜んでいるのだと言う。

被害状況はまだ少なく、幸い死人は出ていない。

そのキメラというのが―――。

「人魚?」

一人の女性能力者が首を傾げながら、小さく問いかけた。

「おぅ、俺の友達がさ『人魚って言われるからには綺麗な姉ちゃんの姿してんだろ? ひゃっほう!』とか言いながらキメラ退治に向かったんだけどよ‥‥」

女性能力者の問いかけに、男性能力者が口ごもりながら『人魚』について話し出す。

「実際の外見は魚を大きくしたようなモンだったらしくてさ、友達はがっかりしてキメラにやられて病院に入院しちまったよ」

「不純な動機でキメラ退治に行くからそういう事になるのよ‥‥でも人魚と聞いて私も少し童話の人魚姫みたいな感じかと一瞬思ったけどね‥‥」

人魚‥‥というより巨大魚のキメラ。

どうやって退治する?


●参加者一覧

空間 明衣(ga0220
27歳・♀・AA
橘・朔耶(ga1980
13歳・♀・SN
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
青山 凍綺(ga3259
24歳・♀・FT
キリト・S・アイリス(ga4536
17歳・♂・FT
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
リュス・リクス・リニク(ga6209
14歳・♀・SN
クーヴィル・ラウド(ga6293
22歳・♂・SN

●リプレイ本文

 始まりは『人魚』なるキメラが現れた事だった。
「なんか人魚みたいな化物がいるそうだね、皆さんが安心して漁が出来るように頑張るのでご協力の方を宜しくお願いします」
 丁寧な挨拶をした後に頭を下げるのは空間 明衣(ga0220)だった。
「人魚ね‥‥最後には泡にでもなるのかしら? その方が私達にとっては楽なんだけどね」
 空間の言葉に海音・ユグドラシル(ga2788)が笑いながら呟いた。
「人魚キメラと言われているからには‥‥人間が取り込まれた可能性があるという事でしょうか‥‥」
 キリト・S・アイリス(ga4536)が暗い表情をしながら小さく呟く。心優しい彼はキメラの事を考えて心を痛めているのだろう。
「あ、あの‥‥これ‥‥」
 ビニールに入った血が滴る生肉を差し出すのはラシード・アル・ラハル(ga6190)だった。彼は事前準備としてキメラと戦う為に必要な小型ボートと引きつけ用の生肉を調達してきていた。
「お疲れ、俺も一応生餌を用意してきたんだが‥‥」
 橘・朔耶(ga1980)は袋の中に用意した鼠を見せながら呟いた。
「何とか餌に食いついてくればいいんですけどね‥‥」
 青山 凍綺(ga3259)がため息混じりに呟く。
「ただ最初は船でおびき寄せるので、船に攻撃されたら囮役が危ないですね」
 青山の言葉に「皆で頑張ろう‥‥」とリュス・リクス・リニク(ga6209)が呟いた。
「さて‥‥始めるか」
 クーヴィル・ラウド(ga6293)が呟き、人魚キメラを退治する為に行動を起こし始めたのだった‥‥。

※※※

「じゃあ、言ってきますね」
 空間とラシードが小型ボートに乗り込み、キメラが出現すると言われている場所までボートを動かす。
「上手くいくといいですね」
 空間が呟くと「ぼ、僕が‥‥」と小さく呟き始めた。
「え?」
「僕が、援護する‥‥頼りない、よね? でも‥‥誰の血も見たくないから‥‥」
 ラシードが呟くと空間はにっこりと笑って「頼りにしています」と答えた。
 今回の作戦はボートの船尾に餌を設置して、餌を括りつけているロープはいつでも巻き取れるようにしてある。
「‥‥来た‥‥」
 ラシードの言葉に空間が船尾の方を見ると、物凄い速さで此方に向かってくる生物がいる。
「‥‥うわぁ、本当に『ぶさいく』ですね」
 空間がキメラを見て、苦笑しながら呟く。人魚と言われてはいるが、人の欠片など微塵も感じさせない。
「陸の方に戻りましょう」
 空間が呟き、ボートを陸の方へと向けて動かし始める。水の上である此処で戦闘をすると相手に有利になり、此方の身が危ないのだ。
 ラシードはキメラがボートについてきているかを確認しながら、餌を括りつけたロープを巻き取っていく。
 やがて航行不能な浅瀬にまでやってくると、空間はボートから飛び降り、キメラを他の能力者がいる場所までの誘導を始める。
「しっかりついてきてくださいね」
 空間は呟き、キメラからの攻撃を避けながら誘導していく。ラシードはといえば、空間が迎撃班に合流するまでに攻撃を受けぬように援護射撃を行っている。
 もちろん援護を行う事でキメラの気を引き付けてしまう可能性があるのでボートを遮蔽に使いながらの援護射撃だ。
 そして、空間が迎撃班に合流して、本格的に『キメラ退治』が始まったのだった。
「あらあら、人魚というには表現が美しすぎだわね」
 海音は呟きながら『練成弱体』を使い、他の能力者が戦いやすいように能力を使っていく。
「うーん‥‥見た目は罪のないような感じですが、これはキメラ。一般人を傷つける危険があるものは、排除しなければなりません――ぶさいくですけど」
 青山も呟き、蛍火を構える。
「敵意がないようであれば‥‥何とか生かしておきたいと思いましたが――これは無理ですね‥‥」
 キリトがキメラを見ながら悲しそうに呟く。
 しかし彼にはまだ一つだけ気がかりな事があった。キメラを倒す為の作戦を行っている時に言い合いになった能力者がいた。それが尾を引いているのではないか――という事。
 だが、見る限り作戦は順調に進んでいてキリトはほっと安堵のため息を吐いたのだった。
「‥‥まだ、倒れない‥‥」
 リュスは長弓で援護射撃を行いながら短く呟く。彼女にとっては初めての実戦であり、キメラがこれ以上凶暴化しないためにと『鋭角狙撃』を使って積極的に攻撃をしていた。
「危ない!」
 突然クーヴィルが叫んだかと思うと、リュスを軽く突き飛ばした。
 何故なら、キメラが爪を飛ばして攻撃をしてきていたからだ。リュスはそれに気づかず、クーヴィルが突き飛ばしていなければ、キメラからの攻撃を直撃で受けていただろう。
「ありがとう‥‥ございます‥‥」
 リュスは目を瞬かせながらクーヴィルに礼を述べ、戦闘へと戻る。
 能力者に囲まれ、キメラは分が悪いと思ったのか、自分の得意エリアである海に戻ろうと背を向けた――が「逃げるなよ」と橘がコンポジットボウでキメラを射る。
「もう十分に元気よくピッチピチなんだからさ、これ以上ピチピチになるのは勘弁して欲しいね」
 橘は嘲るように呟くと、他の能力者はキメラの退路を断つように立つ。
「青山さん、キメラをもう少し海から遠ざけましょうか」
 キリトが青山に話しかけると「その方がいいですね」答え、キメラを海から遠ざけるように攻撃をする。
 橘は青山の攻撃にあわせるように『急所突き』を自分にかけて、キメラを攻撃し弱体化させる。
「人魚の名を語るには――もう少し美しさが足りなかったようですね」
 青山が『豪破斬撃』を繰り出して攻撃を仕掛ける――が、倒しきれずキメラは海に戻ろうと足掻き始める。
「緋焔の舞をお見せしよう。これで終わりだ――『紅蓮天舞』」
 空間が攻撃し、二撃目で『紅蓮衝撃』を使ってキメラに攻撃をする。キメラが倒れかけた時、クーヴィルのロングボウの矢がキメラに突き刺さる。反撃をさせぬように『鋭角狙撃』と『強弾撃』を使用した攻撃だ。
「海に帰りたい? ダメだよ。逃がしてあげるわけにはいかないんだ――これが僕に今出来る事、だから」
 ラシードはひたすら海に戻ろうとするキメラの前に空撃ちで妨害した後に小さく呟いた。
「そのぶさ――コミカルな外見を見ていると殺意は湧かないんだけどね‥‥ごめんよ」
 キリトは儚げに呟き、蛍火で攻撃する。
「皆優しいのね、人魚というより、ただのトトちゃんであるアナタに興味はないのよ、私。広い海に存在していて、他の広い世界を見ようとしなかったアナタにはね――」
 海音は能力者によって攻撃されている『人魚キメラ』を見ながら、小さく、そして冷たく笑う。
「‥‥つぎは‥‥あてる」
 リュスが深呼吸しながら呟き、長弓で攻撃するとキメラの瞳を射抜く。リュスの攻撃によってキメラは自分のペースを乱し、その隙を突いて能力者達は『人魚キメラ』の退治に成功する事が出来たのだった。
「もうちょっと面倒になったら敵の後頭部斜め45度目掛けて弓身フルスイングさせるところだった」
 戦闘が終わり、橘が面倒そうに呟いた。
「水の中に引き込まれなかったという事もあって、そこまで苦労せずにすんでよかったですね」
 青山が武器をしまいながら呟くとキリトが「うぅ、これで暫くは魚料理が食べられそうにないですね」と冗談めかして呟く。
 おそらく、場が暗くならないように少しでも明るく振舞っているのだろう。
「そんなもん? 俺は普通に食べれるけど――マトモな魚だったらな」
 橘がきょとんとしながら呟くと、地面に座り込むラシードの姿が視界に入ってきた。
「大丈夫?」
 クーヴィルが座り込んだラシードを見て問いかけると「気が抜けて‥‥」と苦笑混じりに呟いた。
「ちょっとは‥‥役にたてたかな‥‥」
 ラシードの言葉に「もちろん!」と空間が答える。
「今回は皆でキメラを倒したんだから、皆で頑張った成果ですよ」
 空間の言葉に「おつかれさま‥‥でした。ふぅ‥‥終わった‥‥」とリュスも安心したように地面に座り込む。
「今回の事を‥‥次からの仕事に役立てるようにしなくちゃ‥‥」
 リュスが深呼吸をして呟くと「お互いに頑張ろう」と同じく初実戦のラシードとクーヴィルがリュスに話しかけた。
「あら?」
 その時、海音がボートを見て呟く。
「え?」
 他の能力者も海音につられるようにボートを見ると――――そこには変わり果てたボートの姿があった。
「これ、借り物だよな」
 クーヴィルが呟くと能力者達は首を縦に振る。
 確かに今だからこそ考える余裕があるが、戦闘時は周りを見て戦う余裕はなかった。今回が初実戦の能力者達は余計にだろう。
 だから、戦闘時にボートを気に掛けながら戦う事をしなかった能力者たちはキメラと一緒にボートまでも攻撃していたのだろう。
「こ、これじゃあ、もう使い物に‥‥」
「ならないですね」
 ラシードが冷や汗を流しながら呟いた言葉に青山が言葉の続きを呟く。
「‥‥誠心誠意を持って謝れば許してもらえる――かな?」
 クーヴィルが呟き、能力者達はとりあずボートを壊したことを謝罪しに、持ち主の所へと向かう。
「まぁ、そんな事なんて気にしなくて良かったのに、ボート一つでキメラが倒されたなら良かった―――なんて言うワケねえええええっ! 俺のボートオオオオッ!」
 ボートの持ち主は一人漫才のように叫び、床に突っ伏しながら泣き出した。
 キメラは倒されてハッピーエンドの筈なのだが、ボートの持ち主だけはバッドエンドで終わる羽目になったのだった‥‥。

END