●リプレイ本文
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「‥早く‥間に合って‥‥」
高速移動艇の中、白雪(
gb2228)の手には一通の手紙が握られていた。
(「‥安心なさい白雪。私が何とかして見せるから」)
彼女の心の内に、姉『真白』の声が響く。
由布院温泉へ到着した能力者らは覚醒を遂げ、金鱗湖へと向かった。
「置き土産‥ね‥‥。こんな‥避難民しかいない場所‥狙うなんて‥。許すわけには‥いかない‥‥」
幡多野 克(
ga0444)は静かな怒りを秘め、湖へと駆ける。
家を追われた人々‥‥その人々の癒しの時間さえバグアは奪おうというのだ。
「むぅ‥マッタリ過ごせる温泉地を荒らすなんて、許せないわ!」
ナレイン・フェルド(
ga0506)もバグアへの怒りを露にする。キメラに対しての憐れみはあるが、だからといってこの状況を放って置く訳にはいかない。
「ああ、癒しを求めてやってきた人々を、誰一人傷つけさせはしない」
頷き、夏目 リョウ(
gb2267)は愛機のAL−011「ミカエル」――『騎煌』に乗り、その機動力を活かし避難民を導いていく。
「俺達が来たからもう安心だ‥さぁ、慌てず避難場所に」
湖に向かう途中も逃げる人々へ声をかけ、避難ルートを示していった。
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金鱗湖の畔――そこで海亀キメラの姿を発見する。
「やはり逃げ遅れた方がいますね‥」
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)がキメラを見据える。
「避難誘導はまかせて、足止めはお願い」
シンと足止め班の皆に声をかけ、『真白』は湖畔を駆けた。それに続くように、克も避難誘導へと回る。そしてリョウは騎煌で一足先に誘導を開始していた。
「わかったわ、お願い! 亀さんはしっかり足止めしておくから!」
と、ナレインが答える。
戦闘班の5人はそれぞれ武器を構え、迎え撃つ体制を整えた。
「厄介な置き土産をするものですねえ。砲撃戦闘得意そうだし。白兵戦しかできないフェンサーには辛い相手ですねえ」
といいつつ、トクム・カーン(
gb4270)は楯を構える。
「戦場の風紀委員真帆ちゃん参上! 大分県はうちの田舎なのです。死守するです」
地元への想いが人一倍強い熊谷真帆(
ga3826)が銃でキメラを狙った。
そして、
「はい、頑張って温泉を護りましょう!」
リリィ・スノー(
gb2996)の両手には、その細身に似つかわしくない大口径ガトリング砲があった。
キメラの獰猛な視線が能力者らを射抜いた。
「亀は亀でも出歯亀や亀ラ小僧は、とても迷惑なのです!」
それを真帆が一喝し、脚を狙った銃撃を行う。
「なかなか堅牢な守りね」
ナレインも牽制の銃撃を行いつつ、呟く。
銃弾を受けじりじりと後退していくキメラ。
そして僅かに動きを止めたかと思うと、その巨体を震わせはじめた。
キメラの動きを観察していたシンがその異変に気づき、攻撃の手を止める。
――刹那、びっしりとキメラの甲羅を覆う棘が噴射された。
「!!」
かなりの飛距離をもつ棘攻撃――シンとナレインは間一髪で横へ飛びのき回避。真帆とトクムはとっさにシールドでその攻撃を受けた。
「ほんと厄介な攻撃パターンだよなあ。‥スキルで一気に接近肉薄できないかな?」
苦笑するトクム。防ぎきれなかった棘を受けた右腿が血を流していたが構わずスマッシュと円閃を発動させ、キメラの首を狙う。
直刀での一撃はキメラの喉もとを裂き、そこから鮮血が吹き上がった。
「トクムさん、避けてください―!」
攻撃を終えたトクムが後方へ飛びのき、さらに後ろからリリィの声が。
――刹那、彼女のもつガトリング砲が強弾撃と共に火を噴いた。
一度に50発も発射された弾丸は、キメラのあらゆる部分を撃ちぬいてゆく――!
棘先が欠け落ちたキメラを見、真帆が武器をイアリスに替え棘を回避しながら距離を詰めた。
「もう逃げられませんよ」
豪破斬撃と急所突きで一撃を加え、離脱する――それを繰り返しながら、徐々にキメラを水際へ追いやっていく。
淡水が嫌いだというこのキメラは、水の中に逃げはしないだろう。
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そして。
「やっぱりキメラじゃない」
顔を引きつらせ、湯上りの白石ルミコ(gz0171)が建物の外に出た。
「ねーさん?」
ニキもキメラの姿に驚き、そして能力者の姿を見て安堵する。
そんな二人が立ち竦む中、『騎煌』と共にリョウが駆けつけた。
「大丈夫? 走れるかい?」
と、心配そうに二人に問う。
「ええ、なんとか大丈夫よ」
「そうか、でも湯冷めをしたら大変だ」
二人の寒そうな服が気になり、リョウはAU−KVを身に纏うとはためくレッドマントを外して二人にそっと羽織らせた。
「良かったら何処かに落ち着くまで、2人で使ってくれよ」
バイザーを上げて微笑むリョウ。そしてすぐバイク形態へ戻すと走り去っていく。
「あ、ありがとっ‥‥って、いっちゃった」
変身シーンがやっぱり特撮ヒーローっぽいと思うルミコだった。
「ねーさん、にげよう」
ニキがルミコの服の端を握ると、「こっちよ」と聞き覚えのある声が耳に届く。
「あ‥‥白雪‥さん? 来てたの!?」
「少し嫌な予感がしてたのよ‥大丈夫? 怪我はない?」
『真白』が尋ねる。着物姿に靡く白髪――覚醒を果たした彼女には何度助けられただろう。
二人を安全な場所へ誘導し、辺りの怪我人を確認すると『真白』は真剣な表情でルミコに救急セットを手渡した。
「白石さんに手伝って貰いたいんだけど‥‥ここの怪我をしている人たちに手当てをしてあげて?」
「まかせて! そういうことなら協力するわ」
ルミコの返事を受け『真白』は頷き、そしてニキには呼笛を渡した。
「危なくなったら吹いて、必ず駆けつけるから」
一方、克は。
特にキメラに近い場所から、動けぬ人々に声をかけていく。
「避難場所はあっち‥動ける?」
克が尋ねると少年が首を振る。その傍らには、妹らしい少女と祖母らしき老婆の姿もあった。
「しっかりつかまって、走れる人はついてきて」
克は豪力発現を使い筋力を一時的に高めると、両手に少年少女をかかえ、背に老婆を背負い通りを走る。
こうして一般人の避難誘導を果たし、克は他のメンバーへと連絡をいれた。
「こちら避難完了、戦闘班に合流するよ」
「了解、俺は護衛にまわる」
リョウは逃げる人々の背中を守るため、白きヨロイを身に纏う。
「行くぞ騎煌‥武装変!」
戦闘の余波が及ばぬよう、インサージェントを構えた‥‥一般人に被害が及ぶようであれば、身を挺して庇おう。
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避難完了の報を受け、戦闘班の反撃が開始された。
銃で牽制をしていたナレインが、瞬天速を発動し一気にキメラとの距離を詰める。
そしてキメラの首下へと潜り込み、瞬即撃を発動した。
「ハッ」
地面に手をつき反動をつけ、キメラの顎を長い脚で蹴り上げた――靴に装着された『刹那の爪』が喉を掻き切る。
着地したナレインは、キメラが怯んだところを小銃に仕込ませた貫通弾で脚を狙って射抜く。その圧倒的な行動力で、敵を追い詰めていった。
そして真帆が隙をつき、キメラの露出した柔らかい部分を流し斬りで何度も斬りつける。
大量の血を滴らせながらも、キメラは水弾を吐く動作をとり‥‥喉奥からゴポリと水の塊を吐き出した――!
「撃たせるかっ」
SeeleとLichtによる二連射で、シンはキメラと水弾を撃った――眼前で水塊が弾ける。
連射された水弾はリリィをも狙ったが、彼女は横に飛びのき回避、攻撃に転じた。そしてリリィの手により砲撃は放たれる、だが――
「‥‥! 殻の中に‥」
リリィの声に皆が視線を向けると、頭と手足を甲羅の中に収めたキメラの姿があった。
トクムがその剣でキメラの甲羅を攻撃してみるが、堅牢な甲に弾かれ思うように攻撃が決まらない。
「威力がまだまだ弱いか。残念だけど‥‥」
けどいつかは覚えたい一撃必殺の居合斬り。こんな時に名刀名剣が思い浮かぶのは刀マニアの本性だろうか。
「しかし! 威力足りなければぶっ倒れるまで何度でも斬りつけて見せる。錬力充填! 一撃必殺!」
トクムは気合も新たに、武器に己の力を注ぎキメラの甲羅を斬りつけた‥‥その一撃は、内部にも響いたに違いない。
やがて殻に篭ったままのキメラの体が震え、棘が飛ぶ予兆が現れた。
「――来る!」
キメラの動向を観察していたシンが皆に危険を報せる。
皆が回避と防御の動作を取る中、キメラの棘が全方向へ飛んだ――!
「詠え、宵姫!」
そして凛とした声と共に、放たれたソニックブームが棘を迎撃した‥‥『真白』だ。
「シン君待たせたわね‥‥援護するからよろしく!」
彼女はシンに声をかけ、甲羅にぽかりと開いた穴を狙い、暁姫と名づけた血桜で斬撃を繰り出した。
‥さらに両断剣と二段撃を使用した強力な一撃を加えて『真白』が離脱すると、シンが二連射を連発して追撃を行う。
「沈めっ!」
エネルギーガンによる知覚攻撃は、甲羅内部の本体にもダメージを与えているようだ。
そしてキメラの側面から、小銃による援護射撃が放たれる――誘導を終え駆けつけた克であった。攻撃の手を止めず、キメラにプレッシャーを与え続ける。
「‥虐めみたいですが、悪い子は容赦なしです!」
これも全て由布院の平和のため! スパークマシンで波状攻撃を仕掛けた真帆は、武器をクラーヴェに替え連続突きを繰り出した。
続けて白雪のスキルを乗せた斬撃が叩き込まれ、いよいよキメラの甲羅に亀裂が生じる。そして、ボロボロになったキメラがのそりと首を出した。
(「‥今だ」)
克が月詠を抜きキメラに肉薄する。そして側面から僅かに覗いたキメラの頭に、紅蓮衝撃を併せた急所突きを放つ。その衝撃でキメラの甲羅が崩れ、中の弱い部分が露になった。
‥‥堅牢な守りが崩れればあとは容易い。
キメラの喉を掻き切るナレインの足爪――それが致命傷となり、まるで違う生き物のような哀れな姿になったキメラは、大量の血液を垂れ流しながら活動を完全に止めた。
「あなたに恨みはないけど‥‥ここに来てはいけなかったわ」
――キメラの骸に投げかけられたナレインの声が、静かに響くのだった。
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キメラとの戦いが終わり‥
「こんにちは白石さん、ニキさん。ご無事な様で何よりです」
覚醒を解いた白雪は、避難したルミコとニキの元へ戻る。
「ええ、有難う! みんなの治療はばっちりよ」
落ち着いたルミコは再会に笑顔を浮かべ、道具を白雪に返す。その後ろにシンの姿も見つけ、手を振って見せた。
「なんとか退治できましたよ‥‥結構手こずりましたけれどね」
『それより、二人とも無事で何より』と添えるシンの言葉に、ニキも改めて御礼を言い再会を喜んだ。
白雪はふと辺りを見回し、そこに居ない人物を思い出し首を傾げる。
「ところでマモル君は‥‥お留守番ですか?」
「うん。あまり家族と旅行したくない年頃なのよー」
弟の近況を報告すると、白雪と顔を見合わせ苦笑してみせるルミコ。
そして
「みなさんにもお礼を言いたいの、いいかな?」
能力者への憧れが消えぬニキは、再び頼み込むのだった。
「そうね! お礼と一緒に足湯にでも楽しみましょ。そういえば外国にも温泉ってあるの?」
「ドイツにはFFKという、日本の温泉に似た文化がありますよ。ドイツでのそういった裸の付き合いは、歴史的背景もあって普通のことなんですが‥‥外国の方は驚く人も多いですね」
ルミコの唐突な質問に、淡々と返すシンであった。
こうして、避難していた人々が戻り再び賑わい出した温泉街。
「さて、錆ついてもらっては困るからねえ。後で打ち粉を振って拭い紙、油を準備して手入れしないと」
剣についた血脂を拭いとり、トクムが呟いた。戦闘後に真っ先にそれを行う彼からは、武器への愛着が伺える。
「ここ‥温泉街だよね‥‥。温泉‥浸かって帰りたい‥な‥」
一方、賑わいを取り戻した街を見て克は呟いた。
「ねぇ、足湯が空いてるわ! 一緒に癒されに行かない? 一緒のお風呂に入れば、グッと仲も深まるし♪」
克と他の皆にも声をかけ、ナレインはウキウキと足湯へ向かう。
「いいですね。プリン買って行きますよ」
救急セットで負傷者の治療を終え、真帆も一息つきつつ笑顔を浮かべた。
「足湯も気持ち良さそうですね。ご一緒させて下さい」
リリィが微笑みつつ頷く。
この状況の中、ゆっくり入れないのが少し残念ではあったが足湯も魅力的だ。きっと戦いの疲れを癒してくれるだろう。
「キメラ退治、お疲れ様」
足湯に向かうと、一足先にリョウが居た。周りにはなにやら‥‥小さい子供が数人いる。
「人気ですね?」
「ああ、懐かれたみたいだ」
リリィがくすっと笑うと、リョウが爽やかに笑いつつ答えた。どうやら特撮ヒーローの如き変身が気に入られたらしい。
そして、ナレインは靴を脱ぐと足首を出し、少し高い温度の湯に足先をつけた。
「はぁ〜気持ちいいわね〜次来る時は温泉にちゃんと浸かりたいな〜」
まるで体の毒素が足先から溶け出していくような感覚に、ナレインはうっとりする。
真帆はスカートのかわりに水着を装備し、足湯に設置されたテーブルへプリンを並べた。
「ふふ、デザートにプリンを食べるのが由布院通なのです」
「‥プリン‥美味しい‥?」
克は足湯で疲れをとりつつ『お土産にプリンもいいかも』と思ったとか。
そこへ、シンと白雪に案内されたルミコたちがやってきた。
「あ‥‥! マント、有難うございましたっ」
リョウの姿を見つけ、ニキはどこか緊張した面持ちで丁寧に畳んだマントを差し出す。
「君も無事なようで安心したよ。あっ、俺は夏目リョウ、宜しく」
ニコっと爽やかに笑うリョウ。
「皆さんもキメラ退治して下さって有難うございます」
ニキが皆に礼をいうと、温泉堪能中にキメラの襲撃なんて不運だなぁ‥とちょっと同情しながら、ナレインが微笑み返した。
「はじめましてね〜私はナレインよ♪」
「私はルミコです♪ あと妹のニキね。よろしく♪」
勿論、初めて会ったルミコらは彼が男などとは気づかない。
こうして最後は皆でマッタリ足湯を堪能することに‥‥なったのだが。
「温泉っていったらお酒よね! ということで用意しましたっ! 飲めないみんなにはジュースねっ」
何かと飲もうとするルミコ、いつ買い込んだのかここでも酒瓶を取り出し『出会いに乾杯』が始まっていた‥‥。
「‥‥白石さんもう酔ってません?」
ルミコのテンションの高さに、不安に駆られる白雪だったが、
「心配しなくても大丈夫ですよ。以前似たようなことがありましたし‥‥どう対応すればいいかは分かりましたから」
隣で、シンが顔色も変えず答えるのだった。
そして‥‥温泉を守護しながらも足湯しか堪能できなかった能力者らに、ルミコからお土産で『入浴剤セット』が贈られた。‥‥実に微妙な土産である。
その中の手紙には、『由布院、別府、阿蘇‥‥九州には温泉もいっぱいあるし、今度ゆっくり遊びにきてね!』と添えられていた。