タイトル:灰の色マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/21 22:32

●オープニング本文


心に濁った灰が溜まっていくのが、自分にも分かる。

その灰は私の心をすべて隠してしまい、いつしか自分自身すらも隠してしまう気がした。

※※※

私は誰よりも醜い。

この白い髪も、目が見えないわけでないのに全てから背けようとするこの瞳も、全てが醜い。

『何でお前が生きてるの!? 他の皆は死んでしまったのに!』

これはかつての仲間から言われた言葉、弱かった私は強い仲間達に守られて生きてきた。

『早苗が生きてるなら、良かったよ』

どんなに危ない目にあっても、私を助けてくれて、仲間達はホッとしたように笑いかけてくれた。

だけど――‥‥全てはあの日から狂ってしまった。

土砂降りの雨の中、いつものように4人でキメラ退治に向かっていた。

雨の中、しかも足場も悪い場所での戦闘を強いられたため、仲間が4人のうち2人がキメラに殺されてしまった。

そして、残った1人は『何で生きてるの!?』と言葉を投げかけてきた。

『何で一番弱いアンタが生き残って、あいつらが死んじゃうの!?』

親しくしていた仲間の死に気が動転していた、それだけだと分かっているけれど‥‥。

『ごめん、なさい‥‥』

私は謝るしかなかった、私のミスのせいで死んでしまったという事実は変えようがないことだったから。

それから私は死に物狂いで修練を積み、1人で戦えるだけの強さを得た。

「仲間なんて‥‥いらない、いつか死んじゃう仲間なんて、いらない」

自分に言い聞かせるように呟き、私はキメラ退治へと向かったのだった‥‥。

●参加者一覧

空間 明衣(ga0220
27歳・♀・AA
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
煉威(ga7589
20歳・♂・SN
櫛名 タケル(ga7642
19歳・♂・FT
狭間 唯那(ga8097
19歳・♀・SN
ミッドナイト(ga8802
20歳・♂・SN

●リプレイ本文

「‥‥馬鹿者め」
 早苗の資料を見ながらファファル(ga0729)が紫煙を燻らせ短く呟く。
 今回の仕事は早苗という名の能力者と共に熊型キメラを退治するハズだった。
 何故、過去形なのかと言うと能力者の顔合わせを行った時に「こんな仕事、私だけで充分よ」と冷たい口調で呟き、先にキメラが潜んでいる場所へと向かってしまったのだ。
「どんな事情があったにせよ、仲間を拒絶して生きるなんて悲しいですわね‥‥どんなに強くなろうとも仲間なしには大事を成し遂げられませんのに‥‥」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が悲しげに呟くと「早苗さんも‥‥つらそうな表情をしていましたね」と鐘依 透(ga6282)が俯きながら言葉を返した。
「強そうに見せてるけど‥‥何か、寂しそうに見えたけどな」
 煉威(ga7589)が少し前に会った早苗の事を思い出しながらポツリと呟く。
「無茶される前に追いかけた方がいいッスかね」
 櫛名 タケル(ga7642)が呟くと「そうですね、早く追いかけて助けないと!」と狭間 唯那(ga8097)が慌てたように言葉を返した。
 その隣ではミッドナイト(ga8802)も相槌を打つように首を縦に振っている。
「それじゃ、そろそろ向かおうか」
 空間 明衣(ga0220)が呟き、能力者達は先を行った早苗を追いかけて行動を開始したのだった。

〜疾走・深淵の森〜

「仲間なんていらない‥‥いつか裏切られる、裏切ってしまうなら‥‥いらない」
 熊型キメラが潜む森の中へ足を踏み入れながら、早苗はポツリと呟く。
「待ちなさい!」
 早苗が止めていた足を再び動かそうとした時、背後から呼び止められてゆっくりとそちらを振り向いた。
 呼び止めたのは空間で、その後ろを他の能力者達も慌てたように早苗の所へと駆け寄ってきた。
「‥‥何しに来たの? 私一人で大丈夫っていう言葉も理解出来なかったの?」
 早苗が嘲るように呟くと「いくら強くても仲間は必要ですわよ?」とクラリッサが言葉を返した。
「仲間、ね。仲間が足手まといなおかげで死の危険もある――という事は考えられないの?」
「ふん‥‥貴様を庇った者達は大層な間抜け揃いだったようだな」
 ファファルがぼそりと小さな声で呟くと「‥‥何が言いたいの」と早苗が眉間に皺を寄せながら言葉を返す。
「何だ、怒ったのか? だが事実だろう‥‥貴様のような阿呆の為に身を散らしたのだからな」
「お前に何が分かる! 私の気持ちが――‥‥」
 早苗が激昂したように叫ぶと、ファファルは早苗の言葉を遮りながら「今の貴様は何だ?」と厳しい口調で問いかける。
 他の能力者も止めようと思っているのだが、二人の険悪な雰囲気に口を挟めずにいた。
「戦友の挺身を無駄にし、あまつさえ死に急ぐだと‥‥ふざけるのも大概にしろ!」
 貴様のような腑抜けは傭兵を辞めることだな、ファファルはそれだけ言い残してその場を離れた。
「あー‥‥あの人も心配で言ってると思うし、あんまり無茶はしないように頼むっす。フォローしきれなかったら味方に被害が出るんだ」
 櫛名が早苗に話しかけると「貴方達がヘマをしなければ問題はないわ」と踵を返して呟く。
「何で貴殿は死に急ぐ? 貴殿が一人で戦っても死んだ人間は生き返らない。死んでいった仲間のためにも、長く生きる事が罪滅ぼしではないのか?」
 空間が呟くと「‥‥事情は知ってるんだ、無理ないね。結構有名だし」と早苗は自嘲気味で言葉を返す。
「普段の生活でも任務でも色々な人が知らない所で支えてくれている――それが分からないのか?」
 空間が腕を組みながら問いかけると「分かってるわよ」と睨むような鋭い視線を向けながら言葉を返した。
「‥‥分かってるから人を拒絶するのよ、親しい人を作らなければその人が死んでしまう悲しみも味わう事ないでしょ」
 早苗は呟くと能力者達に背中を向けてキメラを探しに歩いていってしまう。
「ふぅん、色々な事を背負い込みすぎにしか見えないんだよなー‥‥背負うだけじゃなくて乗り越えてみるのもアリだと思うんだけどなー」
 煉威がため息混じりに呟くと「そうねぇ‥‥」小さくなっていく早苗の姿を見ながら呟く。
「頑なになった彼女の心を解きほぐすのは難しいわね‥‥荒療治にはなるけれど、一人だけの力ではどうしようもない事がある事を分かって貰うしかないかしら」
 クラリッサが呟くと「でも危ないんじゃ‥‥」と狭間が心配そうに呟く。
「まずは追いかけましょう、早苗さんが無茶をして手遅れになってしまうと全てが遅いんですから‥‥」
 鐘依が呟き、能力者はキメラと早苗の所へと足早に向かい始めたのだった。

〜早苗・凍てついた心〜

 何でこんな事になったんだろう、早苗は熊型キメラと戦いながら心の中で呟いていた。
 誰かを信じるのが怖い。
 誰かに頼るのが怖い。
 誰かに‥‥‥‥死なれるのが、怖い。
「―――あっ!」
 考え事をしながら戦っていたのがまずかったのか、早苗は足に攻撃を受けてしまい、危険な状況になっていた。
 ここまでか、キメラの腕が振り上げられるのを見て、早苗が心の中で諦めたように呟いた時――キメラの目にペイント弾が打ち込まれた。
「大丈夫ですか!?」
 狭間が慌てて駆け寄ってくる。そしてその後ろから櫛名がつかつかと歩いてきて「いい加減にしろよ!」と少し大きな声で叫んだ。
「何だって一人でやろうとする!? お前が死んだら‥‥お前を庇ってた奴らが馬鹿みたいだろうが!」
 お前の仲間がやられて悲しんだ奴がいたように、お前が倒れたら悲しむ奴だっているくらい分かれ! と言葉を付け足しながら叫ぶ櫛名に早苗はきょとんとした顔で彼を見上げていた。
「足手まといは捨てなさいよ、助けられて、後から責められるのは――もう嫌だ」
 早苗が呟くと「目の前で死なれるのは嫌です」と狭間がポツリと呟いた。
「だから人間は協力し合うんです、違いますか?」
「いくら強くても注意を引いてくれる人、盾になる人、色んな役割の人がいます一人で出来る事なんて、たかがしれてますわ。1+1=2ではありません、3にも4にもなるんですわ、それが仲間という事です」
 クラリッサが『救急セット』で早苗の傷を癒しながらにっこりと笑顔で答えた。
 その後、熊型キメラが動き始め、能力者達はそれぞれの役割を果たすために動き出した。
 前衛として櫛名と空間、そして応急処置をした早苗が動き、中衛として鐘依とクラリッサ、後衛として狭間、ミッドナイト、ファファル、煉威が動くことになっていた。
 最初に空間が動き始め、能力者の包囲が終わるまでの時間稼ぎとして『紅』で牽制攻撃を行っていた。空間が牽制攻撃をしている間、櫛名は防御に専念して、早苗は能力者の方に視線を向けて包囲が終わるのを待っている。
 それから包囲が終わり、ファファルが『スナイパーライフル』で援護射撃を行う。ファファルの攻撃が終わると同時に鐘依が『フォルトゥナ・マヨールー』で攻撃を仕掛け、敵である熊型キメラに反撃の隙を与えないようにしていた。
「結構でけぇ‥‥」
 煉威が呟きながら長弓『草薙』で攻撃をしていた。もちろん仲間である能力者達に誤射しないよう細心の注意を払っている。
「皆で協力し合えば、きっと大丈夫ですよ」
 狭間が呟きながら『強弾撃』を使用して熊型キメラの足を狙いながら攻撃した。
「さぁ、さっさといくぞ!」
 覚醒し、性格が多少変わったミッドナイトが「そこっ! ガラ空きだよ!」と『長弓』で攻撃を行いながら叫んだ。
 ミッドナイトの攻撃によって熊型キメラが多少動きを止め、その隙に空間が『紅蓮衝撃』を使用して攻撃した。
 ただの『紅蓮衝撃』ではなく、縦の半円を描くような大振りと組み合わせていた。
「紅疾風(べにはやて)の一撃はいかがかな?」
 ふ、と笑いながら空間が攻撃の後、後退しながら呟いた。
「俺は援護に徹するんで、トドメは宜しく!」
 煉威が悪戯っぽく笑いながら早苗に話しかけると「‥‥もちろんよ」と武器を構えながら早苗が立ち上がった。
「私は‥‥貴方が言ったとおり、死に場所を求めていたのかもしれない。だけど、目が覚めたわ。ありがとう」
 近くにいたファファルに小さく呟くと「何のことだ?」ととぼけるようにファファルは言葉を返した。
「きっと、ファファルの言いたい事が分かったんだろうさ」
 ミッドナイトが呟くと「‥‥ふん」と顔を逸らしながらファファルは攻撃を続けた。
 それから、十分も経たないうちに熊型キメラと決着が付き、能力者は見事任務を遂行したのだった。

〜終わり、新たなる仲間〜

「‥‥目の前で死んだ仲間を見て、私は生きていていいのかが分からなくなった‥‥つらすぎて、目の前の現実を受け入れたくなくて‥‥」
 キメラを退治した後、休憩をしていた能力者達に向けてポツリと呟いた。
「‥‥確かに目の前で人の死を見たときのつらさは、その人にしかわかりません。私の父は過労で倒れて、数日後に亡くなったんですけど‥‥それでも目の前で衰弱していくのに何も出来なかった時の悲しさはわかります」
 そして狭間はメガネを取って「これは父がくれたものです」と早苗に見せながら呟いた。
「このメガネは天文学者だった父が『いつか外宇宙に出て他星の人と仲良くなれるように』と最後に私に託してくれた形見なんです」
「そうだったの‥‥」
 早苗は俯きながら小さく呟く。
「早苗さん、これからは私たちが『仲間』です。簡単に死ぬつもりはありませんから、末永くどうぞ宜しくお願いします」
 クラリッサが笑顔で問いかけると、早苗は少し涙目になって「ありがとう」と言葉を返した。

 早苗が心の底から欲していたのは『仲間を必要としない強さ』ではなく『心から頼れて、いなくならない仲間』だった。
 かつて仲間を失い、責められたせいで心を閉ざした。
 心を閉ざす原因になったのも『仲間』だったが、彼女の凍てついた心を溶かしたのもまた『仲間』だった‥‥。


END