●リプレイ本文
●潜水日和
サバヒー型キメラが現れたという南海のダイビングスポットは、透きとおる碧の水面に陽光を反射させ眩しくも美しい。
「またやってきましたー、南国万歳ってね」
煌く海面を懐かしそうに見つめ、神凪 久遠(
gb3392)は嬉しそうに言う。
「綺麗な海ですねえ‥‥透明度高そうですから、見えやすいですね? 終わったら、泳ぎたい気分です」
神森 静(
ga5165)は桜色でパレオ付きのビキニで参戦。綺麗な背中がタンクで隠れてしまうのが惜しい。
「エアタンクって重いから嫌いなんだけどな‥‥」
と、久遠もよいしょとタンクを背負う。
一方、黄色フリルの可愛らしい水着に身を包むのは西村・千佳(
ga4714)だ。
「冬に水着を持ち出すことになるとは思わなかったにゃねー」
しかしフィリピンは水温も適温。温かい。
「うに、それじゃあハルカお姉ちゃん行こうにゃ♪ さっと捕まえてお魚食べるのにゃ♪」
「おっけ〜千佳ちゃんいこっか♪」
白ビキニで巨乳をたゆんと揺らすハルカ(
ga0640)に、背中から抱きつく千佳。
「‥‥なかなか高得点にゃね」
もちろんしっかり抱き心地もしっかりチェック! 抜かりない。
女の子がキャッキャしている後ろでは、イスル・イェーガー(
gb0925)が少し不安そうに準備をしていた。
「‥‥水中戦って初めてだけど‥大丈夫かな」
「うぅぅぅ〜‥‥みぃだあああぁぁぁ、ぜ!!」
しかし、ペアを組む従姉妹のエミル・アティット(
gb3948)は超ハイテンション、気遣うどころか会話もかみ合っていない。
「にゃっはは〜。せっかくなら泳ぐのを楽しんでもいいんだよな? 水着だって新しいの準備したんだし」
黄色いビキニタイプの水着をイスルに披露する為上着を脱ぐエミル。勢いで下乳が少しはみ出ていたが見なかったことにしよう。
そのまま海に飛び込むエミルを追うように、イスルは慎重に海へ。
「‥エミル、援護するから‥‥でも無茶して突っ込みすぎないでよ‥‥」
早速顔を赤らめつつ不安を増すイスルに対し、エミルは「まかせろ!」と暢気に答えた。
そして、イスルとは別の意味で少し緊張した面持ちの少女。
「ちゃんとしたお仕事は初めて緊張しますね」
水泳部のホープ、卯月 桂(
gb5303)だ。水着は慎ましやかな紺色の旧スク水、細身の体によく似合う。
「しっかりサポートするからね、がんばろう!」
こちらは本格的な競泳水着の先輩、レミィ・バートン(
gb2575)が後輩へ太陽のような笑みを向ける。ボーイッシュなショートカットに良く跳ねたアホ毛、水泳用キャップは無いらしい。
「はい、頑張ります。人気の場所にキメラがいては危ないですし」
少し落ち着いた桂も笑顔で返した。
水中のキメラを狩る者達は、相馬ユウリ(gz0184)からフィンと水中メガネを受け取り、覚醒を遂げ海へダイブする。ハルカ、レミィ、エミルは身軽さを考慮してか素潜りだ。
「ところでー、イスルくんは誰が好みなのかなっ?」
女性の中に男一人、ハーレム状態なイスルをからかう様に久遠が言うと、イスルは困ったように顔を赤くした。ウフフ、可愛いとか思っちゃうハルカも年下少年好みだったり、なかなか美味し‥‥いや、大変な情況である。
そして、忘れてはいけない。
ダイビングボートに常駐し、ダイバーの監視を行う存在を。
「何かあれば救援に向かうわ、でもみんな油断は禁物ね!」
水着にシャツ、スタイリッシュグラス姿の鯨井昼寝(
ga0488)は今回船の上で裏方に専念するようだ。
水中の活動はちょっとした事で大事故になりかねない。そのためダイバーの潜水時間の管理や位置確認、荷物預かりと料理の下準備を買って出た。
「まかせて! いってくるね〜」
ハルカはボート上の二人へ手を振ると胸いっぱいに空気を吸い込み――そして、飛沫と共に水中へと消えていった。
「よっし、いっちょ魚キメラってのを三枚に下ろしてやるぜ! 料理なんてしたこと無いけどな!!」
そしてエミルも威勢良く言うと、サバヒー料理に思いを馳せつつ潜っていくのだった。
●海の中
ユウリの言っていた『キメラが出現する深さ』まで潜っていく一行。
無数の魚が泳ぐ透明な海は、キメラ退治を忘れてしまいそうなほど見ていて楽しい。
(「綺麗だなー、ってアレがサバヒーか。結構大きい」)
その中に明らかにサイズ違いのサバヒーを発見して久遠が武器を構えた。バディの静に親指を立ててサインを出すと、彼女からも同様のサインが返ってくる――『OK』の合図だ。
キメラの後ろ方へ回った久遠はアロンダイトを構え、ソニックブームの発動を試みる。しかし水中での衝撃波は、地上で使うように上手く敵を捕らえることが出来ない。
やがて攻撃に気づき、キメラが進路を変えた。キメラは久遠を狙い、海中を縫うように泳ぎ近づいていく。
(「次は確実に当てるよ―!」)
向かってきたキメラを、久遠は剣先で迎え討つ。浮上して攻撃をかわし、体の下を通過したキメラの背びれを斬りつける。
そして静は久遠の攻撃から逃げてきたキメラを正面に捉え――
(「!?」)
胸の谷間にキメラの体当たりをくらった。
『‥‥やりづらいし、素早いようだが、邪魔だ。美しい場所に、似合わない者は、速効で退散してもらおう』
しかし幸い痛みが少なく、回転するように体を捻り静は反撃を決めた――その胸から何かがハラリと解けたのも気づかずに。
(「水中戦闘は初めてだけどきっとなんとかなるのにゃー」)
と、千佳が握った武器は『水陸両用槍「蛟」』。バディのハルカは太腿から水中用拳銃『SPP−1P』を抜き、キメラを撃ちながら足止めをしている。
(「お魚さん発見にゃ♪先手必勝にゃ!」)
『先手必勝』と『獣の皮膚』を発動、さらに『布斬逆刃』を使用する千佳。槍先が水中で紅く光り、キメラの体を穿つ――内腑に響く知覚攻撃だ。
ハルカは「千佳ちゃんナイス!」と親指を立ててみせ、痛みで暴れながら体当たりを仕掛けてくるキメラに水弾を放った。
そして連携しキメラを追い立てる中、ハルカの銃が弾切れを起こす。
ハルカは千佳に手を振り、上を指した。息継ぎも兼ねて『浮上』するという合図である。千佳のOKサインを確認し、ハルカは徐々に浮上していく。
――そこに、瀕死状態と思われたキメラがまさかの移動を開始した。ハルカの足目掛け、体当たりを仕掛ける――!
(「危ないにゃ!」)
しかしキメラの動きを察した千佳がハルカとの間に入り、身を挺して庇った。心臓付近に体当たりをくらい一瞬千佳の体が強張る。
だが、獣の皮膚で強化された体にはそれほどダメージは通っていない。
(「にゃっ! これくらいなら痛くないにゃ♪ ‥‥って、うみ? ぼ、僕の水着が〜!?」)
千佳は安堵と共に胸を撫で下ろし、そこにある筈のものが無いことに気づく。
慌てて手ブラで胸を隠す千佳、わなわなと尻尾が震える。辺りを見渡すと――波間を漂う黄色いフリルがハルカと共に水面へ向かっていた。
レミィはSPP−1Pを手に水中を俊敏に動き回った。そのための素もぐり、部活の延長と思えば苦でもない。
桂が直撃を受けぬように、キメラの動きをブロックする立ち回りで射撃を行う。
(「当たらなくたって、桂が水中剣で狙いやすいように牽制になれば‥‥!」)
気合と共に放ったレミィの水弾がキメラの尾びれを撃ち抜く。
そこへアロンダイトを手にした桂がゆっくりとキメラを追った。まだまだレミィのように動きが達者ではなく、フォローがあっても中々上手く追撃できず。
(「追うより、迎えうつ方がいいかもしれませんね‥‥」)
攻撃スタイルを替え、迎撃に専念する桂。
キメラの動きを観察し、体の横を通り過ぎる一瞬の隙に側面から剣を振り下ろした。
(「その調子!」)
攻撃が決まるのを見届け、レミィがOKサインを出した。このまま自分でキメラを仕留め、傭兵としての自信も付けてくれたらと思う。
桂は「やりました」と嬉しげな表情を見せ、反撃に備えた。しかしキメラの反撃は、なぜか執拗に桂の水着の肩紐辺りを狙っている――このエロキメラ。
慌てて振り払う桂のわたわたとした動作に苦笑しつつ、レミィは副兵装に持ち替え銃口をキメラへと向けた。
「そろそろ2分」
昼寝が時計の針を見る。
皆が潜って2分、能力者でもあるしもっと長く息が続く者もいるだろう。しかし、そろそろ新鮮な空気を取り入れなければまずい時間だ。
揺れる海面を見ているとそこが僅かに泡立ち、何かが浮上する。
「何か浮いてきたぞ‥‥こ、これは!」
「あらら、はずれたのね」
ユウリが指差す方向には誰かさんの水着。
昼寝がソレをキャッチすると、丁度息継ぎの為ハルカが顔を出した。
「昼寝ちゃん、水中剣よろしく! ‥‥あれ、それって千佳ちゃんの‥‥」
剣を昼寝から受け取り、彼女の手の中の水着を見て驚いた。
「バディだったわね、届けてくれると助かるわ」
昼寝の手から水着をキャッチ、胸元が心許無いだろう千佳を思いハルカは急いで再び潜る。
すると今度は桜色のビキニが浮かんでくるではないが。
「‥‥今日は随分大漁ね」
昼寝は少し複雑そうに、その水着を回収した。
(「‥う〜‥」)
イスルは水中で困り果てている。
水の透明度が高いから、女性の水着姿が視界にちらついて仕方ない。その上、バディであるエミルの動きがいろんな意味で危なっかしいったら。
それでもイスルはSPP−1Pで援護しキメラの動きを止め、息継ぎを終えたエミルがそれを捉えた。
(「もらったぜ!」)
刃がキメラの腹を裂き、体液が吹き出て海水を濁す。
すでに何度か銃撃を受け、弱っていたキメラはそれが致命傷となり力を失った。
(「はは、やったぜ!」)
喜びのあまり、戯れでイスルに抱きついちゃうエミル。従兄弟だからって構わず胸をぐりぐり押し付ける。
ああ、当たってる、何か当たってるよ‥‥思わず腕をジタバタさせて異常ありサインを出しちゃうイスル――二人で喜び合う内に、エミルの小麦色の豊かなバストがふよふよと海水に浮いていた。
(「んぉ? ‥‥あ、やべ、取れちゃったぜ」)
ようやくエミルが自分のポロリに気づき、恥ずかしげもなくクイっとビキニを引っ張り下げる。その時、腕の中では茹蛸のようなイスルが出来上がっていた。
その頃同時に、ハルカから水着を受け取った千佳。控えめな主張をする胸が布で包まれ、反撃開始である。
ハルカが牽制攻撃を加え、反撃の隙を与えず千佳が槍での一突き。ついに槍先が貫通し、キメラの捕獲に成功する二人。
「‥‥獲ったどー! ‥‥にゃ♪」
水面から槍を突き上げ、千佳が喜びを叫んだ。
一方久遠と静のペアもキメラを追い詰める。
(「気づいてないのかな‥」)
静の大人の膨らみ二つは相変わらず無防備なままなのだが、久遠はあえてつっこまず殲滅に専念。入れ替わる様に剣で斬りつけ、キメラを仕留めた。
「終わりましたね‥‥あら?」
静が胸元に気づいたのは水面に浮上した後である、今更のように真っ赤になって手をクロスさせると慌てて豊満な胸を隠す。そんな彼女から目を逸らすように、水着を渡すユウリだった。
そして水泳部の先輩後輩は。
「やりました!」
剣にキメラを突き刺し、微笑んだ桂が顔を出す。
「‥‥ぷはっ。やったね! おめでとうっ」
長い潜水を終え新鮮な空気を吸い込み、上手く仕留めた後輩の成長を喜ぶレミィだった。
こうして昼寝の待つボート上に、新鮮なサバヒーキメラが集められた。
討伐は、言うまでもなく成功である。
●いただきます
「お腹すいた〜」
「おっさかなさん♪ おっさかなさん♪」
タオルで髪の水分を拭き取るハルカの横で、千佳がパタパタと尻尾を振っている。
「待って、今出来るから」
船の上では、下準備をしていた昼寝がいよいよ仕上げに取り掛かっている。ダイバーとしてサバヒーの名は知っていたが、こうして実際に食べるのは初めてだ。
しかし新鮮なうちに包丁を入れ、てきぱきと捌くその姿はとても初チャレンジには見えぬ安定感がある。
「漁師飯か? ‥良い匂いだな」
ユウリも、今か今かとその料理を待っている‥‥だけでは申し訳ないので、七輪で香草焼きを作っていた。
「腹減ったぜぇ〜‥‥。魚‥塩焼き‥刺身‥フライ‥じゅるりっ‥」
と、今にも涎が垂れそうな勢いで目を輝かせながら見つめるのはエミルである。
昼寝はサバヒーの切り身に薬味を乗せ、粘り気が出るまでひたすら包丁で細かく叩く。そしてご飯の上に乗せ、その上から醤油と味噌をぶかっける。
「出来上がり!」
そして見事な漁師飯の完成だ。船上で出来る手軽さもさることながら、薬味が生臭さを消し食欲をそそる香りを醸す。
「あたしもご一緒させてもらおっかな! うん、美味しそう〜」
昼寝の手から御飯を受け取り、桂と一緒に「いただきます!」と食べ始めるレミィ。
外見に似合わず大食いな静も、遠慮なく食べる。御飯を頂き、香草焼きをつまみ「美味しいわ」と微笑んでいた。
「何かよく解らないけど、美味しい〜」
「んー、サバヒーって初めて食べるけど結構いけるね」
ハルカと久遠も顔を見合わせ、喉を擽る美味しさに幸せそうに笑う。
そして隣ではイスルがゆっくりと淡白な魚身をかみ締め味わっていた。
「‥意外とおいしい‥?」
「うん♪ イスルくん、はい、あ〜〜〜んして♪」
サバヒーをつまみ、ハルカがイスルに迫る。慌てて御飯を飲みこみ咽るイスルを見て、エミルが大声で笑った。
ハードな戦闘の後でもあり、サバヒー御飯は好評の内にあっというまに無くなってしまった。
「こういうのは新鮮なヤツを、がーっとかきこむのが一番美味しいのよね」
自ら作り出した味に満足しつつ最後の御飯粒をつまむ昼寝に、
「ああ、美味かった、感謝しないとな」
と、ユウリが礼を言った。残りのサバヒーは陸でゆっくり鍋なり粥なりするとしよう。
「一杯食べたにゃ〜♪ お姉ちゃん達、腹ごなしに遊ぼうにゃ♪」
「よし! いくぜ!」
千佳とエミルがもつれるように海に飛び込む。イスルとハルカ、静も巻き込みビーチボールが飛び交った。
「元気いいな〜。 あ、相馬さーん、フィリピンのお土産って何かあります?」
「ドライマンゴーとかオススメだ。美味い」
久遠は船の上のパラソルの下で潮風を楽しみつつ、姉へのお土産を考えた。確かに南国フルーツもいいかもしれない。
「よしっ! 部活の野外練習をするよっ」
「え‥‥今ですか?」
「当然! せっかく海に来たんだから泳がないって手はないでしょっ!」
海へと飛び込みウィンクするレミィは、部の新人・桂を呼び練習を始めるのだった。
――南海に能力者らの声が響き、船はゆっくり岸を目指す。
「泳がないのか?」
「そうね」
相馬が声をかけると、空を眺めていた昼寝が『それもいいかも』と立ち上がる。
シャツを掛けて船の端に立つと、眼下では碧の海が手招くように輝いていた。