●リプレイ本文
「‥‥普通の商店街のときに来たかったなぁ‥‥」
菜姫 白雪(
ga4746)は静かな商店街を見つめながらポツリと呟いた。
「状況は、変わってないようだな‥‥」
問題の商店街から少し離れた場所で、神無月 翡翠(
ga0238)が小さく呟いた。
もしかしたら解決しているかもしれない‥‥と僅かな期待があったが、静かな商店街を見て、解決していないのだと能力者達は心の中で呟いた。
「さてっと‥‥やっと連中と戦えるってワケだな、商店街の奴らの為にも派手に暴れさせてもらうぜ!」
須佐 武流(
ga1461)が指を鳴らしながら不敵に笑う。
「討伐隊に参加するつもりはなかったんですがね‥‥此処でアッサリ他の人に任すのも信頼を失いかねませんからねぇ」
それに俺自身も気に入りませんし、ね‥‥と言葉を付け足しながらスティンガー(
ga7286)が小さく呟く。
「ボク達が頑張ってキメラを倒して、商店街に日々の喧騒を‥‥」
ヴァシュカ(
ga7064)はサングラスをかけなおしながら呟き、潜入時に使用した大きめの地図を取り出し、住人達の避難経路を決める為に相談を始めたのだった。
商店街の住人達には前もってキメラ退治に向かう日を伝えており、後は避難経路を伝え、能力者が誘導するだけになっている。
「美味しい料理を作る為にもキメラには商店街からいなくなってもらわないと!」
篠原 凛(
ga2560)は拳をギュッと強く握り締めながら少し大きめな声で叫ぶ。
しかし、実際に料理を行うのは彼女ではなく篠原の妹なのだけれど‥‥。
「だけど此処で問題だね、嗅覚封じの除草剤の事だけど‥‥出来れば住人からはしてほしくないという返答を貰ったよ」
ミハイル・チーグルスキ(
ga4629)がため息混じりに呟いた。
「あら‥‥それならどうしましょうか、犬の嗅覚は侮れないからこちら側を少しでも有利にするために使いたかったのだけれど‥‥」
ケイ・リヒャルト(
ga0598)は困ったように呟きながら言葉を返した。
「えぇ‥‥じゃあ嗅覚封じは出来ないの〜? じゃあどうしよう‥‥」
新たな問題が出てきたのだが、あいにくとキメラ殲滅のための時間は刻一刻と近づいてきている。
「ボクは潜入時に使った見渡せる場所で住人の避難をフォローするね」
ヴァシュカは呟きながらいくつかの電話番号が書かれた紙を取り出す。
これは避難をする住人達の電話番号で、避難班は複数に分かれていて、その数だけリーダーのような人物が存在する。この電話番号はリーダー格の住人のものだ。
「前回の時に約束したからな〜、守らないとヤバイだろ?」
神無月は伸びをしながら呟き、住人を避難させるために能力者達は動き出した。
〜住人達の避難・商店街解放の序曲〜
「猫の方が好きなんですよね‥‥犬より」
住人達の避難を開始し、ヴァシュカの指示を聞きながら篠原が住人達を誘導していく中でポツリと呟いた。
「ですから、思いっきり倒せます。猫のキメラじゃなくて本当に良かった」
靴に取り付けられた『刹那の爪』をカツンと鳴らしながら篠原が呟く。
「此方、篠原。もうすぐ住人の避難を終えます。そちらはどうですか?」
通信機で他の誘導班と連絡を取り合いながら能力者達は誘導を行っていた。
方や、須佐の方では小さな子供を連れた女性達が多かった。
「‥‥本当に大丈夫なんですか?」
一人の女性が小さな声で問いかけてくる。
「まぁ、とりあえずさっさと逃げとけ。アレは俺がきちんと倒しておくからよ」
須佐は公園付近にいる住人の避難誘導を行っていて、心配そうな視線で訴えてくる一般人に笑って答えた。
一方、神無月の方も公園に近い別な一般人たちがいて、護衛をかねた誘導を行っていた。
「皆さんが避難し終わった後に片付けに入りますので、ご安心を」
覚醒を行ったおかげで丁寧な口調になった神無月に「くれぐれも無茶をしないように‥‥」と中年女性が心配するように話しかけてきた。
「大丈夫ですよ〜、安心してください。我々傭兵が君達の命と生活の場所は死守致します〜」
スティンガーが中年女性に言葉を返すと「宜しく頼むね」と言って、商店街の外へと出て行ったのだった。
住人達の避難が終わった、とそれぞれの能力者たちが連絡をしてきた所で今回の作戦のメインに入る。
〜キメラとの戦闘・商店街解放の瞬間〜
「さて、始めましょうか? それでは、戦闘を行うために強化しますね」
神無月は呟きながら『練成強化』を行い、能力者達の武器を強化していく。
その時にヴァシュカから連絡が入り、キメラ全てが視界内の公園に入っていったと伝えられた。
「急がないとまずいわね、急ぎましょう」
ケイが呟くと「おっしゃ」と須佐が『棍棒』を構えて公園の方へと走って向かっていった。
今回、能力者達がたてた戦法としては須佐が公園正面から突入し、奇襲役の能力者が攻撃を行う――そして総攻撃、簡単に言えばこのような形になる。
嗅覚を封じれない以上、苦戦を強いられるのは目に見えているが、彼らは商店街を、そして住人達を守る為にキメラを殲滅するしか方法はない。
「さぁ、ジャンジャン行こうか? お前達の相手は俺だ!」
須佐が叫びながら公園の中にいる無数のキメラへと向かって走り出した。
「おぉぉらああっ!」
須佐は棍棒を振り回し、彼の周りに集まってきた犬キメラをなぎ払う。背後からやってきた犬キメラに対しては『刹那の爪』を装着した足で遊具に叩きつけるように蹴りつけた。
須佐の周りに犬キメラが集まってきた頃、他の能力者が奇襲攻撃を仕掛けてきた。
「武流! 避けて!」
ケイが叫び、須佐は言われた通りに横へと飛び、犬キメラから離れる。ケイは『鋭覚狙撃』を使用し、犬キメラが集中している場所へと攻撃を仕掛ける。
「ねぇ、上手なダンスを見せてちょうだい?」
加虐的な笑みを浮かべながら、ケイは犬キメラへと向けて呟く。彼女の攻撃に恐れをなしたのか、数匹の犬キメラは公園から出ようと走っていくが、菜姫がそれを許さなかった。
菜姫は『瞬速縮地』で犬キメラを追いかけながら『真音獣斬』で公園の外に出ないように攻撃を仕掛ける。
「‥‥火・あ・ぶ・り・♪ おねえさんに近づくと、火傷‥‥するわよ?」
言いながら菜姫は地面にウォッカを撒き散らし、ジッポライターで火をつける。
「おねえさんがお酌して、あ・げ・る・わ!」
犬キメラたちが炎の中で暴れる中、一匹だけ被害がないキメラがいた。それを見て菜姫は犬キメラの口の中にウォッカの瓶ごと突っ込み、火をつける。
「白雪さん、危ない!」
ヴァシュカの声が響き、彼女が使用している『アラスカ454』で菜姫の背後から攻撃を仕掛けようとしている犬キメラ目掛けて発砲した。
そして、その隣ではシーソーを使って犬キメラを空中へと飛ばし、落ちてくる瞬間を狙って『刹那の爪』で攻撃する篠原の姿があった。
「力が足りなければ、頭を使えばいいんですっ!」
篠原は得意げに呟き、他の犬キメラを退治する為に動き出す。
「夜蝶の羽をもごうとする無粋な獣は何処かな?」
やはり数が多いだけあって、全ての犬キメラを警戒するという事は少し無理があったのかもしれない。
その証拠にケイも背後からやってくる犬キメラに気がつかず、ミハイルの『重爪「ガント」』で命を救われた。
「ミハイル‥‥ありがとう」
ケイとミハイルが少し甘い雰囲気を出している――のだが、ケイは礼をいいながら小銃『フリージア』で犬キメラを撃っていた。
そして、スティンガーはなるべく敵の位置を把握するために少し離れた場所で戦っていた。
「躾のなっていないワンちゃんはオペしちゃいますよ〜?」
スティンガーは呟きながら洋弓『リセル』を使用して犬キメラをオペしていく。
その後も能力者達の戦いは続き、数の多かった犬キメラも残すところ一匹となった。
最後の一匹となった犬キメラは跳躍して逃げようとしたが、須佐がそれに合わせて『疾風脚』を使用して強化した足で跳躍を行う。
そして、空中で犬キメラを捕まえてバックドロップで叩き落して犬キメラを倒したのだった。
「ふぅ、コレで全部ですか? 初依頼‥‥無事に終わってよかった」
篠原は地面に座り込みながら安心したように呟いたのだった。
〜商店街解放、そして彼らはウィンドーショッピングを楽しむ〜
全てのキメラを倒し、暴れまわった公園を片付けた後、能力者達は商店街の住人に連絡を取って、商店街の方へと戻ってきてもらった。
最初は少し不安そうな住人達だったが、キメラのいなくなった平和な商店街を目にして何度も能力者達に礼を言う。
「俺達が出来るのはここまでだ、あとはあんた達が頑張れよ?」
暇だったら来るかもしれないしな、と神無月は商店街の住人に向けて話しかけた。
しかし、キメラを倒したとはいえ、住人達の心には傷が残っている。
それを感じ取ったケイは歌を歌い、住人達が少しでも安らげるようにと願いをこめた。
「二人のお洋服とか見立ててみたいわ」
歌い終わった後、ケイは菜姫とミハイルの隣に立ち、微笑みながら話しかけた。
「ケイと白雪、両手に花でショッピングに行くとしようか」
ミハイルは菜姫とケイの顔を見ながらにっこりと笑い、商店街の方へと歩き出した。
「ようやくこれで元の商店街に戻ったんですね」
ヴァシュカがポツリと呟くと「そうですね〜」とスティンガーが言葉を返してきた。
「これからは住人達が頑張って人が戻ってくるようにしないとだねぇ」
そう、能力者が出来るのはキメラを倒すことまで。
それから前の活気のあった商店街に戻すのは住人達にしか出来ないのだ。
だけど、この商店街に人が戻ってくるのも遠い未来ではない――‥‥。
そんな気がしてならない能力者達だった。
END