タイトル:variant―血を啜るモノマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/06 00:02

●オープニング本文


そのキメラは夜な夜な人の生き血を求めて彷徨う――。

※※※

「ヴァンパイア?」

最近、人の失血死が大勢知らされている。

唯一『ヴァンパイア』と出会って生き残った少女は体をがたがたと震わせながら「黒衣の‥‥吸血鬼」とだけ呟いた。

その少女は『ヴァンパイア』に襲われ、記憶が曖昧なのか身元がまだはっきりとしていない。

「‥‥私、その人の顔知ってる‥‥私を一緒に連れて行ってほしいの‥‥きっと吸血鬼に会えば、私のはっきりしない記憶も戻りそうだから――」

少女は能力者の服の袖を掴み、縋るような目で見てくる。

「何か――おかしくないか?」

少女の病室を出た後、男性能力者が眉を顰めながら呟く。

「おかしいって‥‥何が?」

女性能力者が首を傾げながら問いかけると「不自然なんだよ」と呟く。

「他の住人は全身の血をほとんど抜かれて死んでいるのに対して、あの子の場合は貧血で済む程度だった」

「他の住人の血を吸いすぎてお腹いっぱいになった‥‥という可能性もあるわよ?」

女性能力者の言葉に「‥‥確かに、そうだな」と呟きながらも男性能力者は納得がいかないような表情を見せていた。

そして、数日後――少女の体調が戻るまで出発を待ち、能力者は『ヴァンパイア』を退治に向かい始めた。

「こんにちは、私――キアラって言います‥‥どうぞ、よろしく」


●参加者一覧

神無月 翡翠(ga0238
25歳・♂・ST
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
青山 凍綺(ga3259
24歳・♀・FT
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
夜柴 歩(ga6172
13歳・♀・FT

●リプレイ本文

「己の食欲の為に街を滅ぼす‥‥反吐が出そうじゃ」
 嫌悪と怒りを交えた表情で夜柴 歩(ga6172)が呟く。
「確かに‥‥しかし、ヴァンパイア? 本当にいるなら、これほど厄介な相手は、いないな?」
 神無月 翡翠(ga0238)がため息混じりに呟く。
「一応、被害者の資料は来ているけれど‥‥これだけじゃ状況は分からないわね。それに仮にも吸血鬼を名乗るなら、もう少し優雅に行動してもらいたいわね?」
 海音・ユグドラシル(ga2788)がヴァンパイアの被害にあった人物達の資料を見ながら小さく呟いた。
「寒くないですか?」
 一緒に連れてきたキアラが震えているのを見て、青山 凍綺(ga3259)が話しかけると「大丈夫、です」とキアラは俯いたまま言葉を返してきた。
「そういえば失血死って話は聞いているんだけど、どうやって血が失われたのか分かる?」
 MAKOTO(ga4693)が資料を読んでいる海音に問いかけると「えぇと‥‥」と言いながら海音が資料を捲っていく。
「よくある西洋の話と同じね。首筋に噛み跡があって、血はそこから失われた可能性が高い――ですって」
 そっかぁ、と呟くMAKOTO。その隣では瓜生 巴(ga5119)がキアラに話しかけていた。
「吸血鬼は人間の姿をしていたの?」
 淡々とした様子で瓜生はキアラに接し「‥‥男の人、でした」とキアラが呟く。ザン・エフティング(ga5141)は少し離れた場所からキアラが答える様子を見ていた。
 街の人間が全員殺された中で、唯一の生き残り――怪しむなという方が難しいだろう。
 しかし、露骨に態度に出してもキアラに嫌な思いをさせるだけだと考えたザンは表面的には普通に接するようにしていた。
「さて、街の中を見て回りましょうか」
 神無 戒路(ga6003)が呟き、街の中を探索することにした。
「何故、吸血鬼に会えば記憶が戻ると思ったのじゃ?」
 街の中を歩き始めて、暫く経った頃に夜柴がキアラに問いかけた。
「‥‥なんとなく、です」
 キアラの答えに多少の疑問を感じつつも「そうか」と短く夜柴は言葉を返した。
「遺体の場所は色々な所だったわね、逃げ行く人たちを追いかけっこしながら殺した――ということかしら」
 海音が呟く、資料で遺体があった場所には赤いペンで印がつけてあり、その場所に共通点は見られない。
 能力者たちは明るいうちに街の探索を終わらせ、囮班とキアラ保護班の二つに班分けを行った。
 囮班として動くのは海音、青山、MAKOTO、神無の四人で、ヴァンパイアと遭遇したら『照明銃』を打ち上げて、保護班に連絡をする――という事になった。
 そしてキアラ保護班として動くのは神無月、瓜生、ザン、夜柴の四人であり、この班はキアラ保護を優先するということになった。
「それじゃ私たちは行くから、合図を見逃さないようにね」
 そう言い残して囮班は滅びてしまった夜の街へと移動を始めたのだった‥‥。

〜囮班〜
「それにしてもキアラさん『だけ』が生き残った理由――何なんでしょうね。ヴァンパイア自身が元々は街の人間で、キアラさんを知る者――とかでしょうか?」
 青山が街の中を歩きながら、ポツリと呟く。夜の街は電気もなく暗かったが、海音のランタンのおかげで多少の光は得ることが出来た。
「確かに奇妙だよね。お約束の臭いがプンプン漂ってくるぜ〜ってヤツだね」
 MAKOTOが青山の言葉に答えると「不穏な感じはなさそうでしたが‥‥」と神無も呟く。
「だけど油断は出来ないわね――何があるか分からな――?」
 公園の所を歩いていると、上からぽたりと雫が落ちてきて海音は上を見上げる。そこは大きな木があって、赤い光がこちらを見ている。
「ぅ‥‥ぁー‥‥」
 にぃ、と笑ったそれは木の上から降りてきて能力者たちを見やる。恐らく――というか確実に目の前のモノがヴァンパイアなのだろう。
 薄汚れたシャツを着て、その上から黒い大きな布をかぶっている。
 そして目は虚ろながらも獲物を狙うような鋭さは衰えておらず、口からはだらしなく涎が落ちている。
「―――つまり、さっきのは涎って事ね‥‥汚い」
 ごし、と海音は乱暴に頬を拭い『照明銃』をヴァンパイア目掛けて使用する。
「映画なら大人しく悲鳴をあげて襲われて終わりなんでしょうが‥‥そこまで優しい人は、ここにはいないでしょうね」
 保護班への連絡を行った後、海音が笑みながら呟く。それと同時に襲い掛かってくるヴァンパイアの攻撃を避け、保護班の能力者たちがいる場所まで誘導を始める。
「Ash To Ash! Dust To Dust!」
 叫びながらMAKOTOは覚醒し、ヴァンパイアに攻撃を行った。
 もちろん攻撃とは言っても、ある程度加減をしている状態であり、全力で殴るのは仲間と合流してからである。
 そして、神無も『スコーピオン』で牽制攻撃をしつつ、ヴァンパイアの能力を探っている。
 もし、変わった能力があるならば他の能力者に知らせる必要があるからだ。
「今からそちらに向かいます――」
 借り受けてきた通信機で保護班に連絡をすると、神無も再び牽制攻撃を始めた。


〜保護班〜
(「どうも、やな予感がするんだよな? 外れてくれれば、いいが‥‥」)
 保護班の神無月はキアラをちらりと見ながら、心の中で呟く。
 ちなみに彼が予想している『やな予感』とは、キアラが記憶を取り戻したと同時に此方へ攻撃を仕掛けてくるのではないか――ということだった。
「無理しちゃって‥‥」
 夜の静寂の中、ポツリと呟いたキアラの言葉に「え?」とザンがキアラに聞き返すように呟く。
「え? あ‥‥こんなに歩いたの久しぶりだから無理しすぎて足が痛くなっちゃって‥‥」
 苦笑しながら答えるキアラにザンは何か頭の中で引っかかりを感じていた。
「あのさ――」
 ザンが話しかけようとした時「今からそちらに向かいます」という連絡が入り、キアラと話すタイミングを失ってしまった。
「そういえば――、何故おぬしばかりが生き残れたのだろうな」
 夜柴がポツリと呟くと「分からないです、あんまり覚えていないし‥‥」と困ったように言葉を返してきた。
「すまんな、我らは常に最悪の状況を考えねばならんからな。悪いが容赦してくれ」
 気を悪くしたと思った夜柴がキアラに謝罪すると「無理ないですから」とキアラは答えた。
「普通だと思いますよ? 大勢が死んでいるのに私だけが生き残ったんだから‥‥怪しまれても仕方ないです」
 そう呟いた時に囮班がヴァンパイアを連れてやってきたのだった。


〜戦闘・そして思いたくなかった真実〜
「おぬしがこの街を死の街にした吸血鬼か――単なる死すら生ぬるい!」
 夜柴は呟くと『コンユンクシオ』を両手で持ち、ヴァンパイアに『流し斬り』を使って攻撃を行う。
「貴様が吸った命の分だけ、ここで血を吐き出して逝け!」
 流し斬りの後に通常攻撃をくらわし、ヴァンパイアを木に叩きつける。
「さて、傷を負ったら治してやる、しっかりやれよ?」
 神無月は覚醒し『練成強化』を行いながら呟く。
「キアラさんを宜しくお願いします」
 青山は瓜生に言い残し、ヴァンパイアへと攻撃を行う。
「さて! 今からはさっきまでのと違って手加減なんかしてやらないからね! 覚悟しろ!」
 MAKOTOも『フロスティア』を両手で持ちながらヴァンパイアへと駆け寄る。
「大丈夫? 私から離れないでね」
 瓜生はキアラの前に手を出し、キアラを守る事に精神を集中させる。
 ザンも少し離れた所から『ショットガン』でヴァンパイアの腕などを攻撃していく。
「いい加減、寝ろ」
 神無は呟き、覚醒すると『強弾撃』を使用してヴァンパイアを攻撃する。
「危ない――っ!」
 ヴァンパイアがキアラと瓜生がいる場所へと目掛けて走る。MAKOTOが叫んだが、一瞬反応が遅れて、瓜生は回避することが出来ない――はずだった。

 ――――とん

 何かに肩を軽く叩かれ、瓜生は地面へと倒れこむ。そしてその上ぎりぎりをヴァンパイアの爪が攻撃し、爪は木へと突き刺さった。
「な‥‥んだ、これ」
 呟いたのはザン。瓜生を狙って攻撃したというなら、その後ろにいたキアラに攻撃が直撃しているはずなのだ。
 しかし、ヴァンパイアの爪は器用にキアラを避けて木に突き刺さっている。
 まるで、キアラを攻撃してはいけないと言われているかのように。
 そこで、ザンの引っかかりが一本に繋がった。

『こんなに歩いたの久々だから‥‥』
『あんまり、覚えていなくて』

 確かに先ほどキアラはこう言っていた。この二つの言葉は矛盾するものであり、キアラ自身が記憶など失っていない事を決定付けるものになってしまったのだ。
「いったいどういう事なのか説明を――」
「いいの? キメラがくるよ」
 キアラの言葉にハッとして、能力者たちは戦いを再開する。
 すべてを問いただすのは、ヴァンパイアを倒してからだ――という思いに駆られながら。
 しかし、能力者たちが動揺する中、ようやくヴァンパイアを倒した頃にはキアラの姿はどこにもなかった。

〜結末〜
「やな予感、別な意味で当たっちまったな‥‥」
 神無月がため息混じりに呟く。
「あの子は――人間、親バグア派の者なんでしょうね‥‥私たちを餌にでもするつもりだったのかしら?」
 海音が呟くが、連れてきたキアラがいないのだから真相は闇の中である。
「キアラさんは‥‥純粋な被害者だと思っていました‥‥ですが、純粋な‥‥加害者だったんですね」
 青山は信じていたキアラに裏切られたような感覚に陥り、ショックを隠しきれない表情で呟いた。
「これも、お約束なのかな――」
 MAKOTOが呟くと「あの子はいったい何を考えて‥‥」と瓜生も俯きながら呟く。
「吸血鬼は倒せたが、何か‥‥後味が悪いな」
 ザンが呟き「そうですね‥‥任務失敗したような気持ちです」と神無も呟く。
「あの吸血鬼を街に連れ込んだのは、キアラ自身だというのか‥‥? 我と同じくらいの少女が‥‥この惨劇を引き起こした――?」
 結局、能力者たちはキアラを探しに街の中などを捜索したが、見つける事もかなわず、能力者たちは、それぞれ心の中にもやもやした何かを抱えながら本部へと帰還していったのだった。


END