●リプレイ本文
甘かった。
マリは心の中で呟き、物陰に隠れながら自分を探しているキメラを見る。
「此処なら‥‥木々が邪魔して見つけにくいわよね‥‥」
負傷した腕の痛みに顔を歪めながら、先に逃げたチホの事を考えていた。
「‥‥チホの言う通り、さっさと逃げれば良かったのかな、お兄ちゃん‥‥」
マリは草太の写真を見つめながら、迫るキメラに怯えていた。
「ったく‥‥フツーの人間がキメラに勝てねえっつー事を分かってもらいてえよ、ホント」
須佐 武流(
ga1461)が愚痴るように呟く。
今回、マリを救出&キメラ撃破の為に集まった能力者は8人、その中でもチームを二つに分け、マリとキメラを探す事になったのだ。
「でもさ、なかなかガッツがあるじゃない? そのマリって人。ま、死んでなきゃいいけどね」
鯨井昼寝(
ga0488)がおかしそうに呟くと、B班として動くマクシミリアン(
ga2943)が言葉を返す。
「ま、俺は酒と船の燃料が買えるだけの報酬が貰えればいいけどな」
「その為には仕事を成功で終わらせないとな」
沢村 五郎(
ga1749)が呟き、それぞれの班は依頼成功の為に動き出したのだった。
●A班:解決に向けての調査
「さて‥‥チホに‥‥話を聞くんでしょう?」
MIDNIGHT(
ga0105)が黒く長い髪をヘアーゴムで後ろに束ねながら呟く。
そう、A班はマリと一緒に行動していたチホに話を聞く事から始める事になったのだ。
「マリと別れた場所は?」
桜崎・正人(
ga0100)がチホに問いかけると、チホは考え込みながら地図を取り出した。
「これは私達が取材する時に使う地図なんですけど、えっと‥‥あ、この辺です」
チホは地図に赤いペンで丸印をつける。そこまで遠くに行ってはいなかったようだが、今の時点で何処らへんにいるのか、それが問題だ。
「マリの‥‥目的とかを‥‥教えてもらえると‥‥」
MIDNIGHTがチホに問いかけると、下を俯きながら答え始めた。
「マリの目的はバグア、キメラのいる地域に赴き、現場の取材をして、その地の状況を他の人に伝える‥‥その為にクイーンズを彼女のお兄さんから引き継いだんです、だから今回もキメラがいると分かってて‥‥」
チホは拳を強く握り締めながら呟く。
「マリはたとえ‥‥キメラが目の前にいようとも自分の信条を変えません。同じように死んでしまったお兄さんのように‥‥取材の為なら命すら簡単に投げ出せる」
チホの言葉に能力者達は盛大なため息を吐く。
「急いだ方がいいわね、まさかそこまでのお馬鹿さんとは思わなかったわ」
鯨井の言葉に能力者達は首を縦に振り、チホから渡された地図を元にマリのいる場所まで急いだ。
●B班:解決に向けてマリを探す
「此方B班、現地に到着しました。遠目ながらキメラを確認」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)がUPC本部から借りた通信機でA班に知らせる。
「さて‥‥はねっかえりのじゃじゃ馬嬢ちゃんを救出に向かうとしますかね」
ゼラス(
ga2924)が呟くと、A班から連絡が入り、チホから聞いた情報を教えてくれた。その情報の中にはチホがマリと別れた場所などもあり、マリ捜索にかなり役立つ情報だ。
「キメラがあの地点から動こうとしないんだが‥‥」
マクシミリアンが遠くに離れたキメラを指差しながら低い声で呟く。
「近くにキメラ、バグアがいそう?」
須佐が霞澄に問いかけると、霞澄は瞳を閉じて、意識を集中させる。
「いえ‥‥この辺からキメラ、バグアの気配は感じられません。あの空を飛んでいるキメラだけでしょう」
霞澄の言葉に安心、そしてマリを急いで探さねばという危機感を同時に感じた。
●合流――マリを保護&キメラとの戦闘開始
「いたっ!」
叫んだのは鯨井。
どうやらA班の方が早くマリとキメラの所へと着いたらしい。
「‥‥無事か?」
上空で奇怪な声をあげているキメラを見た後に、マリへと視線を落とすと桜崎は問いかける。マリは腕を怪我していたが、多少ずきずきと痛む程度で命に関わるような傷ではないので、無事だと言う意味を込めて首を縦に振った。
「無事ならいい‥‥俺達の後ろに隠れていろ」
「一番いいのは此処から早く引き返す事だけど」
MIDNIGHTが無理だろうと心の中で思いながら提案するが、マリは首を横に振った。
「嫌よ、こんな怪我までしたんだから取材してから帰るわ」
マリの言葉を聞いて、沢村がある作戦を思いつく。
「お前‥‥カメラは持ってるよな?」
沢村からの問いかけにマリは瞳を瞬かせながらバッグの中に入れておいたカメラを取り出して見せる。
「カメラのストロボを使って、キメラへの目くらましを――‥‥」
言いかけた時にキメラが激しい雄叫びをあげながら此方へと襲い掛かってくる。
「下がっていろ!」
沢村が武器を構え、マリを庇うような体制で迎え撃とうとするが――‥‥遠くから弓矢がひゅんと音を立てながら飛んできて、キメラの翼を穿つ。
「遅くなりました」
言いながら現れたのは霞澄を含むB班だった。
「とりあえず、アレを倒してから飲みに行きたいんだ、俺は」
マクシミリアンが呟き、それと同時にキメラも第二撃目を与えようと此方へ向かってくる。
しかし、霞澄が撃った矢で倒すことは出来ないまでも、スピードを殺す役割は果たしているようだ。
「そら、こっちだ!」
桜崎は少し離れた所から小銃・スコーピオンでキメラを撃つ。彼はマリからキメラを離すために、わざと見つかるような場所から撃っている。だから撃った弾がキメラに当たろうが当たるまいが関係ないのだ。
キメラはよろけながらも、空を飛び、桜崎がいる方向へと向かう。そこを霞澄が狙い、矢ガモならぬ、矢バグア‥‥今回はキメラなので矢キメラにしてしまった。
「私達スナイパーに出来るのはここまでです、後は――接近戦担当の方々にお任せしますね」
「任せて! 追い詰めたけど逃げられました‥‥なーんて事になったら目も当てられないわ」
鯨井が楽しそうに叫び、空を飛べなくなったキメラに攻撃する為に走る。
「そんな低空飛行じゃ‥‥俺たちから逃げられないっつーの!」
須佐が低い木を利用して高く飛べなくなったキメラに装備していた武器・ファングで思いっきり殴りつけた。
それでも飛ぼうとするキメラにMIDNIGHTが小銃・スコーピオンで翼の付け根を狙って撃つ。流石に翼を落とす事は出来なかったが、仲間が攻撃をするくらいの隙を作る事は出来た。
その時――‥‥能力者とキメラとの戦いをカメラに収めていたマリにキメラの標的が変わる。
「きゃああっ!」
あと少しでキメラの爪がマリに届く――という所でゼラスが殴りつける。
「命懸けで取材してる奴の邪魔するんじゃねーよ」
呟くと同時にゼラスはキメラを仲間たちのところへ蹴りつける。
「あんたの取材の邪魔をするつもりはない。キメラを撮りたいのなら撮ればいい。ただし‥‥俺達が守れる範囲にいろ、そうしてくれる限り、俺は全力であんたを守ってやる」
「あぶ――‥‥」
呟くと同時にマリは中間達のところへ走る、何故ならキメラはまだ死んでおらず、最後の力を振り絞って空高く飛んだのだ。
マリは仲間達の前に立ち、カメラのシャッターを押す、カメラのフラッシュで目くらまし状態になったキメラを沢村が斬り、地面に落ちると同時にハンドガンでキメラの頭を撃ち抜いた。
●仕事からの帰還――そして、懲りないマリ
「あんた‥‥バグアの事を読者に伝えたいんだよね? それなら‥‥バグアの怖さも伝えないと‥‥今日、あんたが感じた恐怖を」
MIDNIGHTの言葉に、マリはにっこりと笑って首を縦に振る。
「そうね、現地の状況ばかりじゃ駄目ね、ちゃんとバグアは怖い存在だという事も伝えないと‥‥」
「でも、こんな状況だからこそ、貴女のような人には頑張って欲しいと思います。でも‥‥今度取材に行く時は最初から護衛を依頼してくださいね」
霞澄はキメラに突き刺さっている矢を抜きながら穏やかに笑みながら呟く。
「えぇ、頑張るわ‥‥でも何をしているの?」
「これだけキメラやバグアが多いと矢も重要なんですよ、節約節約」
にっこりと笑う霞澄に、マリは引きつった笑顔を返した。
「でもちゃんと分かったあ? キメラとか倒せるのは俺達だけって事、マリはそれを読者に伝えるのが仕事なんだからな」
「今回で身に染みたわ、次からはちゃんと依頼するわよ」
「あ! そうそう、今回の記事、俺の事は基本的に多めにヨロシク!」
須佐が言うと、マリは目を瞬かせた後に大笑いをし始めた。
「そういえばカメラ持ってたよな? 折角だから全員で記念撮影しようや」
マクシミリアンの言葉に、マリは三脚を置き、タイマーをセットし始め、記念撮影を行ったのだった。
そして、翌週に公開されたクイーンズの新刊は、記念撮影の写真が表紙になったのだとか‥‥。
END