●リプレイ本文
「大きさは恐竜のように大きく、首が長いキメラで複数の顔を持つ‥‥それってヒドラではないんですか?」
蒼羅 玲(
ga1092)が手元の資料を見ながら小さく呟いた。
「どないやろ‥‥ともかく正体が分からんうちは下手に手が出せへんしなぁ‥‥」
要 雪路(
ga6984)が首を傾げながら呟くと、海音・ユグドラシル(
ga2788)が重傷の能力者が持ち帰った情報などを纏めたメモを取り出して渡してきた。
「傭兵の容態は重傷には変わりないけれど、命に別状はなさそうね。敵の情報についてはまともな事が書いてないからアテには出来ないわね」
海音が資料を見ながら呟き、ため息混じりに「最近、何だかダレてきたわね」と呟いた。
「ですが能力者を苦しめるキメラなのですから、油断は禁物ですね」
キリト・S・アイリス(
ga4536)が資料を覗き見ながら呟いた。
「しかし二つの顔が‥‥とうなされるほどじゃから、先の傭兵はそれが敗因になったのじゃろうな――そしてわらわ達の勝敗を左右する要因かもしれぬ」
朏 弁天丸(
ga5505)が呟く。先日キメラに倒された能力者は『二つの顔が‥‥』とうなされるだけで『二つの顔』がいったい何を指すのか明確な言葉がなかった。
「どっちにしても、実物を見て戦ってみない事には何も分からない、か」
デル・サル・ロウ(
ga7097)が呟き「そうね」と藤宮 光海(
ga7820)が言葉を返す。
「普通に考えれば双頭か変形した尾でしょうけど‥‥同種又は異なるキメラがもう一匹、も無きにしも非ずかしら」
藤宮が『二つの顔』について少し推理をするが、やはり見当もつかなく、能力者達は恐竜キメラがいる場所へと向かい始めたのだった。
「此処が恐竜キメラがいる場所みたいですね」
恐竜キメラが潜んでいる湖に到着すると、蒼羅が周りを見渡しながら呟く。恐竜キメラさえいなければ静かで良い場所なのだろうが、恐竜キメラが潜んでいるため、湖には誰もいなくシンとしていた。
「とりあえず戦闘方法としては誘き出し作戦でよかったかのう」
朏が呟くと、他の能力者達は首を縦に振る。
「でも‥‥恐竜かぁ‥‥ホンマやったら楽しみやわー」
湖の名にちなんだ名前つけれたらええなぁ、要は何処か楽しそうに話しながら双眼鏡で湖の様子を見ていた。
「わらわはアレの操作を行うことにしよう、うまくいけば恐竜キメラが陸に上がるかもしれぬし」
朏が呟きながら指差したのはボートだった。貸しボートと書かれているから、恐竜キメラが現れる前まではボートに乗る人間もいたのだろう。
しかし、今はボートも吹きさらしに放置されているせいか、少しボロくなっていた。
「じゃあ僕も行きます。さすがに一人では危ないですし‥‥」
キリトと朏が囮役のような形になり、恐竜キメラを誘き出す事になった。恐竜キメラがうまく現れれば待機している能力者達が総攻撃をかける。
「では参ろうかの」
朏とキリトがボートに乗って湖へと漕ぎ出し、他の能力者達はいつでも攻撃出来るように自分に合った場所でそれぞれ待機をする。
「先に戦っていた能力者も『誘き出し』はしているのではないかのう」
ボートに乗って陸から少し離れた所で朏がキリトに話しかける。
「どういう、事ですか?」
キリトが少し戸惑いながら言葉を返すと「戦いやすい陸上付近に誘導するってのはセオリーじゃから」と答えた。
確かにそうだとキリトも心の中で呟く。たとえどんな能力者がやってきても自分達に不利になるような場所で戦う事はしないだろう。
「もしかしたら水陸両用恐竜キメラだった、という可能性もあるわけじゃ‥‥考えすぎかも知れぬが能力者がそう簡単に負けるとは思えないのじゃ」
朏の言葉にキリトは言い知れぬ不安が胸をよぎる。
「まぁ、あくまでわらわの予想じゃが‥‥能力者を返り討ちにするような奴じゃ。用心するに越したことはなかろう」
朏が呟くと、水面に波紋が広がる。何事かと思うとボートの下に黒い影が広がっている。
「危ない!」
キリトが叫ぶと同時にボートは壊れ、二人は恐竜キメラの頭の上に乗る形になっていた。
現れた恐竜キメラは図鑑で見る草食恐竜のような外見だった。
しかし――‥‥。
「二つの顔――というのはいったい何を指していたんでしょう」
キリトが恐竜キメラの上でポツリと呟く。確かに恐竜キメラ全体を見渡しても『二つの顔』らしきものは見つけられなかった。
「さて、な。まずは此処から離れる事が先じゃろうて」
朏が呟きつつ陸地との距離を目測すると、キリトと共に恐竜キメラの頭から飛び降りて陸地へと着地した――のだが着地の時を狙って恐竜キメラが攻撃を仕掛けようとするが、蒼羅が『スコーピオン』で恐竜キメラの目を狙って攻撃し、二人への攻撃はそれていった。
そして海音が自分に『電波増幅』を施し『練成弱体』を恐竜キメラに使用する。要は『練成強化』で能力者の武器を強化して、恐竜キメラを見上げた。
「はー‥‥確かに『恐竜キメラ』やなぁ‥‥でも顔は一つしかないなぁ?」
要が呟いたこと、それは他の能力者も考えていることだった。
「伏せて!」
デルが叫び、要は言われた通りに伏せる。それと同時にデルが『ライフル』で恐竜キメラを攻撃していく。彼は湖ぎりぎりには近づかず、他の能力者のやや後方から支援攻撃を行っていた。
後ろに居るということは全体的に様子を見れるという事でもあり、危ない時には声をかけ、支援攻撃を行う事が出来る。
「首長竜がモデルかしら‥‥とりあえず陸にあがってきてくれれば対処しやすいんでしょうけど‥‥」
藤宮は呟き、小銃『S−01』で攻撃を行いながら小さく呟いた。
恐竜キメラは確かに姿は現したものの、陸にあがってくる様子は微塵もなかった。
「これじゃあうまく戦えないわね」
海音はさめた口調で呟き「どうしたものかしら」と言葉を漏らした。銃を持っている能力者は目などの急所を狙って攻撃するが、なかなか致命傷には至らない。
そもそもの大きさが違うのだから無理はないのだろうけれど‥‥。
「危ない!」
キリトが叫び、要を庇って代わりに恐竜キメラから攻撃を受ける。
「だ、大丈夫!?」
慌てたように要が問いかけると「大丈夫です」とキリトは眉を下げながら言葉を返した。
そして恐竜キメラから第二撃目が来ようとした時、デルがライフルで狙撃を行い、恐竜キメラの気を引く。標的がデルに移り、多少の隙が出来た所を要が『超機械』で、海音が『スパークマシン』で攻撃を行う。
水の中にいる恐竜キメラにとって電撃攻撃に弱いのか、二人からの攻撃を受けた途端に大きなうめき声を上げた。
「あらあら、無様ね♪」
海音が呟き、蒼羅がスコーピオンで攻撃を行う。
そして朏も自分の武器である『ドローム製SMG』で攻撃を行い、最初は不利かと思われていた恐竜キメラとの戦闘を少しずつ有利にしていった。
藤宮はいつでも能力者のフォローを出来るように刀を持ち、移動し、もう片手に持った小銃で射撃攻撃を行っていく。
だが、異変が起きた。
「グオオオオオッ―――!!」
耳を劈くような大きな声をあげたかと思うと、恐竜キメラがゆっくりと立ち上がり、能力者達は視界に入ってきたモノに目を見開いた。
二つの顔――今まで戦っていた中で二つ目の顔については何も分からなかった。
もしかしたら先に戦っていた傭兵の勘違いかもしれない――という思いが出てきた頃、恐竜キメラは二つ目の顔を見せたのだ。
真っ白だった腹が割れていき、それは段々と顔のようなモノになっていく。
そして『二つ目の顔』は腹――というか口に含んでいたであろう湖の水を勢いよく吐き出してきたのだ。
「きゃああっ!」
勢いのある水によって数名の能力者は木々にぶつかり、怪我をしてしまう。
「あれが二つ目の顔――ってワケね」
海音が呟き、デルもライフルを構えながら「だが陸には上がってこないな」と短く呟く。
そう、二つ目の顔を見せた後も恐竜キメラは陸に上がることはしなかった。
湖の水を武器として使うためか、それとも水からあがれないキメラなのか、どちらなのかは今の能力者に判断することは出来なかった。
一時は有利に運んでいた戦いも一気に振り出しへと戻らされてしまったのだ。
「まさか腹にもう一つの顔、だなんてね‥‥考えもしなかったわ」
藤宮は呟き、水に濡れて重くなった髪をかきあげる。
そして恐竜キメラはといえば、口から息を切らせたかのように乱れた呼吸をしながら能力者達をジッと見ている。恐竜キメラも弱っていることには違いがない。
能力者達はそれぞれ攻撃を仕掛け、トドメを刺そうと試みるが、恐竜キメラはもう一度水を吐き出した後、湖の中へとゆっくり沈んでいった。
「倒した‥‥わけではなさそうじゃの」
朏が呟くと「そうですね‥‥」とキリトが言葉を返す。
「もう一度あがってこないでしょうか?」
蒼羅が呟くと「たぶん、無理でしょうね」と海音が短く言葉を返した。
それから数時間の間、恐竜キメラが再びあがってくるのを能力者達は待っていたが、恐竜キメラが姿を現すことはなかった。
恐らくは能力者の気配が消えるまで、現れるつもりはないのだろう。
そして能力者達が行き着いた結論といえば‥‥一時帰還だった。
「さすがに厄介な相手やなぁ。しかも食べられそうになかった‥‥」
要が残念そうに呟くと「湖から出てくれれば結果は違ったかもしれないが‥‥」とデルが言葉を返した。
「でも、恐竜キメラのはっきりとした攻撃方法とかが分かっただけでも良かった‥‥のかしら」
藤宮が呟く。
「たまには失敗もいいものよ‥‥同じ過ちを繰り返さなければね」
海音は「近隣住民に説明しにいきましょう」と言葉を付け足して、民家がある方へと歩いていったのだった。
END