●リプレイ本文
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家族に、カップル‥‥多くの宿泊客で賑わっていたホテルが惨劇の現場へと変貌するのに時間はかからなかった。
「‥‥さて、恋人ごっこはもう終わりました」
12F‥‥血塗れたフロアに一人佇む女。
こちらが本来の姿なのか‥丁寧な口調で呟き、かつて『恋人』だった男の死体を冷ややかに見た。
そして女は階段へ向かう――異変に気づいて駆け上がってきた従業員を、また一人殺して。
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ホテルの玄関前へ、能力者達を乗せた高速移動艇が到着した。
警官により周辺民間人の避難誘導がなされ、外の混乱は案外少ない。しかし、中の状態は‥‥。
(「この時期だし、時間を作って会ってた恋人たちもいただろうに‥‥」)
と、テミス(
ga9179)は考える。犠牲者を増やさぬ為にキメラ達には早々に退場願いたい。
ブレイズ・S・イーグル(
ga7498)は派手に割られたガラスを見、
「やれやれ‥‥随分と物騒な忘年会をやってるもんだぜ‥‥」
と、肩を竦めて言った。彼は癒えぬ怪我を抱いたまま、討伐と救出に向かう。
「被害をなるべく抑える為にも、急ぎましょうか」
静かに覚醒を遂げたアズメリア・カンス(
ga8233)の言葉に、シャーリィ・アッシュ(
gb1884)は頷いて答えた。
「‥時間をかけるわにはいかない‥‥一刻も早く、一人で多くの命を‥救わねば‥‥」
バスターソードを手にし、覚醒を遂げるシャーリィ。
1Fロビー――アタックビーストにより最初に踏み荒らされた其処は、魂なき肉体が横たわるエリアと化していた。
「では、作戦通りに行きましょう」
鳳覚羅(
gb3095)が声をかけ、皆が頷いた。
犠牲者を弔う気持ちを抱きつつ、能力者達は一人でも多くの生存者を救うため、上フロアへの階段を登っていく。
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広いホテルから効率よく生存者を探す為、能力者達は移動中に捜索ルートを決めていた。
まず、A班にブレイズ、五條 朱鳥(
gb2964)、橘=沙夜(
gb4297)。
A班は1Fから4Fまでのキメラを殲滅し、そこを拠点として各班への連絡や生存者の護送を行う。
次にB班には遠見 一夏(
gb1872)、シャーリィ、水無月 春奈(
gb4000)が。
B班は主に5Fから8Fのキメラを殲滅する。
最後にC班はアズメリア、テミス、抹竹(
gb1405)、覚羅の4人。
彼らは11Fまで非常階段で駆け上がりそこから下の階へと向かう。
「チッ‥‥もうこんなところに居やがるっ」
1Fから2Fへ向かう西側の屋内階段。そこを塞ぐ二匹のアタックビーストを発見し、朱鳥は舌打ちした。
キメラは階段で逃げようとした人々を捉えたのか、辺りには死体の山が出来ている。
退路を確保する為に纏まって行動していたA班とB班は、すぐさま武器を抜くと戦闘態勢に入った。
「覚悟は出来てんだろうな‥‥」
キメラを睨みつけ、ブレイズが覚醒を遂げる。
「こんな所で、足止めされる訳には――!」
リンドヴルムを纏った一夏はキメラを射撃し、春奈もヴィアで追撃を行う。
6対2‥‥この戦いは圧勝だった。能力者達の素早い攻撃に、キメラは容易く崩れ落ちる。
しかし――階段を陣取るキメラはこの二匹だけだろうか。
倒すのは容易いが、何匹も階段を陣取っているのだとしたら、自力で逃げ出した人々は全てそこで足止めされ、殺されてしまう‥‥。
「‥‥急ぎましょう――!」
無意識に声を発していた春奈‥‥6人は階段を足早に駆け上がっていった。
一方、C班はホテルの外に取り付けられた非常階段を上っていく。
途中、運良く非常階段から逃げ延びた宿泊客とすれ違う‥‥
「この階段は安全です‥‥このまま下まで降りて下さい」
抹竹は客を落ち着かせるように話しかけ、避難を促す。
「この階段は、キメラに荒らされてないわね」
「ハーピーを殲滅してしまい、こちらから客を避難させるのが良いかもしれません」
走りながらアズメリアが言うと、テミスが頷いた。
4人がそろそろ11Fに到達しようという頃
「――来るっ!」
抹竹が叫んだ‥‥ハーピーが一羽、非常階段にいる能力者達目掛け足爪を伸ばす――!
刹那に覚醒したアズメリアは小銃を抜くと、ハーピー目掛けて銃弾を放った‥‥三発の弾はハーピーの脇腹当たりを撃ち抜き、キメラの動きが衰える。
「空中からの攻撃とは‥‥やってくれるね」
黒い笑みを浮かべ、瑠璃瓶でキメラの顔を狙う覚羅。
―そこを的確に撃ち抜くと、さらに抹竹がスコーピオンでの追撃を行う。
テミスは弓を番え、胴に狙いを定めると矢を放つ――鈍い音と共に、ハーピーは体液を噴出させそのまま絶命した。
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その間、A班は2Fのキメラを殲滅し終え、3Fの会議室へ入ろうとしていた‥‥僅かながら人の呻く声がする。
「良く耐えたな。あたしらが来たから、もー大丈夫だぜ」
朱鳥は死体が折り重なる中から、息がある者の体を引きずり出す。
生存者を護衛しながら西側階段を降り、避難させてゆく朱鳥‥‥その心中は複雑だ。
(「ホテル以外は脇目もふらずに来て、上と下から同時襲撃なんて‥‥たかがキメラにしちゃ随分お利口でお行儀が良いじゃん?」)
階段という人が集まる場所を陣取るキメラを見ても、ただ獲物を捕食しにきただけのようには思えなかった。
(「これで機転まで利かせられたら、まるで頭がいて上手くこき使ってるっても考えられるかもな」)
依頼を受けた時点では何も情報がなかったが、敵は他にもいるかもしれない‥‥朱鳥は唇を結び、気合を入れなおして再び階段を駆け上る。
一方沙夜は、廊下を徘徊するキメラと動けない女性スタッフを発見した。
「今助けるからねっ」
竜の翼を発動し、一瞬にして女性の元へ駆けつける沙夜。
そのまま女性の盾となるようにキメラの前に立ち、刀を抜く。
「やぁっ」
沙夜が目を狙って刀身を振るうと、怯んだキメラに大きな隙が生じた。
‥‥その隙を見逃さず、女性を抱えあげるとその場から離脱する沙夜――そして。
「おうあぁぁぁぁ!!」
コンユンクシオを振りかざし、ブレイズがキメラを一閃した。
胴を斬りつけられ、キメラの標的がブレイズへと移る‥‥キメラは前足を振り上げ、彼の体を引き裂こうとした。ブレイズは辛うじて刀身で受け止めたが、体が軋む。
攻撃を弾き返されたキメラはそのまま後ろに飛びのき、再びブレイズに飛び掛らんとする――しかし、その攻撃は届かなかった。
ブレイズが咄嗟に振り下ろした一撃が、キメラの顔面に叩きつけられたのだ。キメラは両手剣の重み有る一撃を受け、顔を拉げさせるとそのまま崩れ落ちていった。
「ったく‥‥こっちは怪我人なんだから手間取らせんじゃねぇ‥‥」
3Fのキメラの殲滅を終え、やと一息つくと覚醒を解くブレイズ。
「怪我してるんだから、無茶しちゃ駄目だよ」
生存者の護送を終えた沙夜が声をかける‥そして、部屋を見回した。
(「下手に監禁してたりしないだけ、新バグア派のテロリストよりはマシだと思ったんだけどね‥‥」)
この惨状を見た後では、とてもそうは思えない。
そして、あまり休める状況でもなかった。
「悪ィな‥もうちっとだけ無茶に付き合ってもらうぜ‥‥!」
怪我を抱えた自身に言い聞かせ、4Fへ向かうブレイズだった。
そして3人はそのまま4Fまでキメラを殲滅し、無線機を取り出して連絡を入れる。
「こちらA班ブレイズ、そっちの状況はどうだ‥‥」
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4FまでをA班と共に制圧し、5Fに到達したB班。
「それにしても気に入らない‥これだけの数のキメラが、あたかも統制されているような動きをとるなど‥」
逃げる人々が集まる階段に留まり殺戮を繰り返すキメラを相手にし、シャーリィに嫌な予感が過る。
5Fに突入すると同時に、廊下を徘徊するキメラを発見した。
「アタックビーストは可能な限り私が引きつけます。その間にフロア内の捜索と救助を‥‥!」
シャーリィは凛とした声で言い放ち、前線でキメラを引きつける。
「あまり無理はしないで下さい‥!」
バスターソードを振り上げキメラを斬りつけるシャーリィの後ろで、一夏は特殊銃で援護射撃を行った。
銃弾を目に打ち込まれ足を止めたキメラに向けて、竜の瞳を発動させたシャーリーがその脳天を斬り払う。
連携を取りキメラを討伐していくと、エレベーターの前に辿り着く‥‥扉が開いたところをキメラに襲われたのだろうか、エレベーター内と開きっぱなしの入口付近には死体が連なり、装置は異常を訴え動かなくなっていた。
「‥‥酷い」
思わず呟く一夏。
そして、エレベーターを襲ったであろうキメラが客室の扉の向こうから現れる‥しかも、二匹だ。
シャーリィは再び剣を構え、
「退くものか‥‥己の背の向こうに守るものがあるのならば‥‥騎士に後退は無いっ!!」
透き通るような声で高らかに言うと、勢いをつけてキメラに斬りかかった――。
彼女らはキメラを殲滅し非常階段前まで移動する‥‥早速生存者の救出に向かう春奈。
まずは扉の開いた部屋に怪我をした生存者が居ないか探し、手当てを優先させる。
「少しだけ我慢してください。すぐ、病院にいけますからね」
初老の男性に手当てを施し、西側の階段から避難させていく。
また、春奈は閉じた扉もひとつひとつノックすると、
「残っている方、いらっしゃいますか? こちらのほうで扉を開けますので、それまでお待ちくださいね」
扉の向こうに誰かいないか、確認していった。
「子供の泣き声がします‥‥」
そこへ、殲滅を終えたシャーリィと一夏も合流する。
鍵を壊し中へ入ると、小さな子供を抱えた夫婦が身を寄せて震えていた――
「もう大丈夫です。敵は我々が排除しますのであわてずに避難しましょう」
春奈は夫婦にそう言い、小さな子供には微笑みを見せて柔らかく頭を撫でた。
「怖いお化けはお姉ちゃんたちがやっつけるから、ちょっとだけお外で待っててね」
子供はコクリと頷くと、両親に守られつつ歩いていくのだった。
B班は生存者を階段まで護送し、無線機で連絡を入れた。
「こちら、B班。生存者を西側階段まで護送完了」
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そして、11Fから討伐を開始したC班は、廊下を羽ばたく2羽のハーピーを相手にしていた。
「時間が惜しい。一気にやらせてもらうわよ」
アズメリアは月詠を抜刀する――この天井の低い廊下では、上手く狙えば月詠で攻撃を当てることも難しくはない筈。
「はっ」
掛け声と共に、羽を狙って刀を振り下ろす。
金切り声を上げながら高度を落とすハーピーの側面へ回ると、アズメリアは流し斬りを発動して追撃を加えた。
肉の裂ける音と共に飛ぶ血飛沫‥‥反撃を許さず、圧倒的な火力で沈めるアズメリア。
アズメリアと背中合わせになるような陣形で、テミスは矢を番えハーピーの羽を狙った。
放たれた矢が羽を射抜き、ハーピーが降下するとすぐさま刀に持ち替えるテミス。
「止めです‥‥っ」
横になぎ払うように斬り付けると、鮮血と共にハーピーの羽が宙を舞った。
そして――
一先ず殲滅を終え、一息つくテミスがふと口を開いた。
「‥何らかのトップとなる、知能のある敵もいるのでしょうか」
「多分、そうね」
テミスの問いに、アズメリアが同意を示した。
「そいつを見つけて、一発入れてやりたいですね‥‥」
‥‥きっと、皆も同じ気持ちだろう。
C班は非常階段から生存者を逃し、自分らも10Fへ降りると残りのキメラ達を殲滅しにかかった。
部屋の窓を割り侵入を果たすハーピー。
覚羅は莫邪宝剣での一閃で羽を斬り落とし、ハーピーが床に転がるとその胸目掛けて剣を突きたてた。―確実に止めを刺していく。
「‥まだ隠れているようですね」
そして続けて襲ってきたハーピーの攻撃を回避し、忍刀で追撃を入れる覚羅。
一度後ろへ下がると、抹竹の援護射撃が届いた。
「ふぅ‥‥」
狭いシングルの部屋で苦戦しながらも確実にハーピーを討伐していく。
そして、覚羅は部屋のバスルームに隠れていた宿泊者を発見すると、
「あなたたちは俺達が守るので安心してくださいね」
‥‥と、柔らかい笑みを見せて安心させ、護送を開始しようとする。
しかし、「待てっ」と止める抹竹の声が響いた。
一旦生存者を部屋に留め、廊下を覗くと‥‥多数のアタックビーストが押し寄せていた。
「‥‥く、こんなところまでっ」
アズメリアとテミスもアタックビーストに向けて走る――そこへ。
「――皆、目を閉じるんだっ!」
閃光手榴弾を手にした抹竹が叫んだ。
投げつけられる手榴弾、当たりに拡がるまばゆい光‥‥能力者達は目を閉じてそれを凌いだが、キメラは見事にくらったようだった。
「ありがとうございます!」
「一気に畳み掛けましょう」
優位に立った4人は、そのまま圧倒的な力でキメラを倒していく。
こうして、各班は連絡を取り合いながら、順当にキメラの殲滅を終えた。
助けた生存者の数も‥‥30人は越えただろうか。
依頼の結果としては成功と言える域に達しているだろう。
だが――
「事前に従業員リストも見たし、不審者に注意したけどさ‥‥見あたらねー。そっちはどうだ?」
生存者を逃し終え、朱鳥が各班に無線で連絡を入れた。
「こちらも、特には‥‥」
と、シャーリィからの返事が届く。
C班からの連絡も、特に不審な人物などは居ないというものだった。
「このホテルだけを狙って行動する‥‥。ここに重要なものがあったのかしら? それとも、ここだけを狙う理由があった?」
春奈が呟いた。そして、そう思っているの春奈だけではないはずだ‥‥誰もがキメラを操る存在を意識しながら、そこへ辿り着けなかった。
「キメラに聞かないとわからない、ですか」
「もう考えてもしょうがねぇ。これにて一件落着だ‥‥。今年はゆっくり休ませて貰うとしよう」
つい考え込んでしまう春奈の横で、ブレイズはそう言うのだった。
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時は少し遡る。
「さすがにここには上がってこないですね‥‥折角人質まで用意しましたのに」
――女は静かに笑っていた。
宿泊客であった少女の首に腕を回し人質として連れてきた女は、ホテルの屋上で待ち伏せていたのだ。
「恋人ごっこの後は、悪の中ボスごっこ‥‥したかったです」
残念そうに呟く彼女は――強化人間であった。
街を襲えという命令はあったものの、このホテルを選んだ理由は無く。
いまこの屋上で誰かを待っているのも、彼女の遊び心の一つ。
「‥‥正直こんなに早くキメラが倒されるとは思いませんでした‥‥お強い方々。いつか私の傷口も、抉りにきて下さいね」
女は能力者達に斬られ、撃たれ、血を流す自身を想像し――胸を高鳴らせた。
何故か口内が唾液で湿り、唇を潤ますと甘い吐息を吐く。
そして――。
ゴキリ
と、鈍い音が響いた。
「あ‥‥」
つい腕に力を入れた女は、人質として連れていた少女の首をへし折ってしまったのだ。
そして屋上に一人の少女の死体を残し――女は、消えていた。