タイトル:果物王強襲マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/24 15:08

●オープニング本文


 11月――
 日本では肌寒くなり、山間部では雪もちらつき始めるこの季節‥‥だが、熱帯に属するタイでは乾季へと突入し、一年で最も涼しく過ごしやすい季節となる。
 旅行をするのに最も良いとされる時期も11月〜1月であり、今年も例外なく観光客が多く訪れていた。

「はぁ〜つかれとれるわ〜」
 ‥‥とマッサージを受けながら、あまりの気持ちよさに居眠りを始めそうなこの女性‥‥白石ルミコ(gz0171)も休暇を利用しタイ旅行を楽しんでいた。
 途中でマッサージから整体に変わり、おちおち眠っていられなくはなったが‥‥仕事続きで溜まっていた疲れがかなりとれたような気がする。
「あ、なんか体軽い? やっぱり本場のマッサージは違うわね」
 ルミコはマッサージ師に礼を言い、店を出ると街中を散策する為に地図を取り出した。
 この後は観光をして、ショッピングでも楽しみながらお腹がすいたらタイ料理。
 気ままな女一人旅である‥‥寂しくなんかない、多分。

 それから数分歩き、ルミコは露店が立ち並ぶ街道へと辿り着いた。
 露店では民芸品や服、お香等の雑貨を売る店に混じって、フルーツを並べる店や屋台がある。
 ――タイはフルーツ王国だ。
 しかし残念ながら、フルーツが一番出回る時期は乾季後半。中には一年中楽しめる物もあるが、11月に旬を迎えるフルーツは少ないのだ。
「あ、そっか。今はドリアンの旬の季節じゃないのね‥‥んーちょっとチャレンジしてみたかったんだけど」
 果物店を覗きながら、残念そうに呟くルミコ。
 ――ドリアンといえば、『果物の王様』である。大型で棘の有る緑茶色の皮、そして何より、独特で強烈な香り‥‥それを食べようというルミコはなかなかチャレンジャーだった。


 このように、観光客で賑わう街道の露店‥‥しかし、その活気を掻き消すように『奴』は現れた――!

「ド‥‥ドリアンだ―――!」
 突然、露店通りに響き渡る叫び声。
「え、ドリアン?」
 声に反応し、ルミコがキョロキョロ辺りを見回していると、街道を歩いていた人たちが一斉に逃げるように走り出した。
「ちょっとなによ〜私が行きたいのはそっちじゃないわ!」
 逃げる人々の波に飲まれそうになり、ルミコも負けじと叫ぶ‥‥ここで自分も逃げればいいものの、つい『ドリアン』の正体が気になり、彼女は流れに逆らうように歩いていった。

 すると、そこには――
「うわぁ、本当にドリアンじゃない」
 ―――ドリアン頭をもつ人間型キメラの暴れる姿があった。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
佐倉・咲江(gb1946
15歳・♀・DG
神崎 信司(gb2273
16歳・♂・DG
レミィ・バートン(gb2575
18歳・♀・HD
東雲・智弥(gb2833
17歳・♂・DG

●リプレイ本文


 タイの露店街で暴れ回る3体のドリアン達。
 頭は巨大なドリアン、白タイツで包まれた人間の体‥‥一見芸人のようでもあるが紛れもなくキメラである!
 ふざけた外見ではあるが、ドリアンを基に作られたキメラであるならば、その頭の果実から放たれる悪臭は想像を絶するものだろう――

 そんなキメラを退治すべく、勇敢なる能力者達がこのタイ王国へと集結した。


「タイの良さはなかなか言葉で表現するのが難しいんだよね」
 と、鯨井起太(ga0984)は知ったかぶりをするが確かに字面でタイの魅力は語りきれない。
 そして、大曽根櫻(ga0005)とレミィ・バートン(gb2575)もタイ旅行に思いを馳せる。
「ドリアンのキメラですか〜臭いが気になりますけど、一気に退治をしてしまえば問題ないでしょうね」
「そうだよね、サクっと終わらせてタイ料理にマッサージ‥‥お買物に観光! 楽しみだなぁ〜!」
 ウキウキとする二人の横で、神崎 信司(gb2273)は神妙な面持ちだ。
(「なんだか‥‥公費で旅行してるみたい。少し複雑だけど、まぁ、役得だよね」)
 心の中でひっそり納得する。
 又ここにも『タイ旅行』に釣られてホイホイやってきた一人、如月・菫(gb1886)。
 不順な動機がばれぬ様に東雲・智弥(gb2833)を拉致するように連れ出し、単位の為世のため人のためと偽装を試みている、が。
「ちゃちゃっとキメラを抹消して旅行を楽しむのですよ」
 やはりこれが本音だったり。
 それから若者達に囲まれる一人30代の木場・純平(ga3277)は‥‥どうしても『修学旅行の引率の先生』というイメージが拭えない。
 そして引率の先生‥‥もとい純平の横では佐倉・咲江(gb1946)がウトウト夢見心地な模様。
「ZZZZzzzz‥‥はっ! また寝てました‥‥おはよう‥‥」
 ‥‥大丈夫だろうか。

 果たして彼らは討伐が目的なのか、観光が目的なのか‥‥
 ――答えはもちろん両方である!
 キメラを目の前にすれば旅行者気分もどこへやら、8人皆『傭兵』の顔に戻り、任務の遂行にかかるのだった!!


 

「それじゃ作戦通り行こうじゃないか。皆の武運を祈るよ」
 起太の言葉に、皆が頷く。
 智弥と菫、そして櫻は誘導先の広場に先回りして待機、キメラを待ち伏せする作戦だ。
 狙撃役である起太も広場へと先回りすると、キメラを射程圏内に捉えれる場所へと身を隠した。

「キメラの誘導は任せたよ。俺は避難している住民や観光客に危険が及ばないように護衛をしよう」
「任せて! 神崎君、咲江、行こう!」
 護衛に回る純平の言葉に、レミィが元気良く答えた。
 そしてバイク形態のAU−KVに乗り、ドラグーン仲間である信司、咲江と共にキメラの注意を引き付ける。
「ほらほら、こっちだよ!」
 バイク3台がキメラの眼前を通り過ぎる――と、露店を物色していたキメラはすぐさま目標をバイクの3人へと変えた。
 エンジン音を響かせながら、あまり引き離さないようにとキメラの走る速度でバイクを駆る3人――
「バイクとドリアンの追いかけっこ‥‥。ユニークと言うより、シュール?」
「シュールですよね‥‥にしても白タイツにドリアン頭‥‥。一歩間違えたらキメラというより変態さん‥‥」
 信司と咲江はキメラが追いかけてくることを確認し、傍から見たこの光景を思い描き苦笑した。


 バイクに乗った3人とそれを追いかけるドリアン達が、露店を通り抜けた先の広場へと到着する。
(「きましたね‥‥」)
 待ち構えていた櫻が覚醒した――美しい黒色の髪と双眸の大和撫子は、金髪碧眼の少女へと変化を遂げる。
 そして蛍火を構えると紅蓮衝撃を使い、レミィが誘導してきたキメラに向けて斬撃を加えた。
 キメラはバイクに気をとられていて、完全に不意打ちとなる――櫻はそのまま頭を狙わぬように繰り返し斬りつけ、一歩引く。
 体にかなりの傷を負いながらも、キメラは反撃にでた――しかし櫻は反撃をバックステップでかわした。
 櫻の攻撃を皮切りに、待機していた起太、菫、智弥も次々と覚醒を遂げる。
(「あれだけの攻撃を受けても倒れないか‥‥」)
 もしかして頭が急所なのだろうか、もしそうならば前衛にまかせよう‥‥と思いつつ、起太はスナイパーライフルの射程内にキメラを捕捉した。
 そして、鋭覚狙撃でボディを狙う‥‥一発目は胸を、二発目は肩を、そして三発目は‥‥喉だ。一歩間違えれば頭を破壊してしまうが、起太の放った弾丸は正確にキメラの喉元を打ち抜く。
 それが決定打となり、櫻の攻撃で弱っていたキメラは満足に反撃も出来ぬまま地に伏した。
 ――まずは、一体。

 ハルバードを得物とする菫は、信司を追いかけるキメラに攻撃を仕掛ける。
「覚悟するのですよ!」
 と、ボディを狙ってはいるが、武器を振り回しているせいでなんとも危うい。
「頭は狙っちゃダメだ! ‥‥何かイヤな予感がする!」
 菫から一寸下がった場所で超機械を構える智弥は冷や汗ものである。
 一応菫は「頭は狙ってないのですよ」と答えてはいるが‥‥ハルバードの先がドリアン頭を掠ってる、掠ってる――!

 グシャ

 嫌な音と共に、ドリアン頭が拉げた。
 突如辺りに広がる異臭――腐った玉葱とか、ガスだとか、生ゴミのようと言われる強烈な臭いだ。
(「‥ニラは香草的にいいけど、ドリアンはもう臭いだけ。マンゴーの方がいいよねぇ‥」)
 思わず鼻をつまむ智弥。
「うぐ‥‥皆さんが止める理由がわかったのですよ‥‥」
 菫が鼻と口を片手で覆うと、ガクリと膝をつく‥‥そこへ異臭振りまくドリアンが襲い掛かった!
「如月さん!?」
 避けきれず傷を負う菫を視界に捉え、智弥は超機械での一撃をキメラに加えた。
「大丈夫!? 加勢するよっ」
 レミィが駆けつける。覚醒しAU−KVを装着したレミィは、竜の瞳で精度を上げると弓を番えた。そして胸部と腹部を狙い矢を放つ――ドスッと突き刺さる音と共にキメラの体に二本の矢が埋まる。
 さらに信司もAU−KVを纏い加勢した。
(「‥‥すごい臭い。食べれるのかな」)
 頭は割らないつもりだったが割れているものは仕方ない‥‥信司は泣きたい気持ちを抑え、臭いを堪えるため息を止めるとヴァジュラ二刀でキメラを斬りつけた。
 キメラの反撃をやや受けたものの、最後の一撃でキメラの胴と頭を切断する――これで二体目。

 そして、避難誘導を終えた純平も広場へと駆けつける。
「この臭いは――すでに割れてしまったか!」
 辺りにはドリアン特有の残念な臭いが漂っていた。
 気を取り直して、咲江のバイクに纏わりつくキメラに逆水平チョップを加える純平。
 『素手での攻撃はあまり効果がない』と思いきや、彼の両手にはめられた黒い薄手の強化手袋――これは『クラッチャー』というSES搭載武器なのだ。よってチョップであってもダメージが通る。
 さらに純平はジャイアントスイング等のプロレス技を交え、キメラを攻撃‥‥対するキメラも体当たりを仕掛け、まるで格闘技のような戦いが繰り広げられた。
 一連の攻撃を終えると純平は素早く距離をとる。そこへ、バスターソードを構えた咲江がゆらり‥‥とソレを振り上げる。
「頭は食べるから切り離す‥‥」
 呟きながらもスキル全開。竜の爪と竜の瞳を使用し、威力の上がった一撃をキメラの首へと叩き付けた。
 ――空へと舞うドリアン頭‥‥
 残された胴体だけ見ると、多少グロテスクである。
 

 こうして、露店通りを騒がせた果物の王様、ドリアン頭のキメラ達は退治されたのだった。



 キメラとの戦闘が終わると、どこからともなくドリアンに惹かれた白石ルミコ(gz0171)がノコノコと現れた。
「依頼、受けてくれて有難う♪ で、ドリアン、食べる? 食べるの??」
 ‥‥と、討伐を終えたばかりの能力者達を見回して言うルミコ。ちゃっかり皆の名前まで聞いている。
 辺りにはドリアンの残念な臭いが漂っているが、彼女は鼻をつまみながらも食べたいらしい。

「美味しくなければ『果物の王様』の称号は得られない。‥‥ボクは、食べるよ」
 まず最初に勇気ある起太がそう言い切った。
 手持ちのナイフでドリアンの堅いトゲのついた皮を、ばっくりと器用に割る。その瞬間、下水のようなドリアン臭がさらに強くなった。
「ふふふ‥‥男は度胸だ! いただきます!!」
 先陣きってねっとりとした実をむしゃむしゃと食べる起太の姿に、おおーっ! と周囲から声が上がる。
 無視できない臭いをあえて無視し、味わうことに専念する起太。
 口の中に広がるは‥‥濃厚なチーズとカスタードクリーム、そして生クリームを混ぜたような甘さ。これは‥‥
「おっ! おおおおおっ! これは美味いよ。るみちょんも一口どうだい?」
「ほんと、オッキー!? むむ、やはり王様只者ではないな‥‥!」
 起太に勧められつつ、鼻をつまんだルミコも食してみる。‥‥うん、美味しい。
 どうやらこのキメラ臭いは最悪だが、味は品種改良を重ねた旬のドリアンを参考にしたらしい。
「私も‥‥依頼達成記念! って事でチャレンジするよ! ココで食べなきゃキメラには勝ってもドリアンに負けた気がしてなんか悔しいしさ!」
 レミィが上手いこと言った。彼女は臭いを嗅いでみて‥‥鼻をつまんで食べる。
「ドリアンチャレンジ‥‥」
 レミィの様子を横目で見つつ咲江もチャレンジしてみたが、一口で挫折。
 続いて櫻が恐る恐る、ドリアンを食べる。
「本当に‥‥美味しいのでしょうかねぇ?」
 ‥‥半信半疑だったが、意外な美味しさに吃驚したようだ。
「キメラは食べれると聞いたことがあるし‥‥ちょっと食べてみようか、後学のためにも」
「では僕も少しだけ‥‥うん、チーズケーキに似てます」
 純平は仕留めたキメラの頭をチョップで割り、甘い果実を味わった。続いて信司がおっとりとした口調で感想を延べる。
 こうして皆が次々と食す中、
「智弥さんも食べるのですよ」
「ぼ‥‥僕は遠慮しますっ」
 菫にドリアンを突きつけられた智弥だけが、全力で食べることを拒否していた。

 こうして、『ドリアンキメラ試食会』は予想以上の好評を博すのだった。



 折角のタイだからタイ旅行を――!
 ドリアン仲間ということで微妙に意気投合した能力者達は、ルミコの案内でタイ料理店へ向かう。
 ‥‥しかし、そこに木場純平の姿だけが無い。
 皆は顔を見合わせたが、そのまま料理店に入ることにした。

「タイ料理でも食べて口‥‥鼻直し?」
 ドリアン挫折組の咲江は、タイ料理の名が連なったメニューを興味深く見る。
「バミーってなんだろうね、食べてみようかな」
 咲江のもつメニューを覗いて、レミィが注文した。タイ風ラーメンだ。
 そして信司もタイ料理は初体験。好き嫌いは無いので何でも美味しく食べれるとは思うのだが。
「タイ料理ってどんな味なんだろ? 美味しいといいな」
「辛味、酸味、甘味なんかが混じった、複雑な味だよ」
 信司の問いに答えつつ、起太はカオマンガイを注文。米好きな彼はタイでも米だ。
「トムヤンクン食べよっかな。櫻ちゃんは何食べるの?」
 ルミコが櫻に問う。
「私もそれを頂きます。そういえば、タイでは食器には直接口をつけないようにするとか、料理にかぶりつかないようにするとか、そんなマナーがあるらしいですよ」
 気をつけましょうねと微笑む櫻。
 智弥の元へは本場グリーンカレーが運ばれていた。色は薄いが‥‥予想以上に辛い!
「じわじわ辛さが来るんだよね。これ」
 顔を真っ赤にする智弥。最初はココナッツの味に騙されるが、かなり辛いので汗だくだ。
「辛い物‥‥ふ、ふふん、全然大丈夫なのですよ」
 負けん気を見せて同じくグリーンカレーに挑戦する菫だったが、実は辛いものが苦手である。
 一口食べて、その後味に頼んだことを後悔するのだった。


 一方、純平であるが。
(「未成年の仲間たちを残して出歩くのも気が引けるが、臭いにも負けずキメラと戦う勇敢な戦士たちなんだし、オッサンが口うるさく言う必要もないか。
 うん、そうに違いない。老兵はただ去るのみさ‥‥」)
 と、一人ラジャナンダムへやってきていた。
 タイといえばムエタイ。
 ムエタイのメッカといえばラジャナンダム。
 ‥‥つまり、そういう事だ。
 夜まではまだ時間もあるからと、コーヒーをひっかけて会場へ観戦に向かう―!

 若くしてバグア軍との戦いに明け暮れる仲間たちに、『存分に羽を伸ばしておけよ』と心の中で老兵の言葉をかけつつ、賭博するおっちゃんであった。



 タイ料理の後、タイ式マッサージに流れ込む一部能力者とルミコ。

「痛気持ちいいわよね〜あら、レミィちゃんも咲江ちゃんも寝てるわね」
 ルミコがくすっと笑う。
 食事を終え既に眠かった咲江とマッサージの心地よさにうとうとしてしまったレミィ、仲良くお昼寝である。
「気持ちいいですよね〜肩こりも解れます」
「ん、櫻ちゃんは肩凝り酷いの? 胸大きいから?」
 ‥‥図星だった。最近また大きくなったと思われる胸をみて思わず溜息をこぼす櫻。羨ましい悩みだ。
 そんな女性陣の隣のスペースでは。
「い‥‥いたたたた、お手柔らかにお願いします‥‥」
 信司が整体の如きマッサージを受け、『タイのマッサージは痛い』を身をもって知る事に‥‥。



 一方。
「如月さん、何処に行きたい?」
「ここ行ってみるのですよ!」
 ルミコに貰った観光MAPを眺めながら、菫と智弥は二人きりの時間を過ごす――少しいい雰囲気ではないか。
「おぉー、何でしょうこれ」
 と、菫に引っ張りまわされるように遊ぶ智弥。
 しかし、しっかりと菫に似合いそうなアクセサリーを買うことを忘れない。

「ふぁ‥‥気持ちよかったな、マッサージ。二人して寝ちゃったね」
「眠い‥‥でも観光いかないと‥‥。レミィさん一緒に行こう‥‥?」
 うっかり眠ってしまったレミィと咲江だったが、お土産と観光のために露店を歩く。
「皆へのお土産何がいいかな‥‥。ドリアンはない様だし‥‥」
 土産選びもまた、旅行の醍醐味だ。

 信司、起太の男性陣らも『ぶらりタイ観光』を楽しみ、櫻もお土産にタイの民族衣装を手にして上機嫌。
 皆それぞれのタイ旅行を満喫できたようだった。


 ――夕暮れ時。
 ラスト・ホープへと戻る高速移動艇が到着した。

「如月さん、これ‥‥」
 皆と合流する前、智弥は先程露店で買ったアクセサリー‥天然石の付いたペンダントを、菫へ渡す。
「記念にです‥‥。あと、前の‥‥お詫びも」
 智弥の顔は真っ赤で、傍から見ると実に微笑ましい。
「ありがとう。さっそくつけるのですよ」
 菫はニッコリと笑うと、素直にそのプレゼントを受け取るのだった。


「へっぽこ案内でごめんね! 楽しかったわよ♪」
 移動艇へ乗り込む皆の姿を、笑顔で見送るルミコの姿。


 ―――そして。
 ムエタイ、賭博に夢中な木場純平が、高速移動艇の出発時間に間に合ったかどうか‥‥
 それは関係者にしか分からない。