●リプレイ本文
「きゃっほーっ! 北海道だー♪ 真っ白―!」
北海道に到着し、土浦 真里(gz0004)はきゃあきゃあと騒ぐ。
ちなみに能力者の皆は心の中できっと思っているだろう。
『何で今の時期にわざわざ北海道旅行!?』―――‥‥と。
北海道といえば札幌と千歳周辺を除いてほとんどがバグアの支配地域になっているのだ。
そんな切羽詰った場所に行きたがる辺りがマリらしいといえばマリらしいのだけれど。
でもそんな事を言ったら余計にマリが無茶をしそうなので、能力者は心の中だけに留め、旅行を楽しむ事にしたのだった‥‥。
「ふふ、楽しみよねぇ♪ 北海道ってキメラ退治を目的にしか来た事なかったから、今回の旅行は楽しみだわ」
ナレイン・フェルド(
ga0506)が白い息を吐きながらマリに言葉を返した。
「北国での温泉‥‥楽しみですね――っと、もちろん依頼も果たしますよ」
叢雲(
ga2494)が呟く。
そう、今回は『旅行』が目的ではなくあくまで『キメラ退治』が目的なのだ――が、能力者達はキメラを倒した後の『遊ぶこと』を楽しみに北海道までやってきたのだ。
「ホントにマリさんは自分が楽しむだけなら苦労を厭わないんだから‥‥」
小鳥遊神楽(
ga3319)がため息混じりに呟く。そう言いながらも彼女はマリから目を離していると怖い――という理由から今回の旅行にやってきた。
「小鳥遊の言う通りだな、自分が楽しむ為とはいえ、余り周りの人間を振り回すなよな。まぁ‥‥それに付き合っている俺や小鳥遊、ナレイン達も大概にお人よしかも知れないが‥‥」
威龍(
ga3859)が呆れたようにマリに向けて話すが「ノンノン」とマリは不敵に笑って言葉を返す。
「確かに私も楽しみたいけど『皆と一緒』に楽しみたいの♪」
「皆と一緒に?」
威龍が聞き返すと「一人で楽しい事しても楽しくないもの」と言葉を返す。その言葉を聞いて威龍は次の言葉を言うことが出来なかった。
それほどまでにマリは楽しそうに笑っているからだ。
「と・り・あ・え・ず! さっさと仕事片付けて遊ぼーぜ!」
霧島 亜夜(
ga3511)が手を高く挙げて叫ぶ。
「まず遊ぶ前に除雪作業だねー‥‥こんな場所で戦っていたら勝てる相手も勝てなくなってしまうよ」
キョーコ・クルック(
ga4770)が苦笑気味に呟く。確かにこんな雪に塗れた場所で戦う事は難しいだろう。
「そうですねぇ‥‥何処で戦うかも決めておいた方がいいでしょうし‥‥」
鐘依 透(
ga6282)が周りの景色を見渡しながら呟く。
「そういえば‥‥」
玖堂 鷹秀(
ga5346)が地域名などが書かれた看板を見て思い出したように呟く。
「どしたのー?」
マリが問いかけると「ごほん」と咳払いをした後に玖堂が話し始める。
「北海道の地名には片仮名が似合いそうな物が多いですよね? これはアイヌ語が変化したからなのです」
「へぇー‥‥知らなかった」
マリが呟くと「例として」と玖堂は言葉を続ける。
「苫小牧は『トーマコマナイ』、沼の後ろにある川という意味で――」
「ストップ! とりあえず旅館に荷物を置きに行こう!」
寒空の中を延々と話していそうな玖堂をマリは止め、今回お世話になる旅館へと行こうと言い出したのだった。
●除雪作業をしてキメラ退治に備えようっ!
「寒いわねぇ‥‥」
はぁ、と息を手に吐きかけながらナレインが震える声で呟く。
現在、能力者達は除雪作業を行っている真っ最中だ。
旅館に荷物を置き、女将にキメラについて聞いた所、ちょうど旅館とスキー場の間にキメラはよく出没するのだと言う。
「人を襲うキメラが出没しては旅館側としては死活問題であろう――ってサボるな」
自分だけ暖かい飲み物で暖まっているマリを見つけ、威龍がため息混じりに呟く。
ちなみにマリはもう何度も能力者達から『サボるな』と注意を受けている。
「マリさん、除雪作業をしないのであれば自分がタメになる話を――「除雪作業いってきまっす!」」
玖堂の言葉を遮り、マリは除雪作業を手伝いに能力者達の方へ駆けていく。
「残念ですね、それでは自分も除雪作業を‥‥」
此処で囮班として動くナレイン、霧島、威龍の三人は別行動でキメラを捜索に向かう。
「俺はスキー場方面を調べる」
威龍が無線機を受け取りながら短く呟く。
「じゃあ、俺は旅館の人に聞いたキメラ出現場所周辺を調べるよ」
霧島が呟き「私は旅館周辺ね」とナレインも無線機を受け取りながら答えた。
「分かりました、それじゃあ俺たちが雪ならしをしておくので、キメラを誘導する際には無線機で連絡を下さい」
叢雲が呟き、グラップラー三人はそれぞれが捜索する場所へと向かって走っていった。
「そういえばキメラって単体なのかしら? もしかしたら他にもいるかもしれないわね」
小鳥遊が呟くと「その辺はどうなんだろうね?」とキョーコが呟く。旅館の女将などに話を聞いた事を思い出しても『単体』とも『複数』とも言っていなかった。
だから、小鳥遊の言うように万が一の事も考えておかねばならない。
「でも結構広い場所だし、見通しもいいから複数で来ても分かるんじゃないかな?」
マリが呟くと「そうだねぇ、とりあえずなるようにしかならないさ」とキョーコも呟き、後は囮班がキメラを誘導するだけになっていた。
〜囮・ナレイン〜
「除雪作業‥‥結構辛かったわね〜‥‥」
キメラ捜索をしながらナレインが小さく呟く。ナレインもキメラが一匹だとは考えていなかった為、注意深く周囲を見て回っていたが、キメラの気配は感じられなかった。
「それにしても‥‥人がいないわねぇ」
これだけ走り回っているというのに、一般客に一人も遭遇しない。
やはり、重傷者を出しているキメラがいる所に一般客は来ないという事だろうか。
「こちらナレインよ、旅館側にはキメラの姿はないわ〜」
無線機で他の囮役、そして待ち伏せ班に知らせ、もう一度捜索する為にナレインは来た道を戻り始めた。
〜囮・威龍〜
「ナレインの方はハズレだったか‥‥霧島はどうかな」
威龍はスキー場周辺を捜索しながら小さく呟く。ナレイン側にいないのであれば、威龍が捜索している場所か、霧島の捜索している場所にキメラが潜んでいる可能性が高い。
しかし、威龍も何度捜索してもキメラの気配など感じず「此処もハズレか」と呟いた瞬間、霧島から「キメラを見つけた!」と連絡が入った。
〜囮・霧島〜
威龍に連絡が入る数分前、まだ霧島はキメラを発見していなく、寒さに震えながらキメラ捜索をしていた。
「確か‥‥この辺なんだよなぁ」
旅館の女将に聞いたキメラ出現場所を歩きながら霧島は左右を見渡している。
「此処にもいないかー‥‥」
呟いた時だった、雪に紛れてしまうような真っ白の狼――正確には『狼に似たキメラ』が此方を見ながら唸っている。
「み、見つけた‥‥キメラを見つけた!」
霧島は無線機に向かって叫び、待ち伏せ班のところまで誘導を始める。
最初に威嚇攻撃をして、標的を自分に向け、自分を追いかけてくるようにした。
そして途中でナレインや威龍と合流し、囮班は待ち伏せ班の所までキメラを誘導したのだった。
●後に控えているバカンスの為にキメラを打ち砕け!
「来ましたね」
鐘依が『アーチェリーボウ』を構えながら、囮班と共にやってくるキメラを見て呟く。
「真里さん、出来るだけ傍を離れないようにしてください」
叢雲がカメラを構えるマリに向けて呟く。
「えぇぇー‥‥もうちょい近くに駄目?」
「駄目です」
叢雲の言葉に「ちぇ」と拗ねたように呟き、戦う能力者の姿をカメラで撮り始める。
「3枚におろしてやるよ」
キョーコは『蛍火』を構え、キメラに向けて呟きながら攻撃をする為に走り出す。
「自分達が雪だるまにならないうちにキメラが現れてよかったです」
玖堂は寒さに震えながら小さく呟く。彼は前衛や中衛で戦う能力者達が怪我をしたときの為に後衛で待機している。
「楽しい一時が待っているんだから、サッサと終わらせましょ」
ナレインも呟くと『エリシオン』を構えて攻撃に向かう。ナレインがキメラに攻撃する間際、鐘依が弓での援護射撃を行う。続いてナレインの攻撃。
二連撃を受けて、キメラがバランスを崩した所に霧島が『ファング』で攻撃を仕掛ける。
能力者達がキメラに攻撃した事で弱り始めたのを見計らい「そろそろね」と小鳥遊が呟く。
小鳥遊が攻撃を仕掛けようとする前に威龍がキメラを蹴飛ばし、小鳥遊が攻撃しやすい状況を作る。
「この一撃にかけるわ、無駄弾を雪山にバラまくわけにも行かないしね」
小鳥遊は呟き『強弾撃』と『鋭角狙撃』を使用して『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃をした――‥‥。
能力者達の総攻撃で弱っていたためか、キメラは小鳥遊の攻撃を避ける事もかなわずに直撃で受け、旅館やスキー場を困らせていたキメラを見事退治したのだった。
「終わった〜〜〜っ!」
バッグにカメラをしまい、マリが叫びながら能力者達に駆け寄る。
ちなみに叢雲は前衛に出て行こうとするマリを引き止めるのに必死で疲れ果てていた。
「残念ながらまだお遊びの時間じゃないのよ」
ナレインが呟き「何で?」とマリが聞き返す。
「キメラが単体だと分かっているわけではないですから、念のために捜索をしてから旅館に戻ることになります」
叢雲の言葉に「そっか」とマリは呟き「早くしてねー!」と言葉を付け足した。
その後、能力者達はキメラが存在しないかを確認した後、マリと一緒に旅館へと戻って行ったのだった。
●仕事は終わった! 遊んで遊んではっちゃけろ!
「まぁ、キメラを退治してくださったんですか――ありがとうございます」
旅館に戻り、問題のキメラを退治した事、そして他にキメラの気配がなかったことを女将に伝えると女将は丁寧に頭を下げて礼を述べた。
「それにしても疲れたねえ、温泉に入っちゃおっか」
キョーコの呟きに「私も賛成」と小鳥遊も軽く手を挙げて賛同する。寒い中、ずっと外にいたのだから体が冷えて既に感覚が危なくなっている。
「それじゃお風呂行こう〜」
マリが温泉道具を持って女性陣と一緒に女風呂へと向かう。その中にナレインの姿もあったが、ナレインは心が乙女という事で女性陣から女風呂へ入るようにと言われていた。
「ナレインが男風呂に入ると男衆が気まずいんじゃないかい?」
キョーコが笑いながら呟く。確かにナレインが男風呂に入ると物凄く違和感を覚えるのだ。
「女性陣は温泉に向かったようですし、自分達も行きましょうか」
玖堂が呟き、女性陣に続いて男性陣も温泉へと足を向けたのだった。
〜温泉・女風呂〜
「‥‥生き返るわね。たまにはこうしてゆっくりと脚を伸ばせる温泉というのも悪くないわ」
小鳥遊は空を仰ぎながら心地良さそうに呟く。
「そうね〜、広いお風呂って気持ちいいものね。今回は広いだけじゃなくて雪見温泉だから余計にステキだわ」
ナレインも小鳥遊に向けて話しかける。
「皆お肌つるつるだけど何かケアしてる?」
キョーコが問いかけると「そうねぇ」とナレインが考えながら呟く。
「私はケアしている方――になるのかしらね」
「私もそれなりにって感じかしら」
「私は全然、取材ばかりだから肌の手入れなんて最低限しかしてないや」
ナレイン、小鳥遊、マリの順番で答える。
「スレンダーなマリさんに、グラマラスなキョーコさんか‥‥これも目の保養かしらね」
小鳥遊がじゃれ付き、笑いながら呟く。
「あら、あなたも十分に整ったプロポーションじゃない」
ナレインが呟くと「そうかしら、ありがとう」と嬉しそうに言葉を返す。
「そういえば隣が男風呂なのよね、12時を過ぎたら敷居が外されるみたいだけど‥‥」
小鳥遊が敷居を見ながら呟き「おーいっ! 聞こえてる〜!?」とマリが叫ぶ。
「聞こえてるよ〜〜」
マリの言葉に反応したのは霧島だった。
「何か用〜〜?」
「別に〜〜」
けたけたと笑いながらマリはのぼせそうになるまで温泉に浸かっていたのだった。
〜温泉・男風呂〜
「一体何だったんだろう‥‥」
霧島が首を傾げながら小さく呟く。
「気にしない方がいいぜ、マリは意味のない事をするのが好きなんだよ」
威龍が用意した盆の中に日本酒を徳利とお猪口を乗せ、ちびちびと飲みながら霧島に言葉を返した。
「ふー‥‥散々、雪の中を走り回ったからな。風呂は何よりのご馳走だぜ」
威龍が呟くと「そうですね」と鐘依が言葉を返す。
「あぁ‥‥温泉って素晴らしい‥‥」
叢雲が一人呟くように言うと「同感です、至福の一時ですよね」と玖堂が言葉を返した。
「そういえば‥‥女風呂は結構盛り上がってたなぁ‥‥」
先ほどまでの女性陣の話を聞いていた霧島は敷居に隔たれた女風呂の方に視線を向ける。
「温泉からあがったらコーヒー牛乳を飲まなきゃな。アレを飲まない事には温泉に入った気分にならないしな」
温泉の前にあった待合室に牛乳やコーヒー牛乳を売っている自販機があったのを思い出し、霧島が呟く。
「それと‥‥‥‥」
何かを決意したように霧島は俯き、温泉のお湯で顔をバシャバシャと洗い出す。
「どうかしました?」
玖堂が問いかけると「や、何でもない」と霧島は言葉を濁し、楽しい温泉タイムは終了していったのだった。
「お・そーい!」
先に温泉から出ていたのは女性陣で、待合室でくつろいでいた。
「ふふ、待っている間に卓球の準備は終わっているわよ♪」
ナレインが用意された卓球台を指差しながら楽しげに呟く。
「ちょっと待って! 風呂上りにはやっぱコレだから」
霧島はコーヒー牛乳を買い、一気に飲み干すと「ぷは〜!」と気持ち良さそうに言葉を発する。
「やる以上は勝ちを狙っていくぜ!」
威龍が浴衣の袖をまくり、ラケットを手にする。
「自分は審判に徹するとしましょう。文系は大人しくしています」
クスクスと笑みながら玖堂は呟き、椅子に腰掛けた。
「どんな振り分けにしましょう?」
鐘依が呟くと「くじ引きにしましょうか」とナレインが細長い紙を取り出した。
「いいですね、でも手加減して欲しいですね」
叢雲がくじを引きながら苦笑気味に呟く。そして彼に続くように他の能力者達もくじを引いていき、組み分けは以下の通りになった。
A・ナレイン・叢雲
B・小鳥遊・マリ
C・霧島・キョーコ
D・威龍・鐘依
審判・玖堂
「やるからには負けないわ!」
ナレインがラケットを取り、対戦者である威龍&鐘依に向けて話す。
「こちらも負けるつもりはありませんよ」
鐘依もにっこりと笑い、AチームとDチームの対戦が始まった。
対戦が始まって最初は均衡状態を保っていたが、途中でナレインが上手く攻撃をして、ナレインと叢雲チームが優位に立つ。
「結構‥‥やるな」
威龍もムキにならない程度に対戦を行い、結果としてAチームの勝利で終わった。
「次はあたし達の番だね、行くよ。霧島」
「おう、記者さん達が相手だけど負けるわけにはいかないな」
霧島とキョーコはそれぞれラケットを握り、対戦相手の小鳥遊とマリを見る。
「小鳥ちゃん、小鳥ちゃん、私ってば全然役に立たないから覚悟してね。あと‥‥避けてね」
「避ける?」
「勢いつきすぎてラケット飛ばしちゃうこともあるから気をつけて」
さらりと恐ろしいことを言うマリに自分は安全にゲームを終われるのかと心配になった3人だった。
「負けるか〜!」
キョーコが勢いよくラケットを振り、スマッシュに似たスピードで小鳥遊たちのチームに攻撃をする。
「ここはマリちゃんに任せて!」
すぱこーん、とラケットを振るが、玉に当たることはなく見事な空振りで終わった。
「何か‥‥結構楽そうだな」
霧島が呟き、勢いよく攻めるキョーコ・霧島チームに対し、小鳥遊は爆弾を抱えてのゲームなので勝てるはずもなく、見事なほどに惨敗で終わった。
「あちゃあ‥‥ごめんねー」
「別に気にしなくていいわ。何となく結果は最初から見えていたし」
小鳥遊の言葉に「あ、ヒドい」とマリが拗ね、能力者達は笑いながら卓球タイムを終えたのだった。
●気分は修学旅行! 枕投げ大会!
部屋についた後、能力者達は一室に集まり、枕投げ大会を開始する事になった。
「私達はか弱き乙女チームね」
ナレインが楽しげに呟く。
ちなみにか弱き乙女チームのメンバーはマリ、キョーコ、小鳥遊、玖堂、ナレインの5人だ。
「うっし! 思いっきりハジけようぜ!」
霧島が枕を持ちながら叫ぶ。最初に枕を投げたのは玖堂で相手は威龍だった。彼は腕力が強いわけではないが、命中重視で投げていく。
「では僕も‥‥」
鐘依も枕を持ちながら乙女チームに投げていく。
だが、キョーコがばしっと勢いよく叩き落し、反撃とばかりに枕をくらう。
もちろんキョーコは手加減して「ていっ」と枕を投げた。
「もちろん紳士な皆だもの、女相手にムキになるなんて格好悪い事はしないわよね?」
小鳥遊は呟きながら叢雲に枕を投げる。
「ぶふっ! ふ、不意打ちですか。こっちも遠慮なく!」
叢雲は乙女チームに枕を投げる。ちなみに乙女チームにいるナレインの攻撃だが、腕力は乙女ではないのでそれなりに痛かったりもする。
「俺は記者さんに!」
霧島がぼすっと枕をマリに向けて投げる。突然の不意打ちにマリは枕を避けきる事はなく、顔面直撃で受けてしまった。
「あら、ヤベ‥‥」
「やったわねぇ、あやちー‥‥」
マリは近くにあった枕3つを持ち「ゆるさーん!」と枕を連続で投げる。
「わ、わわ! 連続とは卑怯なっ」
霧島はマリの攻撃を全て避けながら呟く。卑怯とは言っているが、霧島の表情に焦りは見えない。
その後も枕投げは続き、女将が「料理が出来ましたよ」と言いに来るまで戦いは終わらなかったのだった。
●美味しく食べて、魅惑の混浴!?
女将が呼びに来た後、能力者達は宴会場まで足を運び、出された食事を楽しんでいた。
「なかなか自腹でこういう高級旅館に来る機会なんてないしな、一流の料理を楽しませてもらおうか」
威龍は呟きながら料理を一口一口味わって食べていく。
「美味しいですね、きっとこの料理の由来は――‥‥」
玖堂のウンチクが始まろうとした時に「あの‥‥」と鐘依が言葉を挟んでくる。
「実は‥‥僕は人を探しているんです。多分、傭兵をやっていると思うんですけど‥‥」
鐘依の言葉に能力者は「人捜し?」と首を傾げる。
「名前は久遠‥‥16歳くらいの女の子で、特徴は‥‥食欲魔人」
鐘依の言葉に「恋人ですか?」と玖堂が問いかける。
「いえ、そういうんじゃないんですけど‥‥」
そう答える鐘依に「力になれそうもないねえ」とキョーコが答える。
「そうですか、すみません。話の腰を折っちゃって‥‥」
鐘依は申し訳なさそうに呟くと、再び食事をし始めた。
食事を終え、少しゆっくりした後に時計を見ると12時を超えていた。
「混浴の時間かぁ、私はお風呂行ってこようかなあ。卓球とか枕投げで汗かいちゃったし」
マリが呟くと「私も行くよ」とキョーコが呟く。
「私も行くわ♪」
ナレインも呟き、温泉に向かう能力者達はマリと一緒に温泉へ行き、それ以外の能力者はそれぞれの部屋へと戻っていった。
「雪見風呂とは風流ですねぇ?」
玖堂は呟きながら心の中で『こんな事もあろうかとコンタクトを持って来て正解でした』とガッツポーズを取っていた。
ちなみに混浴で平気そうな顔をしているのはマリだけだったりする。キョーコも顔を赤くしながら湯船に浸かっている。
「旅行も半分以上終わっちゃったねー‥‥何か楽しい時間はすぐにすぎちゃうなぁ」
マリが残念そうに呟くと「また皆で来ればいいじゃないか」とキョーコが話しかける。
「ん、そうだね!」
マリは楽しそうに笑い「さて、あがろっか」と言って着替え室まで歩いていった。
「‥‥とりあえず、バスタオル巻いているとはいえ、マリちゃんは女の自覚を持つべきね」
ナレインが苦笑混じりに呟き、ナレインも温泉からあがっていった。
●能力者にも青春はある!
「あ、おかえり――あのさ」
温泉からあがった後、霧島がキョーコの横に座り、他の能力者に聞こえない小さな声で話しかける。
「話があるんだ。皆が寝静まった後、ロビーに来てくれ」
「ん? 分かったよ〜」
キョーコも何気なく返事をして女性陣と一緒に部屋へと戻っていった。
「今日は楽しかったわねぇ」
ナレインが寝る前のお手入れをしながら女性能力者に話しかける。
「えぇ、こんなに楽しく遊んだのなんて久しぶり」
小鳥遊も敷かれた布団の上に寝転がりながら眠そうに欠伸をする。
「もうマリちゃんは限界です――‥‥」
むにゃむにゃと言いながらマリは睡魔に負けそうになっていた。
「‥‥誘ってくれてありがとう、マリさん。良い気分転換になったわ。これでまた‥‥頑張れると思うから」
そう言って小鳥遊も眠りについた。
「さて、私も寝るわね。キョーコちゃんも早めに寝なきゃ駄目よ?」
ナレインも呟き、電気を消して布団の中に入っていった。
それから十分程度が経過した頃、皆が寝静まったのを確認してからソッと部屋を出た。
「ふぅ、人気のないロビーは結構寂しいもんだね」
キョーコは呟き、霧島が来るのを待った。
「ごめん、待った?」
暫くした後に霧島がやってきて、キョーコの隣に座る。
「さっき来たばかりだから気にしなくていいよ。それより話ってなんだい?」
キョーコが問いかけると「えと、あのさ‥‥」と口ごもりながら話し始める。
「あ、あのさ‥‥俺、キョーコの事がずっと好きだったんだ。お互い依頼であちこち行ったり来たりして大変だろうけど‥‥‥‥俺の恋人になってくれないか?」
霧島が顔を真っ赤にしながら呟き、キョーコは目を丸くする。
そして、次の瞬間恥ずかしそうに顔を赤らめながら俯く。
「‥‥霧島が何処に行っても絶対にあたしの所へ帰ってきてくれるなら‥‥いいよ」
「あ、ありがとな! 愛してるぜ、キョーコ」
霧島はそう言ってキョーコを優しく抱きしめる。
キョーコの言葉の後、暫く見つめあった後に二人は優しいキスを交わし、互いに顔を真っ赤にした。
「亜夜―――あたしも愛してるよ」
部屋に戻る前にキョーコはそう呟き、顔を余計に赤くして走って戻っていく。
そして、キョーコがいなくなった後、ガッツポーズをする霧島の姿があった。
「‥‥‥‥さすがにプライバシーの侵害だからこれを記事にするわけにはいかないなぁ」
コーヒーを飲みながら物陰からマリが呟き、彼女も部屋へと戻っていった。
ちなみにマリはトイレに起きたが、キョーコの姿が見えなかったため探しに来た――という理由でこの場に居合わせたのだった。
そしてキョーコと霧島の事は見ていないが、叢雲も寝付けずに庭で雪見酒をしていた。
「あぁ、静かですね‥‥こんなに静かじゃ、戦争が嘘みたいですね‥‥」
切なそうな表情で呟く叢雲は髪を後ろにあげ、浴衣も着崩れている状態で妙な色気を出していたのだった‥‥。
●そして、楽しい時間は終わり――‥‥。
翌朝、能力者達は帰る前に雪遊びをして、UPC本部へと帰還していった。
「残念、時間があればスキーとかもしたかったんですけど」
鐘依が残念そうに呟くと「私もしたかったー」とマリが盛大なため息と一緒に呟く。
前夜の事があるせいか、キョーコと霧島は顔を赤くして互いの顔を上手く見ることが出来ないようだ。
「実に楽しい旅でした、いずれまたご一緒したいものです」
玖堂はにっこりと笑い「意外と鷹ちゃんは記者向きかもね」とマリが冗談交じりに答えた。
色々と楽しんだ能力者達は明日からまたキメラやバグアと戦う為に気持ちを切り替え、家路についたのだった‥‥。
END