タイトル:花屋の花料理マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/28 07:59

●オープニング本文


 エディブルフラワーをご存知だろうか。
 食べられる花‥‥という文字通り、食用に栽培された小さな花である。
 華やかな見た目に豊富な栄養が宿り、野菜と同じ感覚で食べることが出来るのだ。


 ラストホープの一角――ここに、小さな花屋がある。
 花屋の名は『ルミナ』
 元カフェを改装したという事もあって、店の奥には小さな喫茶スペースを備えていた。
 しかし、ここの喫茶にはメニューがない。
 たまに店員のケイト・レッティ(gz0208)が、客にハーブティーや紅茶を出すくらいで、それだけである。

「やっぱり‥‥何か有ったほうがいいかな」

 実質店長兼店員のような形で働いているケイトは、愛犬のリクを抱きかかえつつ目を合わせて首を傾げた‥‥が、わんこから答えがある訳が無く。
 料理をするといってもあまり本格的なものは出来無いし、折角花屋なので『花』を活かせるものが作りたい。

 ――そこで、ケイトが目をつけた物が『エディブルフラワー』だった。

「メニュー開発するならここの傭兵さんの意見も取り入れたいよね!」 ということで、依頼はUPC本部のモニターに表示される事になったのだが‥。

 一つ、注意して欲しい事がある。
 一般に花屋で売られている花を、決して口にしてはいけない。
 様々な薬剤が使用されている他、花の茎や葉に毒性を持つ”毒花”も多く存在するからだ。

 ここでは、食べられる花――エディブルフラワーのみを使用し、メニューを考えて欲しい。

●参加者一覧

綿貫 衛司(ga0056
30歳・♂・AA
風間由姫(ga4628
17歳・♀・BM
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
ティル・エーメスト(gb0476
15歳・♂・ST
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP

●リプレイ本文


 花屋『ルミナ』では、ある試みの為着々と準備が進められていた。
「いらっしゃい〜」
 と、能力者達を迎えるケイト・レッティ(gz0208)はここの店員だ。
 和の装いでやってきた白雪(gb2228)は丁寧にお辞儀する。
「ケイトさん、今日はよろしくお願い致します」
 同じくペコリとお辞儀するケイト。
「お久しぶりですケイトくん。またお手伝いに来ましたよ」
 淑やかに笑み、小笠原 恋(gb4844)はケイトに挨拶し、じゃれつく犬の頭を「リクも久しぶり〜」と撫でた。
 ケイトが再会を喜んでいると、以前お世話になった神森 静(ga5165)、美崎 瑠璃(gb0339)、ティル・エーメスト(gb0476)の姿も見える。
「お久しぶりです。ケイト様!」
 嬉しそうな笑顔で、ティルはケイトに抱きつき挨拶。
「微力ながら、今回もお手伝いさせていただきますね!」
 手をぐっと握り、力強く言うティル。その勢いに一瞬驚くケイトだったが、直ぐに目を細めて「うん、頼りにしてるから」と、笑う。
「はい。お土産です。とっても美味しいですよ」
「わ! 有難う、いただきま〜す」
 キャンディーセットを大喜びで受け取る、甘党のケイトだった。


「これが今回使っていただくエディブルフラワーです」
 とケイトが持つ箱には、色とりどりの生花がパック詰めされていた。
「これだけ花が集まってると、幸せな気分になりますね」
 白雪は柔らかく微笑みつつ呟く。
 バラ・プリムラ・桜に菊。そしてパンジー、コスモス、ナスタチウム‥‥実に多彩な花々だ。
「よし、見栄えはもちろん、食べて美味しいって言ってもらえるようなメニュー、ばっちり考えちゃおう!」
 花々を眺め、瑠璃はポンと手を叩く。
「で、ここは一つ、『虹待亭』と『ルミナ』の提携メニューってことで、どーかな?」
 にゃははと笑う瑠璃。この明るい少女は、若くして店を切り盛りするほど料理の腕が良い。ケイトは「考えて下さったレシピは皆様のものです。僕はそれをお借りするだけですから」と答えた。
 そして、綿貫 衛司(ga0056)は箱の中から黄色の花を手に取る。
「タンポポもありますね」
「お好きですか?」
「好きと言うより、レンジャーの訓練の中にはサバイバル訓練も含まれていまして‥山中にほっぽり出されて目的地へ向けてサバイバルしながら進む訳ですが、この時に食べられる草花は頭と体に叩き込まれましてね」
 と、経験を語る衛司。その内容は、皆にとってなかなか興味深い物だった。
「タンポポは若葉と花と根を使います。葉と花は天ぷらに、茹でてから酢の物や和え物にもなりますし、根はアク抜きをして金平に。乾燥させて炒ればタンポポ茶にもなりますよ」
「色々な部分が使えるんですね」
 瑠璃やケイトらは早速、聞き出したレシピをメモしていく。
 風間由姫(ga4628)は菊を手にとった。黄色と白の、可愛らしい菊だ。
「私は食用菊を使ったちらし寿司を作ってみようかと思います。接客の方は、以前ドラマの役でそう言うことをしていたことがありますので‥」
「え‥ドラマですか!?」
 由姫の言葉に恋が驚く。能力者といっても経歴は様々。
 そして
「私は‥‥店頭でチラシを配ります。ウェイトレスにも入りますね。調理はお任せしますけど、レシピは考えました」
 と言い、静はビビットなオレンジ色のカレンジュラを手にとった。ビタミンA豊富な花だ。
「フライパンで薄切りニンニク、たまねぎを炒め、香りが出てきたらパプリカ、牡蠣を入れます。火が通ったら日本酒少々、オイスターソース、醤油で味をつけ、カレンジュラを混ぜ入れます。『牡蠣とカレンジュラのオイスタ−炒め』、どうですか?」
 静の言葉に、「牡蠣も大好きですっ」と答えるケイト。そして皆から必要な材料を聞き、業者に問い合わせる。
 ――こうして準備の進む中、最上 憐(gb0002)は多少皆とは違う目的をもち此処に居た。
 その心中は『‥‥ん。カレーを。宣伝しつつ。試食会。一石二鳥』である。
「‥‥ん。私は。カレーを。‥カレーは美味しいよ。店に置くと。大人気かも。カレー屋。楽しいよ」
 まるで洗脳するように、ケイトにカレーの良さを説く。
「‥‥ん。カレーは主食で。置オカズで。飲み物で。デザート」
 と言う憐も憐だが、「うん、カレー美味しいよね。ちょっと辛いシチューって感じで」と答えるケイトもケイトだ。
「作りましょうか?」
 少し考えて恋が言うと、表情は変わらないながらも憐の目が輝いた。
 すると、ティルもとうとう声を大にして
「グラタン、もお勧めなのですよ。グラタン、大好きなのです」
 しっかり自分の好きなものをアピールするのだった。

 この後カレーがシチューがグラタンが‥‥と言うアピール合戦に笑いつつ、レシピ案交換会議は終了する。
 さて、いよいよ調理にとりかかるとしよう。



 午前中は花を売りつつ試食会、そしてお昼頃から花料理を客に披露する日程。
「さぁて、お手伝い、がんばりますよぉ!」
 カフェエプロンを身に着け腕まくりをし、気合を入れるティル。
「ここのエプロンするのも久しぶりですね、ティルさん」
 くすっと笑い、恋はエプロンの紐をきゅっと結んだ。そんな恋に、丁寧に挨拶する白雪。
「小笠原さん、この度はご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」
 その白雪の言葉につい慌ててしまう恋である。
 そして着物の袖を邪魔にならぬようにたくし上げた白雪は、振り返って皆にも問いかけた。
「‥皆さんって、和食お好きですか?」
 すると、好きだという沢山の声が返る。もちろん、憐もコクリと頷いていた。
 確認し、刺身の準備を始める白雪‥何故か刹那覚醒し、表に出た”姉”の『真白』が両手に刃物を握る。
「さて、手早くこのお魚を捌いてしまいたいわね‥」
 鯛を手に呟く白い髪の女性――皆がその変化に驚いていると、『真白』は二段撃を繰り出した!
 ――見事三枚に卸される魚。
「‥どう? 北の漁場で慣らした包丁捌き‥まあ嘘だけど」
「す‥‥凄いです」
「もう一度!」
 目を丸くして驚く由紀の横で、アンコールするケイトだった。

 そんな華やかな厨房で、創作料理が作られていく。
 由姫は、『食用菊と鮭のちらし寿司』のレシピをケイトに伝授。
「米は酒大さじ2と昆布適量を入れ固めに炊きます。銀鮭2切れを塩小さじ1/2と酒大さじ1を振り、ラップをして電子レンジで火を通します。合わせ酢は予め合わせておきます。馴染ませる為に数時間おくといいので、今回はそれを持って参りました」
 今日の為に下ごしらえをしてくれたらしい。
 その後、沸騰した湯に酢を入れ、食用菊の花びらを茹でて冷水にさらして絞り、合わせ酢に先程茹でた菊を入れて炊きあがったご飯と合わせ切るように混ぜる。
「火を通した銀鮭の身をほぐし、合わせ酢を入れて混ぜあわせ、うちわで扇ぎながら冷まします。器に盛りつけて、大葉と海苔を散らして‥‥完成です」
 由姫と一緒に作りつつ、華やかな出来映えに喜ぶケイト。
「頑張りましたね☆」
「はい、次は綿貫さんと神森さんのレシピを頑張ってみます」
 タンポポにカレンジュラ‥‥メモした料理を作ってみる。

 恋は、ピンク色の映える『コスモスとプリムラのホワイトソースパスタ』と、『カーネーションのジャムのラスク』を作り上げていた。
「パスタはちょっとだけ自信作です♪」
「本当! おいしい〜」
「ふむ、なかなか」
 恋の料理を試食し、頬を綻ばせる瑠璃と衛司。
 続いて、瑠璃が作り上げたサラダを披露する。
「ケイト君の好きなパンジーに、ベビーリーフとトマトを合わせたサラダだよ。シンプルにフレンチドレッシングをかけて召し上がれ!」
「パンジー! カラフルで大好きです」
 生花の鮮やかな色が失われていないこのサラダは、食べるのが勿体無いくらいだと大喜びする。
「こっちはゆで卵・ルッコラ・ナスタチウムと、トマト・ハム・ナスタチウムのサンドイッチね。花も葉っぱも使って彩り鮮やかに!」
 続いてサンドイッチを並べる瑠璃。
「やっぱり瑠璃様のお料理は美味しいです〜」
「ナスタチウムって辛いんですね。サンドイッチにピッタリでおいしいですよ、瑠璃さん」
 味わうティルと恋は終始笑顔で、やはり美味しいものを食べると人間笑顔になるらしい。
「きっと、とっても美味しいのですよ。グラタン。僕の大好物なのです。グラタン」
「うん、わかった。作ってみるね!」
 ティルのグラタン猛烈プッシュを受けて、予定になかったグラタンを手がける瑠璃。
 その後グラタンの試食を果たし、満足するティルであった。


 店頭では憐が犬のリクと戯れている。
「‥‥ん。にくきゅう。にくきゅう。ふにふに。ふにふに」
 まだ柔らかいピンクの肉球を指で押すとなんだか幸せ。
 隣では、静がケイトの変わりに店先に立ち、花を売る。
「お花、いかがですか?」
 と、普段見かけない美人花売りに、つい男性客の足が止まった。
「‥‥ん。この花は。見てても。楽しいけど。食べる事も出来るよ?」
 もう少しで料理もできると、肉球ふにふにしながらアピールをする憐。
 ――そこへ漂うカレーの香り。
 憐は吸い寄せられるように店内に入っていった‥‥。

 案の定、中では恋がホワイトカレーを手がけている。
 具材を煮込む恋の仕草を、張り付いてじーっと見つめる憐。
「‥ん。大丈夫。見てるだけ。摘み食いはしない。大丈夫‥ちょっとだけ」
「ふふ、どうぞ。カレンジュラとサイネリアのホワイトカレーですよ」
 分かりやすい憐の行動に、恋は思わず微笑み返した。
 何度も味を見てもらい、完成したカレーを大盛りの御飯にかけてテーブルに置く。
「カレーはどうですか憐さん。おいしいですか?」
 そう問いかける恋に、夢中でカレーを頬張りつつ何度も頷く憐だった。


「クローバーの若芽はゆでて和え物、炒め物。若い花は天ぷらに出来ます」
「‥こうですか?」
 衛司から教わった料理を皿に並べるケイト。
 同じく天ぷらを油を使う白雪は、ニセアカシアと稚鮎、アスパラを揚げていた。
 そしてメインとなる一品は、『湯葉の生春巻きとお刺身』。
 色とりどりのパンジーを湯通した後氷水にさらし、茹で海老・サンチュ・香草を一口大に切る。そして、湯葉の上材料を生春巻きのようにロールして、切って盛り付け――断面が実に鮮やかだ。
 白雪は先ほど卸した鯛を刺身にし、同様にロールして盛り付け、完成。
「梅肉、ポン酢、酢味噌などで召し上がってください」
「まあ。素敵だわ」
 休憩に入った静が白雪の料理を口にし、美味しいと微笑む。
「まるで料亭のメニューみたいですね。白雪さん、凄いです!」
 絶賛する恋。
 テーブルには、他にも様々な花料理が出来上がり、並んでいた。憐は全ての料理の試食を開始する。
「皆さん、上手で凝ってますね」
 静は思わずほうっと息を吐いた。そしてレシピを提案。
 大根おろし・青とうがらし・デージーを混ぜ、巻きすの上にそれを平らに置き、棒状に切り熱湯にくぐらせ手早くさました鮪を中心に置いて、のり巻きの要領で巻く『マグロのデージー巻き』だ。
「早速作りましょう」
 と白雪が手がけはじめる頃、丁度昼食の時間に差し掛かっていた。



「制服とかあるのでしょうか?」
 ティルがケイトに問うと、「ゴメンまだ無いです」と返事が来る。
 持参したスーツに着替え、カフェエプロンを腰にまくティルは少し大人びて見えた。
「えへへ、ウェイターがんばりましょう〜」
「はい、頑張りましょう」
 同じくカフェエプロンを付けた衛司と共に、いざ喫茶スペースへ。

「花料理、いかがですか」
 静は店の前に出て、微笑みながらチラシを配る。ふらふらと引き寄せられる男性客。
 そして憐もその愛らしい姿で、客を呼んでいた。
「‥‥ん。そこの人。花料理が。好きそうな。顔をしている。いかが?」
「え、私?」
「‥‥ん。とっても。へるしーで。低カロリー。かもしれないよ?」
 憐の言葉に『ダイエットにいい!』と店に入る女性。
「いらっしゃいませ!」
 と、中では可愛らしい由姫やティル、そして逞しい衛司がにこやかに迎え、あらゆる客のニーズに応えていた。

 厨房では、瑠璃と恋、そして白雪が忙しく料理を作る。
「残った食用菊はおひたしにしてみました」
 と、由姫も手があけば調理場に回っている。由姫が料理する時は、静がウェイトレスをこなし、忙しい。
 そんな中良いアイディアも浮かぶもの。
「メニューを幾つか組み合わせて一日〜食限定のお得なランチ、みたいなセットにしても面白いかも!」
「花の効用も書いておくのはどうでしょう?」
 瑠璃と恋のアドバイスを聞き、メモをとるケイトが居た。

 ‥‥3時になると、お茶の時間。
 衛司からは『ヨモギの草餅』、静は『ホワイトビオラのフル−ツサラダ』のレシピが提案され、白雪は寒天や漉し餡を用いた『菫の水羊羹』を作り上げる。
 瑠璃は洋風に、『スミレ・菜の花・桜を生地に混ぜた3色クッキー』を
「色合いと花ごとにちょっとずつ違う味わいを堪能してねー」
 と、差し出す。熱くてサクサクのクッキーだ。さらに『紅花茶のゼリー』も作られ、お菓子も非常に充実している。
 ティルは大好きな甘いものを食べ、また張り切ってウェイターをするのだ。

 やがて厨房が落ち着き、アオザイを着た恋がウェイトレスに。
「ちょっと恥ずかしいんですけど、似合ってますか?」
「わぁ、素敵です!」
「このアオザイ、シャオラさんに選んでもらったんですよ」
「あ、知ってます、お客様です」
 恋の言う意外な繋がりに、ケイトは驚いた。
 

 ――そして時間はあっという間に過ぎる。
 花料理は見事完売。依頼は大成功だ。


「今日は一日有難うございました! とても綺麗で、美味しかったです♪」
 最後にケイトは皆に礼を言い、何かを渡した。彼曰く『お礼のエプロン』だが、中身はどうみても『割烹着』。
「久しぶりに落ち着いた素敵な日でした」
 日々の戦いを忘れ、料理に没頭できた一日はとても充実していたと、白雪は思う。
「やっぱりこのお店はとっても落ち着きます。また皆さんと来たいですね」
「はい、また行きましょう!」
 恋の言葉に、ティルが大きく頷く。そして‥‥
「みなさん、また来て下さいね。僕も料理がんばります」
「‥‥ん。カレー店。頑張って」
 憐の言葉にクスリと笑い、皆が見えなくなるまで見送るケイトだった。


 こうして、花屋『ルミナ』に素敵な名物料理が出来た。
 エディブルフラワー‥‥目にも鮮やかで栄養たっぷりの花料理は、能力者達の力で少しずつ有名になっていくのだろう。



 ――その夜、ケイトはある人物に連絡を入れる。 
「素敵なメニューをいろいろ考えてもらったんですけど‥‥僕一人は大変なので助けて下さい。いつか帰ってくるって約束したんですよね? 佐々木さーん」
 その相手は――カフェだったころの『ルミナ』店主。
 彼を呼び戻すために、ケイトによる説得が続けられていた。