●リプレイ本文
「仇を取る為に戦いに赴く気持ちは分かりますが、戦士としては失格ですね」
直己の事を聞き、鳳 湊(
ga0109)はポツリと呟いた。
「相手の力量を甘く見ている、今回の事はそれが証拠でしょう。戦いとは冷静に行うものです」
鳳の言葉に「確かに‥‥」とシュヴァルト・フランツ(
ga3833)が納得したように呟く。
「ですが、大切な人を失い‥‥これ以上、心に傷を負わせたくありませんね」
シュヴァルトが首から下げた黒い十字架を額に当てながら呟く。
「これ以上、つらい思いをさせないためにも‥‥絶対に助けましょう!」
エレナ・クルック(
ga4247)は呟き、決意したように能力者達の顔を見た。
「一応、視界が悪い場所での行動になりそうだから通信機を借りてきたぞ」
黒川丈一朗(
ga0776)は借りてきた通信機を能力者達に見せながら話した。今回は急なため、借りられないかもしれないと黒川は思っていたが、何とか借りることが出来た。
(「出会わなければ別れの不幸はない――けれど出会わなければ一緒にいられた幸福もない。出会いと別れは誰の元にも平等に訪れる‥‥という事か」)
橘・朔耶(
ga1980)は心の中で呟きながら、今回一緒に行動を共にする仲間たちを見ていた。
「さて、わらわにも家族を失う事の意味は充分に、理解できる。微力とはいえ、全力で事に当たらせていただくぞよ」
露出の激しい巫女服が特徴な朏 弁天丸(
ga5505)が呟き「じゃあ、頑張っていこうか」と不知火真琴(
ga7201)が言葉を返した。
「とりあえず、現場での行動は決めた2班に別れて行動、そして直己かキメラを見つけたら照明銃を打ち上げる――でよかったんだよね」
不破 梓(
ga3236)が確認するように呟き、能力者達は直己とキメラがいる森へと向かい始めたのだった。
森に到着するが、予想以上の視界の悪さに能力者達は多少驚きを隠せずにいた。
「ここからは別れて行動しよう」
黒川が呟き、能力者達は一緒に行動をする能力者の所へと移動する。
A班・エレナ、橘、不知火、不破の四人。
B班・鳳、黒川、シュヴァルト、朏の四人。
〜A班〜
「意外と早く見つかるかもね」
橘が地面を見ながらポツリと呟く。
「どういうことですか?」
エレナが問いかけると、橘は地面を指差して「これ」と短く言葉を返してきた。橘が指差した場所を見れば、人の足跡やキメラの足跡、木を見ればキメラが傷つけたであろう不自然な傷などが見て取れた。
「こんな風な追い詰め方をするとは百獣の王も落ちたもんだな」
自嘲気味に笑い、橘が呟くと「この辺を重点的に探してみようか」と不知火が呟き、足跡などを見ながら直己とキメラを探し始めた。
「何を見ているんだ?」
空を見ているエレナに不破が問いかけると「向こうの班の照明銃を見落とさないようにと思って」と答えた。
確かにお互いが近い場所で照明銃を使えば、音も聞こえるかもしれないが、互いに離れた場所から使っていたら、音は聞こえず、もしかしたら照明銃そのものの光を見落としてしまうかもしれない。
エレナはそんな事があってはいけないと考え、森の捜索をしながらも空の注意を怠ることをしなかったのだ。
「なるほど、確かにそうだな」
不破が納得したように呟くと「私も見ることにするよ」と答え、二人は捜索しながら空にも注意を向け始めた。
「おい、あれ――」
橘が呟き、他の能力者達が『何?』と言った感じで前方を見ると、口から血を滴らせているキメラの姿があった。
「とりあえず、連絡をして――向こうの状況に合わせてキメラ誘導をしましょうか」
不知火が呟き、通信機でB班に連絡をしようとしたとき――照明銃の光が真っ暗な森の中をわずかに照らしていた。
それと同時に橘も照明銃を使い、キメラ発見の合図をB班へと送ったのだった。
〜B班〜
「流石に視界が悪いと、捜索も難しいものだね」
鳳が苦笑しながら呟くと「だが見つけないとな」と黒川が言葉を返す。
「直己に仇を取らせてやりたいの」
ポツリと朏が呟き「何故ですか?」とシュヴァルトが問いかけの言葉を投げかける。
「仇を取りそこなえば、直己は生き残っても義姉の元を去ることは間違いないのじゃ。真に義姉の元へ連れ帰るには直己が仇を取るしかないのじゃ」
朏の言葉に「なるほど」とシュヴァルトは呟き「まずは直己さんを探しましょう」と答えた。
「足跡がある‥‥」
鳳が呟き、能力者達が地面を見ると足跡と一緒に血の滴りも見受けられた。この出血量ではすぐに死んでしまう事はないとしても、発見が遅ければ万が一の可能性‥‥ということもある。
「足跡もふらついているようだし、そう遠くにいけるはずはないと思います」
足跡、そして血の量などを冷静に分析して鳳が呟き、能力者達は直己を探すことにした。
しかし、この辺には人が隠れられるような洞窟などは見当たらない。
だから木の陰か何処かに隠れているはずなのだが、視界が悪くてなかなか見つけられずにいた。
「直己さん!?」
静かな森の中にシュヴァルトの少し大きな声が響く。他の能力者達がシュヴァルトの所へ向かうと、血だらけで息を荒くしている男性の姿があった。
恐らく――というか確実に彼が直己なのだろう。
「大丈夫かえ?」
朏が直己と目線を合わせるように屈みながら問いかけると「‥‥だいじょう、ぶ‥‥」と苦しそうな声で直己は答えてきた。
「あいつ、倒さないと‥‥義姉さんが、前に進めない‥‥あいつがいる限り」
怪我をしながらも、意思の力は弱くなっていない直己の姿を見て「わらわも協力は惜しまぬぞえ」と少し笑いながら呟いた。
「だが、彼は怪我をしているぞ?」
黒川の言葉に「確かに直己の傷は癒えてはおらぬ」と朏が呟き、そして一度間を置いた後で再び話し始めた。
しかし、黒川はこういいながらも直己に仇を取らせてやりたいという気持ちがあった。
「でも男には『治らねばならぬ時がある』ものじゃ」
朏の言葉、そして直己の様子を見て「エレナさんに来てもらおう」と鳳が呟く。
確かにサイエンティストの彼女ならば傷を癒せるスキルを持っている。鳳は急いで来てもらうために照明銃を使い、向こうの班へ連絡をした。
それから、少し間を置いて向こうの班からも照明銃が使用され、キメラ発見の連絡を受けたのだった。
〜戦い・結末・未来へ〜
「大丈夫ですか?」
あれから暫く経った頃に慌てながらA班の能力者が合流してきた。
エレナはすぐに直己の治療に取り掛かり、苦しそうな表情の直己に問いかけた。
「あぁ‥‥だいぶ楽になったよ、ありがとな」
直己が礼を言うと「いいえ、気にしないでください」とエレナが言葉を返した。
他の能力者達は連れてきたキメラとの戦闘中で「私もいきます」と治療を終えたエレナが戦線へと戻っていった。
戦線へ戻るとエレナは『練成弱体』と『練成強化』を使用し、キメラの防御力を下げ、能力者達の武器を強化した。
そして鳳は傷ついた直己が狙われぬように、彼の近くから『フォルトゥナ・マヨールー』でキメラに攻撃をしていた。
黒川は攻撃してくるキメラの攻撃を避け、下側に入り込むと恐らく弱点となるであろう場所・腹を目掛けて攻撃をしていく。
「丈一朗、右に!」
橘が叫ぶと同時に、黒川は右へと避ける。それと同時に橘の『コンポジットボウ』による攻撃が行われ、キメラは苦しそうにうめき声を上げた。
「待ってくれ、俺も――」
よろめく体で直己が呟くと「義姉を悲しませる気か?」と不破が直己に問いかけた。
「え?」
「義姉を悲しませたくないのなら、おとなしくしていろ‥‥お前まで死んだら、義姉を守る者は誰もいなくなるという事を自覚するんだな」
不破は言い残し『月詠』でキメラへと攻撃するために、キメラ目掛けて走り出した。
「そうですよ、貴方の帰りを心から待っている人がいるんです」
シュヴァルトは呟き『ハンドガン』でキメラを攻撃していく。そしてキメラが怯んだ瞬間を見逃さず、シュヴァルトは『ソード』に武器を持ち変えてキメラを攻撃した。
「その程度の力で――幸せな人たちに悲しみを与えたのですかっ」
シュヴァルトは少し怒気を交えた声でキメラに向かって叫ぶ。
「危ない!」
キメラの攻撃がシュヴァルトに及ぼうとした時、不知火の『ゼロ』がキメラを攻撃して、キメラの攻撃を逸らさせる。
「お前の相手はこっちだよ! お姉さんが遊んであげよう!」
不知火はターゲットを自分にさせるためにキメラの前を走り、挑発するような攻撃を行い始めた。
「どうしても仇を取りたいのなら、これをどうぞ」
鳳が差し出したのは、自分の副武装として持ち歩いている『ハンドガン』だった。
「みんなの攻撃で、キメラは弱っています。狙い間違える事さえなければトドメをさせるでしょう」
鳳の言葉に、直己は借り受けた武器をじっと見て「さんきゅ」と呟き、狙いをつける。
他の能力者達もそれに気づいたのか、直己が無事に倒せるようにフォローを行っていく。
「お前さえいなければ、兄貴が死んじまう事はなかった――義姉さんもあんな苦しまなくてよかった‥‥俺の大事な姪っ子も死なずにすんだんだ!」
直己は涙混じりに叫び、ハンドガンのトリガーを引く。充分に狙いをつけたおかげか、ハンドガンから放たれた弾丸はキメラの頭を撃ちぬき、キメラは呻きながら地面へと突っ伏したのだった。
〜そして〜
「これ、さんきゅな」
鳳にハンドガンを返しながら直己が呟く。
「これからは感情に任せて戦う事は止めた方がいいですよ、死を招きます」
鳳はハンドガンを受け取りながら、直己に向けて言うと「今回みたいな事はもうしないさ」と直己は苦笑しながら答えた。
「さて、お前も病院に行ったほうがいい。その姿を見たら、彼女はもっと悲しむぞ」
血だらけの姿に苦笑しつつ黒川が言うと「そうだな、卒倒しちまうかも」と直己は笑って答えた。
「敵討ちは‥‥最後には空しさしか残らん‥‥それよりも兄の遺した者を護ることに力を使うんだな」
不破が直己に向けて言うと「そーするよ」と直己は少し困ったように笑った。
「身は果てども意思は受け継がれる‥‥ですね」
直己や能力者達から少し離れた場所でシュヴァルトが小さく呟く。
「これからは無理をしないでくださいね。貴方にもしもの事があったら、お義姉さんが悲しみます」
不知火の言葉に直己は無言で頷き、能力者達は本部へと帰還して行った。
後日、包帯だらけの直己と一緒に義姉がお礼を言いに来た。
その時の義姉の表情は『直己を助けて』と言っていた時のような、絶望に満ちた瞳ではなく、これからを生きていくための希望の瞳をしていたのだった。
END