●リプレイ本文
「子供を攫ってくようなふざけた奴はぜってー許せねぇ!」
拳を強く握り締めながら呟くのはエクセレント秋那(
ga0027)だった。
「何のために子供を攫ってるのかは分からんが‥‥」
須佐 武流(
ga1461)が考えるように呟くと「無事ならいいんだけど‥‥ね」と斑鳩・眩(
ga1433)が俯きながら小さく言葉を返した。
最後に連れ去られた子供なら、まだ生きている可能性があるが‥‥最初に攫われた子供は一週間という時間が経過している。キメラがそんな悠長に待っているとも思えないのだ。
「子供を攫うのは魔女の常套手段‥‥その結末も容易に予想できるだけに‥‥早々に決着をつけたい所だな」
九条・命(
ga0148)がポツリと呟く。きっと、今回集まった能力者達の頭の中には最悪の結末の予想が用意されていることだろう。
「‥‥前途有望な子供達を狙うなんて‥‥許せませんっ‥‥」
怒りを露にした口調で話すのはヴァシュカ(
ga7064)だった。
「そうッスね! 絶対に助けるッスよ!」
六堂源治(
ga8154)が叫ぶように話す。
「そうですね‥‥それに何の抵抗手段も持たない子供を狙うなんて‥‥」
アルヴァイム(
ga5051)が伊達眼鏡をかけなおしながら呟く。
「兎も角‥‥これは殲滅しておくのが得策だな‥‥」
赫月(
ga3917)が呟き、能力者達は今回の作戦を確認し始めた。
今回は『子供を狙う』という魔女キメラの為、能力者の中で一番年下の赫月が囮役を買って出る事にした。
「‥‥作戦の為とはいえ、この格好は少々恥ずかしいな‥‥」
赫月がワンピースを翻しながら照れたように呟くと「似合っていますよ」とヴァシュカがにっこりと笑って言葉を返した。
そして囮役である赫月を監視しながら、他の能力者たちは班を三つに分けてキメラが現れるのを待つ――といった作戦だ。
A班・エクセレント、九条、アルヴァイムの三人。
B班・須佐・ヴァシュカの二人。
C班・斑鳩、六堂の二人。
〜作戦開始! 魔女の囚われた子供達を救出せよ! 〜
「双眼鏡は‥‥各班に一つはあるのだな‥‥? それでは我は行く」
赫月は呟くと、魔女キメラの囮となる為に無防備に歩き出したのだった。
もちろん、この作戦中に別の子供が攫われては意味がないので、近隣住民には子供を外に出さないように――と伝えてある。
「子供が外で遊べない世の中なんて、さっさと終わらせたいものだねえ」
エクセレントがため息混じりに呟く。
「街で情報収集をしてみた所、攫われた時間に共通点はなく、魔女が現れて子供が連れ去られるのは――向こうだな」
九条が呟き、赫月が歩いていった町外れの方を見る。
「さて、私たちも動き出さないと見失っちゃうね」
斑鳩が呟き、能力者達は同じ班で行動する者と一緒に歩き出したのだった。
〜A班〜
「エクセレント様、それは‥‥?」
アルヴァイムがエクセレントの手に持たれた小さなバッグを見て問いかける。
「あぁ、これかい? おにぎりとか毛布とかを持ってきたんだよ。子供達は精神的にも肉体的にも疲れているだろうからね」
エクセレントはバッグを胸の位置まであげて、苦笑気味に言葉を返した。
「確かに‥‥成長途中の子供が経験するにしては‥‥酷な出来事だからな。トラウマにならなければいいのだが‥‥」
九条が呟き、赫月を見失わないように双眼鏡で様子を見る。
〜B班〜
「‥‥酷いよね‥‥子供を攫うなんて‥‥ボクが母親だったら気が狂いそう‥‥」
「そうだな、まぁ‥‥あの程度のキメラなら俺だけでも楽勝だろうけどな?」
子供と一緒にお前も守ってやるよ、と須佐はヴァシュカの頭に手を軽く置く。
「ボクだって子供達の為に戦えますよ」
苦笑しながらヴァシュカは言葉を返し、魔女キメラに攫われた子供達が無事である事を祈りながら赫月の様子を見ていた。
〜C班〜
「発信機が借りれたら良かったんスけどねぇ」
六堂がため息混じりに呟く。今回の任務のために『発信機』を申請していたのだが、キメラが現れる街の規模が大きくない事から受理される事はなかった。
「まぁまぁ、私もだし」
斑鳩が双眼鏡を覗きながら言葉を返す。
「子供達が無事だといいんスけど‥‥」
六堂の言葉に斑鳩は返事をする事はなかった。子供達の状況が分からない以上、最悪の状況を想定して動かねばならないからだ。下手に期待を持って動いて、最悪の状況に遭遇したら‥‥きっと冷静に判断が出来なくなると彼女は思っている。
「‥‥あれ、何か――‥‥」
斑鳩が双眼鏡を覗きながら小さく呟く。
そして、黒衣に身を包んだ魔女キメラが現れると赫月を抱き上げて走り出した。
それは一瞬の出来事で、能力者達は目を瞬かせた後に我に返り、魔女キメラを追いかけ始めたのだった。
〜戦闘開始! 子供たちは‥‥? 〜
「今まで恥を晒して来た分、お前で晴らさせてもらうぞ」
魔女キメラの住処が分かった時、赫月は隠し持っていた『アーミーナイフ』で魔女キメラを攻撃する。
彼女の攻撃は魔女キメラの黒衣を裂く程度でダメージを与える事はなかった。
そして赫月が魔女キメラから離れた時に九条が小銃『M92F』で威嚇攻撃を行い、続いて『砂錐の爪』を装着した靴で攻撃を行った。
須佐とエクセレント、ヴァシュカと六堂は子供達の安全を確かめる為に古びた廃屋へと入る。
そこで見たものは――‥‥部屋に倒れている4人の子供の姿。
「まさ‥‥か‥‥」
ヴァシュカが呟き、能力者達の頬を嫌な汗が伝う。
「‥‥う‥‥ぅ」
その時に一人の子供が呻くように呟き、4人の能力者は慌てて駆け寄る。
「まともにメシも食わせてもらえなかったせいだろう、酷い状況だが、命に別状はなさそうだ」
須佐が安心したように呟くとエクセレントが持ってきたバッグからおにぎりなどを子供に渡す。
「ちょ、ちょっと‥‥この子は‥‥」
六堂が焦ったような声で小さく呟く。彼の前には12歳くらいの男の子が倒れている。
「どうしたんですか?」
ヴァシュカが目を瞬かせながら問いかけると「‥‥息を、してないッス」と六堂は答える。
「何だって‥‥?」
エクセレントが呟き、ヴァシュカが男の子に近寄る。顔は既に生気をなくしており、息絶えたのが今さっきの話ではない事が確認出来た。
「そんな‥‥助けに来たのに‥‥」
ヴァシュカは泣きそうな表情で呟くと、息絶えた少年を抱きしめる。
「ヴァシュカ‥‥」
須佐が呟いた時に、廃屋の外で激しい音が響く。エクセレントが外の様子を見ると、能力者達は魔女キメラから攻撃を受けていないものの、魔女キメラが今までとは違った暴れ方をしているようだ。
「もう少し待ってろよ? キメラを倒して母ちゃんたちの所に帰してやっから」
六堂は子供達を安心させるように笑って話しかけたが、心の中では今にも怒りを爆発させそうだった。
「いい加減に‥‥しつこいですね」
アルヴァイムは呟きながら『ドローム製SMG』で魔女キメラに攻撃を仕掛ける。4人の能力者達が子供達の保護に向かってから、十分程度が経過しようとしていた。
魔女キメラは子供を対象としていただけあって、実力はたいした事はなく、楽に倒せる――と思っていた。
しかし、追い詰められ始めた魔女キメラは回りを気にする事なく攻撃を仕掛けてき始めて『子供達』という枷を受けている能力者達にとっては少しだけ分が悪い状況になったのだ。
そんな時に子供達の保護に向かっていた4人が戦闘に入った――のだが、少しだけ様子がおかしく感じて斑鳩が『何があったのか?』と問いかけた。
「‥‥子供は3人無事だったッス、もう一人は‥‥」
六堂が俯きながら答えた言葉に「‥‥そう」と斑鳩は目を伏せながら言葉を返した。
「‥‥これからの未来を生きる子供を死に追いやり――とてもじゃないですが私は許せそうにないですよ」
アルヴァイムは低く呟くと同時に魔女キメラに攻撃を仕掛けた。
「‥‥惨い事を‥‥楽には死なせない‥‥覚悟しろ」
赫月は呟くと『ナイフ』を魔女キメラの腕に向けて投げつけ、それに魔女キメラに気を取られた隙に近くへと走りより、ナイフを抜いた後で『アーミーナイフ』で攻撃を仕掛ける。
「俺もさすがに‥‥キレそうッスよ!」
六堂は『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用して魔女キメラに攻撃を仕掛ける。ヴァシュカは子供達がいる廃屋の近くで『虚闇黒衣』を使用して、魔女が此方へときたら自分の体を盾にして庇うつもりでいた。
「おぉらあぁぁ!!」
須佐は『限界突破』を使用して跳躍した後、空中で回転して勢いをつけて魔女キメラに向けて飛び蹴りを食らわす。
そして魔女キメラの体を踏み台にしてもう一度跳躍をした後に体を反転させて、再度飛び蹴りを食らわす。
さすがに二連続で飛び蹴りをくらい、魔女キメラは歩く足がふらついている。その隙を見逃す能力者達ではなく、反撃の来ないと分かると全員で総攻撃を行い、魔女キメラを打ち倒したのだった。
〜助かった子供・助からなかった子供〜
「ふんどしーちょ! キメラを倒したぜぇ」
六堂が廃屋の中に入り、子供達を笑わせようとなるべく明るく話しかける。
「ちなみに『ふんどしーちょ』っていうのは最近傭兵の一部で流行ってる挨拶」
変なの、一人の少女が眉を下げて笑う。その笑顔に少しだけ能力者達は安心したような表情を見せた。
「お前たちの親も心配してるから、早く元気な顔を見せてやれ」
須佐が子供達の頭を撫でながら話しかけると「‥‥お母さんのご飯が食べたいな‥‥」と一人の少年がポツリと呟いた。
「そうですね、お母様達もきっと美味しいご飯を作って待っているはずですよ」
アルヴァイムが話しかけた後、能力者達は親の所へと子供を連れて行く。
その中、ヴァシュカは息絶えた少年を抱きしめ、俯きながら親の所へと連れて行く。
街に戻り、子供達を待っていた親のうち3組は喜びの声をあげ、もう1組の親は――言葉を失ったかのように、青白い自分の子供を泣きながら見つめていた。
「‥‥申し訳ありません――もう少し早くに‥‥」
自分達が来ていたら、と九条が言いかけて「‥‥いいんです」と父親が言葉を遮った。
「‥‥きっと、もう間に合わなかった‥‥確かにこの子を失ったのはツラい、そして悲しい‥‥だけど生きた時代が悪かった――あんな化け物がいるこの時代に生まれなければ‥‥」
最後の方は嗚咽交じりの言葉に、能力者達はいたたまれなくなって顔を逸らしたかった。
「でも、一つだけいいですか‥‥? この子の死を悼んでくれるなら――もうこんな事が起きないようにしてほしい‥‥」
父親は言い終わると、もう起きる事のない自分の子供に縋るように大きな声で泣き始めた。
「いつか、必ず‥‥」
誰が言ったのか分からない、けれど確かに能力者達の心には『こんな事は早く終わらせて見せる』という決意が胸の中に渦巻いていたのだった。
END