●リプレイ本文
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先に施設を訪れていたシャオラ・エンフィード(gz0169)は、能力者達へ礼を言うと子供たちが遊ぶ部屋へと8人を案内した。
「みんな、お姉さんお兄さんが来ましたよー」
紹介すると、子供たちの円らな瞳が一斉に能力者達へと向かう。
クマと『みゆ』のぬいぐるみを手に抱え、ヴィー(
ga7961)はニコッと微笑みご挨拶。
「こんにちは、ヴィーと申します」
ヴィーの挨拶をうけて、数名の元気な声が返る。
こうして順に紹介を済ませ、『子供のお世話』ミッションは開始された。
「さて、振り回されて体力負けしない様頑張るしかないわね」
座布団にずらっと並んで寝かされた3人の乳児を前にし、百地・悠季(
ga8270)は気を引き締めた。
悠季自身、被災し一年近くも避難所に身を寄せた経験があり、そこで出会った孤児の面倒を見る事があった。
又ここで子供たちの相手をするのも感慨よね、と、思い返していると早速一人赤ちゃんが泣き始める。
「オムツでしょうか、ミルクでしょうか」
「オムツなら、ボランティアの人が替えたって言ってたわ」
悠季が答えると、ヴィーがすぐさま人肌に暖めたミルクを用意する。
「はい、ミルクですよ」
泣き出した赤子の首とおしりをしっかりと支えて抱き上げ、横抱きにして赤子の首をひじの内側に乗せるヴィー。テキパキとした動作だった。
「‥‥そういう風にだっこするんですね」
と、乳児の面倒を見る能力者の中ではただ一人男性のベル(
ga0924)が言う。子供好きで弟と妹の面倒も良く見ていたが、赤子の相手をするのは久しぶりである‥‥うろ覚えでは少々不安があった。
「そう、びくびくするのはだめよ。赤ちゃんも怖がっちゃうから」
ベルは悠季とヴィーからアドバイスを受けつつ、哺乳瓶を手に奮闘し始めるのだった。
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施設での仕事は子供の相手だけではない。
遠倉 雨音(
gb0338)は掃除に洗濯の類を先に片付けるため、大量の衣類が入った洗濯籠をよいしょと持ち上げた。
「シャオラさんは働き者ですね。オペレーターとボランティアの両立ができているようで、頭が下がります」
一緒に洗濯物を捌きながら、シャオラに話かける雨音。
シャオラは少し照れたように「私にとっては、どんな依頼でもこなしちゃう皆さんの方がよく働かれてると思いますよ」と伝えた。
一方、ドミグラスソースを抱えた水無月 春奈(
gb4000)はキッチンの様子を見ていた。
(「まずはここの片付けですね。それからビーフシチューを‥‥」)
頭の中でスケジュールを立てる春奈――そこへ、一人の少女がやってきた。
お料理するの?と興味深そうに訊ねる少女。
「お手伝いしてくれますか?」
春奈は微笑を浮かべ、少女をキッチンへと招くと一緒に料理を始める。
そして『おおきなお兄さん』ことパディ(
ga9639)は孤児院で働いた経験もあり、子供相手の口調も案外慣れたものだった。
肩車をして遊ぶだけではなく、不安を感じる子供を見つけると、パディはしゃがみこんで子供と視線を合わせ、まっすぐに目をみながら諭すように話しはじめる。
「約束しよう。自分等が君を絶対に守るよ。だから君も前を見てくれないかな?」
少し勇気付けてやれば、いくらでも前を見て歩くことはできるだろう。そう信じて。
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一時の良い思いでではなく、今後の生活を豊かにする為の知識を与えたいと。
鯨井昼寝(
ga0488)は、あえて厳し目に子供達と接していた。
「うん、ちゃんと面倒みれてる子もいるわね」
お姉さんの自覚があり世話をやく少女も居れば、一方で問題児も居るわけで。
小さい子からおもちゃを取り上げる自分勝手な少年の行動には、躊躇わず叱る昼寝。
年下の子らをしっかりと守れる兄姉になれるよう導くのも、任務だと認識していた。
それから、お絵かきをする子供たちの後ろで‥‥画用紙やクレヨンを胸前に持ったInnocence(
ga8305)の姿。
(「どんな子ですかしら‥‥?」)
と、お絵かきを覗いてはまた顔を引っ込めている。
お友達になってくれますかしら?とドキドキしながら様子を伺っていると、絵をかく少女と目が合った。
Innocenceは恥ずかしそうに頬を桜色に染め、ぺこりとお辞儀する。
「あのね、イノセンスと申しますの‥‥・」
しゃがみこんで、子供の視線の高さに合わせてご挨拶。
色とりどりの折り紙を並べると、その鮮やかな色に子供の目は煌いた。
賑やかな声が響くなか、一人部屋の隅、皆の輪に入れない少女の姿。
雨音はその子に気づき、そっと声をかけた。
「皆と一緒に遊びませんか?」
しかし少女は、首を横に振る。
‥‥キメラ襲撃時のトラウマが消えない子供のようだ。
雨音は、静かに少女の横に座ると、心を開いてくれるまでは独り言のように話しかけた。
やがて返事をしてくれるようになれば、少女の話もきいてあげて、そしてそっと抱きしめる。
「もう、怖い思いをしなくても良いんだよ」
雨音の言葉を聞いて。
今まで泣けなかった少女の瞳から、大粒の涙が零れた。
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「よしよし、今度はオムツね?」
悠季が再び泣き出した赤子を抱き上げると、案の定オムツの辺りに違和感。
彼女は数時間世話をしただけで、お腹が空いたのか、気持ち悪いのか、それも人恋しいのか‥‥何を訴えているか、泣き方で判断できるようになってきたらしい。
「シャオラ、オムツの替えお願い」
遠くから「はーい」と返事が聞こえた。赤ちゃんの世話は大変!ということで、シャオラもこちらグループに回されたらしい。
「当然使い捨てよね」
「布ですよ」
即答。
‥‥確かに地球には優しいが。
簡単にポイできないのは残念だか仕方あるまい。
「布は布で良いところがあります。男の子は前を厚く、女の子は後ろが厚くなるように畳んで下さい」
と、先ほどまで『猫槍「エノコロ」』の先っぽをフワフワ揺らしながら赤子と遊んでいたヴィーが、おむつの準備を手伝った。
そしてヴィーに代わり、ベルが『エノコロ』を手にすると赤子の顔の前で揺らしてみる。
赤子は「あー」とか「うー」とか言葉にならぬ声を発しながら、小さな手で『エノコロ』の先っぽを捕まえようと追いかけた。
「‥‥たまにはこういう依頼も悪くないですね‥‥」
自分よりもずっと小さい赤子の手足‥‥それを懸命に動かす姿に和んでしまう。
「‥‥子供か‥いいなぁ‥」
別の依頼を受けている恋人でも思い出したのか、ボソっと本人にしか聞こえない声で呟くベルだった。
そこへ、Innocenceがひょっこり顔を出す。
「イノセンスさんも赤ちゃん見て下さいます?」
シャオラがきいてみると、Innocenceは赤子のほっぽをつんつんしてみたり、もみじの様なおててと握手してみたりして目を輝かせる。
「わたくし、赤ちゃん大好きですわ‥‥赤ちゃん欲しいですの。どうやったらもらえるのかしら‥‥」
首を傾げ、興味津々に問いかけた。
その場にいる誰もが一瞬返答に戸惑い、やがてどこからともなく『コウノトリが―』、『キャベツ畑から‥』という言葉が上がるのだった。
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一方ちょっと大きな子供達は一通り遊びを終え、お手伝いタイムに突入している。
「いいかい、手伝いだと思うからしんどく感じるんだよ。お兄さんと一緒に遊びながら楽しくやってみようよ」
『手伝い』を嫌がる子供らを前に、パディが一つ楽しく手伝える方法を提案した。
「まずは『ぞうきんがけ競争』だよ。みんな雑巾はもった?いい、位置について――」
パディがピストルを撃つ真似をすると、子供達が「わーっ」と一斉に廊下を雑巾がけする。
ご褒美は焼きたてクッキー、プリンもあるぞ。やる気も出訳だ。
「おー、みんな元気ね! よしよし。子供はそうでなくっちゃ」
昼食の準備をする昼寝の前をバタバタと子供達が通り過ぎ、昼寝は目を細めて笑みを浮かべた。
そこへ、一人の少女を連れた雨音がやってくる。
「男の子が一人、見当たりません」
雨音の言葉に、パディと昼寝が顔を見合わせた。
「‥‥ちょっと私が探してくるわ」
昼寝はふと、小さい子を泣かしていた少年を思い出す。言われてみればさっきから見ていないのだ。
少年を探すべく、昼寝は軽快な足取りで施設内を歩き始めた。
そんな話をしていると、雑巾レースが終了したらしい。「僕が一位ー!」という元気な声が上がる。
「おお、良くやったね。えらいな」
パディが褒めると男の子も得意げに胸を反らせた。
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その頃キッチンでは。
料理は上手く出来ないという少女に対し「最初から上手な人はいません」と諭した春奈は、包丁の使い方から切り方などを懇切丁寧に教えていた。
その結果、鍋の中には『ビーフシチュー』が完成している。
そこへヴィーと雨音も加わって、オムライスを作り始めた。
「卵でくるむのが難しいんですよね‥‥っと、できました」
春奈はチキンライスを薄く焼いた卵で綺麗に包んだ。
「ケチャップは子供達に好きな図柄を描いてもらいましょうか?」
雨音の提案に、春奈が笑顔で賛同する。
ヴィーは半熟溶き卵を被せたタイプのオムライスを作り、タコさんウィンナーも添えた。
「はい、出来ました」
と、料理をテーブルへ並べると、子供達がどっと食卓に押し寄せる。
「しっかり手を洗ってくださいね」
注意することも忘れない春奈。
それでも手を洗わない、言う事をきかない子もいるが、
「おね〜ちゃんが作った料理もおいしくなくなるし、おなか痛くなって一緒に遊べなくなるかもしれないよ、それでもいい?」
と、ちょっと怖い顔をして言ってみる。子供はそれは嫌だと手を洗い始めた、作戦成功。
「キッチンから良い香りがするわ‥‥」
腕をゆりかごにして赤子を寝かしつけながら、悠季がポツリ呟く。
「少し、お腹空きましたね」
と言うベルは、哺乳瓶でミルクをあげる姿も様になってきたようだ。
「百地さんもベルさんも、皆さんとお昼食べてきて下さい」
私が見てますから、とシャオラは言うが。
「一人で大丈夫? 三人でも慌しいわよ?」
じゃあお言葉に甘えて‥‥と、悠季が抱えていた赤子を座布団に寝かせた。
すやすや寝息をたてていたのに、布団に寝かせた途端ぱちくりと開くまんまるな瞳。
「どうしておきちゃうのかなー」
赤ちゃんの巧妙な寝たふりなのか。
苦労して寝かしつけ、悠季とベルは昼食をとりに向かう。
「おいしそうなオムライスね♪ みんなで作ったのかしら?」
悠季が子供達に問いかけると、子供達は胸を張って「うん!」と答えた。
そして。
「ただいまっ」
食事の準備も終わる頃、無事に悪戯少年を発見した昼寝が戻ってくる。
「お帰りなさい‥‥見つかって良かった。一緒にお昼にしましょう」
「あらら、お昼の準備は終わったのね。それならおやつ作りをがんばろうか」
昼寝が少年の頭をポンと撫でると、少年は少し不貞腐れた顔をしたもののコクリと頷いた。
――どう説得したかは分からないが、『小さい子を守れる男になれ』という昼寝の意気込みは伝わったらしい。
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昼の片付けが終わり、そのままおやつ作りに突入する。
「みなさん、お料理お上手なんですね‥‥」
料理は全く出来ないシャオラが、ひょっこりとキッチンを覗いた。
「シャオラさんもクッキーの型抜きしませんか?」
「あ‥‥はい! お手伝いさせてください」
それくらいは出来るんじゃないかと、パディが用意した様々なクッキー型を手にとって料理にチャレンジするシャオラ。
「熱いですから、気をつけて下さいね」
雨音は焼きたてのクッキーを、子供達と一緒に皿に並べる。
「みんな、将来はコックさんになれるかも」
どんどん手伝いが上手くなる子供達を見て、春奈はクスっと笑った。
そして、ビーフシチューを作るときからずっと手伝っていた少女に、一冊の本を渡す。
「今まで書き溜めていたものです。‥‥オリジナルじゃなくてコピーですけどね」
あなたはセンスがありますから、すぐにマスターできますと言い添える。
その横で昼寝はカスタードプリンを担当していた。
小さい子には道具と食材を用意させ、うまく出来たら頭を撫でて、褒めることも忘れない。
子供達の年齢に応じて、材料を合わせたり、卵を解きほぐしたりと徐々に難しいことをさせてみる。
少年も四苦八苦しながらカラメルソースを作っていた。その甲斐もあって
「よーし、これで完成ね。うん、みんな良く頑張った!」
トローリ柔らかそうなカスタードプリンの出来上がり!
昼寝は少年の頭を撫でると、「やればできるじゃない」と言って笑顔を見せた。
「これに作り方書いてあるから、ちびたちに作ってやりなさい。たまにで良いから」
その言葉に少年は素直に頷き、レシピを大切そうに抱えるのだった。
子供達に混じって手伝いに励んでいたInnocenceも、出来上がったお菓子を口にして至福のひと時。
(「わたくし、ずっと1人でしたから‥‥お友達と遊びますの、とっても楽しいですの‥‥」)
仲間と子供達がいるこの空間が、Innocenceにとっての幸せだった。
「はい、差し入れです」
ヴィーが手作りのクッキーとゼリーを、乳児をあやす悠季とベルへ差し入れる。
「ありがとう。‥‥このあとお風呂に入れてあげたいんだけど、手伝ってくれる?」
悠季の提案で、ヴィーとベルも手伝いながら赤子の入浴の準備が進む。
お湯の温度にも、お湯の浴びせ方にも注意しなければならないけれど、湯浴みを済ませてキレイになった赤ちゃんはより良い香りがするのだ。
「抱いてるだけで癒されます」
湯上りの気持ち良さですやすや眠る赤子を、ベルはぎゅっと抱きしめる。
「‥‥たまにはこんな時間も良いですね」
ヴィーが呟いた。
忙しい時間も多かったけれど、最後にはまったりと和む三人であった。
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こうして、子供達との一日が終わりを告げる。
「また遊びましょうですの♪」
子供のような無垢な笑顔を浮かべて、ばいばいと大きく手を振り子供達に別れを告げるInnocence。
‥‥能力者達はキメラとの戦いでは得られない、『何か』を感じることは出来ただろうか。
子供達に人としての強さを見て、たくましく生きる彼等の姿こそが『希望』そのものだと感じる者。
親が子に抱く感情を理解し、大切な人や存在を見つけ、育む大切さを見出す者。
迷いを振り払い、子供達から『温もり』を感じて『守る』事を再認識する者。
両親に対して感謝の念を抱くと共に、ふと連絡を取ってみようかと思い帰路につく者。
幼い頃の自分を思い出し、あの子供達と同じ環境を作り出さないために努力しようと誓う者。
それぞれ胸に抱いた感情は様々だったが――
能力者達が子供達を光ある場所へ導いたように。
子供達の笑顔は、能力者らがこれから『傭兵』としての人生を歩む中で、迷わぬように導いてくれるだろう。