●リプレイ本文
「どんな些細な事でも構わない。何か覚えている事があるなら教えてくれ」
鷹見 仁(
ga0232)がカエルキメラと戦った事のある男性能力者に問いかける。
今回のキメラ退治に関して情報が少なすぎる為、能力者達はカエルキメラと戦った事のある人間を訪ねて病院にきていた。
「俺もそんなよく覚えているわけではないし‥‥」
男性能力者が口ごもりながら答えると「断片的でもいいんだ」とレーヴェ・ウッド(
ga6249)が男性能力者に見舞いの品を渡しながら言葉を返した。
「当時の状況や気づいた事を話してくれ」
レーヴェの言葉に男性能力者が「そういえば‥‥」と話し始める。
「川べりで戦っていて、キメラと向き合っていた筈なのに後頭部を怪我しているんだな」
首を傾げながら男性能力者はまだ包帯の巻かれている頭に手を置く。
「‥‥今回の相手は厄介そう」
男性能力者の言葉を聞いて高村・綺羅(
ga2052)がポツリと呟く。
「そうですね。気をつけないと‥‥」
呟くのはリリィ・S・アイリス(
ga5031)だった。年齢の割りに大人びて見えるのはバグアやキメラが闊歩している『時代』のせいなのだろう。
「そういえば一撃で倒された‥‥という解釈でいいんですよね?」
辰巳 空(
ga4698)が報告書に目を通しながら男性能力者に問いかけると「恥ずかしながら、な」と男性能力者は俯きながら答えた。
「そうですか‥‥能力者を一撃で倒すキメラが強敵でないわけがないので、油断はしないようにしましょう」
辰巳の言葉に「そうですね!」とシエラ・フルフレンド(
ga5622)が拳を強く握りながら応える。
「でかカエルは邪悪です、頑張って退治しましょう!」
「邪悪かどうかは置いといて、変わったキメラを見てみたいという好奇心はあるな」
ソウ・ジヒョウ(
ga5970)が呟き「それに」と言葉を続ける。
「カエルの繁殖力は放置すると洒落にならないからな」
そう、カエルの繁殖力は馬鹿にならない。下手に放置することによって同系のキメラが多数出没――という事もありえるのだから。
「あ」
これ以上男性能力者に話を聞いても無理だろうと、カエル退治する能力者が現場へ向かおうとした時、男性能力者が呼び止める。
「仕事だから止めても無理だろうけど――カエルキメラの正面には立つな。俺は正面に立った時にワケ分からない攻撃を受けた」
男性能力者の忠告に「ありがとう、礼に仇は取るさ」とレーヴェが応え、能力者たちは現場へと向かっていったのだった。
「蛙かー‥‥食用のウシガエル、アレはなかなかイケるんだけどな。鶏のササミみたいな感じで」
冷たい風が吹きすさぶ中、ジェレミー・菊地(
ga6029)が思い出したように呟く。
「‥‥キメラでも食うのか?」
鷹見が少し眉を顰めながら問いかける。
「巨大で人面でキメラときたら――食えないだろうな。ま、当たり前か」
ジェレミーの言葉に「食べるのかと思った」と高村が目を瞬かせながら呟いた。
「それ、何ですか?」
シエラがジェレミーの手荷物を見て問いかける。彼が持っている荷物にはタオル・カイロ・懐中電灯・双眼鏡などが入っていた。
「あ〜、タオルとカイロは川に落ちた時用だな。懐中電灯は夜間行動時、双眼鏡は川べり確認用――ってところだな」
そういうシエラも水辺捜索用に偏光フィルムをカメラに携わる人間に一枚もらい、ゴーグルにはめている。
能力者たちは川べりから少し離れた場所に待機し、囮役の辰巳は予め用意していたラジコンヘリを取り出す。
このラジコンヘリはジャミング対策として有線化して、ルアー状のターゲットを取り付けている。本当ならば人型ダミーのターゲットを用意したかったのだが、流石に用意することが出来ず、ルアー状のものを取り付ける事になったのだ。
そして辰巳と万が一の時に辰巳を保護する高村が先行して川べりに行く。
この時、高村は辰巳から離れた場所で覚醒を行い、いつでも飛び出せるように準備をしておく。
そして監視役のシエラとソウが状況の変化を知らせてくれるので、高村は二人の合図と共に飛び出せばいいのだ。
「‥‥特に怪しいものはなさそうですが――やはり人型でないので現れてくれないのでしょうか」
辰巳が小さく呟き、諦めたようにラジコンヘリをしまい、自らが囮となるために川べりを歩き出した。
高村、ソウ、シエラに緊張が走る。辰巳が自ら囮となって歩くのはカエルキメラを誘き出しやすいだろう。
しかし――その分、辰巳に降りかかる危険もまた増すのだ。
「あ」
声を出したのは三人と少し離れた場所で様子を見ていたレーヴェだった。
そして、それと同時にカエルキメラが川の中から姿を現し、辰巳に襲い掛かった。咄嗟の事で辰巳は覚醒を行い『獣の皮膚』を使用して防御力を高め、カエルキメラの攻撃を凌ぐ。
ずざざ、と砂埃をあげながら辰巳は後退し、カエルキメラが辰巳に攻撃を行おうとした時に高村が割って入り『アーミーナイフ』でカエルキメラを攻撃した。
『カエルキメラの正面には立つな』
男性能力者の言葉を思い出し、高村、そして待機していた攻撃班もカエルキメラの正面には立たないようにしながら攻撃を繰り広げていく。
「あなたは生きるべき世界を見誤ったの‥‥ごめんね‥‥」
シエラも呟くと同時に覚醒を行い『狙撃眼』『鋭覚狙撃』『強弾撃』を使用して後方から援護射撃を行う。
「正面に立つなって事は‥‥もしかしたら幻覚攻撃もしてくるかもしれないからな――後ろで楽している分、仕事はきっちりとやらせてもらう」
ソウは呟き、仲間の中におかしな動きをしている者がいないかを確認していく。今のところはおかしな動きをしている者もいなく、ソウは『ハンドガン』でカエルキメラを攻撃していく。
しかし川べりからなかなか離れてくれず、能力者とキメラとの戦いは均衡状態になっていた。
そんな時、ジェレミーがカエルキメラの斜め前に立ちはだかり、カエルキメラの攻撃を避けながら川べりから離れさせていく。
だがカエルキメラの舌攻撃がジェレミーの足を狙った――‥‥防御に徹している彼だったがいきなりの攻撃に避ける事もかなわず、負傷を覚悟した時リリィが『スコーピオン』で援護射撃を行ってくれた。射撃後は武器を『氷雨』に持ち替え、カエルキメラの舌を斬り落とす。
「これで邪魔な舌はなくなりましたね」
冷めたように呟くリリィにカエルキメラは痛みに呻きながら、もう一つの舌で攻撃を行ってきた。
「な――」
驚いた声を出したのは攻撃に向かおうとしていた鷹見だった。カエルキメラの頭部にある人の顔のようなモノ。その顔がいきなり目を開き口から長い舌を出してきたのだ。
カエルキメラのもう一つの舌がリリィを攻撃しようとした時、レーヴェの『スコーピオン』がカエルキメラの体を撃ちぬき、カエルキメラはバランスを崩し、舌はリリィの代りに空を切るような形になった。
「寒い中、わざわざ河原で戦わなきゃいけないとはな‥‥我ながらついていない。おまけに相手は顔が二つもあるバケモンときた」
レーヴェは舌打ちをしながらスコーピオンで再度攻撃を行う。
「正面に立つなという理由はこれか――」
鷹見が足元を見ながら小さく呟く。他の能力者たちもカエルキメラの攻撃を避けながら鷹見の視線を追うと、土の中からカエルキメラの足のようなものが突き出してきている。
おそらく、カエルキメラは自分の体を囮にすることで触手のように極端に長い足を土中で移動させ、正面に立った相手に突き出す――鷹見の場合は偶然、足元に突き出たのだが、話を聞いた男性能力者の場合は背後に現れて攻撃されたのだろう。
「すでに‥‥カエルとは掛け離れているね‥‥」
カエルとは名ばかりの不気味な生物を見ながらシエラが小さく呟く。
「相手がどんなキメラであれ、面倒な奴はさっさと片付けるに限る」
レーヴェが呟き、スコーピオンで攻撃を開始する。鷹見、リリィ、高村と接近戦で戦える者は援護射撃の後にカエルキメラに向かって走り出し、射撃の後、体勢を整える前に叩き潰す。
鷹見の『蛍火』がカエルキメラの首を撥ねると同時にカエルキメラは最後の悪あがきで先日の雨で出来ていた水溜りの水を口の中に入れ、水鉄砲のような攻撃をしてきた。
しかし、これはびしょ濡れになるだけでダメージはなく、能力者たちは負傷することなく戦いを終える事が出来たのだった。
「やっぱり水を使った攻撃があったな」
寒さに震えながら鷹見が小さく呟く。
「そうだね、でも事切れる間際だったから濡れるだけですんだのかも‥‥これがもし元気な時に使われていたらもっとダメージあったんじゃないかな」
高村が鷹見に言葉を返すと「とりあえず倒せてよかった」と鷹見が呟く。
「後は‥‥繁殖していないかを確認するだけですね」
辰巳が呟くと「もうでかカエルは嫌です」とシエラが肩を震わせながらため息混じりに呟く。
この時、シエラは暖かい緑茶を皆に配ろうと考えたが、冷たい風の中ではあまり意味を成さないように思えて、配るより早く暖かい場所に行くことを考えた。
「怪我人が出なくて本当によかったぜ」
ソウが呟くと「うん、皆で協力したからだね」とリリィがポツリと呟く。
その表情は最初と同じくクールなのだが、どこか優しさを秘めた瞳で応えていた。
「とりあえず‥‥多少濡れているが使うか?」
レーヴェが濡れたままの能力者にバスタオルを渡していく。
「寒い中、さんざんだったな」
濡れた服を見ながらレーヴェがため息混じりに呟く。
「そういえば俺もタオルとカイロがあったんだった」
ジェレミーが思い出したように手荷物からタオルとカイロを取り出し、暖を取る。
その後、少し暖まった能力者たちは他にキメラがいないかを確認した後、本部へと帰還して行った。
END