タイトル:青空の下、灰色の心マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/01 22:13

●オープニング本文


この青空の下、どれだけの人が涙を流したのだろう‥‥?

※※※

『いつかバグアやキメラがいない世界になったらいいね』

―いつかって‥‥いつ?

『バグアなんかに人間は負けないって!』

―それは強い人の言葉、弱く戦うすべを持たない人達が今までに何人も死んでいった。

そう、僕の大事な人達も――‥‥。

小学校の遠足の日、僕は風邪を引いて遠足にいけなかった。

でも、そのおかげで僕は助かったのだ。

何故なら、遠足に行った同級生や先生達は数人を除いてみんなキメラに殺されてしまったから‥‥。

『ナオちゃんが風邪をひいていて良かったわ‥‥』

無神経なお母さんは僕の前でにこやかに笑って、僕に話した。

『運がいいんだよ、ナオキは』

叔父さん達も僕が生きていたことを喜んでくれた。

けれど――‥‥僕は大事な友達を沢山なくしてしまった。

『遠足に行けないんだったら、お土産に何か持ってくるよ』

幼稚園から一緒のトモ君が遠足にいけなくなった事をメールした時にくれた返信メール。

これが最後のメールだった。

『何であの子は生きているの? もしかしてキメラの事を知っていたんじゃないの?』

大事な子供を失った大人たちが僕に隠れて内緒話をしている所を聞いてしまった。

『何で私の子供は死んだのに‥‥』

僕が生きているのは悪い事なの?

大人たちの話を聞いていると『僕は生きていてはいけないんだ』という気分になってくる。

「お願いです、僕を皆が死んじゃった所まで連れて行ってください」

●参加者一覧

五十嵐 薙(ga0322
20歳・♀・FT
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
白鴉(ga1240
16歳・♂・FT
橘・朔耶(ga1980
13歳・♀・SN
沖 良秋(ga3423
20歳・♂・SN
ジェサイア・リュイス(ga6150
22歳・♂・GP
言瀬 一文(ga6253
25歳・♂・ST

●リプレイ本文

 今回、能力者達は傷ついた心を持つナオキの依頼により友人達が死した場所へとつれて行く事になった。
 だが、能力者は一つだけ分からない事があった。
 それは――‥‥何故ナオキが友人を亡くした場所へと行きたいと言うのか‥‥という事である。
「キメラによって、傷ついた、子供達に‥‥以前会いました‥‥その傷は簡単に癒えないから‥‥でも、あたし‥‥ナオキさんの、笑顔みたい‥‥力に、なってあげたいです」
 今回一緒に仕事をする事になった能力者達に挨拶をした後、五十嵐 薙(ga0322)がおっとりとした口調で呟いた。
 確かにナオキは虚ろな表情のまま、何を話す事もなく大人しくしている。その姿はとても子供と思えず、どこかゾッとさせるような感じだった。
「いたいけな子供をこんな風にさせるなんて、周りの大人たちは何を考えているんだ!」
 榊兵衛(ga0388)がナオキの様子を見て、怒りを混じらせた口調で呟く。
「こんな子供が‥‥死んだ方がいいんだって思うほどナオキ君は追い詰められているんですね」
 白鴉(ga1240)が表情一つ変えないナオキを見て、悲しそうに呟く。
「遺していく者、残された者、どちらもつらいよな‥‥早く気持ちの整理をつけられるといいんだが‥‥」
 橘・朔耶(ga1980)が呟くと、能力者達は表情を暗くしてナオキを見つめた。
「ナオキ君」
 赤村 咲(ga1042)がナオキと目線を合わせるように屈んで話しかける。
「何?」
 赤村が話しかけても表情を変えず、その瞳は何処を見ているのかでさえ定かではない。
「何でナオキ君は、そこに行きたいと思ったのかな?」
 赤村が問いかけた言葉に、他の能力者も耳を澄ませてナオキの言葉を待つ。
「何でそんな事を聞くの? 嫌な言い方だけど、あなたたちの仕事は『僕を連れていく』だけだよ? 僕が何の為に行きたいかなんて関係ないじゃないか」
 ナオキは少しだけ眉を顰めて赤村に言葉を返す。
「確かに‥‥そうかもしれませんが、友達の死に場所を見に行くのはツライんじゃないかと思って‥‥」
 沖 良秋(ga3423)がナオキを宥めるように話しかけると「余計なお世話だよ」とナオキは短く言葉を返した。
 何故か『目的』の事を聞いた時だけ、ナオキが普通の子供に感じられた。
「まぁ、俺達はおまえを危険から護る為にいるからな、目的については追々話してくれればいいさ」
 ジェサイア・リュイス(ga6150)がナオキに向けて言うと「‥‥別に話す事はないよ」と素っ気無く言葉を返した。
 少し空気が重くなった中、言瀬 一文(ga6253)は(「何か、理由がありそうですね‥‥」)と心の中で呟いていた。


 今回の仕事を成功に導く為、能力者達は二つの班で行動する事にした。
 キメラとの戦闘を行う攻撃班に橘、赤村、白鴉、沖、五十嵐の5名がいて、ナオキのいる護衛班にキメラを近寄らせないようにする。
 そしてナオキを守る護衛班に榊、ジェサイア、言瀬の3名がいて、此方はキメラ退治よりもナオキを守る事に専念する。
 護衛班の50メートルほど前を攻撃班が歩き、目的の場所まで歩き始める。
「こんな所で‥‥皆は死んじゃったんだ‥‥こんな寂しい場所で」
 ナオキは歩きながら小さく呟く。
「やはり――何かあるみたいですね」
 後ろの護衛班を見ながら赤村が攻撃班の能力者に問いかける。
「そうですね――でも小学生の彼があんな風になってしまうまで回りの大人たちはナオキ君を追い詰めたんですね‥‥」
 白鴉が呟くと「頭では分かっていても、行動がついて来ないんだろうな」と橘がポツリと言葉を返した。
「このご時世だ‥‥キメラに遭遇するのは誰が悪いワケでもない。それを頭では理解できていても、家族を失った者の気持ちは止められるものじゃねぇわな?」
 橘の言葉に「確かに‥‥そうですね」と沖が俯きながら呟く。
「でもナオキは一体何がしたいんだろうな‥‥もしかしたら」
 榊は言いかけて「いや、止めよう」と言葉を止めた。榊が考えた事、それは他の能力者も考えている事だろう。

 もしかしたら、ナオキは友人を亡くした場所で自分さえも死なせる気なのではないか――と。

「‥‥そんな事は、ないと‥‥信じたい、ですね」
 五十嵐は呟き、キメラ捜索を続けた。


「‥‥な、ナオキさん、此方へ‥‥」
 言瀬がナオキに話しかける。何故かナオキは崖側を歩き、下を見下ろしながら歩いていた。
「別にこれくらい大丈夫だよ‥‥」
「こんな時にキメラが襲ってきたら落ちるかもしれないからな、こっちに来てもらおうか」
 榊がナオキを自分の横に歩かせようと話しかける。
「‥‥あの、もう一度聞きたいのですが‥‥何故、こんな依頼を‥‥?」
 言瀬がナオキに問いかけるが、彼は俯いたまま黙り込む。
 やっぱり話してくれないか、と言瀬が諦めかけた時「‥‥僕が生きてるから」とナオキが短く言葉を返した。
「生きているから?」
 ジェサイアはナオキの言葉の意味が分からないのか首を傾げながら聞き返す。
「まさか‥‥自分も友達の所に――なんて言い出すんじゃないだろうな?」
 榊が問いかけると「それもいいかもね」とナオキは自嘲気味に笑う。
「だけど、そんな事を僕はしちゃいけないんだ」
 榊がナオキに叱咤の言葉を投げかけようとした時、ナオキは真っ直ぐ前を向いて呟いた。
「仲の良かった友達はみんないなくなっちゃった‥‥だけど僕は生きているから‥‥みんなのことを覚えておかなくちゃいけない‥‥だから僕は此処に来たかったんだ」
 ナオキが呟くと同時に、奇怪な鳥の鳴き声が山の中に響き渡った。
「下がれ! ナオキ!」
 護衛班はナオキを守るように陣形を取り、キメラが此方に向かって来た時の為にそれぞれの武器を手に構えた。


「‥‥現れました‥‥ね」
 五十嵐は呟くと同時に覚醒を行って武器を構える。
「子供達を傷つけるなんて許せない! あんた達なんかに人の未来を奪う権利なんてない!」
 覚醒したことにより口調が変わり、五十嵐は空を飛ぶキメラを睨むように見つめながら叫んだ。
「‥‥今度はボクたちを狙っているんですか‥‥まだ、血を求めるのか‥‥」
 赤村は低く呟き「これで終わりにしてやる」と『ドローム製SMG』を装備してキメラに向ける。
 キメラが飛行しているため、スナイパーである3人がキメラに攻撃するしか今は攻撃の手段がない。
「もうちょっと低空になってくれれば‥‥攻撃出来るんだけどな‥‥」
 白鴉は『蛍火』を構えながら、攻撃出来る距離にいないキメラに向けて忌々しげに呟く。
「行くぞ、お前にとっての絶望の矢を放ってやるよ!」
 橘は『鋭覚狙撃』を使用して敵の動きを判別できるようにする。
「皆さん‥‥強化完了です」
 護衛班の言瀬が『練成強化』を使用して攻撃班の武器を強化する。
「回りに他のキメラの気配は感じられない‥‥まずは目の前の敵を駆除しましょうか」
 沖は呟くと『狙撃眼』と『強弾撃』を使用してキメラを攻撃する。
「いい加減、人を見下ろすのは止めて同じ目線にいなさい!」
 五十嵐が『流し斬り』を使用してキメラの翼を叩き折りながら叫ぶ。スナイパーの攻撃により低空から上空へと逃げようとした時、一瞬の隙が出来て、そこを五十嵐が攻撃したのだ。
 それでも上空へ逃げようとするキメラに「お前だけは逃がさない!」と白鴉が叫び、蛍火で攻撃をする。
「離れてください」
 沖が呟き『長弓』で攻撃をする。他のスナイパーたちも沖の攻撃に合わせるようにそれぞれの武器で攻撃し、接近距離で戦える者がキメラに近づいてトドメを刺したのだった。


「どうやら終わったみたいだな」
 ジェサイアが攻撃班の様子を見て、安心したように呟く――とそこでナオキの異変に気がついた。
「ナオキ?」
 ジェサイアが話しかけると「何で」とナオキは瞳から大粒の涙を零しながらジェサイアの服を強く掴んだ。
「何で皆を死なせたキメラが‥‥こんなに簡単に‥‥倒されちゃうの‥‥? 何でみんなを助けてくれなかったの?」
 それはナオキが心の中に溜め込んでいた、彼自身の本心なのだろう。
 瞳から流れる涙のように、能力者を責めたてる言葉は終わる事がない。
 そんなナオキを見て、能力者達も表情を暗くして俯いた。
「何でボクは‥‥何もできないの? 何でボクだけが‥‥」
 先ほどは立派な事を言っていたが、やはりナオキは子供なのだ。どんなに強そうな言葉を吐いても彼の心の中には癒えることのない傷がある。
「何もできないなんて事はないさ」
 ジェサイアがナオキの頭に手を置きながら、ナオキと目線を合わせるように屈んで話し始めた。
「生きている人間が、死んでしまった者に出来る事は、自分の命をより大きく、強く輝かせることだと思うんだ。何も出来ない人なんていない、何の力もない人なんていない。精一杯生きる事、それが生きている者が死者に出来る唯一の事だと思う」
 ジェサイアの言葉にナオキは涙を一層溜めて「ボクは生きていていいの?」と問いかける。
「お前が生き続ける限り、お前の友達は永遠にお前の心の中に生き続ける。お前が友達を忘れない限り、この世に存在した証になるんだ。だから‥‥いなくなった友達の分まで生きて、友達が生きていた証を立ててやるべきじゃないのか?」
 榊がナオキに向けて話す。もちろん彼は今現在のナオキがこの言葉を理解出来るとは思っていない。
 けれど、数年後、数十年後にこの言葉の意味をわかってもらえたら‥‥という気持ちでナオキに話したのだ。
「キミが死んでしまったら、お母さん達が悲しむ‥‥それは嫌だろう?」
 赤村が問いかけるとナオキは首を横に振りながら「嫌です」と答えた。
「嘆くだけじゃ何の意味もない。どんなときでも1人で悩まないで、誰かを信じてみようよ」
 白鴉がナオキを諭すように呟くと「はい」と涙を無理矢理拭いながらナオキは答えた。


 それから、ナオキは友達が死んだ場所を確りと目に焼きつけ「今日はありがとう」と笑顔で能力者達に礼を述べた。
 それはナオキが能力者の前で見せた初めての笑顔だった。
 そして、UPC本部に帰還後、赤村と沖はナオキの両親に、もっとナオキの事を考えてやって欲しいと話したのだった‥‥。
 それから数日後、ナオキの両親から以前のような明るさを取り戻しつつあると連絡が入った。


END