●リプレイ本文
〜邂逅〜
「今回、私の為に協力してくれる人って貴方?」
ユリナが伊佐美 希明(
ga0214)に向けて短く問いかける。
「正確には私以外にもいるケドね。私は話が聞きたくて早めに来たんだ‥‥協力は惜しまない。自分の愛しい人が死んだんだ‥‥気持ちはよく分かるよ」
伊佐美が俯きながら呟くと「貴方も誰か亡くしてしまったのね」とユリナが小さく呟いた。
「でも一つだけ約束して。能力者を見つけて、話を聞いた後‥‥どんな理由であっても『まずは話を聞く』。いいね? もしかしたら深い事情があったのかもしれないし‥‥」
伊佐美の言葉にユリナは「極力‥‥善処するわ」と言葉を返した。
「それで、私に聞きたい事って?」
ユリナが呟くと「キメラや妹さんの事」と伊佐美は答える。伊佐美が聞きたい事は三つで『キメラの退治内容』『行方不明能力者の詳細』『ユリナの妹の死因』だった。
「‥‥退治内容は難しい物だと、他の能力者から聞いていたわ。だから私は反対したんだけど‥‥あの子は聞く耳持たずに仲間と行ってしまった‥‥」
「妹と仲間の関係とかは‥‥知ってる?」
伊佐美が問いかけると「昔からの友達、私も数える程だけど一緒にキメラ退治に行ったことがあるわ」と答えた。
「あの子の死因は―――数箇所の刺し傷による失血死‥‥この目で、あの子の遺体を確認したけれど‥‥酷いものだったわ」
呟いた後、ユリナは『ぎり』と唇を強く噛む。それほどまでに酷い遺体だったのだろう。
「‥‥そっか、ありがと」
伊佐美が呟いた時に他の能力者達も到着し、それぞれの顔合わせを行ったのだった。
〜出発〜
「ふむ‥‥確かに疑問を抱いても仕方の無い状況だ」
伊佐美とユリナの話を聞いた後、九条・命(
ga0148)がポツリと呟く。
「もしかしたら‥‥寄生キメラに体を乗っ取られて止む無く‥‥という事もあるね」
伊佐美が呟くと「当人に聞くしか真相は分からないだろうな」と烏莉(
ga3160)が短く言葉を返した。
「確かにそうかもな、何故一人が犠牲になり、他の者が無傷だったのか‥‥普通じゃあり得ない以上、何らかの事情はあったという事だろうな」
威龍(
ga3859)が呟くと「妹の死は確認したのでしょうか?」とファレル(
ga7626)がユリナに問いかけた。
「人づてに聞いた限り、ユリナさんは妹の死因などの確認をされていないという風でしたので」
「もちろん、確認したわ――参考程度になればと思って遺体の写真を持ち出させてもらったの」
ユリナは呟いた後、バッグの中から一枚の写真を能力者に見せた。
その写真にはユリナの妹が写っており、体には無数の刺し傷があって血まみれの姿だった。
「だから私は本部でも言ったはずよ‥‥『妹が納得いく理由で死んだのなら私もここまではしない』――ってこれを見て納得できる?」
写真に写された遺体、どの傷を見てもキメラからの攻撃とは考えにくいものだった。腹辺りの傷は剣、胸辺りは矢――『能力者に攻撃された』と思うには充分すぎるほどのものだった。
「さすがに‥‥これは酷いとしか言いようがないですね‥‥」
ファレルは少し表情を険しくした後、小さく呟いた。
「一度、先行班で先に能力者達の場所まで行きます。場所を教えていただけますか?」
夜坂桜(
ga7674)がユリナに問いかけると「私ももちろん行くわよ」とじろりと睨むように言葉を返してきた。
「先に行って能力者達を逃げないようにしておく、話は能力者が逃げない状況を作ってからでもいいだろう?」
九条が問いかけると「じゃあ、私も先行班に入る!」と叫ぶが、九条は首を横に振った。
「今のユリナに先行班は任せられない、何でかは言わなくても分かるだろう」
今のユリナでは激情に任せた行動しか取れない、それがユリナを先行班から外した理由だった。
「冷静にならねば、得られるものも得られなくなる‥‥」
夜十字・信人(
ga8235)がユリナに向けて呟くと「‥‥そう、だね‥‥」と拳を強く握り締めながら呟く。
そんなユリナの様子を見て『きっと、悔しいんだろうな‥‥妹さんを、助けてあげられなくて‥‥』とコレット・アネル(
ga7797)は心の中で呟いていた。
「あ、のね‥‥私、実は‥‥妹さんたちがキメラと戦う所を見ていたの‥‥」
ポツリと呟いたコレットの言葉に「本当に!?」とユリナがコレットの肩を強く掴みながら叫んだ。
「いた‥‥あのね‥‥他の仲間たちを庇って、戦う所を見ていたの‥‥」
コレットの言葉、これは全て嘘だった。
だけど、この嘘によってユリナが行方不明になった能力者達への怒りを少しでも和らげる事が出来れば――と思って吐いた嘘だった。
「だから、落ち着いて話し合いをしてほしいの‥‥」
もしかしたら、ユリナはコレットの嘘に気づいているのかもしれない。難しい表情をしてコレットを見ているのだから。
「‥‥‥‥そうだね、落ち着かなくちゃ、ありがとう」
そうして能力者達はユリナから行方不明になった能力者達の居場所を聞きだし、九条、威龍、夜坂の三人が先行班として行動を開始したのだった。
〜先行班・ユリナの妹、死の真相〜
「しかし‥‥どういう事なんだろうな」
九条が件の能力者の所へと向かう途中、小さく呟いた。
「今回の事件は不可思議なので、分かりかねますね‥‥でも、何らかの事情があったのには間違いないと思います」
夜坂が九条に言葉を返す。
「そうだな――問題はその『事情』がユリナにとって許せるものか、それとも許せないものか、だな」
威龍が呟く。ユリナから聞いた妹の性格などは『人を優先する優しい子』だった。そんな彼女が何故、あんなにも無残な姿で死ななければならないのか。
ユリナ、そして今回ユリナに協力をした能力者が知りたいのはそこだろう。
「ここ、ですね」
ユリナから聞いた場所、それはユリナの妹が死んだ場所だった。森の奥深くでキメラ退治を行い、そしてユリナの妹の死が知らされた場所、そこにいるとユリナは言ってきた。
暫く森の中を歩いた所で、人が野営を行った形跡を夜坂が見つけた。焚き火のようなあともあり、様子を見るにまだ火は消されたばかりのようだ。
「‥‥いつまで此方の様子を見ているつもりだ?」
九条が瞳を伏せながら呟くと、三人の後ろの木の所でガサと音がする。三人が音の方に視線を向けると、男性能力者が2人に女性能力者が1人、不安げな表情で此方を見ていた。
「お前達が、ユリナの妹と一緒にキメラ退治に向かった能力者――間違いないな?」
威龍が問いかけると「‥‥そうだ」と男性能力者が短く言葉を返してきた。
「今回、ユリナと一緒に『妹の死の真相』を調べる為に此処にきた」
「どんな事情があったにせよ、妹を亡くして悲しんでいる姉にまず一言あって然るべきだと思うぜ」
九条と威龍が話しかける、3人の能力者達は逃げる様子もなく「ユリナさんは?」と女性能力者が問いかけた。
「私たちは先行班で、ユリナ様は後発班です――何があったのか、嘘偽り無く答えていただけませんか?」
夜坂の言葉に「あの日‥‥」と男性能力者がポツリと話し始め、3人の能力者達は予想もしていなかった真実、そして彼らが何を待っていたかを知って瞳を驚愕に見開いたのだった――‥‥。
〜真相・彼らの願い、そして、ユリナは‥‥〜
無線機で先行班が『能力者と接触した』と連絡してきてから一時間が経過しようとしている。
連絡を受けた後から後発班の伊佐美、烏莉、ファレル、コレット、夜十字、そしてユリナは行方不明になった能力者の所へと向かい始めた。
「逃げるくらいですから、簡単には事実を話してはもらえないかもしれませんね」
ファレルが呟いた言葉に「無理矢理でも、話してもらうわ」とユリナが言葉を返してきた。
「キメラがいるかもしれないって言われたから、そちらの注意もしなくちゃいけないわね‥‥いざとなったら、私が囮になるから」
コレットが呟いた言葉に「そういえば、キメラがいるかもしれなかったんだった‥‥」と夜十字は銃を持つ手に力を込める。
「お願いだから激情に任せて、馬鹿な真似だけはしないでね――そんな事をしたら、妹さんがきっと悲しむから」
伊佐美の言葉に「分かってる、分かってるわ」とユリナは拳を強く握り締めながら言葉を返す。
きっと、今の彼女に言葉は届いていても理解は出来ていないのだろう。その証拠に今の彼女を現すなら割れる前の風船のようだったから。
一番後ろから静かに歩く烏莉はユリナが馬鹿な真似をしないように、密かに見張っていた。
もし彼女が馬鹿な真似をしようものなら、すぐにでも止める事が出来るようにと。
そして、先行班と合流し、ユリナは自分の妹が死んでしまう原因になったかもしれない能力者達を見て、沸々と怒りがこみ上げてくるのが分かる。
「‥‥どうして、妹は‥‥死ななくちゃ、いけなかったの」
冷静さを欠かないようにユリナはなるべくこみ上げてくる激情を抑えるように呟く。
「ユリナは‥‥俺達で殺した」
一人の男性能力者が呟くと、ユリナの瞳が大きく見開かれ「何で! 何で妹を!」と叫びながら男性能力者に殴りかかろうとする。
それを止めたのは九条と伊佐美だった。
「落ち着け! 激情に任せた行動はするなと言っただろう! それに――理由があったんだ」
九条が呟くと「どういう事?」と伊佐美が怪訝そうな表情で問いかける。夜十字が先行した威龍、夜坂の表情を見ても九条と同じく少し苦しそうな表情をしていた。
「何よ‥‥理由って、あの子が殺されなきゃいけないほどの理由って何よ!」
ユリナが叫ぶと「確かに教えていただきたいですね、どれだけの理由があったのかを」とファレルが3人の能力者に向けて問いかける。
「あの日、難しい仕事だと言われていたけど、順調にキメラを倒しかける所まで来ていた」
男性能力者はぽつり、ぽつりとその日を思い出していくかのように小さく話し始めた。
「近距離で攻撃出来る能力者が3人、遠距離で攻撃出来る能力者が1人いて、うまく連携も出来て、キメラを倒すまであと少しだった」
女性能力者は涙交じりの声で鼻を啜りながら話している。
「だけど、一瞬の油断であいつが怪我をして―――‥‥あいつは毒を受けたんだ」
毒? とユリナ、そして能力者は眉を顰めて聞き返すように呟いた。
「傷を受けた場所は足、太もも付近で小さなかすり傷だったんだ‥‥だけど毒が強いせいか、あいつはすぐに動けなくなった」
能力者の言葉が本当かを確認するためにユリナは持ってきた写真を見ると、確かに太もも付近が濃い紫色に変色している箇所があった。目を凝らさなければ分からないほどの小さな傷、これがユリナの妹を死に至らしめた原因だった――? と思ったのだが、死因は失血死によるものだった。
「毒が原因というなら、何であの子の体には無数の刺し傷があるの! これはあんた達がしたんでしょう!」
ユリナが叫ぶと「その辺の事情を聞かせて、くださいますね?」とファレルが先を促すように話しかけた。
「動けなくなった、確かにそうだけど全く動けないわけじゃなかった。だけど‥‥逃げ切れるほど甘い相手でもなかった‥‥そこであいつは」
「自分がキメラを木に押さえつけるから、自分ごと刺せ――そう言ったんだ」
この言葉を聞いて、先行班以外の能力者達は瞳を大きく見開く。
「そんな事が‥‥では、ユリナさんの妹さんは‥‥」
コレットが両手で口を隠すような仕草をして悲しみに満ちた声で呟く。
「でも、何でそれをすぐに言わなかった? 何で逃げるようにいなくなったんだ?」
伊佐美が問いかけると「この場所で、ユリナさんを待ってた」と3人は声を揃えて言葉を返した。
「どんな理由があろうと、私たちがした行為は許されない」
「あの時、キメラを倒さなくちゃ――という気持ちの上での行為‥‥だけど、俺達は自分の命惜しさ‥‥そんな気持ちも確かにあったんだ」
「だから、俺達はユリナさんを待ってた。あいつを死なせてしまった、この場所で殺されたかったから」
だからお願いします、3人の能力者はユリナに頭を下げて自分達を殺してくれと懇願した。
他の能力者達はユリナを見て、反対も賛成もしなかった。このことを決めるのは他の誰でもない『ユリナ自身』だから。
ユリナは自身の武器である剣を振り上げたまま行動を止めていた。彼女の心の中で『振り下ろすべき』か『振り下ろさないべき』かが葛藤しているのだろう。
「‥‥馬鹿みたい、仲間を守っても、自分が死んだんじゃ‥‥意味がないじゃない‥‥何処まで優しければ、あの子は気が済むの‥‥」
がらん、と音がすると同時にユリナが涙を流しながら呟いた。
ユリナが選んだ答えは『振り下ろさない――能力者を許す』だった。
その後、ユリナと一緒に本部へと帰還したのだが、帰還途中は誰も口を開く者はいなかった。
〜帰還〜
「これを‥‥妹さんに‥‥」
夜十字が『こねこのぬいぐるみ』をユリナに差し出した。
「‥‥これで、少しはさびしくない‥‥と思う」
お別れだ、マギー、と呟きながら夜十字はぬいぐるみを手渡した。マギーとは『こねこのぬいぐるみ』の名前である。
「お前の任務は‥‥彼女をヴァルハラまで護衛する事だ、しっかり果たせ」
ぬいぐるみに向けて呟くと「‥‥ありがとう」とユリナは苦笑しながら言葉を返した。
「‥‥きみは死ぬなよ、まだ逝けない、そうだろ?」
ユリナを見ながら夜十字が呟くと「うん、大丈夫」と疲れたような笑みを向けてユリナが言葉を返した。
「‥‥真実を知って後悔したか?」
九条が問いかけると「今はまだ分からない」とユリナは答えた。
「‥‥ねぇ、聞いてもいいかな? 許したこと――これは良い事なのかな、それとも‥‥」
ユリナが問いかけてきた言葉に「私は‥‥」とファレルがポツリと言葉を返してきた。
「悪い事だとは思えませんけどね」
ファレルの言葉に「私もそう思う」と伊佐美が呟く。
「どんな事だって、憎む事より『許す事』の方が難しいものなんだから、それが出来るユリナは強いと思う」
伊佐美の言葉にユリナは「ありがとう」と呟き、別れていったのだった。
END