●リプレイ本文
「月‥‥ねぇ? 昔から、いい思い出がないんだよな〜‥‥」
神無月 翡翠(
ga0238)が呟きながら、空を見上げる。
今回はエミルという女性を連れ戻し、人型蜥蜴キメラを退治するという仕事内容だった。
「自分に正直なのは悪い事じゃないが‥‥それで想ってくれる人間を傷つけるなら――それは最悪な行為に堕ちるな‥‥」
橘・朔耶(
ga1980)がポツリと呟くと「自己満足の為に敵討ちなんて‥‥ただのバカがやる事よ」と海音・ユグドラシル(
ga2788)が言葉を返した。
「大切な仲間を失った時の苦しみや痛みは綺羅も分かる‥‥でもそれを倒すために一人で行くのは無謀‥‥」
高村・綺羅(
ga2052)が小さく呟いた。
「‥‥そうだな」
クラウド・ストライフ(
ga4846)がタバコの煙を吐き出しながら答える。他の能力者はキメラを退治する事に重きを置いている。
しかし、クラウドはエミルの妹の意図を汲んでエミルの命を最優先で動く事を決めていた。
「心配してくれる妹さんがいるのに、死地に赴こうなんてホントに馬鹿だよ!」
叫ぶのは香倶夜(
ga5126)だった。
だけど放っておけない、香倶夜は言葉をつけたしエミルに文句を言うためにも必ず助けることを心に誓う。
「エミルの妹に話を聞いたが‥‥ハリーとエミルは友達以上恋人未満状態だったようだな、少なくともエミルの方はハリーに好意を寄せていた。無謀な行動はこの辺から来ているようだな」
真神 夏葵(
ga7063)がこの場所に来るまでに聞いた話を能力者に話していく。
「エミルさんは分かっている筈だよね‥‥復讐は何も生み出さないって事に‥‥」
俯きながら呟くのはヴァシュカ(
ga7064)だった。
きっとエミルも頭の中では分かっているのだろう、だから妹に対して『自己満足』という言葉を残して出て行ったのだろう。
「さて、考えてても仕方ないね。戦闘が出来るような場所を見つけよう」
ヴァシュカが呟き、街の中を見渡す。
「この先に公園があるみたいね」
海音が看板を見て呟く。確かに少し歩いた所に公園があると書いてある。
「この先に民家は――少ねぇな。公園が戦闘場所でいいんじゃないか?」
真神が少し遠くに見える公園を見ながら問いかけると「じゃあ囮に行ってくる」と高村が動き出した。
高村が動き、人型蜥蜴キメラを探しに能力者達から離れていった。
「さて、こちらもエミルを探しに出ましょうか。街の人に説明もしなくちゃいけないし」
海音が呟くと「そうだね」と橘が答え、能力者達は高村とは別方向へと歩き出したのだった。
一応ヴァシュカがエミルに通信を行うが、エミルからの応答はなかった。故意に無視をしているのか、それとも通信機を落としたのか、エミルからは何の反応もない。
街の住人たちは、現在の時刻が夜だと言うこともあり、出歩いている人は少なかった。それでもゼロではないので、家を回って出歩かないようにと注意を促す。
「あの、もう一人だけ能力者がいるはずなんですけど知りませんか?」
注意を促すとき、中年男性に香倶夜に問いかける。
「もう一人‥‥あぁ、確かここをまっすぐ行った場所に見慣れない女性が歩いているのを見かけたな」
見慣れない女性、恐らくエミルだろう。まだ人型蜥蜴キメラと接触していないらしく、能力者達は住人達に注意をしながらエミルの捜索も行い始めた。
「とりあえずキメラを発見したという連絡も、まだないし‥‥エミルを探そう」
真神が呟くと同時に前方に長い髪の見慣れない女性が立っていた。雰囲気などからして普通の一般人とはとても思えない。
そして何より左手に持たれた剣が能力者だということを現している。
「‥‥あんたがエミル、か?」
神無月が問いかけると、女性はゆっくりと振り返りながら「あんた、誰よ」と鋭い目を向けながら聞き返してきた。
「ボク達はあなたの妹さんから依頼を受けて‥‥「必要ないわよ」」
ヴァシュカの言葉を遮りながらエミルは呟き「さっさと帰って、私の邪魔をしないで」と言葉を続ける。
「ふざけんな! お前が死ぬのを手助けするために俺等は来たんじゃねーんだよ!」
真神が叫ぶと、街の住人たちは窓から『何事?』と覗いている姿が見受けられた。
「叫ばないでくれる? ここは人の住んでいる街で夜も遅いのよ。大きな声を出したら迷惑でしょ」
「答えろ! お前が殺りたいのはヤツか? それとも自分か? それとも――俺等か?」
真神の言葉にエミルの肩が揺れ、ジロリとエミルが睨みつけてくる。
「貴方に何が分かるのよ! 何も分からないくせに知った風な事を言わないで! おせっかいはたくさんよ!」
エミルが激昂しながら叫ぶと「そうだね‥‥」とヴァシュカがポツリと呟く。
「お節介? そうね、つらい思い出は忘れたくなる‥‥。それはとても悲しいこと。でも優しい思い出はいつまでも心を暖め続けるの、小さな心の花として」
その時だった、高村からキメラを発見したと言う連絡を受けたのは。
「あ――ちょ、待ちなさい!」
エミルは海音が止めるのも聞かずに「公園で待ってる」という言葉を聞いて、走り出したのだった。
〜囮・高村〜
「どの辺にいるのかな」
少し時間を遡り、高村は街から少し外れた場所に来ていた。ハリーの遺体が発見された場所だった。
「‥‥ここで、まだ血の跡が残っている‥‥」
なかなか落ちなかったのだろう、ハリーの血の跡が点々と薄いしみとなって地面に残っている。
「――え?」
その時、ガサ――と音がして何だろうと高村が振り向いた瞬間だった。捜し求めていた人型蜥蜴キメラがニィと笑ったような顔で、こちらを見ている。
「キメラを発見したよ、これから公園に誘導する!」
簡単な連絡を入れた後、高村は『スコーピオン』で人型蜥蜴キメラに攻撃を行い、相手の標的を自分にひきつける。
そして『瞬天速』を使用して着かず離れずの距離を保ったまま、公園へと向かい始めたのだった。
〜戦闘・公園・果たされぬ約束〜
公園に高村と人型蜥蜴キメラが到着した時、最初に待っていたのは仲間の能力者ではなく、高村の知らない能力者の女性・エミルだった。
「お前がハリーを‥‥」
ぎり、と唇をかみ締めてエミルは剣を振り上げ、人型蜥蜴キメラに攻撃を行う。
しかし人型蜥蜴キメラの固い鱗によって攻撃は半減し、エミルはキメラから反撃をくらってしまう。
反撃とは言っても肩を人型蜥蜴キメラの爪がかすめる程度で済んだのだが。
だが人型蜥蜴キメラがエミルに向けて再度攻撃を行おうとし、エミルはそれを避ける事もなく目を伏せた。
まるで死に場所を求めているかのように‥‥。
「何しているんだ!」
真神の『ショットガン20』が人型蜥蜴キメラの腕目掛けて攻撃を行い、エミルへの攻撃を逸らさせた。
「無理をしないで下さい」
覚醒を行った神無月がエミルを後ろへと下がらせる。
「離して! 私はここで死んでしまいたいの! ハリーと一緒にこの場所で!」
錯乱したかのようにエミルが叫び、クラウドが軽くエミルの頬を打つ。
「‥‥どうだ、少しは落ち着いたか?」
打たれた頬を押さえ、エミルが瞳から大粒の涙を零し始める。
「お願いだから死なせて‥‥ハリーとの約束も、もう果たされる事がないんだから‥‥」
地面の土を握り締め、泣きじゃくるエミルに「誰もキミが死んでしまう事は望んでいない」とクラウドが呟いた。
「仕事を依頼してきたキミの妹も、そして――ハリー自身も。望んでいないものの為にキミを護る」
クラウドの言葉に多少の落ち着きを取り戻したのか、エミルは「うっうっ‥‥」と嗚咽交じりの声をもらすだけだった。
戦闘を行っている能力者達は、なかなかダメージを与えられない事に多少の苛立ちを隠せずにいた。
その時、海音が『練成弱体』で人型蜥蜴キメラの防御力を下げて『練成強化』で仲間たちの武器を強化する。
そしてその後、橘が長弓『黒蝶』で人型蜥蜴キメラの目を射抜く。硬い鱗で護られている場所が攻撃できないなら、護られていない場所を狙えばいい。
橘が射抜いた目で苦しがっている隙を狙い、高村が武器を『ファング』に持ち替えて攻撃を行う。
高村が攻撃を終えた後、クラウドが自分の能力を使って人型蜥蜴キメラに攻撃を行う。しかし、その際にキメラの攻撃などは常に注意をしており、その攻撃が味方に及ぶようであれば身を省みずに庇うつもりでいた。
「あたしにはキメラの装甲を破るだけの力はない、だから――せめて足止めを!」
香倶夜は呟き『スコーピオン』で人型蜥蜴キメラの鱗が薄い部分を狙って攻撃を行った。自分の弱い場所を攻撃され、さすがに人型蜥蜴キメラも戸惑ったのか足を止める。
その隙にヴァシュカが『強弾撃』と『レイ・バックル』を使用して攻撃を行った。
そして――とどめはエミルに任せることにした。
「あんたがいなければ――ハリーは死ななかった‥‥あの時、私がちゃんと答えを出していたら‥‥結果が違ったかもしれない‥‥私は自分もあんたも許せないのよ!」
エミルは剣を振りかざし、人型蜥蜴キメラの首を切り落としたのだった。
〜真相・エミルとハリー〜
「あの時、ハリーから好きだって言われたの。私ももちろん大好きだった‥‥だから返事は帰ってからねって‥‥それが彼を焦らせたのかもしれない‥‥そう思うと私は‥‥」
キメラを退治した後、エミルは泣きながら自分を責める言葉を呟き続けた。
「あのね、心の中で咲き続けるために、この生涯をかけて種を撒くの。ボクが此処に居たという証に‥‥ただそれだけ」
先ほどの言葉の続きをヴァシュカがエミルに向けて呟く。
「お疲れさん、復讐じゃないが‥‥納得したか?」
神無月から問いかけられ、エミルは「‥‥少しはね」と言葉を返した。
「なら、報告もかねて墓参りしてきたら、どうだ?」
「そう、ね‥‥報告しにいかなくちゃだめよね、でも私がまだ生きてる」
エミルの言葉に「無謀な自己満足はただの愚か者だ!」と橘が怒ったように叫んだ。
「遺された者に、お前は自分と同じ思いをさせる気か!」
遺されたもの、つまりエミルの妹だろう。今この瞬間もエミルの無事を願っているに違いない。
「これは受け売りだけど、エミルさんが生き続け、覚えている限りハリーさんは死なないんじゃないのかな? だからハリーさんの分まで生き続けるべきだと思うよ」
香倶夜の言葉に「私がハリーを覚えている限り‥‥?」と自分に問いかけるようにエミルが呟いた。
「お前が最初にすべきことは妹に対する謝罪だ、そして――ハリーの墓参りだな」
真神が呟くと「そうだね、ハリーも‥‥望んでいない」とエミルは顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
後日、エミルの妹と共に能力者達のところに現れ「ありがとう」と言い残していった。
長い髪がばっさりと切られていて、エミルの表情は何処か晴れ晴れとしたものだった。
すべてを吹っ切ることは出来ないかもしれないけれど、彼女にとって新たな第一歩になるのは間違いないだろう。
END