タイトル:生きとし者、逞しく!マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/01 21:51

●オープニング本文


死んだ者には弔いを、生きているものは精一杯の未来を。

※※※

「皆が仲良くハッピーエンドにはならないのよ」

キメラやバグアを倒した時、彼女・鈴鹿(すずか)は必ず言っていた。

「あたし達人間は地球の侵略を許さないためにバグアと戦う。でもバグア達からすれば、バグア達の正義があるかもしれない―――認めることはできないけどね」

だから、と鈴鹿は言葉を続ける。

「牡丹、だから理解しなさいね。私が死んでも仕方ない事。戦って生きていく以上『死』は必ず隣り合わせなんだから」

「鈴鹿ちゃんは死なないよ。だって強いもの。死んじゃうとすれば牡丹の方だよ‥‥」

そう、いつだって私は鈴鹿ちゃんにくっついて生きてきた。

まだ能力者になる前も、苛められて泣いていると鈴鹿ちゃんがいじめっ子をやっつけてくれた。

お父さんやお母さんが死んじゃったときも、私が泣いていると一晩中一緒にいてくれた。

この世界で生きていけるのは強い人だけ。

だから――鈴鹿ちゃんは絶対に死なないと私は確信にも似た思いがあった。

なのに――‥‥。

いつものように鈴鹿ちゃんと一緒にキメラ退治にやってきた時、私が余所見をしたばかりに背後から近づいてきていたキメラに気づかず、私は悲鳴をあげる間もなく殺される。

―――はずだった。


けれど真っ赤な血を流して倒れているのは鈴鹿ちゃん。

私は鈴鹿ちゃんに突き飛ばされたおかげで泥だらけになってしまったけれど、無傷で生きている。

「鈴鹿ちゃん!」

「げほ、大きな‥‥声、出さない、で。せっかく‥‥逃げたのに‥‥見つかっちゃう、でしょ」

喋るたびに口から血を吐き、鈴鹿ちゃんは私に逃げるようにと言う。

「できないっ、できないよ。鈴鹿ちゃんを置いて逃げるだなんて――」

「前に言ったよね‥‥死は、必ず隣り合わせだから‥‥仕方ないって‥‥でも――」

――あたしは牡丹が死んじゃったら仕方ないじゃすませられないよ――

鈴鹿ちゃんは私を安心させるように笑って、キメラへと向かっていった。

私も追いかけようとしたけれど、鈴鹿ちゃんによって少し下にある川へと突き飛ばされ、鈴鹿ちゃんを追いかける事はできなかった。

私はそのまま鈴鹿ちゃんが言った通り本部に帰還し、鈴鹿ちゃんが帰ってくるのを待ち続けた。

けれど鈴鹿ちゃんが生きて帰ってくることはなかった。

そして、鈴鹿ちゃんの死を認められないまま時間だけが無駄に過ぎ、私は鈴鹿ちゃんを『置き去り』にしてしまった場所へと向かっていた。

鈴鹿ちゃんの遺体が戻ってきたのは聞いているけれど、鈴鹿ちゃんの死を私が認めてはいけない。

そんな思いに胸を押しつぶされそうになりながら。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
青山 凍綺(ga3259
24歳・♀・FT
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
ヴォルク・ホルス(ga5761
24歳・♂・SN
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL

●リプレイ本文

 今回、牡丹という女性能力者の為に命を散らせた鈴鹿という同じく女性能力者がいた。
 しかし牡丹は鈴鹿の死を認められず、鈴鹿が死んでしまった場所へと向かっている。
 それに気づいた友人の一人が、能力者に牡丹を連れ戻してほしいと依頼をしてきた。

「親友を失って、気が動転しているのは分かるが‥‥まだその身を心配してくれる友人がいるのだ、その者の為に生きるべきだと俺は思うが‥‥」
 ため息混じりに呟くのは榊兵衛(ga0388)だった。
 今回、能力者達はキメラ退治、そして牡丹を保護する為に班を二つに分けて別行動をしていた。
 牡丹の保護班として動いているのは榊、MAKOTO(ga4693)、神無 戒路(ga6003)、ヴァシュカ(ga7064)の四人だった。
「確かにね。失った事を認めたくない気持ちは分かるけどね‥‥私の場合は過ぎた季節は戻らないし、嘆いている暇がなかったから迷ったりはしなかったけど」
 MAKOTOが呟き、地図を見ていた神無が「すぐに見つかればいいが‥‥」と一人呟いていた。
「いつまでも一緒にいるわけにはいかない‥‥だからこそ今を大切にするんだとボクは思うの」
 ヴァシュカが呟き、静寂に満ちた山の中を能力者達は歩き始めた。


 そして、別行動している班には青山 凍綺(ga3259)、ヴォルク・ホルス(ga5761)、ラシード・アル・ラハル(ga6190)、そしてザン・エフティング(ga5141)の四人がいた。
 この班は別行動している班とは違い、通常の山道を進み、キメラと牡丹を見つける事になっていた。
「‥‥牡丹は‥‥鈴鹿の命を犠牲にして‥‥生きているんだね‥‥」
 山道を歩きながら、ラシードがポツリと呟く。彼には牡丹の気持ちが嫌と言うほどわかるのだ、彼もまた牡丹と同じような境遇の持ち主なのだから。
「生き残った、人間には‥‥命を全うする責任が、ある」
 ぽつり、ぽつりと呟かれるラシードの言葉に「そうですね‥‥」と青山が俯きながら呟いた。
「まず全うさせる前に、早く牡丹を探す必要があるな。厄介な事になっていなければいいが‥‥」
 ザンが呟き「まだA班でも見つかっていないらしい‥‥」とヴォルクが通信機を使ってA班に聞いたらしく、ため息を吐きながら呟いた。
「余裕があれば下見くらいしたかったんだけどな‥‥どうやら無理そうだ」
 ヴォルクが呟き、山道を歩き出す。


 その後、A班とB班は通信機で連絡を取り合いながらキメラと牡丹の捜索をしていたがなかなか見つからず、能力者は『どうしたものか』と考えている時――女性の悲鳴とキメラの雄叫びのようなものが聞こえ、能力者達は声が聞こえる方へと急いだ。
 A班が先に見つけたのは牡丹、そしてB班が先に見つけたのはキメラであり、二つの班はそれぞれの役割を果たす為に動き始めた。


「ほっといて! 私は鈴鹿ちゃんと一緒にいたいの!」
 狂ったように泣き喚く牡丹をMAKOTOが押さえながら、何とか彼女に冷静さを戻そうとする。
「鈴鹿の命の犠牲の上に今のお前があるのを忘れるな!」
 B班がキメラとの戦闘を行っている音が聞こえる中、榊が大きな声で叫んだ。
「‥‥鈴鹿ちゃんの、犠牲の上――」
「お前が死んだら、命がけでお前を救おうとした鈴鹿の最後の行動を無にすることになるんだぞ。親友に最後まで迷惑をかける気か?」
 榊の言葉に神無が「いったいこの山で何が‥‥?」と問いかける。一応報告書で目は通していたが、牡丹自身の口から聞いておきたいのだ。
「それで、オマエはこれから何がしたい?」
 神無が問いかけると「私は――死にたい」と短く呟いた。
「鈴鹿ちゃんの死を私だけは認めちゃいけない。私のせいで死んじゃったんだもの‥‥だから、私だけは鈴鹿ちゃんが生きていると信じていなくちゃいけない! じゃないと鈴鹿ちゃんは――」
 牡丹は叫び、地面の土を握り締め、瞳から涙を零し、地面の土へと染み込ませていく。
「想い――想うって相手がいないと使わない言葉よね。だから心の上に相がある。相手のいない心はただ儚く散っていくのみ」
 ヴァシュカが呟き、牡丹がつらそうな表情で彼女を見た。
「‥‥牡丹さん、鈴鹿さんの想いは届いているのかしら?」
 ヴァシュカの言葉に牡丹がハッとしたように瞳を見開く。
「亡くなった親友の分まで生きるのが、お前の義務だ。それだけは忘れるな!」
 榊は牡丹にきつく言うと、戦闘を行っているB班を手伝うために戦場へと赴いたのだった。


「牡丹はA班が保護したらしいから、気兼ねなく戦えるな」
 ザンは呟き、自身は中衛の位置に立ち、キメラとの射撃軸を合わせ『強弾撃』でキメラに攻撃を仕掛けた。
 ザンの射撃とあわせるようにヴォルクも『スコーピオン』で射撃を行う。
 そして射撃によってバランスを崩した所で青山が接近攻撃を行う。
「この力、正しく使えますように‥‥インシャラー」
 ラシードは呟きながら覚醒を行い「後ろ脚を‥‥狙えばっ」と『スコーピオン』で後ろ脚をメインに攻めていく。
 その時、牡丹を保護したA班が戦闘に合流してきた。
 援護攻撃を行ってくれる者が狙われないように榊が自らを囮にしてキメラをひきつける為にキメラの前へと出る。
 キメラは榊を攻撃するために突進攻撃で勢いよく走り出す――が、榊はこれを待っていたかのように、ぎりぎりまで引き寄せ『流し斬り』でキメラを攻撃した。
 榊の攻撃が終わった後、MAKOTOが反撃を許さないかのように、そして脚の付け根を狙うかのように『真音獣斬』をキメラに向かって放つ。
「人の心に傷をつけて、自分は無事でいようなんて――甘いよ!」
 MAKOTOが叫び、素早くキメラの所まで移動するとボディ部分を思い切り殴りつける。
 そして神無は『隠密潜行』で狙撃しやすい所まで移動し『鋭覚狙撃』を使用してキメラの後ろ脚を狙い撃つ。
「ユニコーンと言うより‥‥ナイトメアだな」
 呟きながら神無は覚醒を行い『強弾撃』で攻撃を仕掛けた。
 その時ヴァシュカは他のスナイパー達と同様に後ろ脚を重点的に攻め、貫通弾を使い、キメラの後ろ脚を完全に崩したのだった。


「どうすればいいの‥‥鈴鹿ちゃん――いつもみたいに教えてよ‥‥私一人だったらどうすればいいのか分からないのよ‥‥」
 能力者達が戦っている姿を見ながら、牡丹はがたがたと震えながら呟く。
「私があんな風に戦えたら、鈴鹿ちゃんは死ななくてよかった‥‥私がいなければ鈴鹿ちゃんは――」
 ぶつぶつと呟く牡丹に「いつまで、そこにいるの?」とラシードが牡丹に近寄りながら問いかけた。
「一緒に、帰ろう‥‥? 待っている人が、いる。牡丹が、鈴鹿を待ってた、ように――それに、牡丹が生きるなら、鈴鹿も、牡丹の中に、生き続けるよ」
 ラシードの言葉に「でも私のせいで鈴鹿ちゃんが‥‥」と自分を責めながら呟く。
「立ち直るまでに、時間がかかるかも、しれない‥‥けど大丈夫。人間は、強いよ‥‥どんな地獄からでも、きっと還ってくる‥‥」
 ラシードの優しい言葉に牡丹の瞳からは余計に涙があふれ出てくる。
 震える足で、牡丹が戦場に立つと「仕留めるなら一発で仕留めろ」と神無が牡丹から武器をとり、弾を一発だけ入った状態で返す。
「でも――私なんかにあんなキメラ‥‥」
 倒せない、牡丹が言い切る前に「大丈夫だろ」とヴォルクが呟く。
「お前の命はもうお前のものだけじゃなく、鈴鹿のものでもあるんだ。だから鈴鹿に出来た事、お前に出来ないはずはない」
 ヴォルクの言葉に牡丹は自分の胸に手を置く。
「――でも、怖いの。あのキメラを見ただけでも足が竦んじゃうんだよ‥‥」
 そう呟き、戦場から逃げ出そうとする牡丹を見て「あんた弱い人間だな」とザンが短く呟いた。
「すべてから逃げて、親友の死からも逃げて、どこまで逃げれば気が済むんだよ」
 ザンのきつい言葉に「私は逃げてなんか――」と反論しようとした牡丹だが言葉をとめた。
 なぜならザンが呟いた『弱い』という部分は当たっているのだから。
「弱いのが悪いってことじゃない。人間なんて誰もが弱いモンだ。だが皆、その弱さに立ち向かいながら生きている。それは‥‥アンタの友人である鈴鹿も同じなんだぜ」
 ザンの言葉に牡丹は反論することなく、ただ黙って聞いている。
「彼女がしたことを認めず、自分だけを逃げて守ろうとするのか? それじゃあんまりだろうが!」
 最後の言葉あたりは本気で怒っているのだろう。
「他の皆も言ってるけどさ、鈴鹿さんは死んだ。もういない。でもキミの心にその胸に、一つになって在り続ける――キミが認めるのを拒んでいるのが証だよ」
 MAKOTOが呟くと「私にも――出来るのかな」と自分の武器を握り締めながら牡丹が呟く。
「あなたにとって鈴鹿さんが大事であったように、鈴鹿さんにとってもあなたが大事だったんです。だから無駄に命を捨てようとか、逃げようとかは思わないで」
 青山の言葉に「‥‥私が、あいつを倒す」と牡丹が決意したように呟いた。
「そうだ、ケジメをつけたいなら、自分の手でケリをつけろ!」
 牡丹が攻撃しやすいように、榊、青山が前に出てキメラをひきつける。既に足が壊れているので先ほどまでのような勢いはない。
 狙いさえ外さなければ、一撃で倒すことも容易いだろう。
 援護射撃を行うもの、前衛で牡丹のフォローを行うために動くもの、それぞれが動き出し――牡丹はトリガーを引くその瞬間を待っている。
「いまだ!」
 誰が叫んだのかは分からない。けれどその声を合図に牡丹は武器のトリガーを引く。
 牡丹の武器から放たれた弾丸はキメラの頭に撃ち込まれ、キメラは低い唸り声と共に地面へと沈んでいった。


 キメラとの戦闘が終了した後、ヴォルクがキメラのツノをじぃっと見つめていた。
「‥‥馬のツノって道具として使えない‥‥?」
 ヴォルクの小さな言葉に「たぶん‥‥無理じゃないかな」とラシードが言葉を返す。
「そう‥‥」
 ヴォルクは残念そうに呟くと、肩を落とし、牡丹のほうへと視線を移す。
「俺も大切な人から預かった命‥‥無駄には出来ないからな‥‥」
「何か言った‥‥?」
 ヴォルクの小さな呟きにラシードが聞き返すが「何でもない」と彼は答えた。
「え――鈴鹿のところ、一緒に来てくれないの?」
 不安そうな瞳を能力者に向けながら牡丹が呟く。
「‥‥結局は自分だけで解決しなくてはならないからな」
 榊が呟くと「きっと大丈夫だよ」とMAKOTOが励ますように牡丹の肩を軽く叩く。
「頑張れよ」
 神無の言葉に「‥‥うん」と俯きながら牡丹が答える。
「ねぇ、鈴鹿さんはいなくなったかもしれない‥‥でもね、キミの中に鈴鹿さんは種として眠っている。その種が芽吹くか枯れるかはキミ次第」
 でも、キミなら咲き誇らせられると信じている、ヴァシュカが牡丹に向けて話しかけると「ありがとう」と少し不器用そうに牡丹が笑った。
「頑張れ」
 ヴォルクもニッと笑って呟き、能力者達は帰還した後、鈴鹿のところへ向かう牡丹を見送り続けたのだった。

 きっと、もう大丈夫だろう。
 友の為に苦しみ、死にたいと嘆いていた牡丹の姿はもうなかったのだから。



END