●リプレイ本文
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「ZZz‥‥は!? 起きてます‥‥レミりん、まずは避難誘導ちゃんとしようね‥」
一応起きていた佐倉・咲江(
gb1946)は、友達のレミィ・バートン(
gb2575)に声をかけ移動艇から降りる。
頑張ろうね、と答えるレミィは笑顔を浮かべた。
能力者達の到着時、逃げる人々で入口はごった返していた。
南側には正面入口、北側には非常口‥‥能力者達は二手に分かれ、客の誘導と鬼退治を行う。
「無理やり食わすんはあかん。心がこもってへん。恵方巻きは全部没収や! ‥おばちゃんごめんちょっと通らせてな」
強化人間に怒りを覚えつつ、鳳(
gb3210)は正面入口からスーパーへ突入した。
「ばーちゃん、大丈夫やさかい、ゆっくり移動してや」
老女には手を貸しつつ、出入口へと導く鳳。
そして、同じく正面から避難誘導をするレミィは、既に覚醒しAU−KVを纏っていた。
覚醒時の光の翼は、『ミカエル』を装着していても現れる。
「おいで! こっちよ!」
その姿で誘導すれば、子供達は目を輝かせてついていくのだ。
そして裏の非常口。
こちらは直接売り場とは繋がっていない為か、人の姿は殆ど見当たらない。
「これが、LHにきて初めての依頼か‥‥」
緊張気味な声でウラキ(
gb4922)が呟いた。
「さぁ、行くか」
前を見据えて、唇を結ぶウラキ。
まずスタッフルームに入り、残っている人を探す‥‥幸い、従業員らは既に非常口から逃たようだ。
「私は子供中心で誘導‥‥大人は、よろしく」
と、続いて咲江も店内に。
そして『騎煌』と名づけたAU−KVに跨る夏目 リョウ(
gb2267)の姿。
「ご近所の主婦や良い子達の平和を守る為、鬼は外だ!」
助けを求める声には敏感なのさ‥‥と言い、騎煌を駆るとそのまま突入した。
器用にスタッフルームを抜け、店内に入るバイク――そして子鬼に襲われそうな人を見つけると、その間に割って入った。
「俺達が来たからにはもう安心だ、さぁ、今のうちに避難して」
爽やかな笑顔を浮かべ、庇った少女に声をかける。吊り橋理論により少女が恋に落ちそうになったのは言うまでも無い。
さらに非常口からは。
「強化人間だろうがなんであろうが、バグアには違いないね〜。さあ、いこうかね」
ドクター・ウェスト(
ga0241)は十字架のネックレスをくるくると回し、ポケットへと仕舞いこむ。
そしてウェストに続く瓜生 巴(
ga5119)の姿。
「北東って縁起が悪いんでしたっけ」
非常口が北東にあったのが気になるらしい‥‥が、ウェストに確認しても分からないでしょ、だってイングランド人だもん。
「あの食べ物は何なのだね? 昨年もULTだったか支給されたのだがね〜」
「あれが恵方巻ですよ」
逆に巴に問いかけるウェストであった。
‥‥そして最後に非常口に姿を現したのは。
「分不相応なことをする輩は、とっとと舞台から降りてもらおう」
酒瓶片手に千鳥足、鬼太鼓面をかぶったその姿は鬼非鬼 つー(
gb0847)。
赤鬼を名乗るにどちらが相応しいかと、不敵な笑みを浮かべつつ強化人間へ挑むのだった。
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店内で暴れるキメラは。
「わ。小鬼じゃなくて子鬼なんですね。子供ってどんな生き物でもかわいいわね」
人間の子供のようなラブリー姿に、そんな感想を出しちゃう巴だった。
しかし攻撃は躊躇わない‥‥子鬼に接近すると、振り回される金棒をかわし機械剣で反撃に移った。攻撃後の隙を突き、側面から剣撃を当てる。
同じく子鬼相手のウェストは、電波増幅を発動した。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
キラリと伊達眼鏡を光らせる‥‥行動力が上がるまで強化されたその眼鏡は、もう『伊達』の域を超えている気がしてならない。
「我輩が早いわけではないのだがね」
科学者でありながらその圧倒的な行動力で子鬼を捉えると、機械剣で胴を一閃。
うめき声が鬼の口から漏れた‥‥そして子鬼の怒りの反撃は、逃げ遅れた客へと向けられる―!
――身を挺して庇いその一撃を受けるウェスト‥‥服へと血が滲む。
しかしそのままウェストは子鬼へと機械剣を振り下ろした。
ウェストが反撃をした隙に、巴は客を出口へと導いていく。
「む‥‥やつらはLHの能力者か!」
恵方巻を食わせていた強化人間――通称赤鬼が異変に気づいた。
「く、能力者とて同じこと‥‥わしの太巻きを食わせてやるっ!」
赤鬼は怒りに燃え、手中の恵方巻を手近に居た客に食らわせた。
苦しむ客‥‥そこへ、瞬天速を使ったつーが駆けつける。
つーは赤鬼から客を引き離し、ウラキに預けると赤鬼と対峙する‥‥
「やぁ、随分と羽振りがいいじゃないか、ご同輩?」
まるで挑発するように酒を呷ると、装備した着物の上半身部分を脱いだ。
覚醒を遂げたつーの姿は、真っ赤に染まった体、頭には実体の無い角が生え、まるでもう一人の『赤鬼』。
「貴様では役不足だ、人間」
強化人間に言い放つ。
つーの姿の前では、全身にボディペインティングを施しただけの赤鬼強化人間の姿は随分貧相に見えたという。
ウラキはつーから預かった客を出口へと誘導した。
「‥出口は向こうだ、さあ」
動けない人には声をかけ、キメラの攻撃から身を挺して庇いつつ安全を確保するウラキ。
「‥‥肩を貸すよ。非常口から出よう」
事務的な言葉ながらも、優しい声。助けられた客はウラキに礼を言い、頭を下げた。
一方、咲江は恵方巻売り場に近い場所で倒れている子供を抱き上げ、あやしながら出入口へと走る。
店から無事逃げ出した客は、鳳により駐車場の奥へ誘導されていた。
(あのオバチャン、大根持ったままやん‥‥)
誘導しつつも、おばちゃんの持つ未会計な大根が気になる鳳。
そして入口に客が殺到すれば、将棋倒しにならぬように体を張る。
「おっちゃん、押したらあかんて。押さんといて〜〜」
まるで満員電車‥‥ある意味ここも戦場だ。
こうして店内の客の誘導を終えたところで、新たな問題が発生。
「ん、その子どないしたん?」
「迷子‥」
鳳の問いに咲江が答えた。彼女の腕の中には、抱きかかえてきた子供の姿。
「何や、おかんとハグレたんか? 心配あらへん、兄ちゃんが探したるさかい」
その子供の目の高さに合わせて身を屈めると、鳳はにっこり笑って安心感を与え親探しへと走っていく。
そして、
「サキ。店内どうだった?」
咲江の姿を見つけ、入口付近で子供らの誘導をしていたレミィが問った。
「鬼は家、福も家‥。皆仲良く恵方巻‥とはいかなさそうな感じ‥‥」
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混乱を極める店内では。
子鬼に襲われていた少女をお姫様抱っこで浚うように助け出し、誘導班へと預けたリョウ。
今度は棚の上に飛び乗り、赤鬼にビシッと指を突きつける。
「これ以上、お前の好きにはさせないぞ‥‥俺は、特殊風紀委員の夏目リョウ。いくぞ騎煌、武装変!」
バイクで飛び込んだのはもちろんこの演出の為!? リョウは棚から飛び降りるとAU−KVを装着。
変形し、白きヨロイとなった『騎煌』を身に纏うリョウ‥‥背につけられた真紅のマントが靡く。
「学園特風カンパリオン、恵方の守りに只今参上!」
そのマントを翻し、最後はポーズを決め‥‥決まった!
‥‥しかし空気読めない子鬼キメラが一匹、リョウの背後に忍び寄り金棒を振るう!
――ゴンッ
「‥‥っ!」
名乗り終わるのを待つキメラは居ません!
子鬼の攻撃を受け、リョウはインサージェントを構えると怒りの一撃を放った。
そこへ――誘導を終えたレミィが駆けつける。
手には、散豆銃『鬼撃招福』‥‥何故か豆を発射する散弾銃で、正に鬼向きの武器だ。
その銃にウェスト特製の貫通弾、『暗殺大豆』をセットする。
ウェスト曰く『まさにウェスト研究所、脅威の科学力という奴だね〜』という貫通弾だったが、実は貫通弾の先に接着剤で大豆をつけただけという代物だ。
「鬼は〜外ってね! コレでもくらいなッ!」
弾は豆だが牽制や不意打ちにはなるはず。
レミィはその威力を信じ、子鬼目掛けて銃撃を放つと‥豆が命中した子鬼は思いの他痛がった。効果有り?
尽きるまで豆をくらわせ、ツインブレイドを構えるレミィ。
続いて咲江が子鬼の前に躍り出ると、手足を狙いサパラで斬りつける。
「く、変な鬼でも力は本物‥‥」
攻撃を終え咲江が下がるとレミィは連携をとり、剣を回転させながら子鬼との距離を詰めた。
「これでどう!?」
勢いをつけ袈裟斬りし、続いて水平に薙ぎ払い、最後に突きを繰り出す‥‥その一撃は子鬼の胸部を貫いていた。
仕留めたことを確認すると、ツインブレイドを回転しつつポーズを決めてみるレミィ‥‥幸い、後ろからどつく者は居ない。
一方。
キメラの容姿、能力、攻撃性能、そしてFFの強度を観察しつつ、ウェストは巧みな剣撃で子鬼キメラの息の根を止めた。
「強化人間も調査したいね〜」
キメラの細胞サンプルの採取を試みる前に、赤鬼と戦うつーへ練成強化をかけるウェスト。
もう一匹の子鬼は、巴の手により葬られていた――。
(「悪く思うなって台詞も、楽な死に方って考えも、陳腐なものですが」)
個人主義の巴は『バグアだから』といって否定はしない。
複雑な思いで子鬼の骸を見下ろした‥‥そして赤鬼に向き直る。
「さて、親鬼のほうは、好んでお近付きになりたいタイプじゃないし」
と、赤鬼に対しては傍観を決める巴だった。
残るは赤鬼。
つーは振り下ろされる金棒を鬼金棒で受け止め、反動で弾き返す。
弾いた金棒を踏みつけ、つーは赤鬼に問うた。
「さあ、大人しく捕縛されるか、痛い目に遭ってから捕縛されるか、選ぶがいい」
金棒を拾おうと身を屈める赤鬼――その頭目掛けて、鬼金棒がフルスイングされた。
脳まで響くつーの強打。赤鬼はよろめき、金棒を諦めるとパンツの中に手を突っ込む。
「くらえ、恵方巻!」
パンツの中から取り出されたのは恵方巻だった――奴のパンツは四次元か!?
衛生上問題ある恵方巻きをつーへと投げつける!
「恵方巻なんて食べたら腹壊すだろうが」
くらってはたまらない‥‥つーは攻撃の手を止めると飛び退きながら回避した。
そこへ‥‥
「生憎だが、お前の恵方巻の太さは校則違反だ!」
無礼な子鬼を退治したリョウが駆けつけ、追撃する。
「そんな校則しらぬわ!」
「恵方巻‥凄く、大きいです‥‥」
尤もなつっこみを返す赤鬼に、加勢した咲江が非難めいた視線を送りつつ一言。
「証言もある! 危険物として、直ちに没収する!」
攻撃を仕掛けつつ、恵方巻を狙って没収に動くリョウ。
対赤鬼戦は乱闘となる――
「ドクターの豆貫通弾‥‥試してみるか」
誘導を終えたウラキが駆けつけた頃にはそのような状態だった。
隠密潜行で気配を断ち、赤鬼を狙うウラキ。手にした『暗殺大豆』をスコーピオンにセットする。
(「こういうのは、背後を取った方が有利だ」)
赤鬼の背後へと回ると味方の攻撃が止んだ隙を突き――
「見えた。撃つ!」
放たれたウラキの銃撃は、赤鬼の手首を貫いた。
「ぐあぁぁ!」
恵方巻を落とし、手首を押さえる赤鬼。
そこへ、大急ぎで飛び込み変な方向に立塞がる鳳の姿――!
「お仕置きやで〜!」
混乱の元凶に痛い一撃が飛ぶ。
能力者達に囲まれ多勢に無勢、赤鬼大ピンチ!
仲間の連撃で弱った頃を見計らい、つーは瞬天速で赤鬼へ肉薄した。
「鬼の名を穢した報いを受けよ!」
―刹那に瞬即撃を発動し鬼金棒へ渾身の力を込め、赤鬼の脳天へ叩きつける―!
‥‥その一撃を受け、赤鬼は後ろへ倒れこむのだった。
気を失った赤鬼を縄でせっせと縛る咲江。
「捕縛完了‥‥亀甲縛り?」
‥変な縛り方なのは気にしちゃいけない。
リョウはその上から真紅のマントを掛け鬼を簀巻きにする。
「完成、真紅の恵方巻! どうだ、俺の巻いた奴の方が太いぜ」
超立派な赤鬼巻である‥食べれはしないが。
店内に戻ってきた従業員の間で歓声と拍手があがった。
こうして赤鬼退治されたスーパー‥‥しかしまだ終わっちゃいない。
「次は私が退治されなくてはな」
覚醒を解かず、赤鬼姿のままでつーが言う――即席節分イベントの開始である。
「今日は、鬼が退治される日だ。みんな遠慮なくぶつけてくれ」
そう宣言するつーに、客と従業員らは遠慮がちであった。
だが、
「鬼は外ー!」
威勢良い声と共に、つーへ思いっきり豆を投げつける鳳‥‥まるで銃弾のような豆攻撃!
「鬼でも人の心を持った鬼は仲間よ、一緒に戦った仲だしね! って事で鬼も内〜」
続いて、レミィも参戦する。
それを見て、楽しそう! と思った従業員と客は、商品の豆袋を開けるとつーへ向けて豆を投げ始めた。
「この豆は投げられたら痛いだろう‥‥」
そう思いつつ、ウラキも思いっきり投げまくる。
豆の洗礼を浴び店の中を逃げ回ったつーは、『鬼はそとー!』の合唱と共に正面玄関から飛び出していった。
‥‥何気に今回の依頼の中で一番ハードな攻撃になったようだが、こうして無事に節分イベントも終わりを告げるのだった。
「商品棚の残骸は倉庫に運んどくけど、それでえぇ?」
嵐の過ぎ去った店内では、従業員と共に残骸を片付ける鳳の姿があった。
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「無理矢理食べさせられない恵方巻を一緒に食べよ‥? 一杯あるから‥」
スーパーで恵方巻を買い込んだ咲江がレミィを誘う。
「美味しそう! ‥今年の恵方どっちかな」
「えと‥‥東微北」
恵方巻を手にし、東北東を向いて齧り付く二人。
節分も終わりに近づき、能力者らは飲み会に突入していた。
流石にパンツの中から出た恵方巻は食べれないが、店からもらった恵方巻も並べて軽くパーティー気分。
「方位磁石で恵方もバッチリさ!」
「乾杯や!」
笑い、ジュースの入ったグラスで乾杯するリョウと鳳。
齧り付ついた恵方巻は空腹も手伝って美味だった。
その場には、お酌を乞われたシャオラ・エンフィード(gz0169)の姿もある。
「大怪我されてたので何事かと思っちゃいました」
つーの大盃『桜』に酌をしながら、シャオラが呟く。
しかし当の本人は怪我も気にせず、程よく温められた酒に酔いしれていた。
「酒は燗、肴は刺身、酌は髱、さ」
つーの目の前には刺身の並ぶテーブル。髱とは若い女性をさすが、シャオラは解らず首を傾げた。
「これは中々‥‥」
ウラキは熱燗を呷り、程よく酔いはじめていた。そして貫通弾の礼を言おうとドクターを探すが‥‥居ない。
「あの人なら、サンプル採取してさっさと帰りました」
素面のまま、巴が答えた‥‥アルコールに弱いんですよ、ドクターは。
巴は酔うために飲む訳じゃなく、ソーダで割ったものを口にしては喉への刺激を楽しんだ。
そして、夜が更ける。
節分の今日、鬼としての役目を終え。
大盃を手にし月を仰ぎ、鬼非鬼が呟いた。
「酒に対しては当に歌うべし、人生幾許ぞ」