●リプレイ本文
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高速艇から降りてみれば、そこは修羅場の真っ最中だった。
村人に話を聞かずとも、すぐに見つかった一人の傭兵‥‥相馬ユウリ(gz0184)の姿。
「休暇中でお節依頼の事を知らなかったとはいえ、食材の独り占めはよくないですねぇ〜」
ウフフフフ〜と見るものを不安にさせる笑みを浮かべながら、野良 希雪(
ga4401)はユウリの姿を確認する。
(「もちろん助けはしますがちょっとだけお仕置きしなきゃいけないかなぁ〜」)
――ユウリ、早速ピンチである。
そしてユウリの事よりも、美味しそうなキメラ達の姿に目を奪われる幡多野 克(
ga0444)は
「美味しそうな‥キメラ‥‥。しかもまだ‥食べた事のないの‥ばかり‥‥」
と、ポツリ呟きつつキメラの動きを目で追った。彼は今まで西瓜、蛸、キノコのキメラを食しており、ここで芋、栗、雲丹も是非胃袋に収めたい。
天狼 スザク(
ga9707)も又、食材キメラに興味があるようで。「栗きんとん‥‥大好きだ!!」お節への愛を叫んだ。
「‥‥貴方たちは?」
能力者達の姿に気づき、ユウリは足を止めた。彼は至る所に傷を負っていたが、まだ戦えぬ程ではない‥‥覚醒状態もギリギリ維持しているようだ。
そんなユウリに、手を差し伸べるスザクの姿――
「あなたが相馬さんですね、噂には聞いています。同じく食べ物‥‥ではなくて食べられそうなもの全てを愛する天狼スザクです、よろしくお願いします」
スザクの言葉に首を傾げるソウマ。しかしキュピーンと『同志』という言葉が頭を過る。
「ああ、そうか。君らもこの食材を求めてやってきたのか」
「ええ、ULTを通してね‥‥相馬さんはULT通してないのね?」
状況把握できていないユウリに対し、遠藤鈴樹(
ga4987)が『お節』依頼について簡単に説明した。ちなみに鈴樹は見事なおねぇ言葉であるが女装男子である。
鈴樹の後ろでは、小さな少女が顔をひょっこり覗かせる‥‥耀(
gb2990)だった。
「そうです、お節の食材にするんです。栗きんとんは大好きなのではずせません」
ぐっと拳を作っての力説。
「せやから、あんたもまだ戦えるんやったら協力してな!」
鳳(
gb3210)はウニ用のクーラーボックスを用意し、万一の事態に備えて胃薬も準備している。
「死なない様に治療はしますから〜もうちょっとだけ囮になっていてくださ〜い」
覚醒し、ユウリに練成治療を施しながら微笑む希雪‥‥ユウリはちょっと背筋が寒くなった。耀も携帯した救急セットで治療の手助けをする。
「‥‥でも、あまり‥‥囮になってもらう‥時間無さそう‥‥」
――ゴロゴロゴロ
克の視線の先には、巨大な芋と大きな栗‥‥そして雲丹3匹はもつれ合うように転がり、能力者達を囲むように差し迫っていた。
「結構美味しそうだね〜。よし、気を引き締めて戦うわよ! 分かった!? トシ?」
初のAU−KV実戦に挑む岩崎朋(
gb1861)は気合を入れなおし、隣に居る幼馴染の都築俊哉(
gb1948)に声をかける。その言葉に頷く俊哉。
「ああ、キメラ退治の依頼は初めてだからな‥‥気をつけて戦うことにしよう」
そして、『お節』をめぐる戦いの火蓋は切って落とされる――!
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さつま芋キメラは朋と俊哉が、栗キメラは克とスザクが、雲丹キメラは鈴樹、耀、鳳がそれぞれ迎え撃つ。
しかし――ここで芋キメラが意外な動きを見せた。のろのろと転がるだけだったキメラが急に加速度を増し、まだ覚醒を遂げぬ朋を狙った。
「きゃあ―!?」
体当たりをされる――そう思った瞬間、AIが反応し無意識に覚醒を遂げる朋。ぐん‥‥と胸が一回り大きくなり制服の布地がピンと張る。――だが、予想していた痛みはやってこなかった。
こちらもほぼ反射的に覚醒した俊哉がキメラと朋の間に割って入り、抜刀した夜刀神をキメラに突き刺し動きを止める。
「もっと緩慢な動きをすると思っていたが」
身を挺して庇うつもりでいたが、まさか真っ先に狙われるとは――まだ学ぶことも多いようだ。
刀を抜くと俊哉はそのまま距離をとり、二人は体勢を建て直しリンドヴルムを纏った――反撃は、これからだ。
「早くお二人に加勢しないと〜。働かざるもの食うべからずですよ〜。相馬さんファイト〜!」
「ああ、助かった‥‥」
傷の回復したユウリも芋キメラ班に合流しようとする。練力は‥‥もってあと10分だろうか。
治療を終えた希雪はユウリを送り出し、雲丹班と合流し戦う皆に練成強化をかけていった。
一方栗キメラを相手にする克は、月詠を鞘に収めたまま弓矢を番えていた。
『洋弓「シルフス」』というその弓は、向日葵がついたファンシーな弓矢である‥‥しかし、装備者にはなかなか似合っているようだ。
克の放った矢が栗キメラめがけ空を切る――矢の4連射を全て命中させると、栗キメラの動きがピタリと止まった。
そこへ
「栗きんとんの元発見、狩りの始まりだ‥‥!」
覚醒と共に不良化したスザクが、栗キメラのトゲ飛ばし攻撃をバックラーで防ぎながら堂々と接近する。
眼前に迫り、繰り出される栗キメラの体当たりをゼルクで弾き返すと、この後食材にすることを考慮しながらまずはトゲから排除していった。剣を振るたび、まんまるになっていく栗キメラの姿‥‥。
「トゲは、きかない‥」
飛んでくる棘を鍋のふたではじきつつ、月詠に持ち替えた克も近接攻撃へ加わった。素早く側面に回り、流し斬りでザックリと棘を削ぎ落とす。
強力な一撃を連続で叩き込まれ、栗キメラはぷるぷると震えた――
「世の中は弱肉強食だ! だから俺はお前を喰う! そりゃもうムシャムシャとなぁ!!」
スザクの言葉がキメラの死を宣言する――ゼルクでの一閃を避けきれなかった栗キメラは、そのまま動きを停止させるのだった。
続いて、生け捕りに燃えるのは雲丹キメラ班‥‥!
希雪がひたすら練成弱体をかけ、ノルマ達成に意欲を燃やす。
「ええ感じに弱ったみたいやな‥‥いくで!」
覚醒しリンドヴルムを纏った鳳は、雲丹キメラ一匹の動きを注視しつつ、相手が仕掛けてくるのを待った。
(「今やっ」)
雲丹が体当たりを仕掛けた瞬間を狙い、飛び込んできた雲丹をガッチリと抱え込む――!リンドヴルムの護りで痛みは感じないが、予想以上に暴れまわる雲丹。
鳳が三節昆を使い雲丹のトゲを削ぎ落とそうとするが、思うように作業が進まない。
「まあ、よく跳ねる雲丹ね」
菖蒲を使ってトゲを狙う鈴樹も又、暴れる雲丹の動きに苦戦する‥‥仕留めるだけなら簡単だろうが、中身のダメージを最低限にすることを考えるとどうも難しい。
武器をシルフィードに持ち替え、再びトゲを狙う鈴樹。しかし雲丹キメラの体当たりが先に繰り出された――鈴樹はそれをバックステップでかわす。
「あいた!?」
その時、何故か後ろを通りがかったユウリが鈴樹の体当たりをくらった‥‥。
「まぁ、ごめんなさいね」
「相馬さんいまサボってましたね〜。ペナルティで取り分無くしますよ〜」
ユウリがサボっていないかこっそり気にしていた希雪のコワーイ一言が飛び、ユウリは慌てて芋キメラの方へ走っていく。
そして‥‥耀は疾風脚を発動し、命中と回避を上昇させた上で雲丹との戦いに挑んだ。
さらに耀は限界突破で手数を増やすと、ベルセルクを抜く――自身の身長よりも大きな剣である。彼女は数度大剣を振り回し、絶妙な力加減で雲丹に大ダメージは与えぬよう、トゲを切り落としていった。
雲丹キメラもやられてばかりではない。体当たりの反撃を耀へと食らわせた――だが、耀は覚醒の為痛覚も鈍く、雲丹をガシッと鷲掴みしポツリ一言。
「しかし何故、畑に海産物‥‥」
きっと『俺は栗だ!』と思い込んでいるのではないか、この雲丹は。
こうして皆が暴れる雲丹と格闘をしていると、やがてキメラに変化が現れた。
「‥‥あかん、ぐったりしとる!」
トゲを落とされたまんまるになった雲丹は‥‥途端に力を無くした。鳳はあわててクーラーボックスにキメラを投入したが、もう暴れる様子もない。
「暴れて逃げ出さんよう、押さえ込んどくで!」
「生け捕りできた? すごいじゃない」
「やりましたね、鳳さん!」
鈴樹と耀が笑みを浮かべた。彼等が相手をしていた雲丹は生け捕りは難しかったが、辛うじて食べれる状態を残しつつ仕留めている――生は無理でも、塩漬けには問題ないだろう。
「すまん、遅くなったが加勢する」
ユウリが芋キメラ班へと合流した頃、朋と俊哉はAU−KVでの戦闘のコツを掴みつつあった。最初こそ戸惑い出遅れたりしたが、今では随分息の合った連撃を見せている。
朋が薙刀で芋キメラの胴部を横一閃し後ろに下がると、次は俊哉が前へ出て斬りつけるというヒットアンドアウェイの戦法だ。
(「間に入る余地も無さそうだな‥‥」)
ユウリは肩を竦めてみせた。だが、またさぼったといわれたらたまらない。得物を抜くと巨大な芋へと挑む。
「うむ‥‥良い形だ、うまそうだな」
ユウリの心の内を代弁するような台詞を言いつつ、スザクも合流した。ゼルクの躊躇い無い一撃を加え、後方に下がる。
そして、再び弓矢を番えた克の姿――
「あとは、芋だけだね」
気分が高揚している為か普段より流暢に言うと、矢を放つ。
最後は皆で芋キメラを集中攻撃、流石の巨体も、そろそろ崩れ落ちそうだ。
「もう一息ね‥‥!」
胸の苦しさも忘れ、朋が俊哉の姿を見て微笑んだ――AU−KV越しなので見えはしなかったが、伝わっただろう。
「‥‥ああ、仕留める――!」
息の合った二人の、止めの一撃が深々と芋キメラの体に突き刺さる――!
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こうして、無事『お節』の食材キメラは全て討伐された――。
「これで‥‥美味しいお節‥‥できるかな‥‥」
「食べたい‥‥! すっごく食べたい‥‥! でも今は我慢だ‥‥!」
巨大な芋と栗、そして雲丹! 食材を前にして、克とスザクがそれぞれ呟く。
「我慢しなくていいですよ〜お節の分だけ持ってかえりましょう」
「プラスチック容器、持ってきました! でも、入りますか?」
希雪と耀がお持ち帰り用の容器を取り出した。
雲丹もさっさと塩漬けにしたいから‥‥と、能力者達は村の集会所を借りると、そこの台所で料理をはじめるのだった。
以前にも栗料理の手伝いをしたことがあるという鈴樹は、しっかりと軍手を用意し栗キメラのイガをむいていた。
「100%栗だけの和菓子みたいな栗きんとんもいいわね」
これだけ栗が豊富だと、作ってみたくもなる‥‥さつまいもの量はもっと多いのだが。しかし、こうしていると鈴樹はどうみても”料理好きなおねえさん”だ。
「これだけ大きな栗だと渋皮煮は微妙ね〜。芋は小麦粉とあわせて、鬼まんじゅうにするのもいいかしら?」
家事全般が得意だという朋は、材料を見てすぐさまレシピを思い浮かべる。慣れた手つきで材料を切ると味付けし、火を通して形を整えてゆく‥‥。
「あなた、なかなか上手いじゃない? いいお嫁さんになれるわ」
「え、あたしが‥‥? ま、まだ早いですよっ」
突然の鈴樹の言葉に、朋は慌てすぎて頬が赤い‥‥。朋は照れ隠しなのか「お手伝いします」と100%栗きんとんを作り始める。
「こっちからは良い香りがするな」
ユウリが変な料理を作らぬように見張っていた俊哉だったが、懐かしいような栗料理の香りに惹かれて朋のもとへとフラリと姿を現した。
「あ、トシ! ぼーっとしてるなら手伝ってよねっ」
そして、問答無用で手伝わされる事となる。
一方雲丹であるが。
一個は塩漬けしてオセチ料理に、もう一個は焼き雲丹、そして‥‥生け捕りにした雲丹は生で食されようとしていた。
「ウニはやっぱり新鮮なやつの殻を割って、指で卵をすくって食うんが一番や」
とは、鳳の弁。
クーラーボックスの中の雲丹に止めの一撃を与え、ぱっくりと割る。
‥‥しかし、キメラ食は初めてな上『生』なので、最初に口にするのは躊躇われた。
「う‥‥相馬さん、先に食べてええよ。中に入っとる塊は5つやから、半分づつやね」
と、さりげなく生雲丹をユウリに渡す鳳。
「いいのか? いただきます」
そんな生ウニを、ちっとも躊躇わずパクリと食いつくユウリ‥‥。
「どうや‥‥?」
「‥‥・? 普通に美味いと思うぞ」
お料理レポーターだったら即降板になりそうな感想を伝えつつ、ユウリは生雲丹をペロリと食べた。
「雲丹は‥‥新鮮なのが‥一番だよ‥‥」
続いて克が持参した『マイ醤油』を取り出すと少しだけ垂らして、こちらも躊躇い無くペロっと食べてしまった。
「生は新境地ですね! いただきます」
そう言って、スザクも生雲丹キメラをペロリと一口。
(「あかん、兄さんら慣れすぎや‥‥」)
鳳も恐る恐る雲丹を口にした――それは口の中で蕩ける濃厚な雲丹そのもので、案外美味しかったとか。
「うん、いけるで。耀もどうや?」
「はい、いただきます」
雲丹は巡りめぐって耀の手の中へ。
「プリンに醤油‥‥あの時の壮絶な味と本当に似てるのか、確かめさせてもらいますよ‥‥」
と、耀が雲丹と睨めっこをしていると、プリンを手にした希雪がやってくる。
「プリンにお醤油‥‥丁度検証しようと思ってました〜相馬さんもどうですか?」
クルリ‥‥と希雪がユウリの方へ顔を向けると、つい隠れてしまうユウリだった‥‥。
「みなさん、お茶もありますよ〜」
耀が皆のお茶を用意し、テーブルに並べる。
そこには朋や鈴樹が作った栗料理に加え、耀作:バターと生クリームが隠し味の茶巾絞りもあった。
「耀さんもお料理が上手だわね」
鈴樹の言葉に、「有難うございます」とにこやかに返事をする耀。
「焼き雲丹も美味いな」
「そうね〜さっき甘い物ばかり食べてたから、雲丹もいいわね」
朋と俊哉も、料理を終えてお茶会に参加した。
美味しく料理された栗キメラきんとんを口にしつつ、ユウリを『食材キメラ好きの同類』と判断した克は
「相馬さん‥‥食材キメラハンターなんだ‥‥」
と、さりげなく聞いてみた。
「ああ、自称だが‥‥」
ユウリは茶巾絞りをもりもり食べながら答える。
「じゃあ‥美味しいキメラ‥‥。沢山‥食べてきたんだね‥‥。お勧めあったら‥教えて‥‥」
「オススメか? うーん、ドリアンとか美味かった。‥‥いや、戦いの後のキメラは何でも美味い!」
一つに絞れずそう叫ぶユウリだが、実は『味オンチ』なので何でも美味く感じているとか‥‥。
「やっぱり自分達で倒したキメラを食べるのは最高ですよね!」
ソウマの言葉に呼応するように、喰えないキメラは滅べば良いんだ !‥‥とスザクが叫ぶ。
「そうだな、次はハニワ辺り食ってみたい」
「ハニワですか。硬そうですけど食べれるんですか」
「ハニワは‥‥無理‥と、思う‥‥」
こうして、UPCの本部食堂には
『栗きんとん』
『雲丹の塩漬け』
の食材キメラが、無事に届けられたのだった。