タイトル:金―希望に光る色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/12 01:02

●オープニング本文


きっと、諦めなければ大丈夫。

どんなピンチでも乗り越えて見せる。

今までだってそうだったんだから――‥‥

※※※

「おぉぅ、マズったな。傷が深くて動けねーや」

腹から出る血を抑えながら、自嘲気味に俺・俊一(しゅんいち)は呟いた。

今回のキメラ、それは人型でもっともやりにくい相手だった。

外見は子供で、倒した後は子供を殺したような罪悪感が胸を襲った。

しかし――倒したと思っていた俺が悪かったんだろう。

絶命間際にキメラが攻撃してきて、俺は腹に傷を負った。

「――にしても、執念深いキメラ、だったなぁ」

ずる、と身体をよろめかせながら何処か安全な場所に隠れるために動き出す。

周りにキメラの気配は感じられないが、万が一と言うこともあるから。

「救助――要請はしたけど‥‥俺、もつかな」

出血が酷いためか体が異常に寒く感じてがたがたと震えている。

「間に合うかな――間に合ってほしいな‥‥諦めなければ――大丈夫、か」

諦めなければ大丈夫、それは俊一の大事な友人が遺した言葉だった。

少し前に死んでしまった友人だが、彼は最後まで『生きる』事を諦めなかったと言う。

「――諦めなければ――」


これが数時間前の話だった。

●参加者一覧

橙識(ga1068
17歳・♂・SN
沢村 五郎(ga1749
27歳・♂・FT
重籐 柊(ga3428
16歳・♀・SN
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
ナオミ・セルフィス(ga5325
18歳・♀・FT
神無 戒路(ga6003
21歳・♂・SN
要 雪路(ga6984
16歳・♀・DG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL

●リプレイ本文

 今回は『俊一』という男性能力者から救助要請が来て、八人の能力者が捜索を行う事になった。
「とにかく今回はスピード勝負です。急ぎましょう」
 橙識(ga1068)が現場へ到着すると同時に呟く。
「そうだな、タンカも用意しているし‥‥後は俊一を見つけるだけだ」
 沢村 五郎(ga1749)が橙識の言葉に返すように呟く。
「急がないと‥‥」
 焦るように呟くのは重籐 柊(ga3428)だった。
「これ、借りた写真をコピーしたもの。俊一さんの写真だよ。聞き込みはこれを使うといいよ」
 諫早 清見(ga4915)が写真をコピーしたものを各班に一枚ずつ配る。それぞれで連絡を取り合えるように彼は各班の通信機も手配していた。
「班は二人一組のツーマンセルでしたよね?」
 ナオミ・セルフィス(ga5325)が呟くと「そうです、頑張りましょう」と神無 戒路(ga6003)が答える。
「俊一の帰りを待つ彼女の願いをかなえたいですね」
 神無は呟くと諫早から通信機を受け取る。
「そういや、ここに来る前に俊一の彼女に会うたんよ、何か俊一の癖とかあったら聞いておこうと思うてな」
 要 雪路(ga6984)の言葉に神無が「何か分かったか?」と問いかける。
「‥‥ん〜〜‥‥俊一の得意なのは――かくれんぼ、やて」
 要の言葉にヴァシュカ(ga7064)は大きなため息を吐く。
「かくれんぼって‥‥今回、その得意なかくれんぼ能力を発揮させてなきゃいいんだけど」
 ヴァシュカの言葉に能力者達は首を縦に振る。
「‥‥でも、必ず見つけるよ。彼女の心の花は手折らせない」
 決意を秘めた瞳でヴァシュカは呟く。
 そして能力者はそれぞれのパートナーと一緒に俊一を探し始めたのだった。


〜橙識&ナオミ班〜
「‥‥ここの街って‥‥人がいないんですね」
 ナオミが戸惑いがちに呟くと「そうみたいですね」と橙識が言葉を返した。
 この街は過去にもキメラが数回現れており、その度に他所へと引っ越す人が出て、今回俊一が倒したキメラ事件で残っていた僅かな人も出て行ってしまったのだ。
 おかげで俊一はいまだに怪我をしたまま何処かに隠れなければならない状況になったのだ。
「人がいれば、俊一さんも助けを求められたのでしょうが‥‥」
 ナオミが俊一を捜索しながら呟く。
「そうですね――‥‥」
 橙識は捜索しながらもキメラがいないか警戒を怠る事はなかった。警戒を怠っていたら、万が一キメラが奇襲を仕掛けてきた時に対処できないからだ。
「俊一さん! 何処にいるんですか! いたら返事をしてください」
 ナオミが少し大きな声で俊一に呼びかけを行うが、返事はない。
「‥‥やっぱり簡単には見つかりませんね‥‥コールの方はどうですか?」
 ナオミが呼びかけを行っている間、橙識は通信機で俊一が持つ通信機にコールをしていたのだが、こちらも応答はなかった。
「傷が深くて意識を失っている可能性もあるし‥‥簡単には見つからない、か」
 でも、と橙識は一旦間を置いてから再度呟く。
「僕は大団円以外認めませんよ‥‥」
 呟く橙識に「コレを見てください」とナオミが話しかける。橙識は視線を移すと、そこにあったものに驚きで目を見開く。
 鳥型キメラの死骸、そしてそこら中に飛び散る血痕。
「ここが戦闘現場だったんですね、でも出血が酷いみたいです。私達が考えているよりも俊一さんの傷は深いかもしれません」
 ナオミの言葉に橙識は「‥‥急ごう」と呟き、身を隠せそうな廃屋や瓦礫などの捜索に入ったのだった。


〜沢村&重籐班〜
「ここも戦闘現場‥‥?」
 目の前に倒れている人型キメラの死骸に重籐は首を傾げた。 
 先ほど、橙識とナオミの二人から戦闘現場を発見したと連絡が入った。
 だが、沢村と重籐の前にあるのも確かに戦闘現場。
「キメラが複数いたんだな、だから俊一は他にもいるかもと思って、キメラに見つからないような場所に隠れようとしたんだろ」
 沢村が納得したように呟くと「それなら、納得です」と重籐も同じく納得したように呟いた。
「あっちの建物の方がこっちより損傷が激しいみたいです」
 双眼鏡を使って重籐が周囲を見渡していると、一箇所だけ激しく壊れた建物などを発見した。
「血の跡も向こうからこっちに続いているような感じだな」
 沢村が呟き、二人は建物が壊れている場所へと急いで向かった。
 建物が壊れている場所、そこは何軒かの家があったのだろう――しかし戦闘のせいかほとんど原型を留めておらず、瓦礫の山と化していた。
「俊一! いたら返事しろ、俊一!」
 沢村が大きな声で叫ぶが、返事はない。橙識達がしていたように重籐が何度もコールをしているが、こちらも同じく応答はない。
 二つの班で何度もコールして出ないという事は、俊一の意識はないと考えるのが普通だろう。
「意識がなけりゃ返事も出来ねぇ、か‥‥厄介だな」
 沢村が舌打ち混じりに呟き、瓦礫を移動させ始めた。こちらから向こう側へと血が続いているため、この辺にいるという可能性は限りなく低いが、万が一という事もあるので捜索をすることにしたのだ。
「急がないと‥‥」
 最初の時のように重籐が呟き、瓦礫の隙間や近くの家に逃げ込んでいないかを確認する。
 この場所に来て、多少の時間が過ぎている。
 これ以上の時間が経過したら、きっと出血の量から考えても俊一の方がもたないだろう。面識はないものの、同じバグアやキメラと戦う能力者の死を、重籐は見たくないと心の中で呟き、焦りながらも捜索を続けたのだった。


〜諫早&ヴァシュカ班〜
「‥‥一人での戦闘はこういう時怖い」
 ポツリと呟く諫早に「どうかした?」とヴァシュカが問いかける。
「え? いや、何でもない。急いで俊一さんを探そう」
 小走りで走りながら「でも」と諫早は心の中で先ほどの言葉の続きを呟く。
(「でも、本当に一人じゃないから、俺たちが行けるんだ――大丈夫、繋がったんだから運は味方してる」)
 俊一を捜索するにあたって、能力者達がしている捜索方法は『街の中心から四方へ散って、中央への往復繰り返し』だった。
「戦闘現場が二つあって、どっちも血痕が残っていた‥‥だから簡単な傷じゃないはず、ボク達で探さないと」
 焦りにも似た感情でヴァシュカが呟く。彼女の考えている事は、今回この仕事に参加している誰もが思っていること。
「俊一さ〜ん! 何処にいるんですか! 俊一さん!」
 ヴァシュカが叫びながら周囲を捜索するが、反応はない。
「貴方の帰りを待っている人がいるんだ! 聞こえたら、応えてください!」
 声が枯れそうなほど大きな声で叫ぶ諫早だったが、やはり反応はない。通信機でコールしているがこちらにも反応はない。
「さすがにこの辺には戦闘した形跡はないけど‥‥ん? このにおいは‥‥」
 ヴァシュカは匂ってくる何かに気づき、その匂いの方向を見る。
「‥‥何だろ、これ‥‥ハーブか何かかな」
 視界に入ってきたのは大量の鉢植え、恐らくはここに住んでいた人の趣味だろうが、明らかに不自然な壊され方をしている。
「もしかしたら、これは俊一さんがした事かもしれない」
 戦闘した後に自分についた匂いを隠す為に、この匂いのきついハーブを使ったとしたら? 諫早はそう考えたのだ。
「じゃあ、この土は‥‥」
 ヴァシュカが破かれた袋を見せながら呟く。その袋は植物を育てる為に用意されたものだろう。中に残った僅かな土を手にとって見ると、地面の土と色がよく似ている。
「血だ、血を隠すためにこの土を使ったんじゃないかな」
 諫早は呟くと通信機で他の能力者に連絡をする。ハーブにしても土にしても予想の範囲でしかなかったが、何処か確信に似たものがあったのだった。


〜神無&要班〜
「改めて宜しくな」
 そう言って神無が要に挨拶をしてから、少し時間が経とうとしていた。
 他の班から受けた連絡で、俊一がハーブの匂いで血を隠している事、土を使って血を隠している事、そんな連絡を受け、神無と要の二人は俊一を探すために自分が担当する区域を走り回っていた。
「‥‥こんな寂しい場所でくたばるなよ」
 神無は呟き、俊一を探し始める。
「おったでぇぇっ!」
 要の大きな声が響き、神無は慌ててそちらへと向かう。
 俊一が隠れていた場所、それは神無と要が担当する区域にあったバーの外にあった大きなごみ箱――で隠された地下室だった。
 ごみなどが散乱していて、地下室への入り口を見つけられなかったのだろう。
「こんな所に地下室が‥‥ワインセラーか何かか?」
 呟きながら神無は地下へと降りていく、地下室の中には不似合いなハーブの匂いがしていて、真新しい土が線上になって続いている。
「っち、こんなとこに居たか」
 ため息混じりに呟き、神無が「生きてるだろうな」と頬を数回軽く叩きながら話しかける。
「大丈夫? ちゃんと生きてる‥‥?」
 要が問いかけると「あぁ、かろうじてだがな」と神無が答えた。
 よかった、要は言いながら救急セットで止血などを始める。
「あかね‥‥」
 要の手を握り締めながら俊一が小さく呟く。恐らくは彼の帰りを待っている彼女のことだろう。
「大丈夫や、ウチはここにいるで。男やろ? しっかりせなアカン、待ってる人‥‥おんのやろ?」
 その人を悲しませたらウチが許さへんで? 要は冗談ぽく言いながら治療を続けていく。
「大丈夫そうか?」
 神無が問いかけると「大丈夫や、出血は多いけど応急処置がよかったみたいや」と要は安心したように呟いた。
 その後、用意されていたタンカで俊一を車両まで運び、病院へと急いだのだった。


〜そして〜
「え? 報酬が多い?」
 あれから俊一を病院へと運び、俊一の彼女に報告に向かった時だった。
 能力者の何名かが『報酬が多いからもらえない』と申し出てきた。
「もしかしたら結婚資金でも使っているかと思ってな」
 沢村が呟くと「気にしないで」とあかねは答えた。
「自分で言うのもなんだけど、うちって結構お金持ちなの。それに‥‥俊一が助かったって聞いて本当に嬉しいの。私からの気持ちだから、お願い‥‥受け取って」
 あかねの必死な言葉に能力者達は互いの顔を見合わせ、受け取ることにしたのだった。

 それから一週間後、俊一が能力者の元を訪れ、改めてお礼を言いに来たのだとか‥‥。


END