タイトル:凍てついたココロマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/23 01:53

●オープニング本文


もう、生きる意味はない――だって、私を好きでいてくれる人がいないんだもの。

※※※

私を最初に嫌いだと言ったのはお父さんだった。

お父さんと言っても、私とお父さんに血の繋がりはない。

私は、昔お母さんが好きだった人の子供で、お父さんと結婚するときには私がお腹の中にいたんだって。

「お前を見ていると、あの男を思い出すから大嫌いだ」

お父さんは泣きながら、私を殴り、そして罵った。

お母さんはそれを見て、いつも私を庇ってくれた。

けれど――‥‥あの日、キメラが襲ってきて、きっと死んじゃうんだと心の何処かで覚悟が決まっていた。

「優恵(ゆえ)!」

それは予想もしていなかった事、キメラの爪で切り裂かれそうになった時、助けてくれたのは‥‥。

私を泣きながら大嫌いだと言っていたお父さんだった。

「お、とうさん‥‥?」

一瞬何が起きたのか理解できず、瞳を瞬かせ、顔に飛び散ったお父さんの血に漸く現実を見ることができた。

「いや、お父さん! 嫌ああああっ! 何でぇっ!? 私の事きらいって言ったあっ!」

そう、確かにお父さんは私を嫌いだと言った、いつも殴って、私を罵って‥‥。

「そう‥‥思わなければ‥‥俺は――‥‥生きていけなかった‥‥、お父さんは、本当は‥‥優恵が大好き‥‥だったよ」

そう言ってお父さんが見せた最後の顔は、とても満足げなものだった。

「何で、何で、いやだぁ‥‥こんなのはいやだああああっ!」

私は動かぬお父さんの体を抱きしめ、阿呆のように叫んでいた。

「逃げて! 優恵!」

キメラの第二撃がやってきたと同時にお母さんの背中が切り裂かれる。

「お母さん!」

「逃げなさい、お前だけでも生きて――‥‥」

最後にお母さんの手が私の頬にふれ、お父さんと同じように笑ってお母さんも物言わぬ体となった。

「ゆるさない‥‥ゆるすものか、お前だけは!」

震える手で包丁を握り締め、大嫌いだったけど、本当は大好きだった両親の仇を討つ為に走り出した。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
江崎里香(ga0315
16歳・♀・SN
姫藤・椿(ga0372
14歳・♀・FT
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
武田大地(ga2276
23歳・♂・ST
ルドア・バルフ(ga3013
18歳・♂・GP

●リプレイ本文

「今回のキメラって何体いるの? それと連絡を取り合うツールが欲しいわね」
 高速艇の中で呟いたのは江崎里香(ga0315)だった。
「キメラは一体だと聞いている、それとUPC本部からこれを借り受けてきた」
 白鐘剣一郎(ga0184)が言いながら、借りてきた携帯電話をメンバー達に渡していく。
 どうやら目的地の周辺はまだ携帯電話が使えるらしい。
「あ、あの! 姫藤・椿(ga0372)です。宜しくお願いしますっ」
 姫藤は携帯電話を受け取りながら、初々しく挨拶をする。
「此方こそ、宜しくお願いしますね」
 鳴神 伊織(ga0421)が笑みを見せながら姫藤に挨拶を返した。
「とにかく‥‥今は優恵ちゃんの所に急がなあかんな、女の子の命かかってんねん、急いでや!」
 高速艇を運転している人を慌しく急かしているのは武田大地(ga2276)だった。
「ええと‥‥作戦の確認をさせてもらうよ、僕たちが救助だよね?」
 水理 和奏(ga1500)がルドア・バルフ(ga3013)に視線を向けながら問いかける。
「そして戦闘役割の人間がキメラと戦う、ですよね」
 流 星之丞(ga1928)が答えるように呟く。
「‥‥あそこだ、皆、此処からは時間との勝負だ。手はず通り行くぞ」
 白鐘の言葉と同時に高速艇は、目的の場所へ到着し、能力者たちも優恵を救出するべくキメラが現れた場所へと急いでいった。


「時計は‥‥邪魔にならないようにしないと‥‥」
 鳴神は呟きながら懐中時計を懐にしまい、優恵のところへと急ぐ。
「今回のキメラは単調な攻撃の割に、力は強いからって報告が来てるよね‥‥気をつけないと」
 水理が拳を強く握り締めながら呟く、そして――それと同時に目的の場所が見えてきた。
「あそこが‥‥優恵さんがいるとされている場所ですね」
 木々は倒され、家の玄関は滅茶苦茶に壊されている。
 そして、入り口付近から街の向こう側へと続く血の跡――‥‥。
「中には誰も――‥‥いない」
 家の様子を見に行ったルドアが一度言葉を止め、間をおいて低い声で誰もいない事をメンバーに知らせる。
「どうしたんですか? 何か―――」
 ありましたか? そう続く筈の言葉を流は口から発する事が出来なかった。家の中も玄関と同じように荒らされており、リビングの所に二人の男女が倒れている。二人の周りには大量の血痕、その血の量から既に二人が事切れている事をルドアは悟ったのだろう。
「酷い‥‥今は時間がないけど、せめて‥‥」
 優恵の両親とされる二人は瞳を開いたまま事切れている、そのままにしておくには忍びなく流は両親の瞳をそっと閉じさせる。
「状況は結構深刻みたいね、外にあった血の跡は、家の中から続いている」
 江崎が家の中から外へと続く血痕を見つけ、外を見ながら呟いた。
「おまけにキメラの姿も見当たらへん、此処にはいてへんみたいやな」
 武田が周りを見ながら呟く。確かに、この場所には優恵もキメラもいないようだ。近所の住人も避難しているらしく、人も気配すら感じない。
「‥‥という事はこの血痕は優恵のものだと思って間違いないな――急ごう」
 白鐘が呟き、血痕を追って優恵を探す為に能力者たちは別れて探す事にした。


「痛いなぁ‥‥」
 優恵は疼く背中の傷に表情を歪めながら、小さく呟く。
「‥‥お父さんとお母さんの仇、取る筈だったのに――‥‥」
 勢いよく包丁を持ってキメラに襲い掛かったまでは良かった、けれども優恵は能力者でも何でもなく、ただの一般人、そしてまだ中学生にもなっていない少女なのだ。
「お父さん‥‥お母さん‥‥うぅ‥‥」
 自分を庇って死んでしまった両親を思い出し、優恵は呻くように泣き出す――しかし、彼女は気がつかなかった、背後から迫るキメラの事に。


「悲鳴!?」
 別れて優恵の捜索をしていた能力者達は遠くない場所から聞こえてきた少女の悲鳴に足を止める。
「どうやら、向こうに彼女はいるようですね」
「鳴神さん! 急ぎましょう」
 途中で合流した鳴神と姫藤は悲鳴の聞こえた方向へと走る。
「皆さん――‥‥っ!」
 キメラのところまで走ると、能力者たちは全員集まっていて、少し固まったような表情を見せている。
「どうしたのです―――か‥‥」
 鳴神が不思議に思い、キメラの方へ視線を向け、絶句する。キメラが立っている少し向こうには血まみれの姿で倒れている少女・優恵の姿があったのだ。
「おい‥‥動かないぞ、もしかしたら――‥‥」
 ルドアが呟き、それと同時に能力者たちに嫌な汗が頬を伝う。
「僕がとキミが瞬天速を使って突破しよう、僕がキメラ寄りで行くから‥‥キミは救出を‥‥」
 水理がルドアの隣に立ち、小さく呟く。
「了解――――行くぞ!」
 ルドアの言葉を合図に水理とルドアは瞬天速を使い、キメラに向かっていく。
 水理はルドアが優恵を救出する際に邪魔をされないようにキメラを抑える役割、彼女が上手くキメラをひきつけない事には優恵を助ける事は不可能なのだ。
(「‥‥あの子のところまで辿り着いた、後は早く此処から――」)
 キメラの気を引きつけながらも、水理はルドアが優恵を抱きかかえるのを確認する。
「よし、僕が陽動するから――皆、頼むよ!」
 水理は軽めの攻撃しか使う事が出来ない、何故なら回避できなくなるからだ。この状況で一人でも重傷を負ってしまったら全員の命に関わる。皆が無事に帰れること、すなわち自分の身は自分で護らねばならないという事になる。
「見掛け倒しというわけではなさそうだな」
 ルドアが後退すると同時に白鐘がキメラの前に出て、壁の役割を引き受ける。
「優恵は重症だが、生きている。今までキメラをひきつけた事で疲れたろう、優恵の救護をしながらでも休むといい」
「そうよ、引きつけ役はあたしでも大丈夫でしょうし」
 江崎が小銃・スコーピオンを構えながら呟く。
「分かった、あの子の治療が終わったらすぐに戻るよ」
 水理は言いながら、素早くルドアと優恵のところへと向かう。
「どんな感じなの?」
「出血は多いが、命に関わるような傷ではなさそうだ‥‥っと気がついたか?」
 ゆっくりと瞳を開く優恵にルドアが話しかけると、苦しそうに呻く。
「‥‥此処は――き、めら――お父さんとお母さん、の仇――」
 傷を負って尚、キメラに立ち向かおうとする優恵に、少し怒鳴るように叫び始める。
「お前の父さんと母さんが何でお前を助けたか考えてみろ! お前が大好きだから、お前に幸せになってほしいから、お前を庇ったんだろ! 此処でお前が死んだら意味がなくなるんだ! だから‥‥生きろ」
 最後の言葉は諭すように呟くような感じになり、優恵は瞳を瞬かせてルドアを見ている。
「キミの無念な気持ち――僕たちが受け取ったから‥‥」
 水理が救急セットで優恵を回復しながら呟く。
「これで大丈夫、僕たちは行くけど‥‥此処で大人しくしていてね」
 水理の言葉に優恵は首を縦に振った。


 水理とルドアが戦線に加わると、入れ替わりに江崎が優恵のところまで行く。
「こっちから援護させてもらうね、もしキメラがこっちに向かって来た時、守る人がいなければ大変だしね」
 江崎は呟きながら優恵の隣に立つ。
「自分も此処にいるわ〜」
 サングラスを光らせながら武田がニッと笑って優恵と江崎の所に腰を下ろす。
「流石に強いキメラやけど――戦いを見てて負ける気ぃはせんなぁ」
「水理さん! 危ない!」
 姫藤の声にハッとして水理はキメラの攻撃を紙一重で避ける。
「長期戦は得策ではないな――隙があれば一気に叩けるのだが」
 白鐘の言葉に江崎が小銃・スコーピオンをキメラに向けて発砲する。だが、実際にキメラに当てるのではなく、足元に撃つという威嚇攻撃だった。
 しかし、その威嚇にひるんだキメラは一瞬の隙が生じる。
「今だ! 天都神影流、降雷閃・昇龍――優恵の両親の無念をその身に刻んで逝け」
 白鐘が低く呟き、跳躍でキメラの頭上を取り、叫びながら己の技を披露した。
「――やられるわけにはいかない! 絶対皆で無事に戻るのだから!」
 姫藤も叫ぶと同時に武器を持ち、キメラに向かって走り出す。
 二人の攻撃に合わせるように、鳴神、流も攻撃を仕掛けた。
「これから幸せになるはずの家庭を壊した――貴様だけは許せそうにない!」
 ルドアは接近戦を行う者達が攻撃しやすいように肋骨の下、折れやすそうな部分に蹴りを入れて攻撃した。
 ほぼ全員同時による攻撃で、さすがのキメラも為すすべがなく、攻撃を受け、耳障りな声をあげながら倒れていった――‥‥。


「あの子、これからどうなるのかな――」
 江崎が優恵を見つめながら、小さく呟く。江崎も優恵と似たような経験をしているのだ。だから彼女の気持ちが痛いほどに分かるのだろう。
「まぁ‥‥あたしに言えるのは強く生きなさいって事だけか――‥‥彼女の両親もそう望んだように、優恵が本当に両親が好きだったなら、両親の喜ぶことをすべきだと思うよ」
「僕もそう思います、でも彼女が此処で無茶をしたら――‥ご両親の想いを無駄にする事になってしまう」
 流も悲しそうな表情で優恵を見つめる。
「大変だったよね‥‥つらかったよね‥‥」
 姫藤はまるで自分の事のように、涙を瞳に浮かべてしゃくりあげている。
「私なら大丈夫だよ」
 両親の埋葬を終えた後、優恵はにっこりと笑って呟く。
「助けてくれてありがと、私なら大丈夫、何とかなるよ」
 笑ってはいるものの、無理をしている事が一目瞭然な優恵に能力者たちは居たたまれない気持ちになる。
「無理をするな、お前が一人で生きていけるまでは、俺が何度でも助けてやるよ」
 優恵を抱きしめながら呟くと、優恵の体が小刻みに震え始める。
「ありがとう、これから、頑張るね、本当にありがとう」
 涙を流しながら優恵は呟き、目を擦りながら笑顔を見せた――。


END