タイトル:過ぎ去る過去を悔いる者マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/17 00:36

●オープニング本文


能力者とは、その力で一般人のため、そして自分のために戦う者。

だけど‥‥己の世界を護るために『キメラ』や『バグア』達の命を奪っていることには変わりない。

このことに罪悪感を持つのは――やっぱりボクが甘いからだろうか‥‥?

※※※

「また? いい加減にしなさいよね。何のためにアンタは能力者になったって言うのよ」

とある山の中、ボクを除く3人の能力者達は眉間に皺を寄せてボクを見ている。

それはボクが言った言葉が原因だった。

『やっぱり‥‥命を奪わなくちゃいけないのかな‥‥? 他に解決策とか‥‥』

殺さなければ此方が殺される。

それは充分に理解しているつもりだけれど、目の前で死んでいくキメラたちを見るとそう思わずにはいられない。

「そんな事を思うくらいなら能力者を辞めればいいだろ、大体そんな事を思うお前はどっちの味方なんだよ。バグア派と取られても仕方ないぜ、その発言は」

男性能力者に厳しい口調で問いかけられ「‥‥ごめん」と言葉を返す。

「いい加減、腹ぁ括れよ」

確かにそうなのかもしれない、とボクは思いながら武器を構えた時――目標のキメラがボク目掛けて襲い掛かってきて、深手を負ってしまった。

「ラン!」

仲間の一人が叫び、ボクは倒れる。その間の時間が物凄くスローモーションで『あぁ、ボクは死ぬんだな』と何処か頭の中で冷静に呟いていた。


●参加者一覧

愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
L3・ヴァサーゴ(ga7281
12歳・♀・FT
夜坂桜(ga7674
25歳・♂・GP
遊馬 琉生(ga8257
17歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
月守 雪奈(ga9613
15歳・♀・DF

●リプレイ本文

「此処をまっすぐ行った辺りだな‥‥」
 愛輝(ga3159)が地図を見ながら呟く。
 今回、能力者達が引き受けた依頼はランを含む4人の能力者を救助、そして出来ればキメラ退治まで――という任務内容だった。
 現地へ到着した能力者達は、近くにあった町で状況を確認していた。キメラ退治の依頼を出したのは、元々その町だったようで帰ってこない能力者達の事を心配しているものが多数存在していた。
「報告によれば‥‥キメラは一匹で小隊を半壊させるほどの力の持ち主‥‥状況的にはかなり厳しいですね‥‥」
 辰巳 空(ga4698)が表情を曇らせながら小さく呟く。今回の任務で重要なのは『いかに早く助けに行けるか』という事だ。
 もちろん、それは他の能力者達も分かっている。キメラという存在がなければ問題なくクリアできる任務だろう。
「キメラも放置できないけど、重傷者がいる以上‥‥そちらを早く助けに行かないと‥‥」
 何とか持ちこたえてくれるといいのですけど、リゼット・ランドルフ(ga5171)が呟くと「‥‥標的‥‥存在‥‥ならば‥‥」とL3・ヴァサーゴ(ga7281)が途切れ途切れに言葉を返してきた。
「‥‥我、唯‥‥戦うのみ‥‥」
「確かに、負傷者と出会う前にキメラと遭遇‥‥ということも考えていた方がいいですね」
 夜坂桜(ga7674)が呟くと「そうだな、早く行こう」と遊馬 琉生(ga8257)が言葉を返してきた。
「そうだな、出来ればキメラまで倒して終わりにしたい。怪我人を助けて終わりでは差し引きゼロどころか、労力を費やした分マイナスだ」
 時枝・悠(ga8810)がため息混じりに呟く。
「そうだね、どうせなら困った事を全部解決して帰りたいよね」
 月守 雪奈(ga9613)が言葉を返し、能力者達は負傷者救助、そして森の中に潜むであろうキメラを探しに歩き出したのだった。

〜狭き森に潜むキメラに怯える者〜

「報告にあった通り、広くない森ですね――森、と呼ぶには少し小さいようですが‥‥」
 辰巳が呟くと「これなら確かにキメラも負傷者もすぐに見つかりそうですね」とリゼットが言葉を返す。
「おい、あれは‥‥」
 月守が指差した方向には腹を抱えて苦しそうに歩く――能力者の姿だった。
「大丈夫ですか?」
 夜坂が傷ついた能力者に駆け寄る、恐らくは救助対象の一人だろう。
「俺は――いい、から‥‥あっちに、仲間とキメラが‥‥」
 負傷した能力者は腹の傷が痛むのだろう、表情を苦痛に歪めながら「あっち」と言って進行方向を指差した。
「此処に置いていくわけにもいかないな」
 愛輝は少し考え、負傷した能力者を背中に抱えて「あっち」と言って指差された方向へと向かう。
「キメラと一緒に――という事は戦闘中と考えるべきなんでしょうか、それとも‥‥」
 逃げるのを追いかけられている? 夜坂は呟きながら走る足を速めたのだった。
「いたっ!」
 遊馬が叫ぶと同時に視界に入ってきたのは、キメラに追いかけられる能力者3人の姿だった。3人のうちの1人はぐったりとして目を伏せていた。
「お願い! この人を助けて!」
 女性能力者が、救助にやってきた能力者達に気がつくと、怪我をしているもう一人の能力者を見ながら叫んだ。
「此方へ」
 夜坂がもう一人の負傷者を背負い、愛輝と共に少し離れた場所へと移動をする。そしてエマージェンシーキットで簡単な応急処置を行う。
簡単な処置で間に合うほど、2人の傷は軽くないのだが応急処置をしたおかげで最悪の事態は免れたのだった。
「ね、ねぇ‥‥此処は一度退却するべきじゃ‥‥無理にキメラと戦って、命を奪わなくても‥‥」
 遠慮がちに呟いたのはランだった。
「‥‥こんな状況でそんな事が言えるのか? ミイラ取りが何とやら、なんて笑えんからな。私は油断も容赦も躊躇もしない」
 時枝がランに冷たい視線を向けながら呟く。彼女は仲間が傷つけられ、死にそうになっている今になっても甘い事を言っているランに対して大きな不快感を持っていた。
「‥‥全てを救う事なんて出来ない‥‥『誰かを守る』という事は『他の誰かを守らない』という事だから。キメラの命、確かにそれも命‥‥俺だって奪わないですむならそうしたい」
 遊馬が俯きながら小さく呟く。しかし彼には分かっているのだ。キメラの命を助けた事によって誰かが傷つき、そして死んでしまうという事。
「仲間を犠牲にしてでも、それを成し遂げたいのなら‥‥それは止めない。俺にはキミが間違っているとは言えないから」
 遊馬はそれだけ言葉を残すと、キメラを退治するべく戦闘へと繰り出していったのだった。
「これも治療に使ってください」
 辰巳は後衛で負傷者の治療を行っている二人に『救急セット』を貸し与える。
「それでは‥‥私も戦線に立ちましょう。キメラは‥‥この星の生きとし生ける全ての敵で、生きる為にはそれに勝たないといけない――それはお分かりでしょう?」
 辰巳がランに言い残す。するとその言葉に対して「‥‥分かってるんだ、それは」と弱弱しい声で言葉を返したのだった。
「はっ!」
 リゼットが小さな掛け声をあげ『ソニックブーム』を使用して、少し離れた場所からキメラのツノを斬り落とせないかを試みる。
 しかし、予想以上にキメラのツノは硬度があり、多少傷つけることは出来ても斬り落とすまでには至らなかった。
「‥‥目標捕捉‥‥殲滅‥‥」
 ヴァサーゴは呟きながら『バスタードソード』を構えてキメラへと攻撃を仕掛ける。その際に『豪破斬撃』を使用して攻撃を行う。
「さぁ、来い!」
 キメラの正面に立つのは遊馬、キメラは彼に標的を変えたのか勢いをつけて突進攻撃を行う。
 キメラの攻撃が遊馬に直撃――する刹那に側面へと避けて『両断剣』と『流し斬り』で渾身の一撃をキメラに食らわす。
「両断剣≪ギガブレイク≫」
 遊馬は攻撃を行った後、すぐに後ろへと下がる。それと同時に「敵は潰す、念入りに確実に抉って叩く」と呟きながら時枝が『流し斬り』を使って攻撃を行う。
 だが、さすがに小隊を半壊にしたキメラだけあって、あれだけの攻撃を受けながらも倒れる気配は感じられない。
「‥‥おとなしく‥‥斬られてね‥‥」
 ポツリと呟くと月守が『流し斬り』と『両断剣』を使って攻撃を繰り出す。月守が攻撃を終えた後、愛輝が『疾風脚』と『瞬即撃』を併用して間髪与えずにキメラにダメージを与えた。
 キメラはよろよろとしながらも、最後の力を振り絞るかのように負傷者の所へと駆け出す。それに対して反応したのはヴァサーゴと遊馬だった。負傷者の前に立ちはだかり、自らの体を盾にして負傷者を守ろうとしたとき、キメラの背後から剣が突き立てられ、それが致命傷となってキメラはズシンと地面に倒れたのだった。
 そして、トドメを刺したのは――ランだった。


〜戦いたくない理由・戦う理由・戦わなければならない者たち〜

「おまえ、弱くはないのに‥‥何でそんなに戦うのを拒否するんだ?」
 戦いが終わり、負傷者の治療も終わった後、愛輝がランに問いかけた。
「ボクは‥‥命を奪うのが嫌なんだ。それがバグアであろうとキメラであろうと、人に害しか及ぼさない奴らでも死んでしまう姿を見るのは‥‥つらいんだ」
 ランが両手で顔を覆いながら消え入るような声で呟く。
「‥‥侵略者‥‥殲滅‥‥能力者‥‥その為の‥‥存在‥‥」
 ヴァサーゴがランに対して呟くと「分かってるんだ、だけど‥‥」と収まりつかない自分の気持ちを持て余すようにランが言葉を返してくる。
「死んだ妹も同じ考えを持っていた。その考えを否定するつもりはない」
 だが、と愛輝は言葉を付け足して再度言葉を紡いでいく。
「戦場において、それを理由に躊躇うのなら戦うべきではないと思う。その躊躇いで自分だけではなく、仲間も危険に晒すからだ。最悪、間接的に仲間を殺める事になるだろう」
 愛輝の言葉にランは言葉を返さない。おそらくその事はラン自身も分かっていたのだろう。
「すぐに結論、出す事はないと思う‥‥ゆっくり考えて‥‥」
 月守がランに話しかけると、ランは首を縦に振る。
そして負傷者を病院に運んだり、今回の能力者達も怪我をしているため、能力者達は急いで本部へと帰還していったのだった。

 そして、後日――キメラ退治と負傷者救助に向かった能力者達の所へ一通の手紙が届く。
 手紙の送り主はランからであり、能力者を続けていくことにしたのだとか‥‥。
 優しいだけでは能力者はやっていけない、彼はそれに気がついたのだろう。


END